コードギアス 君の知らない、その先へ 作:明日を願う旅人
食堂から戻ったC.C.はルルーシュの机に置かれた名簿を覗いた。
扇、藤堂、カレン。その下に玉城とラクシャータ、咲世子の名があり、桐原には通信の時刻が伝えてあった。
「明日か」
「ああ。海外までついてきてもらう前に話す」
彼女は机の端に腰を預け、名簿を指で押さえた。ルルーシュは端末を閉じ顔を上げる。
「この女にも話すのか」
「ナナリーと一緒に来てもらいたい。幼い頃から世話をしてもらい、最近もあえて聞こえなかったことにしてもらっている。話すべきだろう」
「話したら嬉しさのあまり、荷造りまで始めそうだ」
「咲世子さんは秘密の共有程度で喜ばないだろ」
「これだからお前はいつまで経っても坊やなんだ。女を何もわかっていない」
「……」
ルルーシュはC.C.の言葉を無視して名簿を取り返した。彼女は机から降りた。
* * *
翌日の夕刻、アヴァロンの小会議室に呼ばれた六人が集まった。
部屋の外は四聖剣が見張っている。扇は元々予定していた会議用の資料を配ろうとしてゼロに止められた。
「今日は先に私の話を聞いてほしい」
「船を手に入れたと思ったら次は何だよ」
玉城が椅子へ身体を預ける。カレンはゼロの向かい、ラクシャータは壁際に座った。藤堂の隣には咲世子がいる。
通信がつながり、机の端の画面に桐原が映った。
『揃ったようだな』
「ええ」
ゼロは仮面へ手を掛けた。
留め具を外す小さな音が部屋に響く。外した仮面を机へ置き、遮断用のコンタクトを着けた目で一人ずつ顔を見た。
「私の名はルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。かつての第十一皇子だ」
扇の手元から紙が滑った。
玉城が椅子を引き、カレンは両手を机について立ち上がった。
「……ルルーシュ・ランペルージじゃなくて?」
「カレン。学園ではそう名乗っている」
「分かってたの。私が誰か、最初から」
「ああ」
カレンは机の仮面を見てもう一度彼の顔を見た。唇を噛み椅子へ座り直す。
藤堂だけは目を細めて彼を見ていた。
「桐原殿のお屋敷でお会いした少年か」
「お久しぶりです、藤堂中佐」
扇がようやく床の紙へ手を伸ばした。
「皇子……待ってくれ。それじゃコーネリアやクロヴィスは」
「異母姉と異母兄だ」
「俺たちに兄弟喧嘩をさせてたってのかよ」
玉城の声が大きくなった。
ルルーシュはそちらへ向き直る。
「父に見捨てられ、私はここで暮らしてきた。日本をあの男の好きにさせたくないのは君たちと同じだ」
「それなら初めから言えよ。今になって皇子だなんて聞かされても――」
「ああ。隠していたのは私だ。すまない」
ルルーシュは仮面の隣へ黒いケースを置いた。蓋を開けると、予備のコンタクトが入っている。
「隠し事はもう一つある。私には相手の目を見て命令を聞かせる力がある。ギアスという」
椅子の脚が鳴った。
玉城が顔を背ける。扇も目をそらしかけたが、ルルーシュを見据えた。
「……今まで、その力を隠したまま俺たちに指示を出していたのか」
「ああ。黙ったまま海外までついてこいとは言えなかった」
扇は口を結んだ。玉城はまだ顔を背けている。
「玉城。今はこのレンズで力を遮っている」
「そんなの見ただけで分かるかよ」
「ええ。そこは私も確かめたいわねぇ」
ラクシャータが初めて口を挟んだ。
「そうだ。信じる以外ないと言われても納得できないだろう」
カレンが膝の上で拳を握った。
「私たちにも使ったの?」
「この部屋にいる者には一度も使っていない」
「じゃあほかの人には?」
「誰に何を命じたか全て話す。聞いてほしい」
ルルーシュは手元の記録を開いた。
最初は新宿。軍の掃討を止めるために命令を掛けたこと。クロヴィスを政治と軍事から退かせたこと。その後の潜入で兵士や担当者を動かしたこと。
今回のアヴァロンでは操艦と機関を担う乗員を服従させた。その一部はいまも艦内で働いている。
扇が机の下で組んでいた手を解いた。
「あの人たちは降りたいと言えるのか」
「私が働けと命じている間は、その命令に逆らえない」
扇の眉が寄った。ルルーシュは続ける。
「引き継ぎを急がせている。こちらの乗員だけで動かせるようになり次第、彼らは解放する」
「一度掛けた命令はいつまで続く」
藤堂が尋ねた。
「命令の内容による。条件をつければ、その条件を満たすまでだ。同じ相手に新しくギアスを掛け直すことはできない」
扇がルルーシュの方へ身体を向けた。
「使ってない、って信じてほしいんだな」
「ああ。仲間にギアスを使うつもりはない」
「そんな力があってなんで俺たちと揉めたりしてたんだよ」
玉城が顔を戻した。
「仲間には使わないと言っただろう」
「……そうかよ」
玉城は頭を掻き、椅子の背へ身体を預けた。藤堂が口を開く。
「日本を取り戻した後は、皇帝と戦うつもりか」
「そのつもりだ。ギアスには私の力とは異なるものもある。他人の心を読む力や、記憶を書き換える力だ。皇帝の背後には、そうした力を研究している組織がある」
C.C.が壁から離れ、机の横へ立った。
「ギアス嚮団という。私は以前そこにいた」
藤堂が彼女へ目を向ける。
「何を研究していた」
「子供たちにギアスを発現させ、その力を調べていた。能力を使わせるための訓練もな」
カレンが眉をひそめた。
「あなたもそれに関わっていたの?」
「……ああ」
カレンは唇を結んだ。ルルーシュは皆へ視線を移した。
「先に話した特区が実現すれば、日本で暮らしたい者はそこに残れる。だが、私は皇帝とその組織を止めたい。そのためには日本の外にも協力者が要る」
扇が顔を上げた。
「君たちの力も必要だ。私と共に来てほしい」
扇は何か言いかけたが、すぐには言葉が出なかった。玉城も腕を組んだまま黙っている。
画面から桐原の声が届いた。
『返事をする前に確かめたい。お前の素性は知っておったが、その力のことは初耳だ。誰にでも同じことができるのか』
「できる相手とできない相手がいます。皇帝もギアスに関わる側です」
『ならば近づいて命じれば片づくという話でもあるまい』
「ええ」
『お前の狙いは聞いた。だが、私の知る者の中に既に手を掛けられた者がおるのなら――』
『そこは私も伺いたいですわ』
若い声が重なった。
画面の端から神楽耶が顔を出す。ルルーシュの視線を受けても、悪びれた様子はない。
「神楽耶様。いつからそちらに?」
『最初からです。桐原に呼ばれたわけではありませんけれど』
桐原が隣へ目をやり、息を吐く。
『いまさら追い出しても遅いでしょう。お答えを』
「キョウトの方々には使っていません。桐原殿にも神楽耶様にもです」
『では、これからも。私たちに頼むことがあるならお話をしてくださいませ』
ルルーシュは頷いた。
「約束する」
* * *
通信を終えた後も、誰もすぐには席を立たなかった。
ラクシャータは机に置かれたコンタクトのケースへ目を向けた。
「そのレンズ、予備を一つ借りてもいいかしら。仕組みを調べたいの」
「構わない」
ルルーシュはケースを彼女の方へ押した。ラクシャータは中を確かめ、蓋を閉じた。
彼女は立ち上がった。扉の前で足を止めカレンへ顔を向ける。
「肩、明日も診てもらいなさい。機体だけ直しても駄目よ」
「……はい」
ラクシャータが出ると、扇がカレンの横へ移った。
カレンはルルーシュを見上げる。
「私が学校で何をしていたか、全部見てたわけ?」
「全部ではない。君も私が学園でどうしていたかは知っているだろう」
「居眠りしてた。あと授業を抜けてた。賭け事もしに行ってた。女装もしてた」
「否定はしないが、女装はしていない」
彼女は半笑いで額に手を当てた。
「なんで気づかなかったんだろう」
「私も君の病弱な演技には感心していた」
「それ今言わなくていい」
扇が二人を見比べた。何か言いたそうだったが、先に藤堂が立つ。
「日本を出る前に改めて部隊の者と話す。今日の内容をどこまで共有してよいかも後で教えてほしい」
「ああ、私も同席する」
「頼む。私一人では答えられん問いもある」
ルルーシュが頷くと、藤堂は扉を開けた。咲世子も席を立ったが、出ていく前にルルーシュのそばへ寄った。
「ナナリー様はルルーシュ様のお仕事をご存じなのですね」
「ああ。あの子には話してある」
「それでしたら、今日は皆様にお話しするとお伝えしてありますか」
「いや。帰ったら俺から話す」
「では、お茶を用意してお待ちしております」
ルルーシュが頷くと、咲世子は一礼した。
彼女が退室すると、玉城は両手を机について立った。
「俺は一晩考える。いきなり皇子だの、命令だの、頭に入るかよ」
「分かった」
「だけどよ、仕事はやる。明日の搬入、俺の班だしな」
扇が顔を上げ、短く礼を言う。玉城は返事の代わりに片手を上げて出ていった。
残ったカレンも立ち上がった。
「私も帰る。……明日は休まないでよ」
「何をだ」
「学校。まだ聞きたいことがあるから」
扉が閉まってから扇が落ちていた紙をルルーシュの前へ置いた。
「俺にも少し時間をくれ。……ただ、これからは俺たちに事前に相談してほしい」
「ああ」
扇は頷き、仮面ではなく彼の顔を見てから部屋を出ていった。