コードギアス 君の知らない、その先へ   作:明日を願う旅人

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第28話 大きすぎる獲物

 ナナリーが休んだ後、キョウトへの通信がつながった時、ゼロの前には二枚の地図があった。

 一枚は中華連邦へ渡る航路、もう一枚はエリア11沿岸の島々だ。

 画面に映った桐原は、最初の地図を見て目を細めた。

 

『今度は海の向こうか。こちらの支援が届き始めたばかりだぞ』

 

「活動の足場を増やしたい。中華連邦へつながる者を紹介していただけるか」

 

『誰でもよい、という顔ではないな』

 

「黎星刻。天子に仕える男だ」

 

 桐原の指が机を一度叩く。

 

『大きく出る。商人を一人渡すのとは訳が違う』

 

「本人と話せるなら、それに越したことはない。難しければ、書状を届ける経路からで構わない」

 

『何を持って会うつもりだ』

 

 ゼロは隣に座るC.C.を見た。彼女は航路の地図をこちらへ寄せる。

 

「技術と兵力。それに、天子の立場を脅かさない協力相手として」

 

『その兵力を、日本から持ち出すと?』

 

「今すぐではない。こちらに足場を残したうえで、動ける場所を作る」

 

 桐原はしばらくゼロを見ていた。正体を知る相手ではあるが、画面に素顔を見せてよい通信ではない。ゼロも仮面を外さず待った。

 

『相手の名は預かろう。会えるとの返事を、先に当てにするでないぞ』

 

「承知した」

 

『もう一枚は何だ』

 

 ゼロは島の地図を正面へ移した。

 式根島の軍用岸壁に、試験艦向けの補給が集められている。キョウトとつながる港湾業者が拾った荷の記録だった。予定される大型艦の寄港期間は短い。

 

「こちらについては、もう少し詳しい情報が欲しい」

 

『海の向こうへ行く相談かと思えば、足元の船を欲しがっておるのか』

 

「目の前を通るなら、見ておく価値はある」

 

 桐原が鼻を鳴らした。

 

『見るだけで済ませたことがあるのか、お前は』

 

 返事を待たず、画面の外へ誰かを呼ぶ。通信が保留になると、C.C.が肘をついてゼロを見た。

 

「見学の申し込みにしては、用意がいいな」

 

「あの艦が来ると決まれば、話は早い」

 

 C.C.は港湾の記録を覗き込み、それからゼロの顔へ目を戻した。

 

「船もいいが、ナナリーとの約束はどうする?」

 

「ユフィに会う方法なら、そちらも考えている」

 

「桐原に頼めば、場所くらい用意してくれるんじゃないか?」

 

「まずユフィ本人と話をつける。場所だけ決めても仕方がない」

 

「忙しい兄だな」

 

「二人いるからな。手の掛かる妹が」

 

 通信の保留表示が消え、ゼロは背筋を戻した。

 桐原から送られてきたのは、補給の記録に加え、岸壁へ入る業者の一覧だった。

 

 * * *

 

 四日後、島を遠くから見張っていた協力者が、白と紫の艦影を撮影した。

 写真は粗かったが、船体の輪郭は十分に分かる。岸壁の格納設備から艦へ運ばれる黒い大型機も写っていた。

 ゼロはその写真を拡大した。

 ガウェイン。こちらも来ている。

 艦は式根島で機関の調整と補給を行い、その後、近隣の島の調査を支援する予定だという。シュナイゼルの視察に備え、地上施設にも物資が入っていた。

 作業の責任者を確かめるため、ゼロは端末の別の資料を開く。軍へ出入りしている整備請負会社の名が、先ほどの一覧と一致した。

 横から覗いていたC.C.が言った。

 

「嬉しそうだな」

 

「ああ。欲しいものが二つとも揃っている」

 

「まだ他人のものだぞ」

 

「だから、これから貰いに行くんだ」

 

 ゼロは写真を保存し、扇へ連絡を入れた。

 

「藤堂とラクシャータを呼んでくれ。少し大きな買い物の話がある」

 

 * * *

 

扇は、机に広げられた写真とゼロを交互に見た。

 

「これを、丸ごと?」

 

「そうだ」

 

 ゼロは白と紫の船体へ指を置く。

 部屋には藤堂、ラクシャータ、C.C.が集まっていた。机の端の画面には桐原が映っている。

 

「浮遊航空艦アヴァロン。格納庫にある試作ナイトメアも確保する」

 

「船というより、基地じゃないか」

 

「なら、引っ越しを一度で済ませられる」

 

 C.C.の言葉に扇が額へ手を当てた。桐原は笑わず、写真を見ている。

 

『シュナイゼルの旗艦だぞ。どこへ隠す気だ』

 

「その相談もしたい」

 

『手に余るものを盗んでから、こちらへ持ち込まれては困る』

 

「使える艦として奪う。そのために、今話している」

 

 藤堂が島の図面を引き寄せた。

 軍の敷地は海沿いに細長い。東端の岸壁にアヴァロンが停まり、その西に資材置き場がある。さらに西が警備隊の格納庫。陸側の出入口は南の一本だけだった。

 

「警備隊を西で抑えるとして、艦内へは誰が入る」

 

「私とC.C.。整備作業員の交代に合わせる」

 

「またか」

 

 扇がつぶやく。ルルーシュは仮面の奥から、その顔を見た。

 今はまだ、ここで詳しく話すわけにはいかない。だが、正体もギアスも、そろそろ自分から明かす頃だ。アヴァロンを奪えば、シュナイゼルが騎士団へ直接接触してくる可能性もある。こちらの秘密を掴めば、あの兄は喜んで交渉の席へ持ち込むだろう。

 また扇たちが、自分の正体を敵から聞く。そんな事態は御免だ。

 

 話す時期を見定めながら、ゼロは請負会社の作業表を机に置いた。出入りする責任者には、すでにギアスをかけてある。人目のない所で目を合わせ、指示に従うよう命じた。持ち込む道具と車両、当日の担当も、その男から確かめていた。

 

「案内役は確保した。艦内の通信室と艦橋を押さえ、警備隊が戻る前に艦を動かす。外は君に任せる、藤堂」

 

「承知した。訓練の結果は上々だ。決めた時刻に動かす分には問題ない。紅蓮を先頭に、四聖剣と無頼を使おう」

 

 藤堂は警備隊の格納庫から岸壁へ至る道路をなぞった。

 

「白兜もここに出てくるか」

 

「配備の確認は取れている。正面は紅蓮に受け持たせたい」

 

「倒すの?」

 

 別の写真を見ていたラクシャータが、初めて顔を上げた。

 

「止める。君の装置でな」

 

「それなら、あの子にも無茶をさせずに済むわね」

 

 ラクシャータは作業着のポケットから端末を出した。

 ゲフィオンディスターバー。持ち込める送信装置の数と、試験で機能停止を確認した範囲が表示される。艦全体を覆うような広域使用はできないが、地上の一角を押さえるには足りた。

 紅蓮と月下には対策を施している。無頼は範囲へ入れず、南の出入口と回収路を守らせる。

 

 ルルーシュは岸壁に停まるアヴァロンの写真へ目を移した。前の世界では、あの艦が突如上空に現れ、部隊ごと吹き飛ばされた。今回は着地している間に艦内を押さえる。頭上から不意打ちを食らう心配はない。

 

「船まで止めないでよ? あんな大きなもの、押して帰れないんだから」

 

 ゼロは図面の西半分を囲んだ。艦は東端、発生装置は資材置き場の西寄りへ運ぶ。ランスロットを西側の広場に引き留めてから作動させる。

 

「作動後も、白兜は君たちで見張れ。装置を切れば、また動く」

 

「装置を止める合図は私が出す。輸送車を先に艦へ戻し、紅蓮と私の月下で白兜を抑えながら退こう」

 

 藤堂が答え、机の上の駒を岸壁へ動かす。

 試験の数字を見せられた扇は、自分の担当を書き足した。島へ部隊を運ぶ船、負傷者用の車、回収班。必要な人名が埋まるにつれて、顔つきが変わっていく。

 

「……艦を動かせる人間は、うちにいないぞ」

 

「当面は元の乗員に動かしてもらう。機関の担当と操艦要員はこちらで押さえる」

 

「いつまでも銃を突きつけて働かせるわけにはいかないだろう」

 

「だから、まずは艦を隠して乗員を交代させる場所が要る。操艦と機関の担当には、こちらの要員への引き継ぎが済むまで残ってもらう。それ以外の者はそこで降ろす」

 

 ゼロは桐原へ顔を向けた。

 案内役から得た勤務表には、機関と操艦を担当する者を印してある。交代要員まで含めて、艦内で直接会う相手を決めていた。

 

『人も寄越せということか』

 

「船の経験がある者を。軍艦の装備はこちらで調べる」

 

 桐原は画面から目を外し、手元の何かに書き込んだ。

 

『離れた入り江に、使っておらぬ修理施設がある。船体を覆う屋根はない。長居はさせられんぞ』

 

「最初の停泊場所には十分だ」

 

『十分かどうかは、持ってきてから決める。こちらの者にも実物を見せよ』

 

 ゼロが頷くと、ラクシャータが待ちきれなくなったように写真を差し出した。

 

「この黒い子。さっきから誰も説明してくれないんだけど」

 

「ガウェインだ。飛行可能な試作機らしい」

 

「らしい、で済ませるつもり?」

 

「手に入れば、好きなだけ調べられる」

 

 彼女は写真を自分の方へ戻した。艦への搬入口に立つ人間と機体の大きさを比べ、二本の指で画面を広げる。

 

「傷つけないで運んでね」

 

「艦ごと運ぶ」

 

「分かったわ。そちらの受け入れには私も行く。助手を何人か乗せておいて」

 

 扇の手元の名簿に、さらに人数が増えた。

 

 * * *

 

 会議の終わりに、ゼロは予定日へ丸をつけた。

 シュナイゼルはその朝、島の地上施設で視察を行う。岸壁で調整を続ける艦へ戻るまでの間を狙う。ロイドを含む技術者も、陸側でランスロットの点検に立ち会う予定だった。

 その予定が変わり、皇族を乗せたまま出港するなら、この手順は使えない。

 

「乗艦状況は当日まで確認する。開始の合図は、私が艦橋へ入ってからだ」

 

「入れなければ?」

 

 扇が尋ねる。

 

「その日は奪取を見送る。作業員としての仕事を済ませて帰ればいい」

 

 C.C.がゼロの手袋を見た。

 

「お前に整備作業が務まるのか」

 

「工具を運ぶくらいはできる」

 

「では重い方を任せよう」

 

 ラクシャータが笑い、扇までつられて口元を緩めた。藤堂は駒を箱へ戻しながら、岸壁の写真を一枚取る。

 

「上陸してからの配置を詰める。決まり次第、渡そう」

 

 桐原との通信が切れ、皆が部屋を出ていった。

 ゼロは最後に残った船の写真を見下ろす。

 十分な整備設備。人員をまとめて運ぶ空間。海を越える足。

 欲しいものが、一隻に詰まっている。

 

「まだ笑うには早いぞ」

 

 C.C.に言われ、ルルーシュは仮面へ手を掛けた。

 

「見えていたのか」

 

「見えてなくてもお前のことなら分かる」

 

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