コードギアス 君の知らない、その先へ 作:明日を願う旅人
ナナリーが休んだ後、キョウトへの通信がつながった時、ゼロの前には二枚の地図があった。
一枚は中華連邦へ渡る航路、もう一枚はエリア11沿岸の島々だ。
画面に映った桐原は、最初の地図を見て目を細めた。
『今度は海の向こうか。こちらの支援が届き始めたばかりだぞ』
「活動の足場を増やしたい。中華連邦へつながる者を紹介していただけるか」
『誰でもよい、という顔ではないな』
「黎星刻。天子に仕える男だ」
桐原の指が机を一度叩く。
『大きく出る。商人を一人渡すのとは訳が違う』
「本人と話せるなら、それに越したことはない。難しければ、書状を届ける経路からで構わない」
『何を持って会うつもりだ』
ゼロは隣に座るC.C.を見た。彼女は航路の地図をこちらへ寄せる。
「技術と兵力。それに、天子の立場を脅かさない協力相手として」
『その兵力を、日本から持ち出すと?』
「今すぐではない。こちらに足場を残したうえで、動ける場所を作る」
桐原はしばらくゼロを見ていた。正体を知る相手ではあるが、画面に素顔を見せてよい通信ではない。ゼロも仮面を外さず待った。
『相手の名は預かろう。会えるとの返事を、先に当てにするでないぞ』
「承知した」
『もう一枚は何だ』
ゼロは島の地図を正面へ移した。
式根島の軍用岸壁に、試験艦向けの補給が集められている。キョウトとつながる港湾業者が拾った荷の記録だった。予定される大型艦の寄港期間は短い。
「こちらについては、もう少し詳しい情報が欲しい」
『海の向こうへ行く相談かと思えば、足元の船を欲しがっておるのか』
「目の前を通るなら、見ておく価値はある」
桐原が鼻を鳴らした。
『見るだけで済ませたことがあるのか、お前は』
返事を待たず、画面の外へ誰かを呼ぶ。通信が保留になると、C.C.が肘をついてゼロを見た。
「見学の申し込みにしては、用意がいいな」
「あの艦が来ると決まれば、話は早い」
C.C.は港湾の記録を覗き込み、それからゼロの顔へ目を戻した。
「船もいいが、ナナリーとの約束はどうする?」
「ユフィに会う方法なら、そちらも考えている」
「桐原に頼めば、場所くらい用意してくれるんじゃないか?」
「まずユフィ本人と話をつける。場所だけ決めても仕方がない」
「忙しい兄だな」
「二人いるからな。手の掛かる妹が」
通信の保留表示が消え、ゼロは背筋を戻した。
桐原から送られてきたのは、補給の記録に加え、岸壁へ入る業者の一覧だった。
* * *
四日後、島を遠くから見張っていた協力者が、白と紫の艦影を撮影した。
写真は粗かったが、船体の輪郭は十分に分かる。岸壁の格納設備から艦へ運ばれる黒い大型機も写っていた。
ゼロはその写真を拡大した。
ガウェイン。こちらも来ている。
艦は式根島で機関の調整と補給を行い、その後、近隣の島の調査を支援する予定だという。シュナイゼルの視察に備え、地上施設にも物資が入っていた。
作業の責任者を確かめるため、ゼロは端末の別の資料を開く。軍へ出入りしている整備請負会社の名が、先ほどの一覧と一致した。
横から覗いていたC.C.が言った。
「嬉しそうだな」
「ああ。欲しいものが二つとも揃っている」
「まだ他人のものだぞ」
「だから、これから貰いに行くんだ」
ゼロは写真を保存し、扇へ連絡を入れた。
「藤堂とラクシャータを呼んでくれ。少し大きな買い物の話がある」
* * *
扇は、机に広げられた写真とゼロを交互に見た。
「これを、丸ごと?」
「そうだ」
ゼロは白と紫の船体へ指を置く。
部屋には藤堂、ラクシャータ、C.C.が集まっていた。机の端の画面には桐原が映っている。
「浮遊航空艦アヴァロン。格納庫にある試作ナイトメアも確保する」
「船というより、基地じゃないか」
「なら、引っ越しを一度で済ませられる」
C.C.の言葉に扇が額へ手を当てた。桐原は笑わず、写真を見ている。
『シュナイゼルの旗艦だぞ。どこへ隠す気だ』
「その相談もしたい」
『手に余るものを盗んでから、こちらへ持ち込まれては困る』
「使える艦として奪う。そのために、今話している」
藤堂が島の図面を引き寄せた。
軍の敷地は海沿いに細長い。東端の岸壁にアヴァロンが停まり、その西に資材置き場がある。さらに西が警備隊の格納庫。陸側の出入口は南の一本だけだった。
「警備隊を西で抑えるとして、艦内へは誰が入る」
「私とC.C.。整備作業員の交代に合わせる」
「またか」
扇がつぶやく。ルルーシュは仮面の奥から、その顔を見た。
今はまだ、ここで詳しく話すわけにはいかない。だが、正体もギアスも、そろそろ自分から明かす頃だ。アヴァロンを奪えば、シュナイゼルが騎士団へ直接接触してくる可能性もある。こちらの秘密を掴めば、あの兄は喜んで交渉の席へ持ち込むだろう。
また扇たちが、自分の正体を敵から聞く。そんな事態は御免だ。
話す時期を見定めながら、ゼロは請負会社の作業表を机に置いた。出入りする責任者には、すでにギアスをかけてある。人目のない所で目を合わせ、指示に従うよう命じた。持ち込む道具と車両、当日の担当も、その男から確かめていた。
「案内役は確保した。艦内の通信室と艦橋を押さえ、警備隊が戻る前に艦を動かす。外は君に任せる、藤堂」
「承知した。訓練の結果は上々だ。決めた時刻に動かす分には問題ない。紅蓮を先頭に、四聖剣と無頼を使おう」
藤堂は警備隊の格納庫から岸壁へ至る道路をなぞった。
「白兜もここに出てくるか」
「配備の確認は取れている。正面は紅蓮に受け持たせたい」
「倒すの?」
別の写真を見ていたラクシャータが、初めて顔を上げた。
「止める。君の装置でな」
「それなら、あの子にも無茶をさせずに済むわね」
ラクシャータは作業着のポケットから端末を出した。
ゲフィオンディスターバー。持ち込める送信装置の数と、試験で機能停止を確認した範囲が表示される。艦全体を覆うような広域使用はできないが、地上の一角を押さえるには足りた。
紅蓮と月下には対策を施している。無頼は範囲へ入れず、南の出入口と回収路を守らせる。
ルルーシュは岸壁に停まるアヴァロンの写真へ目を移した。前の世界では、あの艦が突如上空に現れ、部隊ごと吹き飛ばされた。今回は着地している間に艦内を押さえる。頭上から不意打ちを食らう心配はない。
「船まで止めないでよ? あんな大きなもの、押して帰れないんだから」
ゼロは図面の西半分を囲んだ。艦は東端、発生装置は資材置き場の西寄りへ運ぶ。ランスロットを西側の広場に引き留めてから作動させる。
「作動後も、白兜は君たちで見張れ。装置を切れば、また動く」
「装置を止める合図は私が出す。輸送車を先に艦へ戻し、紅蓮と私の月下で白兜を抑えながら退こう」
藤堂が答え、机の上の駒を岸壁へ動かす。
試験の数字を見せられた扇は、自分の担当を書き足した。島へ部隊を運ぶ船、負傷者用の車、回収班。必要な人名が埋まるにつれて、顔つきが変わっていく。
「……艦を動かせる人間は、うちにいないぞ」
「当面は元の乗員に動かしてもらう。機関の担当と操艦要員はこちらで押さえる」
「いつまでも銃を突きつけて働かせるわけにはいかないだろう」
「だから、まずは艦を隠して乗員を交代させる場所が要る。操艦と機関の担当には、こちらの要員への引き継ぎが済むまで残ってもらう。それ以外の者はそこで降ろす」
ゼロは桐原へ顔を向けた。
案内役から得た勤務表には、機関と操艦を担当する者を印してある。交代要員まで含めて、艦内で直接会う相手を決めていた。
『人も寄越せということか』
「船の経験がある者を。軍艦の装備はこちらで調べる」
桐原は画面から目を外し、手元の何かに書き込んだ。
『離れた入り江に、使っておらぬ修理施設がある。船体を覆う屋根はない。長居はさせられんぞ』
「最初の停泊場所には十分だ」
『十分かどうかは、持ってきてから決める。こちらの者にも実物を見せよ』
ゼロが頷くと、ラクシャータが待ちきれなくなったように写真を差し出した。
「この黒い子。さっきから誰も説明してくれないんだけど」
「ガウェインだ。飛行可能な試作機らしい」
「らしい、で済ませるつもり?」
「手に入れば、好きなだけ調べられる」
彼女は写真を自分の方へ戻した。艦への搬入口に立つ人間と機体の大きさを比べ、二本の指で画面を広げる。
「傷つけないで運んでね」
「艦ごと運ぶ」
「分かったわ。そちらの受け入れには私も行く。助手を何人か乗せておいて」
扇の手元の名簿に、さらに人数が増えた。
* * *
会議の終わりに、ゼロは予定日へ丸をつけた。
シュナイゼルはその朝、島の地上施設で視察を行う。岸壁で調整を続ける艦へ戻るまでの間を狙う。ロイドを含む技術者も、陸側でランスロットの点検に立ち会う予定だった。
その予定が変わり、皇族を乗せたまま出港するなら、この手順は使えない。
「乗艦状況は当日まで確認する。開始の合図は、私が艦橋へ入ってからだ」
「入れなければ?」
扇が尋ねる。
「その日は奪取を見送る。作業員としての仕事を済ませて帰ればいい」
C.C.がゼロの手袋を見た。
「お前に整備作業が務まるのか」
「工具を運ぶくらいはできる」
「では重い方を任せよう」
ラクシャータが笑い、扇までつられて口元を緩めた。藤堂は駒を箱へ戻しながら、岸壁の写真を一枚取る。
「上陸してからの配置を詰める。決まり次第、渡そう」
桐原との通信が切れ、皆が部屋を出ていった。
ゼロは最後に残った船の写真を見下ろす。
十分な整備設備。人員をまとめて運ぶ空間。海を越える足。
欲しいものが、一隻に詰まっている。
「まだ笑うには早いぞ」
C.C.に言われ、ルルーシュは仮面へ手を掛けた。
「見えていたのか」
「見えてなくてもお前のことなら分かる」