コードギアス 君の知らない、その先へ   作:明日を願う旅人

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第29話 親切な敵

スザクから返ってきた紙には、ルルーシュの文字の横へ、小さな字がいくつも書き込まれていた。

 ユーフェミアの筆跡だった。

 答えの出た項目はまだ少ない。けれど、調べる相手と、次に聞きたいことが添えられている。特区の外へ働きに出る場合はどうなるのか、という問いには二重線が引かれていた。

 

「君の質問、一つずつ確かめてくれているよ」

 

 スザクが言う。ルルーシュは書き込まれた小さな文字を目で追った。

 

「ああ。ユフィらしいな」

 

「それなら、本人にもそう言ってあげてよ」

 

 場所はクラブハウスのルルーシュの部屋だった。C.C.はナナリーと居間にいる。スザクは椅子の背へ手を置き、座らずに返事を待っていた。

 

「それから、会って話したいそうだよ」

 

「……その件は、少し待ってくれ」

 

「そう答えると思った」

 

 スザクが手を離す。ルルーシュは返された紙を折り畳んだ。

 

「もう一つ、伝えたいことがある」

 

 スザクは扉へ向きかけた身体を戻した。

 

「近く、式根島で軍の視察がある。ユフィを近づけるな」

 

 部屋が静かになった。

 スザクの目が、今度は紙ではなくルルーシュ自身を捉える。

 

「君は、そこで何をする」

 

「軍のものを頂く」

 

「冗談で済む話じゃない」

 

「冗談ではない。だから先に伝えた」

 

 スザクは机の前まで戻ってきた。声は大きくならなかったが、柔らかさが消えている。

 

「僕に見逃せって言うのか」

 

「ユフィを巻き込みたくないと言っている」

 

「軍人だっている。君たちだって、誰も傷つかずに済むとは限らないだろう」

 

「承知している」

 

「なら、やめてくれ」

 

 ルルーシュは首を振った。

 スザクが唇を結ぶ。窓の外から風が入り、机の端の紙が浮いた。ルルーシュは手で押さえたまま、友人の言葉を待つ。

 

「報告するよ」

 

「ああ」

 

「警備も増える。僕が出るかもしれない。それでも?」

 

「それでもだ」

 

 スザクは椅子を避けて扉へ向かった。取っ手へ触れたところで、少しだけ振り返る。

 

「ユーフェミア様には伝える。でも、君の思いどおりに動いてもらえるとは考えないで」

 

「分かっている」

 

 今度は、それ以上言わなかった。

 スザクが廊下へ出ると、居間からナナリーの声がした。もう帰るのかと問われ、彼は軍へ戻る用事ができたと答えていた。

 その声を聞きながら、ルルーシュは椅子の背へ身体を預ける。

 

 黙っていれば、もっと楽に済んだものを。

 警備の増強は当然ある。出入りする業者を絞られる可能性もある。自分で難しくしておいて、後からスザクのせいにはできない。

 我ながら甘くなった。だが、ユフィが来るかもしれないと知りながら、友人には知らぬ顔で笑っておくというのも、今度はなるべくやめておきたい。

 ……まあ、ガウェインはいただくが。

 

「随分と、難しい顔をしているな」

 

 戻ってきたC.C.が扉を閉める。

 

「警備が増える」

 

「言ったのか」

 

「ああ」

 

 彼女は机の端へ腰を預け、ルルーシュの顔を見た。

 

「では、働くとしよう。道具を運ぶだけでは済まなくなったぞ」

 

 ルルーシュは端末を開き、島の図面を呼び出した。

 

 * * *

 

 視察前日、艦へ入る作業員は半数へ減らされた。

 ただし、機関調整に必要な班は残っている。案内役の責任者は担当を外されなかった。ゼロとC.C.は予定どおり入れるが、外の部隊が動ける幅は狭くなった。

 新たな警備車両が南門へ置かれ、西の広場にも兵が増えた。ゼロは藤堂と連絡を取り、無頼の配置を南側へ寄せる。四聖剣が最初に引き受ける敵の数も変えた。

 ユーフェミアの視察同行は取りやめになった、と別の連絡が入る。

 スザク本人からではない。島の受け入れ担当へ回った変更通知を、艦に出入りする責任者が確認したものだった。

 ゼロはその項目を消さず、確認済みと記した。

 

 同じ頃、スザクは陸側の整備庫にいた。

 

「警告までしてくれるなんて、親切な敵だねぇ」

 

 ロイドは机の上へ足を投げ出しかけ、セシルに見られて戻した。

 スザクが提出したのは、ゼロ側から届いた襲撃の警告と、皇族を近づけないよう求められたという報告だった。学園の友人の名前は書いていない。その出所を問われることも覚悟していたが、まずは視察日程の変更と警戒が優先された。

 

「油断させるためかもしれません」

 

「そう。じゃあ、警戒しよう。はい、おしまい」

 

「ロイドさん」

 

 セシルの声で、彼は端末をスザクへ向けた。ランスロットの整備項目が並んでいる。

 

「こっちは済んでる。君は?」

 

「いつでも出られます」

 

「なら、食事も済ませて。警報が鳴ってからでは遅いでしょう」

 

 セシルが包みを差し出した。スザクは礼を言って受け取り、整備庫の端へ歩いた。

 

 ルルーシュは来る。

 止めると言った自分を、来ないことにしてはいないはずだ。

 

 包みを開くと、サンドイッチに小さなメモが添えられていた。セシルの字で「作ってきました。よかったら食べてね」とある。

 スザクの手が止まる。そっと包みを閉じ、セシルがこちらを見ていないのを確かめてから、軍の支給品の栄養バーを取り出した。

 まずはこちらを食べて、もう一度コクピットへ上がろう。

 

 * * *

 

 明け方の岸壁には、まだ照明が残っていた。

 作業車の窓から見えるアヴァロンは、写真で見るより大きい。船腹へ延びる搬入用の通路の下を、人が列になって歩いている。

 ルルーシュは作業着の袖を直した。仮面は工具箱の中だ。コンタクトは外してケースへ収めてある。

 隣のC.C.は髪をまとめ、帽子の中へ入れていた。責任者が検査を受ける間、窓に映る自分の顔を一度確かめる。

 

「似合っているぞ」

 

 彼女が小声で言う。

 

「今は聞いていない」

 

「この前のお返しだ」

 

 車が動いた。門を抜け、艦の影へ入っていく。

 ルルーシュは工具箱の取っ手を握った。

 

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