コードギアス 君の知らない、その先へ   作:明日を願う旅人

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第25話 指揮官のいる場所

 倉庫の奥に置いた簡易の寝台から、藤堂は朝になる前に起きてきた。

 手首には包帯を巻いている。顔の傷にも処置を受けたが、歩くことに支障はない。先に起きていた千葉が椅子を勧めると、藤堂はその隣へ座り、卓上の地図を見た。

 ゼロは、夜のうちに集まった報告を机へ並べる。損傷した月下は一機、紅蓮は右腕の爪に交換が必要。搬送車はすべて別の保管場所へ戻っていた。

 

「ほかの者に怪我は?」

 

「打撲が二人。手当てを受けて休んでいる」

 

 藤堂は地図から顔を上げた。

 

「昨夜は世話になった」

 

「では、改めて頼もう。我々の力になってほしい」

 

 ゼロは椅子を引いて座った。扇とカレンも、藤堂の返答を待つ。

 四聖剣は全員この部屋へ来ている。休んでいた玉城が廊下を通り、扉の隙間から一度覗いた。扇が手を振って、席に戻るよう促す。

 

「我々に何を任せたい」

 

「部隊の指揮と訓練だ。全体の作戦は私が組む。実行する時、現場で部隊をまとめられる者が要る」

 

「部隊をまとめるなら、兵の訓練からだな」

 

「ああ。戦場へ出る者は鍛えてもらう。輸送や補給、住民との連絡を担う者もいるから、全員ではない」

 

 藤堂の目がカレンへ向いた。彼女は椅子へ浅く腰掛け、包帯を巻いた彼の手から視線を戻した。

 

「昨夜の紅蓮は、あなたか」

 

「はい」

 

「よく白兜を押さえていた」

 

「一人では、抜けられていました。卜部さんが戻ってくれたので」

 

 卜部が腕を組んだまま頷く。藤堂はゼロへ顔を戻した。

 

「黒の騎士団は、日本を取り戻すために戦うのか」

 

「日本人が不当に扱われる現状は変える。だが、ブリタニアと戦うこと自体を目的にはしない」

 

「交渉だけで変えられると思っているわけではあるまい」

 

「だから、君たちに来てほしい」

 

 ゼロは成田で配った警告と、退避の記録を出した。軍が攻めると知り、彼らには先に離れるよう勧めた。日本解放戦線がその場で戦うと決めたことも、藤堂は知っている。

 

「あの戦場へ主力を入れて、コーネリアを狙う道もあった。だが、私は戦力の温存を選んだ」

 

「避難へ人を回したと聞いた」

 

「使える車と人員を回した。住民を戦場の外へ運び出すためだ」

 

 千葉が資料の端へ目を落とす。藤堂はしばらく黙り、警告の文面を読んでから机へ戻した。

 

「では、日本人が暮らせる条件が整えば、戦いを止めるか」

 

「そのために戦っている。日本を戦場にし続ける理由がなくなれば、別の仕事をする。だが、不当な暴力が再び蔓延するなら戻る」

 

 藤堂は背もたれへ身体を預けた。頷いたのは、少し間を置いてからだった。

 

「私は部隊を見よう。まず一緒に動いて、どこまで任せられるか確かめる」

 

「こちらも、君の判断を聞きたい。作戦の前には必要な情報を渡す」

 

「承知した」

 

 朝比奈が口元へ手を当てた。少し笑っている。

 

「まず、月下を置く場所から決めませんか。昨夜は荷台で寝るところでした」

 

 扇が倉庫の見取り図を出す。藤堂は資料を脇へ寄せ、その図へ身を乗り出した。

 

 * * *

 

 昼を過ぎると、倉庫の外れにある資材置き場へ機体が並んだ。

 廃材と空のコンテナを寄せ、二機がすれ違える幅の道を作る。古い舗装には白い印を付け、曲がる位置を示した。移動と連携を確かめる訓練だ。機体の位置は計測され、事務室の画面へ送られてくる。

 卜部の月下を先頭に、玉城の無頼、仙波の月下、もう一機の無頼が走り出した。ゼロは画面の計測ボタンを押す。

 

『玉城、曲がり角の手前で止まれ』

 

 玉城が無頼を止める。その先では、卜部の月下が角を曲がり、進路を確かめていた。仙波は玉城の横へ機体を寄せ、遅れている最後尾の無頼を待つ。

 

『後ろが追いついた。二機とも進め』

 

 仙波の報告を受けて、玉城が再び走り出す。仙波の月下が先に角を抜け、無頼の二機はその後へ続いた。

 以前は先頭だけが先へ進み、後続を待つたびに隊列全体が止まっていた。今は月下が前方を確かめている間に、無頼が追いつける。ゼロは画面上の四つの印を見ながら、次にカレンを出す時刻を確かめた。

 

『右から一機。そちらは進路を変えずに通れ』

 

 紅蓮が横の道から現れた。玉城の無頼が、そちらへ向き直りかける。仙波が隣へ付くと、玉城は進行方向へ機体を向け直した。

 カレンの右腕が、最後尾の機体を指す。

 

『狙われていますよ、後ろ!』

 

『分かってる!』

 

 玉城が声を張る。藤堂がその返事に重ねた。

 

『分かっているなら、どこからかを伝えろ』

 

『右のコンテナ! 紅蓮が一機!』

 

 前を走っていた卜部の月下が反転し、紅蓮の進路へ出た。その間に仙波が無頼の二機を誘導し、次の曲がり角を抜ける。

 ゼロは時計を止めた。予定より四秒遅れ。ただし、列は一度も完全には止まっていない。

 隣で扇が記録を付け、ラクシャータは機体ごとの出力を見比べた。

 

「玉城のブレーキ、まだ戻りが遅い?」

 

「機体のせいだけではない。角へ入る前に踏み過ぎている」

 

「ああ。癖が残ってるのね」

 

 彼女が技術者を呼び、玉城の無頼を次の組から外した。整備班が機体へ向かう間、藤堂は操縦席の玉城へ、減速を始める位置を説明していた。

 ゼロは作戦図を引き寄せた。全員を同じ速度で走らせる必要はない。遅い機体をどこへ置き、速い機体をどこで先に出すか。その組み合わせを実行できる指揮官が、外にいる。

 藤堂から通信が来た。

 

『次は、入口を一つ塞いでやりたい』

 

「赤い印の通路を使え。残り二つへ分ける。千葉に後ろの組を任せてくれ」

 

『了解した』

 

 藤堂の月下が方向を変える。千葉が無頼の後ろへ回り、二つ目の組を待った。

 ゼロは新しい計測を始める。今度は、七秒後にカレンを出す。

 

 * * *

 

 訓練が終わる頃には、玉城の声は少し掠れていた。

 操縦席から降りると、水を受け取り、一気に半分ほど飲む。朝比奈が横を通り、空いた台の上へ自分の手袋を置いた。

 

「よく喋ったね」

 

「報告しろって言ったのは、そっちだろ」

 

「そうそう。ちゃんと返ってくるから、こちらも動きやすかった」

 

 玉城は瓶を下ろし、朝比奈の顔を見た。からかわれたと思ったらしいが、相手はもう機体の方へ向いている。

 

「……だったら、最初からそう言えよ」

 

 卜部が二人へ声を掛け、次の訓練の日を告げた。玉城は予定を書き留めようとし、紙を持っていなかったので、扇を探しに歩いていく。

 カレンは操縦席から記録用の端末を持ち出した。ラクシャータへ渡すと、彼女は画面を見て、右腕を動かした時刻を二つ示す。

 

「ここと、ここ。昨夜の白兜と同じつもりで振ってるわね」

 

「あの速度を覚えておきたくて」

 

「いいけど、相手の方から来てくれない時もあるでしょ。次は月下を相手に、距離を変えてみて」

 

 カレンは頷いた。端末を受け取り、藤堂たちが並べている機体へ向かう。千葉が彼女を見つけ、今日のすれ違いで感じたことを尋ねていた。

 夕方になっても、倉庫には人の声が残った。機体を止める時間が来ると、技術者が一台ずつ電源を落とすよう呼び掛ける。朝比奈が先に降り、まだ記録を見ていた玉城へ梯子を指した。

 ゼロは事務室の窓を閉め、明日の予定を扇へ返した。

 

「藤堂中佐の組と、カレンの組を別々に回せる。連絡は二系統に分けてくれ。輸送車は今までどおり君が見る」

 

「了解。午後は整備に回せる機体が増えるな」

 

「ああ。訓練に全部出す必要もなくなる」

 

 扇は空いた欄へ担当者の名を書き、棚へ紙を留めた。

 藤堂が事務室へ戻ってきた。ゼロは訓練の記録を閉じ、収容所の図面を机へ広げる。

 

「昨夜の撤退で、倉庫へ入る前に一度詰まった。君からはどう見えた」

 

「紅蓮へ射撃が集中した時か。あそこで卜部を戻すと、後ろの三機まで止まる」

 

「だから、次の角に下がった側から援護させた」

 

 ゼロが出口の線を指でたどる。藤堂は隣の通路へ指を置いた。

 

「私が出る前に、こちらの組を発進させてもよかった。月下なら追いつける」

 

「君の機体の損傷を確かめてから、と考えていた。乗り手が替わったばかりでもあったからな」

 

「昨夜はそれでよい。次からは、こちらで判断して伝えよう」

 

 ゼロは図面を畳み、藤堂へ渡した。

 

「なら、明日は搬送車への積み込みも合わせてくれ。戦いが終わってからの手順まで含める」

 

「承知した」

 

 藤堂が図面を手に格納区画へ戻る。四聖剣へ話す声を聞きながら、ゼロは次の作戦用に開いていた地図へ目を移した。

 

 * * *

 

 クラブハウスへ戻ったルルーシュを、スザクが裏の通路で待っていた。

 軍服ではなく、学園の制服を着ている。庭を横切って来る彼を見て、ルルーシュは鞄を持ち直した。

 

「いつからいた」

 

「今来たところ。少し話せる?」

 

 人の通る玄関を避け、二人は庭の端へ移った。スザクは、建物の窓へ一度目を向けてから言う。

 

「藤堂さんは?」

 

「無事だ。昨日のうちに手当てを受けた」

 

「そう」

 

 スザクの息が少し緩んだ。それからルルーシュの顔を見て、口元を引き締める。

 

「だから、あれでよかったとは言わないよ」

 

「分かっている。お前も手を抜かなかった」

 

「当たり前だ。君を見つけたら、捕まえるつもりだった」

 

 ルルーシュは、ああ、と返した。スザクの指が制服の袖をつまみ、すぐ離す。

 

「あの車にいたんだね」

 

「さてな」

 

「そこは答えないんだ」

 

「友人に話すことと、敵の操縦者に教えることは選ばせてもらう」

 

 スザクは呆れたように息を吐いた。だが、目は逸らさない。

 

「次も、僕は止めるよ」

 

「こちらも、捕まるつもりはない」

 

 しばらく二人で立っていた。スザクも藤堂の所在を聞き直さなかった。

 ルルーシュが鞄を持つ手を替えると、スザクが初めて少し笑う。

 

「肩、痛そうだけど」

 

「お前ほどの体力はない」

 

「救出のたびに、自分で中へ入らない方がいいんじゃない?」

 

「だが、キングが動かなければ部下はついてこないだろう」

 

 会話を切ったのは、二階の窓が開いた音だった。C.C.が窓枠へ肘を置き、下を見ている。

 

「いつまで立っている。ナナリーが待っているぞ」

 

 スザクが彼女へ顔を向けた。ルルーシュの部屋にいる緑の髪の女へ目を止め、友人へ視線を戻す。

 

「……聞きたいことが増えた」

 

「その話は後だ。まずナナリーに顔を見せてやってくれ」

 

 玄関の方から咲世子が声を掛ける。スザクは彼女へ挨拶を返し、ルルーシュと並んで階段を上がった。

 

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