コードギアス 君の知らない、その先へ 作:明日を願う旅人
スザクから返ってきた紙には、ルルーシュの文字の横へ、小さな字がいくつも書き込まれていた。
ユーフェミアの筆跡だった。
答えの出た項目はまだ少ない。けれど、調べる相手と、次に聞きたいことが添えられている。特区の外へ働きに出る場合はどうなるのか、という問いには二重線が引かれていた。
「君の質問、一つずつ確かめてくれているよ」
スザクが言う。ルルーシュは書き込まれた小さな文字を目で追った。
「ああ。ユフィらしいな」
「それなら、本人にもそう言ってあげてよ」
場所はクラブハウスのルルーシュの部屋だった。C.C.はナナリーと居間にいる。スザクは椅子の背へ手を置き、座らずに返事を待っていた。
「それから、会って話したいそうだよ」
「……その件は、少し待ってくれ」
「そう答えると思った」
スザクが手を離す。ルルーシュは返された紙を折り畳んだ。
「もう一つ、伝えたいことがある」
スザクは扉へ向きかけた身体を戻した。
「近く、式根島で軍の視察がある。ユフィを近づけるな」
部屋が静かになった。
スザクの目が、今度は紙ではなくルルーシュ自身を捉える。
「君は、そこで何をする」
「軍のものを頂く」
「冗談で済む話じゃない」
「冗談ではない。だから先に伝えた」
スザクは机の前まで戻ってきた。声は大きくならなかったが、柔らかさが消えている。
「僕に見逃せって言うのか」
「ユフィを巻き込みたくないと言っている」
「軍人だっている。君たちだって、誰も傷つかずに済むとは限らないだろう」
「承知している」
「なら、やめてくれ」
ルルーシュは首を振った。
スザクが唇を結ぶ。窓の外から風が入り、机の端の紙が浮いた。ルルーシュは手で押さえたまま、友人の言葉を待つ。
「報告するよ」
「ああ」
「警備も増える。僕が出るかもしれない。それでも?」
「それでもだ」
スザクは椅子を避けて扉へ向かった。取っ手へ触れたところで、少しだけ振り返る。
「ユーフェミア様には伝える。でも、君の思いどおりに動いてもらえるとは考えないで」
「分かっている」
今度は、それ以上言わなかった。
スザクが廊下へ出ると、居間からナナリーの声がした。もう帰るのかと問われ、彼は軍へ戻る用事ができたと答えていた。
その声を聞きながら、ルルーシュは椅子の背へ身体を預ける。
黙っていれば、もっと楽に済んだものを。
警備の増強は当然ある。出入りする業者を絞られる可能性もある。自分で難しくしておいて、後からスザクのせいにはできない。
我ながら甘くなった。だが、ユフィが来るかもしれないと知りながら、友人には知らぬ顔で笑っておくというのも、今度はなるべくやめておきたい。
……まあ、ガウェインはいただくが。
「随分と、難しい顔をしているな」
戻ってきたC.C.が扉を閉める。
「警備が増える」
「言ったのか」
「ああ」
彼女は机の端へ腰を預け、ルルーシュの顔を見た。
「では、働くとしよう。道具を運ぶだけでは済まなくなったぞ」
ルルーシュは端末を開き、島の図面を呼び出した。
* * *
視察前日、艦へ入る作業員は半数へ減らされた。
ただし、機関調整に必要な班は残っている。案内役の責任者は担当を外されなかった。ゼロとC.C.は予定どおり入れるが、外の部隊が動ける幅は狭くなった。
新たな警備車両が南門へ置かれ、西の広場にも兵が増えた。ゼロは藤堂と連絡を取り、無頼の配置を南側へ寄せる。四聖剣が最初に引き受ける敵の数も変えた。
ユーフェミアの視察同行は取りやめになった、と別の連絡が入る。
スザク本人からではない。島の受け入れ担当へ回った変更通知を、艦に出入りする責任者が確認したものだった。
ゼロはその項目を消さず、確認済みと記した。
同じ頃、スザクは陸側の整備庫にいた。
「警告までしてくれるなんて、親切な敵だねぇ」
ロイドは机の上へ足を投げ出しかけ、セシルに見られて戻した。
スザクが提出したのは、ゼロ側から届いた襲撃の警告と、皇族を近づけないよう求められたという報告だった。学園の友人の名前は書いていない。その出所を問われることも覚悟していたが、まずは視察日程の変更と警戒が優先された。
「油断させるためかもしれません」
「そう。じゃあ、警戒しよう。はい、おしまい」
「ロイドさん」
セシルの声で、彼は端末をスザクへ向けた。ランスロットの整備項目が並んでいる。
「こっちは済んでる。君は?」
「いつでも出られます」
「なら、食事も済ませて。警報が鳴ってからでは遅いでしょう」
セシルが包みを差し出した。スザクは礼を言って受け取り、整備庫の端へ歩いた。
ルルーシュは来る。
止めると言った自分を、来ないことにしてはいないはずだ。
包みを開くと、サンドイッチに小さなメモが添えられていた。セシルの字で「作ってきました。よかったら食べてね」とある。
スザクの手が止まる。そっと包みを閉じ、セシルがこちらを見ていないのを確かめてから、軍の支給品の栄養バーを取り出した。
まずはこちらを食べて、もう一度コクピットへ上がろう。
* * *
明け方の岸壁には、まだ照明が残っていた。
作業車の窓から見えるアヴァロンは、写真で見るより大きい。船腹へ延びる搬入用の通路の下を、人が列になって歩いている。
ルルーシュは作業着の袖を直した。仮面は工具箱の中だ。コンタクトは外してケースへ収めてある。
隣のC.C.は髪をまとめ、帽子の中へ入れていた。責任者が検査を受ける間、窓に映る自分の顔を一度確かめる。
「似合っているぞ」
彼女が小声で言う。
「今は聞いていない」
「この前のお返しだ」
車が動いた。門を抜け、艦の影へ入っていく。
ルルーシュは工具箱の取っ手を握った。