コードギアス 君の知らない、その先へ 作:明日を願う旅人
岸壁へ戻る艇が、最後の作業員を乗せて艦を離れた。
その反対側では、黒の騎士団の無頼が搬入口へ上がってくる。先に入った機体が奥へ進むたび、次の一機が通路を渡った。扇は艦内の係員と一緒に、格納場所を割り振っている。
『回収班、収容完了。残りは紅蓮、月下、装置の二台だ』
艦橋で報告を聞いたゼロは、西側の映像を大きくした。
白兜はまだ止まっている。北から来た増援も、藤堂たちに押し返され、資材置き場へ入れていない。
「離岸準備。最後の機体まで乗せてから浮上する」
操艦士が指示を復唱する。
アヴァロンは岸壁に留まったまま、浮上に備えて出力を上げる。搬入口へ続く通路には、まだ二台の輸送車と五機の月下、紅蓮を通さなければならない。
ゼロは藤堂へ告げた。
「受け入れはできた。撤収しろ」
月下が二機、先に戻る。北からの射撃を残った二機が牽制し、紅蓮はランスロットを見張ったまま後ろへ下がった。
装置の輸送車は、資材置き場の西端に残っていた。二台とも東へ車体を向け、運転手が合図を待つ。
『装置、解除する』
藤堂の合図で、二台の荷台から光が消えた。
二台の装置が停止し、輸送車が東へ走り出す。北を押さえていた月下も退き、車両を追って岸壁へ向かった。紅蓮と藤堂の月下が最後に残る。
カレンはランスロットの前の路面へ射撃を浴びせた。舞い上がる破片と煙の向こうで、白い機体が動き始める。
『乗艦しろ、紅蓮』
藤堂の声でカレンは機体を反転させた。二機が岸壁へ着くと、輸送車はすでに搬入口を渡り、先に入った無頼が奥へ誘導していた。
スザクの前で表示が戻る。
再起動したランスロットを立たせ、車輪を回した。東へ向かう道路は、もう空いている。
遅い。
それでも、止まるわけにはいかなかった。
煙を抜け、資材置き場を回り込んだ時には、紅蓮が艦の搬入口へ飛び込むところだった。続いて藤堂の月下が入り、通路が艦内へ引き込まれる。
アヴァロンが岸壁から浮き上がった。スザクは銃を上げたが、開いた搬入口には回収作業中の人間が見えた。
狙いを変え、船体の推進部へ向ける。
艦の外側に光が広がった。放った弾がそこで弾ける。
『枢木君、追わないで』
セシルの声が飛び込んできた。
「でも、まだ――」
『足場がないわ。止まって!』
スザクは岸壁の縁で機体を止めた。
海の上を、アヴァロンが上昇していく。格納庫の扉が閉まり、白い船腹がこちらへ傾いた。
飛行装備のないランスロットの足元で、波が護岸へぶつかった。
* * *
「全機収容。負傷者は医療区画へ運んでいます」
扇の報告を聞き、ゼロは操艦士へ進路を指示した。
海上へ出た艦を追って、基地から航空機が上がり始めている。
追跡を振り切り、海岸から離れてから進路を変える。キョウトが用意した入り江へ向かう前に、艦から位置を知らせる装置を通信担当者に止めさせた。
ただ、修理施設に長く留まれば、上空から船体を見つけられるおそれがある。
ゼロは艦長席の前へ立った。
「損傷箇所と燃料の残量を報告しろ。修理と補給にどれだけ時間がかかるかも知りたい」
命令を掛けた士官が敬礼する。C.C.が隣から席を覗き込んだ。
「座らないのか」
「先に見たいものがある」
「だろうな」
彼女もついてきた。
* * *
格納庫では、カレンが紅蓮の足元で整備士に肩を見せていた。
操縦中にぶつけただけだと言っているが、整備士は医療区画へ行けと譲らない。ゼロが通りかかると、カレンは姿勢を正そうとした。
「報告は後でいい。診てもらえ」
「はい。……ゼロ、あれが例の機体ですか?」
視線の先に、黒い巨体があった。
ガウェイン。見上げるほど高い肩と、二人分の座席を収めた胴体。まだハドロン砲は完成していないはずだが、飛べるだけでも今の騎士団には大きい。
「そうだ。扱いはラクシャータに見てもらってから決める」
「紅蓮も、あんなふうに飛べるようになりますか」
「ああ。紅蓮も飛べるようになる」
カレンはもう一度ガウェインを見上げ、整備士に連れられていった。
ルルーシュは周囲の設備を眺めた。機体を固定する架台、交換部品を運ぶ装置、艦内の状態を集める表示盤。今まで倉庫で間に合わせていた仕事を、ここではまとめて行える。
案内する士官から、飛行機関と防御装置の説明も受ける。
ふははは。さすがシュナイゼル兄上だ。この時代の先を行く技術を、よくもこれだけ詰め込んだものだ。
弟として、この贈り物はありがたく受け取っておこう。
「随分と機嫌がいいな」
C.C.の声がすぐ横からした。
「当然だ。これだけの設備を一度に得たんだぞ」
「兄への礼状でも書くか?」
「宛先を添えずに送れるならな」
格納庫の入口から、扇が走ってきた。手には艦内図を持っている。
「ゼロ、医療区画は使えた。今までよりずっと設備がいい。ベッドも足りてる」
「そうか」
「ただ、食堂と機関の分を合わせると、人が……」
喜んでいた顔が、紙へ目を落とした途端に曇る。
「桐原が何人か寄越してくれる。まず必要な職種を書き出してくれ」
「書いてる。書くたびに増えるんだ」
C.C.が扇の手元を覗く。
「引っ越しは済んだが、家事が増えたな」
「家事で済む大きさじゃないよ」
扇は本気で困った顔をしていた。
* * *
入り江へ艦を下ろした頃には、ラクシャータが待っていた。
用意された仮設の通路を渡るなり、出迎えたゼロより先に船体を見上げる。助手たちは荷物を抱えて後ろを追った。
「本当に持ってきたのねぇ」
「注文どおり、ガウェインも無傷だ」
「そちらも見るわ。まず、この船を浮かせているものから」
機関区画へ案内すると、彼女は説明用の画面を眺め、指で表示を切り替えた。
しばらく何も言わない。
助手の一人が差し出した端末も受け取らず、設計情報の署名が出たところで、ようやく細く息を吐いた。
「……あのプリン伯爵」
機関担当の士官が、何か言い間違えたのかとゼロを見た。
ゼロは首を振る。
「参考になるか」
「なるわよ。腹が立つくらいにね」
今度は助手の端末を取り、次々と指示を出し始めた。艦用の大出力装置、その制御、ガウェイン側の飛行機構。自分たちの開発している翼と、どこを比べるかが決まっていく。
「先に飛ばしたからって、勝ったと思わないことね」
「ここにはいないぞ」
「分かってるわ」
返事だけはゼロへ向けたが、目は画面から離れない。
彼女が助手を連れて移動すると、機関室は急に狭くなった。ゼロとC.C.は壁際へ避け、そのまま通路へ押し出される。
「……自分の艦のはずだが」
「整備を頼んだのはお前だろう」
C.C.は楽しそうだった。
格納庫へ戻ると、藤堂が艦内の当直を組んでいた。四聖剣を通路の警戒へ回し、拘束した乗員と、働かせている乗員を分けて見張る。ゼロの命令に従う者がいるとはいえ、部隊全員が眠れる状況ではない。
その藤堂の横で、玉城が空いた席を見つけていた。
「おい、これ俺の場所にしていいか」
「そこは係員が使う」
「じゃあ、隣は」
「そこもだ。荷物を運べ」
玉城は不満そうに立ち、足元の箱を抱えた。扇がそれを見つけて、食堂へ運んでくれと声を掛ける。
手に入れたばかりの格納庫に、玉城のぼやきと扇の指示が飛び交っている。
ルルーシュはガウェインの搭乗口へ上がった。
C.C.が後ろから入り、操縦席へ腰を下ろす。まだ起動させず、手を操縦桿へ置いた。
「やっと、二人で乗れるな」
周囲に他の者はいなかった。ルルーシュは仮面を外し、後ろの席へ収まる。
「整備が済んでからだ」
「分かっている。お前だって待ちきれずに座ったくせに」
C.C.が振り返った。
ルルーシュは彼女を見て、抑えていた笑みを浮かべる。
「ああ。悪くない」
その時、搭乗口の下からラクシャータの声がした。
「二人とも、降りてちょうだい。その子、今から開けるから」
C.C.が先に吹き出した。
どうやら、ここも今はゼロの席ではないらしい。