コードギアス 君の知らない、その先へ 作:明日を願う旅人
艦内の通路で、ルルーシュは工具箱を持ち替えた。
案内役の責任者が前を歩き、C.C.が後ろにつく。行き合う作業員は少ない。入場制限で半数が外されたという報告どおりだった。
増えた警備の配置は、藤堂と扇が確認を済ませている。事前の会議では、一般作業員が減り、警備が増えた場合の対応まで話をつけてあった。
軍に知らせるだけなら、ほかにも手はあった。スザクに直接告げたのは、ルルーシュ自身がそうしたかったからだ。
足元から伝わる振動は一定だ。機関の調整は続いているが、艦はいつでも出られる状態に近い。
艦橋の前まで来ると、警備兵が三人を止めた。
「ここへの作業申請はなかったはずだぞ」
「機関の確認結果を直接お伝えするようにと」
責任者が答え、ルルーシュを振り返る。兵士の目もこちらへ動いた。
赤い光がその視線を捉える。
「私の指示に従え」
立っていた二人の警備兵が、姿勢を正した。
ルルーシュは工具箱を床へ置く。C.C.が蓋を開け、仮面を渡した。
「殿下は?」
「地上の視察棟におられます。帰艦の連絡はまだありません」
「よし。扉を開けろ」
仮面を着けたゼロが、艦橋へ入った。
作業着の肩へマントを掛ける時間はなかったが、黒い仮面だけで十分だった。正面の席にいた士官が立ち上がり、腰へ手を伸ばす。
「動くな」
ゼロの後ろから、警備兵が銃を向けた。C.C.は扉の脇へ立ち、外の通路を見張る。
士官の顔が上がる。ゼロはその目を見た。
命令を掛け、操艦を担当する者、通信を扱う者へと向き直る。顔を伏せた男には警備兵が声を掛けた。仮面のこちらを見たところで、同じ命令を告げる。
数分後、艦橋から機関室へ通常の連絡が入った。
担当者を呼び集めるためのものだ。機関の責任者と、その引き継ぎ要員にも直接会う。艦を動かす者を確保し終えるまで、地上の仲間は待たせた。
艦橋の端で、外へ通じる回線が閉じられる。
さすがに二度目ともなれば、この力の使いどころも心得ている。
ゼロは受信機へ触れた。
「藤堂。始めろ」
* * *
最初の爆発は、南門の手前で起きた。
路上へ煙が噴き上がり、警備車両が止まる。その横を抜けて、紅蓮が敷地へ滑り込んだ。
カレンは岸壁へ向かわず、すぐ左へ曲がった。目的地は西側の広場。警備隊の格納庫から出てくる機体を、艦から遠ざける。
『左の二機はこちらで受ける。紅蓮、そのまま進め』
藤堂の月下が後ろを横切り、敵のサザーランドへ斬りかかった。
千葉と朝比奈が続く。南門の無頼が援護射撃を始める間に、仙波と卜部は資材置き場の端へ回り、東の岸壁へ通じる道路を押さえた。
輸送車が二台、その内側へ入ってくる。荷台にはゲフィオンディスターバーの装置が積まれていた。
『白兜が出た!』
カレンは報告より早く、白い機体を見つけた。
格納庫脇から飛び出したランスロットが、広場を斜めに走る。その先には資材置き場がある。彼が艦へ戻れば、作戦は面倒になる。
紅蓮は進路へ割り込み、右腕を突き出した。
白い刃がその腕を避け、肩へ迫る。カレンは車輪を滑らせてかわし、左手の短刀を振った。刃同士がぶつかり、火花がコクピットの画面を散った。
「今日は、そっちへは行かせない!」
ランスロットが退く。紅蓮も詰めた。
右腕を警戒している。ならば、とカレンは大きく見せた右の動きを途中で止め、左から斬り込んだ。
相手の剣が受ける。押し合いになる前にランスロットが跳び、紅蓮の肩越しに東へ抜けようとした。
カレンは追いかけず、機体を反転させた。
東側から卜部の射撃が来る。着地を変えたランスロットの前へ、紅蓮が再び立った。
スザクは画面の端で、月下の配置を確かめた。
こちらを囲んで押し潰すのではない。艦への道を塞ぎ、広場に留めようとしている。紅蓮も、追えば届く場面で深く踏み込んでこない。
何かある。
ランスロットは銃を構え、紅蓮の足元へ撃った。跳び退いた隙を追わず、南側へ方向を変える。
正面から艦へ戻れないなら、一度外へ出る。
『藤堂さん、白兜が南へ!』
『分かっている。カレン、右から寄せろ』
紅蓮が並走する。スザクが速度を上げると、南門から来た月下が剣を横へ構えた。藤堂だった。
その機体を見た瞬間、スザクの指が操縦桿を強く握る。
紅蓮を背にして藤堂へ向かうか。止まって二機を受けるか。
選ぶ前に、警告音が鳴った。
出力の表示が一斉に下がる。車輪が回転を失い、機体が前へつんのめった。
「何だ……!」
制御を切り替える。反応がない。ランスロットは片膝をつき、腕を路面へ落とした。
すぐそばで紅蓮が止まる。だが、こちらと違って滑らかだった。月下も動いている。
スザクは資材置き場の端を見た。輸送車の荷台で開かれた装置が、こちらへ向いている。
* * *
『白兜、停止。乗員は機内です』
カレンの声が艦橋へ届く。
ゼロは外の映像で、赤と白の機体を確認した。ランスロットのコクピットは開いていない。
「そのまま監視。不用意に近づくなよ」
『了解』
カレンは紅蓮を数歩下げ、艦への道に背を向けて立った。
あと少しで、あの機体を右腕で捉えられたのに。
カレンは動かなくなった白兜を睨み、紅蓮の右腕の出力を落とした。
『北側から増援。サザーランド四機』
朝比奈の報告が入った。
藤堂はすぐ二機を北へ向ける。カレンも身体の向きを変え、ランスロットと北の道路を同じ画面に収めた。
艦橋では、地上の管制から通信要求が繰り返されていた。
出港の許可は下りていない。指揮官の帰艦前に機関の出力が上がったため、異常を察したのだろう。
ゼロは艦内の画面へ目を移した。格納庫の黒い機体には拘束具が掛かったままだ。ガウェインの搬出は始まっていない。
「格納庫の警備を武装解除。下船を望む作業員は南側の通路へ集めろ。艇で岸へ戻す」
機関を担当する者は残す。命令を掛けていない乗員のうち、抵抗した者は艦内警備に拘束させた。下船する者を通す区画と、仲間を迎え入れる搬入口を別々に確保する。
C.C.が地上の映像へ顔を寄せた。
「兄上がお帰りになるぞ」
視察棟から出た車列が、岸壁へ向かおうとしていた。だが、途中の警備兵が止めている。銃撃の中へ皇族の車を通すつもりはないらしい。
ゼロは通信席へ指を向けた。
「あちらへ伝えろ。アヴァロンは黒の騎士団が接収した。降りる乗員の帰還を妨げなければ、こちらからは撃たない」
C.C.が彼の横で、腕を組む。
「丁寧な挨拶だな」
「持ち主には断っておくべきだろう」
艦底の振動が、ゆっくりと強まった。
今作のルルーシュはギアスを使う機会が多く、C.C.と二人で動く場面も多めです。
前の世界で裏切られた経験はありますが、それでも騎士団の仲間にはなるべく傷ついてほしくない。そんな思いもあって、今回のように自分たちで潜入し、ギアスで先に押さえておく作戦が増えています。