コードギアス 君の知らない、その先へ 作:明日を願う旅人
シュナイゼルは、アヴァロンから戻された作業員の証言に目を通していた。
格納庫で働いていた者は銃を持った兵に追い立てられたと言い、艇へ案内した兵は艦橋からの命令に従ったと言う。ところが、その命令を出した士官たちは、いまも艦ごとゼロの手にある。
シュナイゼルは報告書を一枚戻した。
「この警備兵は謎の作業員二人の艦橋への侵入を許した後、こちらの兵を拘束しているね」
「はい。作業員二名を通した直後です」
側近のカノン・マルディーニが通路の記録を差し出した。止めていた兵が姿勢を正し、自ら扉を開けている。帽子やマスクで顔までは判別しづらいが、銃を突きつけられた様子はなかった。
「買収を疑って調べさせています。ただ、いささか人数が多いものですから」
「そうだね。一人なら説明もつく。操艦と機関の大多数まで揃えるには、随分と大きな買い物だ」
シュナイゼルは乗員の名簿を開いた。配属も経歴も違う。家族のいる場所も、軍に入った理由も違った。
忠誠心の篤い者だけを置いたつもりはない。金で動く者も、出世のために命令を守る者もいる。それでも、これだけの人数が一度に寝返るなら、準備のどこかに綻びが出る。
だが、その綻びはどこにも見つからない。
「警告に従って兵を増やしても、命令を出す者が寝返ればこの有様ですか」
カノンは別の報告書を重ね、乗員名簿の横へ置いた。
「増員の判断自体は正しかった。外の部隊はよく防いでいる。問題はこちらだ」
シュナイゼルが、名簿の端を指で叩く。
ゼロは増えた警備を押し潰したわけではない。一般兵は押し留め、ランスロットを止めている間に艦そのものを動かした。
あの警備兵たちは、いつから敵になったのか。
シュナイゼルは映像を戻し、作業員の一人へ顔を向ける瞬間で止めた。
「乗員の交友関係は調べてください。ただ、買収と脅迫だけだと決めて探す必要はありません」
「お心当たりが?」
「私にもまだ分からない」
皇帝との謁見を境に、それまでの発言と食い違うことを平然と語り始めた者がいた。追及されても嘘をついている様子はなく、以前の自分が何を言ったかさえ、不思議がっていた。
当時は、父が何を告げたのか知る手立てもなかった。だが、複数回起きていた過去のそれらと、今回の件は似ている。
「……父上なら、何かご存じかもしれないな」
カノンの指が書類の上で止まった。彼も皇帝と密談をした結果、急に意見を変えた存在を思い出したのだろう。
シュナイゼルは画面を閉じた。
「戻された者の聴取も続けてください。艦から降りる直前に誰が何を命じたか。自分以外が何かを命じられていた場合はその内容も」
「承知しました。聴取の項目を増やしましょう」
カノンが書類を取りまとめて退室すると、シュナイゼルは机に残ったアヴァロンの図面を手元へ寄せた。
浮上した艦に撃ち続けても、本土ほど充実していないこの地の対空砲では、ロイドの肝いりのアヴァロンを落とすこともできなかっただろう。
飲み物を一口飲んでから、次の書類を開く。
次の書類には、特派に対する要員選定の照会が添えられていた。
シュナイゼルはため息をついたあと、赤ペンを取り出した。
* * *
ランスロットの右脚を囲んで、整備員が計測器を動かしている。
外した装甲は台車の上に並んでいた。スザクはその横を通り、呼び出された事務区画へ向かった。
見知らぬ大尉が、シミュレーターの前でロイドと話していた。
「来たか。君の戦闘記録は見せてもらった」
「枢木スザクです」
「名は知っている。成田では出番がなく、藤堂を逃がし、今度は目の前でアヴァロンを奪われた」
大尉はスザクの背後にある白い機体へ目を向けた。
「それほどの機体を預ける相手が、君でよいのかという話をしている」
「それで、代わりに乗ってくださるんだって。乗れるんだったら嬉しいねぇ」
ロイドが、楽しそうに口を挟む。
セシルは端末を机へ置いた。
「正式な交代命令は来ていません。今日は適性の確認だけです」
「確認できれば話も早い。私なら、この性能に見合う戦果を上げてみせる。殿下もお認めになるだろう」
大尉は開いていた操縦席へ入った。腰を下ろす手つきに迷いはなく、マニュアルに従った起動確認の手もスムーズに進む。量産機での搭乗時間は長いと、ロイドが先ほど言っていた。
スザクは表示盤の横へ立った。
「設定は?」
「通常の市街地。標的が三機。敵弾の威力は訓練用だけど、機体の動きは実機に合わせてあるよ」
ロイドが開始の操作をすると、画面に道路と建物が現れた。
白い機体は走り出す。
最初の直線は速かった。その加速力に大尉の頬が上がる。
曲がり角で大尉が速度を落としきれず、肩が建物へ触れる。衝突の警告が出たが、すぐ姿勢を戻して銃を上げた。
初弾は当たった。
二機目を追って旋回した途端、狙いが標的を通り越す。切り返しが大きくなり、機体が道路の縁へ寄った。
「応答が敏感すぎる。枢木のために設定を変えたか?」
「もともとのランスロットの設定だよ」
ロイドは表示盤から顔を上げずに答えた。
スザクには大尉が次に止まりたい場所が分かった。だが、そこへ着く前にもう一度操作してしまう。機体が反応するたび、修正が遅れて大きくなる。
背後へ回った標的の攻撃が、ランスロットに二度続けて入った。
終了の表示が出る。
「慣れの問題だ」
大尉は固定具を外した。
「初回にしては動かせていたと思います」とセシルが言う。「ただ、この反応速度では射撃中の姿勢や旋回時に無理が出ますね」
大尉はセシルの言葉になにか応えようとしたがその言葉を飲み込み、スザクに向き直る。
「君は毎回あれで戦っているのか。あの暴れ馬で」
問われ、スザクは頷いた。
ロイドが操縦席へ指を向ける。
「では、スザク君。同じものでお願い」
スザクは大尉と入れ替わった。設定画面を確かめ、操縦桿を握る。
開始の音とともに直線を抜ける。角へ入る前に機体を傾け、スラッシュハーケンも使って車輪を滑らせて向きを変えた。
一機目を撃ち、止まらずに建物の影へ入る。二機目の射撃を壁で切り、反対側から出て撃ち返す。その機体が崩れる間に、三機目が姿を見せるところへ銃口を向けた。
最後の一発が命中する。
標的の数が零になる。
終了までの時間を見て、大尉が黙った。
「これで比較できますね」
セシルが二つの記録を保存する。スザクは席を降り、整備中のランスロットを見上げた。
いつも通りに操作できた。だが、あの広場では、走ることさえ封じられた。
今のままではゼロを、ルルーシュを止めることなど出来ない。
「ロイドさん。停止する直前の出力、もう一度見せてもらえますか」
「後でね。セシル君が持ち帰った記録と合わせているところだから」
スザクが頷くと、大尉は手袋をはめ直した。
「所詮は模擬戦だ。実機なら違う」
「実機なら、もっと上手くやれると?」
「当然です」
「ああ、そう。ちなみに脱出装置は付いてないけど、それでも乗れる? スザク君は喜んで乗ってるけど」
手袋を引く指が止まった。
大尉は白いコクピットを見上げ、隣に立つスザクへ目を戻した。スザクは否定するように首を横に振っている。
同情するように眉を下げ、スザクの肩をぽんと叩く。そのまま何も言わず、整備庫を出ていった。
セキュリティ系で死ぬほど忙しいので二日に一度の投稿に戻します。
来週くらいに章を切り替えます。そのタイミングで今までの話にも章を付ける予定。