魔法青年リリカル恭也Joker   作:アルミ袴

11 / 35

【挿絵表示】


 この作品には原作設定の拡大・独自解釈も含まれます。申し訳有りませんが、原作設定の絶対的な遵守をお求めの方、ご自分の解釈を非常に大切にされている方のご要望にはお応えしかねる場合があります。該当される方はご自身の責任における判断で閲覧されるかどうかお決め下さい。よろしくお願い致します。

----------------------------

 キャラ崩壊と言われても仕方のない事になっています、受け付けない方はご注意を。


第11話 馬鹿

 チチチチチチ、と、遠くどこかで鳥の鳴く声。

 閉じた瞼越しにも感じる強い日射しに、恭也はまどろみから抜け出して。

「…………ん」

 身の下には、固い感触。見やれば、自分が寝ていたのは見慣れた高町家の縁側で。

 空は青く、薄く漂う草花の匂いと、何よりこの刺すような日の強さからして……夏、だろうか?

「……………………………………………いや………………いやっ!」

 がばっと、勢いよく身を起こす。

 夏?

 そんなはずはない、何を言っているんだ、自分は。

 今は、そう、年越し目前の真冬で。

 なにより、自分が居たのは自宅の縁側なんかじゃ――。

「あれ、お兄ちゃん、お昼寝してたの?」

「……………………なの、は?」

 声がして、振り向けば、廊下の先、立っていたのは。

「……? どうしたの?」

 見まごうはずも無い、妹、なのは。

「なの、は……? …………はやて達はどうなったっ!? 一体、何が!?」

「え、え、え、な、なになに、ど、どうしたのお兄ちゃん?」

 とんとんと、少々あわて気味の足取りでなのはは恭也の元へと駆け寄って。

「……あ、わかった! お兄ちゃん、寝ぼけてるんだ!」

 途中で、得心がいったようにそう言うと、歩調を緩めてにっこりと笑った。

「……は?」

「あやや、私、お兄ちゃんが寝ぼけてるのなんて初めて見るよ……」

「寝ぼ、けて……?」」

「うん、きっとそうだよ」

 呆然とする恭也をまっすぐに見つめ返してくるなのはの瞳には、……嘘はないように思えて。

 だが。

 そんなはずが。

「おいおい、なんだなんだ、寝てたのか恭也。まったく若いもんがこんな日の高いうちから…………」

「……あ、お父さん!」

「っ!?」

 そして恭也は、今度こそ言葉を失った。

 だって、そこに居たのは。

「お父さん! お兄ちゃん、寝ぼけてるみたいなの。珍しいよねえ」

「寝ぼけてる? はは! なんだ恭也、らしくねえなあ…………おい、どうした?」

 そこに居たのは。

「どうしたよ、恭也。そんな、まるで」

 そこに、居たのは。

「―――幽霊でも見たような顔しやがって」

「……父、さん?」

 死んだはずの、父、士郎だった。

 

 

 

 

 

「……お兄ちゃん!? おにいちゃんっ!? …………エイミィさん!!」

『状況確認っ、…………恭也さんのバイタル、まだ健在! 夜天の書の内部空間に閉じ込められただけ! 助ける方法、現在検討中!』

 そんなエイミィの返答に、一応は息を吐くも、なのはの暴れる心臓は大人しくなんてなってくれない。

 いない、いない、いるはずの兄がいない。

 それはなのはにとって、この世で考えられる限り、最上級の、最大級の恐怖。

「……ぁ」

 足の止まった自分に、突っ込んでくる影の獣。自らの身の丈三倍はあろうかと言うその姿に、なのはの煮立った頭は反応できず。

 立ち尽くして。

「……なのは!」

 牙に喰らいつかれる寸前で、飛び込んできたフェイトに抱えられ、辛くも避けた。

「……フェ、フェイトちゃん」

「なのはっ! しっかりしてっ! ここで、……ここで私達が出来る事をしなきゃっ、やるべき事をやらなきゃっ! 恭也さんは帰ってこない!」

「……っ!」

 フェイトのその言葉に、なのはの頭は心は、やっと動き出す。

 そうだ、……兄を。

 兄を取り戻さなければ。

「……クロノくん! 私たちが夜天の書さんの相手をするよ!」

 やや遠方、数多くの影達を相手に奮戦するクロノへそう叫ぶ。

「クロノ達は、影を!」

 フェイトも、同じく強い口調で声を上げた。

「いや僕が……………………………………わかった……! なのはとフェイト、二人で対応してくれ!」

 自分が相手をすると言いかけたのだろうが、しかし、なのはとフェイトが二人で組んだ場合における戦闘力、執務官としての全体統制の職務、そんなものを鑑みてだろう、苦渋の表情で、少しの逡巡を置いて、クロノはそう許可を出した。

「フェイトちゃん……!」

「うん……!」

 頷き合い、なのははフェイトと共に空を駆けた。

 そして宙に浮き静かな表情で、しかし相変わらず涙の流れる顔で胸に手を当てたまま静止している銀髪の女性の下へと向かう。

「……夜天の書さん!」

 なのはの声に彼女は無反応。

 しかし、言葉が通じないわけではないはずだ。

 だから、なのはは言った。

「お願い! おにいちゃんを返してっ!」

 果たして。

 果たして、その言葉に。

「返せ……?」

 彼女は反応した。首をこちらに向け、その赤い瞳でなのはを見、

「……ああ、そうか。なるほど、そうか。…………お前、愛されているな?」

こちらを指さして、はっきりとそう言った。

「お前、この騎士に愛されているな? ……ああ、お前もだ、愛されている」

 次いで、フェイトも指さす。

「え……?」

「な、なにを言って……」

 突然の台詞に、何がなんだかわからず疑問の表情を浮かべる二人へ、彼女は構わず続ける。

「わかるぞ、お前らを見ていると、愛しい気持ちが沸いてくる。騎士を納めたこの胸から、愛しい気持ちが沸き上がってくる。そうか、そうなんだな」

 一人納得の声を上げ続ける彼女の様子に、言い知れぬ不安を感じて。

 なのはは、再度言った。

「……あ、あの、何を言いたいのかわからないんですけど、と、とにかく、おにいちゃんを返して下さい!」

「………………返せ、か」

「は、はい! 返してっ! おにいちゃんをっ、かえ」

「……ふざけるなああああああああああああああああ!!」

「っ!?」

『Protection Powered』

 突然の咆哮と放たれた紫がかった砲撃に、なのはは咄嗟にフェイトを後ろへかばって障壁を展開。

「……くうっ」

 多少は押されたものの、防ぎ切る事に成功する。

「なのは、ありがとう……! 大丈夫?」

「……うん。最初のときみたいな、膨大な力は残っていないみたいだね……。対応できない強さじゃないよ」

「…………恭也さん相手で、魔力のほとんどを使っちゃったんだね」

「多分ね、だと思う。……でも」

 でも、どうして。

 どうしていきなりあんなに、……怒り出したのか。

 着弾により発生した煙が、吹いた海風に飛ばされる。

 その寸前だった。

「お前があああああああああああああああああああああああああああああっ!!」

 煙の中から、憤怒の形相を浮かべた彼女がなのはの目の前に飛び出してきた。

 そして、彼女はそのままなのはの至近に一気に入り込み、

「なっ! ぐうううっ!!」

その両の手で、

「うううううう……!」

「なのはっ!」

なのはの首を締める。

「お前が! お前がっ! どの口で!! 返せだとおおおおおおおおおおおっ!!」

「う、ううううううううううううう……!」

「なのは! ……このっ! 止めろっ!!」

 なのはへ全意識を向けているらしく隙だらけではあったその体に、フェイトがバルディッシュで横なぎの打撃を見舞う。

 やはり何の防御もしなかった彼女はそれを腰元へまともに喰らって、なのはの首から手を離し横方へ吹き飛んだ。

「……はっ! ……っ! ……っ」

「なのは! 大丈夫!?」

「う、……うん。ありがと、フェイトちゃん……」

 荒い息を吐いてなのははそう答える。少し視界が揺れてはいるが、そこまで大事ではなく。

 そう。

 ……もう苦しくは無い、息も、首も。

 だけど、どうしてだろうか。

(……胸、が)

 胸が、苦しい。胸の奥が、痛みを発している。

 自分の首を締めてきたとき、彼女の瞳も声も表情も、全てが怒りに染まっていて。

 それは、なのはへの怒りであり。

 前後の会話に加えて、直感。わかった。

 あれは、兄の、恭也のための怒りだった。

「……あの、騎士の! 心がっ!」

 吹き飛ばされ、ビルの壁にぶつかった彼女はしかしすぐに体勢を立て直しこちらを、……特になのはを、恐ろしい表情で、眼光で睨み付け。

「あの、強く! 気高く! 優しい騎士の! あの騎士の心がっ!」

 そして、叫んでくる。

「どれだけ……どれだけ空虚かっ! わかっているのかっ、お前はっ! どれだけ空虚なのか!!」

 怒りを、憤りを、叫ぶ。

「っ!?」

 なのはは、思わず息を呑んで。

 彼女は、続ける。

「空っぽだ! 何もない! なぜだと思う!? ……簡単だっ! 簡単なことだ……!」

 叫び続ける。

「お前らにあげてしまうからだ! 労わりも、慈しみも、愛しい想いも! 全部、全部、自分には少しだって向けず、やらず、与えず! 全部お前らにあげてしまうからだ! ……そして!」

 彼女はもう一度、なのはを指さした。

「……度し難い! ……救い難いな! そして何より許し難い!! お前、お前だ! 特にお前だ! 一身にこの騎士の愛を受けているお前だ! ……お前、お前は…………返してこなかったな! 騎士にっ、愛を!!」

「なっ!? そ、そんなこと……! 私は……!」

「与えられる愛を、好きなだけ貪って! それが当然とでも言わんばかりに生きてきたな! この騎士の傍で! 一番近くで! ……わかっていないなら教えてやる! 聞け!」

 そして彼女は、なのはを指さしていた腕をまるで首を切るようにばっと横に払い。

 宣告した。

「この騎士は……、お前を愛するこの騎士は! ―――お前に何も求めていない!!」

「――っ!?」

 それは、あまりに。

 残酷な宣告だった。

「この騎士はな……! お前に対して! 与える事しか考えてない! 愛をただ、与える事しか頭にない! お前から愛が返ってくる事を、そもそも微塵も期待していない!」

「な……あ……………………」

 唐突な言葉に。

 しかし、……心当たりのある言葉に。

「この騎士はお前に何も求めてはいないんだ! いつだって、ただ与える側にだけいようとしてる!」

「え…………あ…………」

 なのはの視界がぐらりと揺れた。顔から血の気が引いていくのがわかる。

「お前に対しこれほどまでに惜しみなく愛を注いでいるのに! 自分にはそれが少しも返ってこなくていいと思っているんだ! それがどれだけ悲しい事かわかるか!? それがどれだけ寂しい生き方かわかるか!? ……それなのに、お前は! それを、お前は!! わかっていなかったのなら度し難く! わかっていたのなら救い難く! どちらにしても許し難い!!」

「そ、……そん、な…………」

「な、なのは……。……あ、貴方にっ!」

 ふらついたなのはの身を支え、フェイトが叫び返す。

「貴方にっ! なのはと恭也さんの何がわかるっ!」

「わかるさ! 胸の中、取り込んだ騎士の心が私には手に取るようにわかる! それに……私はよく知っている! 孤独な世界の悲しみを、寂しさを、切なさを! よく知っている! ずっとそんな世界で生きてきたんだ! ……だから、同じような世界に生きる、この騎士の悲しみが私にはわかる!」

 彼女は、眼を見開いて強く言葉を放ちつつ、胸に手を当てる。

「……今、騎士は私の中で、…………楽園にいる! あの騎士が幸せに生きられる、あの騎士が幸せを掴める、あの騎士が自らの生に幸福を期待できる、そんな世界の中にいる! ここにいれば、あの騎士は救われるんだ!」

「……………………え?」

 その言葉に呆然とするなのはへ、彼女は続けた。

「お前らの傍にいても、決して幸せになれないあの騎士が、幸せになれる楽園にいるんだ! ……それを、返せなどと! 馬鹿を言え! お前の都合でっ、のうのうと愛され生きてきたお前の都合で! あの騎士をまた! 救いの無いこの世界に引き摺り戻す気か!!」

「……………………………………あ」

 ぽろりと、零れたのは涙で。

 そして、……戦意だった。

「……あ、あ、あ、…………………………………………あ」

 もう、止まらない。

 零れ落ちていく。

「なの、は……?」

 そうだ。

 そう、だ。

 

 だって、真実なんだ。

 

 彼女の言葉はきっと……そう、真実だ。

 なのはの兄は、そういう人だった。

 なのはの愛する兄は、愛しい人は、なのはを心の底から愛してくれていて。

 その実、自らに愛が与えられる事なんて、期待していないのだ。

 彼自身、彼を愛さず。

 誰かに愛されることも期待せず。

 ましてや、それをなのはに求めることなんて、微塵も無かった。

 薄々……なんて言い方はしない。

 わかっていた。

 わかっていたんだ。

 わかって、いたんだ……。

「もう………………………………………………………………いい、よ」

「なのは!?」

「もう、もう、もう、………………………………やめよう。やめよう。……だって、そうだよ。言うとおりだよ……。そうだ、そうだよ……。返せなんて、きっと、私は、本当に……」

 ああ、本当に。

「馬鹿な事、言ったよ……」

 

 

 

 

 

 

 

「ほおら、沢山食べてね」

「ああ、うまそうだ。さっすが桃子だな」

 リビング、テーブル。

 昼食。

 恭也の頭は、いまだ、うまく働かず。

 そんな、端的な現状認識が精一杯だ。

「おいしそー! あ、シチューもある!」

「うん、なのはの大好きな、甘いシチューよ」

 献立の中に好物を見つけて満面の笑みを浮かべるなのはに、微笑み返す桃子。

「よかったね、なのは」

「うん!」

 美由希が、なのはの頭を優しく撫でた。

「うおーうまそー! やっぱ桃子さんすげえなあ」

「お菓子づくりはともかく、料理までこの域やもんなあ。ハイスペックや」

 はしゃいだ笑みを浮かべつつ晶は快哉をあげ、レンはうんうんと何度も頷きながら目の前に並んだ料理をじっくり見やる。

「……恭也? どうした? 早く座れ座れっ、飯が始まらんぞっ、俺はもう腹がぺこぺこなんだ!」

 桃子も、美由希も、なのはも、晶も、レンも、……そう言って急かす士郎も。

 皆、既に席についている。

 立っているのは自分だけ。

「おにーちゃん?」

「……あ、ああ」

 なのはにも疑問の顔で促されて、恭也はとりあえず席に着いた。

「うん、それじゃあ、いただきます!」

「いただきまあすっ!」

 桃子の、嬉しそうな声。

 士郎の、弾んだ復唱。

「いただきます」

「いただきまーす!」

 美由希、なのはも明るくそれに続いて。

「いただきますっ!」

「いただきます」

 晶の元気のいい、レンの柔らかい言葉の後、

「……いただき、ます」

最後に呟いた恭也の、困惑の滲むそんな声で食事は開始された。

「おいしいっ! そうだおかーさん、そろそろなのはもお料理覚えたいです!」

「あらっ! そう! それじゃあちょっと練習してみる? そうねえ、土曜日とか日曜日のお昼は一緒に作ってみよっか?」

「うんっ!」

 流れる、穏やかな時間。

「お、なんだなんだ、なのはももうそんなに大きくなったか?」

「おとーさん! もうなのはは小学三年生です!」

「はは! そうかそうか。うん、そうだな!」

「……小学三年生のなのはにお料理を覚えられたら、私の立場はないなあ…………」

「美由希、……お前の料理は…………その、まあ、なんだ、……………………いいじゃないか、な?」

「え!? とーさんフォローしてくれないの!?」

「お前の父さんにもな、出来る事と出来ない事がある」

「ええ!?」

 緩やかな、日常。

 会話の中、美しい音色が混じり始めた。

「あ、フィアッセさんだ」

「お、ほんまや」

 テレビを見やれば、そこには白い衣装を見にまといその煌くような歌声を響かせるフィアッセの姿。

「CSSの、イギリスでのライブ映像みたいね」

「だな。……あんなちっちゃかったのに、いつの間にかいい女になったなあフィアッセは」

「へえー、あらあら士郎さん、浮気かしら?」

「え、いやいや! そういう訳じゃないぞ! おいおい勘弁してくれ桃子! 俺は桃子一筋だよっ」

「ふふ、冗談よ」

 焦ったように言い募る士郎に、桃子は少女のように微笑んだ。士郎も笑みを返して、

「そうか、はは、ま、俺の方は冗談じゃないけどな。何年経っても桃子一筋だ」

少しいたずらに言う。

「も、もう! 士郎さんたら……」

 赤面する桃子の対面、美由希が呆れたように苦笑する。

「とーさん、かーさん、……お願いだからこんな真っ昼間っからいちゃつかないでよ……。胸焼けしそう」

「なんて言うか、見た目も雰囲気も未だにバリバリの新婚さんっすよねえ」

「ええことなんでしょうけど、二人の周りだけいっつもピンク色や」

 晶とレンも美由希と同じく、苦笑しながらそう言った。

「なあに、いいことなんだからいいのさ!」

 士郎は堂々と、気持ちのいい笑みを浮かべて。

 そんな、まるで。

 それは、まるで。

 ごくごく普通の。

 ごくごく普通の、どこにでもある、……幸せな一家の日常だった。

 差し込む日射しが、眩しくて。

 開けた窓から流れ込んでくる風が、優しくて。

 包むこむ雰囲気が、懐かしくて。

 身じろぎ一つ、出来なかった。

「……あら? 恭也、どうしたの?」

 見かねた桃子が、声をかけてくる。

「ぜんぜんお箸進んでないじゃない、珍しいわねえ……。恭也の嫌いなものとか入ってたかしら?」

「いやいやいや、俺の息子に嫌いなものなんてないはずだ。それも桃子の料理とくれば、たとえ食った後に腹の中で爆発するとわかっていようが食うはずだ! そうだろっ、恭也?」

「もう、士郎さん! 私、そんな料理作らないわよ!」

「はは、わかってるわかってる! 桃子の料理はいつでも最高に美味くて、そして最高に体に良いものばかりだ!」

 明るく、笑う士郎。

 ああ、そうだよ。

 嫌いなものなんて、ない。

 愛する人に先立たれて、それでも、交わした約束を守ろうとして。

 大好きなお菓子作りにのめり込もうとした、今貴方の前で幸せそうに照れて笑うその人の、……新作お菓子作りの実験台になり過ぎたせいでもともと苦手だった甘いものはさらに苦手になってしまったけど。

 それでも、嫌いなものなんて、なくて。

 ……強いて言うなら、酒くらい。

 貴方と、酌み交わすことのなかった、酒くらいだ。

「……ほんとにどうしたの、恭也? なんか、ちょっと変よ?」

「まあ……恭ちゃんが変なのは、割と普通のことだけど……」

「お、お姉ちゃん……」

 苦笑する美由希に、さらに苦笑するなのは。

「なんかあったんですか師匠?」

「おししょ?」

 晶とレンが揃って恭也の方へ視線を向けてくる。

 どうすればいいものかわからず、黙る恭也の代わりに士郎がからかうような口調で言う。

「いやあそれがなあ、聞いてくれよ、桃子、美由希、晶、レン。こいつ、さっきまで縁側で寝こけてたみたいでな、その上なんと、起きたら起きたで寝ぼけてたんだぜ。なあ、なのは」

「うんっ。あんなおにーちゃん初めてみたよ」

「あらあらあら、ほんとに珍しいわねえ。寝ぼける恭也……、なんだか見たかったかも」

「寝ぼける恭ちゃん、確かに珍しい……」

「……というか、まだ寝ぼけてるみたいだな。だーいじょうぶか、恭也?」

 対面に座る士郎に顔を覗き込まれ、恭也はたまらず眼を逸らす。

「あ、……ああ」

「……ったく、御神の剣士ともあろうものが情けない! よし、これ食ったら打ち合うぞ、恭也!」

「あ、父さんと恭ちゃん、試合うの? 見たい見たい!」

「ああ、見るといい。……恭也ぁ、いくら御神の剣士として完成をみたとはいえ、この父を超えるにはまだまだ至らないからな、みっちりしごいてやる」

「…………………………え?」

 がばっと、恭也は顔を上げた。

 

 ……今、なんて言った?

 

「え、ってお前なあ……。なんだ、もう父を超えた気でいたのか?」

「ち、違う…………。違う……。…………俺が、完成? 御神の……剣士として?」

「……お前本当に大丈夫か? 去年、そう言ったろうが」

 これは重症だ、と、士郎は頭を振って隣の桃子に笑いかける。

「なあ桃子、桃子さん、やっぱ爆発する食い物ないか? ちょっとこいつに眠気覚ましを」

「ば、爆発しちゃったら眠気覚ましとかそんなレベルじゃすまないでしょ! もう、……でも、そうね、苦あいコーヒーでも煎れようか、恭也」

 笑顔で、そんな風に桃子は言って。

 その顔には、一切の影はなくて。

「……? どうしたの、お兄ちゃん」

 なのはも、

「恭ちゃん?」

「師匠?」

「おししょ? ほんまにどないしたんですか?」

美由希も、晶も、レンも、実に屈託なく、幸せそうで。

 テレビから響き続けるフィアッセの声も、美しく、迷いのないものに聞こえて。

「おおい、恭也、どうしたんだ? コーヒー、いるのか? いんねえのか?」

 そして、士郎が居て。

 父、士郎が、居て。

 自分は、―――御神の剣士として完成していると言う。

 ……ああ。

 そうか。

 そうか。

 ここは。

(――――楽園、か)

 

 

 

 

 

 

 

「はあああああああああっ!」

「おおおおおおおおおおっ!」

 高速で飛びあい、ぶつかっては離れて、ぶつかっては離れてを繰り返す、金色の髪と銀色の髪を持つ、二つの人影。

 金色の髪……フェイトは、戦うことを選んだ。

 戦い、兄を、恭也を取り戻すことを選んだ。

 エイミィから入った通信によれば、やはり結局、ワクチンが展開し切れば兄は出てこられるとの事で、最善にして唯一の策が、戦い、魔力ダメージを蓄積させること。

 フェイトは、奮戦し続け。

 なのはは、ただ、それを傍観し続ける。

 戦闘の余波のせいか、影の獣はただただビルの脇浮かんでいるだけのなのはの下まで襲い掛かってはこなかった。

「………………」

 音もなく流れ、落ちていく涙。拭う気にすらならない。

 戦う気には、なれない。

 だって、わがままな気がしてならないから。

 楽園にいる兄を、ここに引き戻すのは。

 彼を幸せにできない自分が、ただ彼の愛を貪ってきただけの自分が、そんな事をする権利は無いような気がして。

 恭也を、兄を、彼を、愛している。

 それは絶対の真実で、揺ぎ無い事実で、なのはの確かな現実で。

 でも、結局それは、兄に届いていなかった。

 独りよがりの愛だった。

 あの人は自分に、愛なんて期待していなくて。

 なのはがたとえ、彼を憎んでいたとしても。微塵も愛していなかったとしても。

 彼は変わらず、なのはを愛してくれるだろう。

 自分の愛に、一体なんの意味がある?

 少なくとも、彼の幸せには繋がらなかった。

 馬鹿みたいだ、……いや。みたいじゃない。

 馬鹿だ。

 ずっとずっと、馬鹿だった。

 大馬鹿者だ。

「この……わからないのかっ!? この騎士の幸福をお前は邪魔する気なのかっ!?」

 夜天の魔導書、銀髪の女性が空の下、一旦高速機動を止めその場に浮遊し、両の手のすぐ上へ黒い球体を浮かび上がらせつつ苛立たしげに叫ぶ。

「お前も、愛されているっ! この騎士に! それをいい事に……これからも貪る気かっ、恥知らずが!」

 同じく機動を止めたフェイトは辛辣なそんな言葉に、しかし、

「……私はっ!」

凛とした、声を返す。

「私はっ、出会ってからずっと、ずっとその人に甘えてきた! 甘えて、頼って、縋ってきた!」

 彼女の姿はもうソニックフォーム……低耐久高機動のもので、風にはためくマントはないけれど。

 海風抜ける青空の下、誇るように堂々としている。

「……ならばっ! そうであるならばっ! この騎士を想う気持ちがあるならば……!」

「あるよ! 想ってる! 私はその人を想ってる…………――――好きでっ、愛してる! だからっ!」

 ああ。

 眩しいなあ。

「だから、今度は私の番! 今度は、今度は私が! 守ってもらった私が、かばってもらった私が、抱き締めてもらった私が、泣かせてもらった私が、甘えさせてもらった私が、笑顔をもらった私が、……幸せにしてもらった私がっ!!」

 眩しくて、眩しくて。

 なのはは、眼を逸らす。

「私がっ、その人を……恭也さんを、幸せにするっ!! 世界一、幸せにしてみせる!!」

(フェイト、ちゃん……)

 ―――わかっていた。

 この、凛々しく強く美しい、自分の親友が。

 兄を好いていることなんて。

 本人が自覚したのがいつごろかは知らないけれど、でも、少なくとも鍛錬を始めるころには惹かれ始めていて、……その後、何かきっかけがあったのかもしれない、十日か、それくらいか、経ったころにはもう、決定的に、彼女は兄を好いていた。

 わかっていたし、そして、わかっている。

 彼女は、……似合いだ。

「私はその人に、甘えることを教えてもらった! だから、今度は私が、……すぐには出来ないかもしれない、でもいつかは私が! その人に甘えることを教えてみせる……! 私に、甘えてもらう! だって私は知ってるからっ、教えてもらったから! すべてを委ねて甘えることが、どれくらい幸せなことなのか!」

 胸に手を当て毅然と言葉を放つフェイトは、誇らしい自分のこの親友は、……兄と、似合いだ。

 あと数年も経てばなんの違和感もないどころか、きっとぴったり嵌まると言っていいくらいお似合いの二人になるだろう。

「それだけじゃない、私は沢山の事を教えてもらった……! だから、きっとそれ以上を、恭也さんに、贈ってみせる! 大きくなって、大人になって、力をつけて、強くなって…………」

 外見だけの話じゃあもちろんなくて。内面もきっと、いや絶対、ぴったりで。

 本当に、お似合いだと思う。

「……隣に立って!」

「……ぁ」

 寄り添い歩く二人の姿は、簡単にイメージ出来て。

 その度に、気が狂いそうになる。

 いいなあ。

 いいなあ。

 いいなあ。

 想いの強さも深さも大きさも、どこの誰にだって、フェイトにだって、絶対に負けない自信はある。

 あるけれど。

 それは、許されるものではなく。

 そしてその上、何の意味もないとはっきり宣告されて。

 自分は、もう、立ち止まってしまった。

「……世迷いごとを…………!」

「なんとでも、言ったらいい。好きに言ったらいい。私も、好き勝手を言う……!」

 すう、と、遠くからみても不思議とわかるくらい明確に、フェイトは息を吸って。

「――――恭也さんを、返せ!! 私の、大好きな人を!!」

 お腹からの、力強い声。

 心からの、誇り高い意思。

 ああ、眩しい。

「……なにを、この…………! ……駄々っ子がああああああああああああああああ!」

「……っ!? それは……!」

 驚きに揺れるフェイトの前、夜天の書の手のひらの上、浮かんでいた球体がその姿を変えた。

 それは、剣。否、刀。

 全てが黒い魔力で構成された、各々の手に一本ずつ、計二振りの日本刀。

 見覚えがある。魅月、ではなく、あれは八景だ。

 兄が、父から継いだという愛刀。

 ヴィータに襲われたあの時に、なのはを守り戦った彼の手に握られていた、刀。

「言う事を…………っ、聞けえ!」

 はき捨てるようにそう言って、銀髪の彼女はそれを手にフェイトへ斬りかかる。

「……それはこっちの台詞だ! いいからっ、さっさとっ、あの人を返せ!!」

 勇猛に、フェイトはそれを受け止め、捌き、いなし、そして反撃の刃を奔らせる。

 またも再開された激しい打ち合いは、互角に見える。

 呆然と見やるなのはの前で、

「ぐっ!」

「うあっ!」

書の彼女とフェイト、お互いにお互いの一撃が入り、同時、揃って後方へ吹き飛んだ。

 それを見て、理性は告げる。

 ここで、後衛の自分は追撃の砲撃を放つべきだ、と。

 すばやく魔力を充填すれば、未だ体勢を直しきれていない書の彼女にディバインバスターを当てるのは容易だ。

 そうすれば、戦況は傾き。

 そして勝てば、兄は帰ってくる。

 ……わかってはいる。

 いるけれど。

 今の自分に、どうしても、それは。

 そして、轟音。

 広がった煙は、着弾の証。

「……………………ぐうう、お前っ! まだっ!」

 損傷したバリアジャケットをはためかせ、こちらを睨んでくる書の彼女――。

「……………………………………え?」

「なのは…………」

 眼前に漂う魔力の残滓、手に残る感触。

 そして何より、いや、何ということもない。……先ほど、彼女へ奔った閃光、その色は。

 桜色。

 まさか見まごうはずもない、自分の、魔力の、魔法の、色。

 つまり、撃ったのは、自分で。

 そう、自分は、……撃った、らしい。

「なん、………………で…………」

 なぜ。

 なんで、……撃った?

 兄を楽園から引き戻すことを自分は望まず、だから、戦う気なんてなくて、なのに、なんで。

 なんで……。

 ――そして勝てば、兄は帰ってくる。

「あ…………」

 思考を遡って、引っかかったのはその考え。

 ついさっき、頭の中、思ったことで。

「あ、…………ああ…………!」

 手ががくがくと震える。

「あ、あああああ………………!」

 ……そうだ、簡単だ。だから自分は、撃ったのだ。撃って、当てて、それを続けて、勝てば。

 兄が帰ってくるから。

 自分の傍に、帰ってくるから。

 だから、撃ったのだ。

「ああああああああああああああああああああああ……!」

 なんて、なんて、なんて。

 なんて――――……醜い。

「なのは……」

「……っ」

 こちらを見やる友の眼を、見返す事なんて出来なかった。

 今すぐに、ここから逃げ出したかった。

 こんなに醜い自分を、あんなに美しい友の前に晒すのが、あまりに恥ずかしくて。

 兄を引き戻す事を望まないなんて思っておきながら、それでも結局は兄を求めて撃った自分が、あまりに恥ずかしくて。

 こんなにも薄汚れた自分が、……こんなにも白いバリアジャケットを着ていることすら、滑稽に思える。

「違う、違う、違うの……! わたし、わたしは…………っ」

 自分の口は怯えてただただそう言うも。

 違うのか?

 何が?

 ……違う、と言うよりは間違いで。

 一体いつからどこから、自分は間違ったのか。

 わからない。

「う、ううううううううううううう……!」

 眼を閉じ、しかし涙はこぼれ続ける。

 この涙は、何の涙だろうか?

 許しでも請うつもりなのか。

 ……だとしたら、本当に、自分は救えない人間だ。

「お前の……」

 書の彼女の、重々しい声が聞こえた。

「お前の涙を見ていると、胸が引き裂かれるようだ……。…………この騎士の愛が、暴れ出すんだ。その涙を止めたいと」

「………………っ」

「愛されて、いるなあ!」

 目標を変えたらしく、彼女はこちらに踊りかかってくる。

 ガキンと、響く高い音。

「………………なのは!!」

 間に割り込んだフェイトが、書の彼女の黒い二刀を同じく黒い相棒バルディッシュで受け止めつつ、叫ぶ。

「わかんないよ! わたしには! なのはのその涙の意味が、理由が、私にはわからない! なんで泣いてて、どんな涙で、なんて、わからない!」

 なのはに背を向けながら、しかし確かになのはに向けた言葉を放つ。

「それはわからないけれどっ! でも、なのは! ねえ、なのは! ……一つ、わかることがあるよ!」

 ギギギギ、と、擦れあい、押し合う音と、火花を飛ばして。

 フェイトは叫ぶ。

「そんな……、そんな涙じゃ! 涙なんてものじゃっ! ……消えないでしょ!!」

「………………………………え?」

「消えないよ! なのはの、瞳に! 心に! 胸に! 魂に! ――――燃える炎は消えないよ!! 涙なんかで、消えるもんか!!」

「――――………………………、……、ほの、お?」

 ……?

 …………炎?

 ………………炎。

 ……ああ、そうか。

 そう、だ。

 これは、…………炎だ。

 ずっとずっと、……燃えて、燃えて、なのはを内から焦がし続けた、灼熱の、豪熱の、爆熱の。

 想いの、炎。

「炎……」

 ……そうだ。

 炎、だ。

 ずっとずっと、……消えて欲しかった炎だ。

 

"どうした、なのは"

 

 だって、なんにもならない。 

 

"ほら、そんなに泣くな、なのは"

 

 いくら燃えたって、なんにもならない。

 

"大丈夫、俺はここにいるから、なあ、なのは"

 

 なんにも、ならないんだ。

 

"なのは"

 

「……………………おにい、ちゃん」

 

 その人を、いくら想っても、駄目なんだ。

 

 結ばれない。

 報われない。

 だから、消えてくれと。消えてくれなければ困るんだと。その熱も輝きも、存在すら、意味がないんだからと。

 何度も、何度も、何度も言った。叩きつけるように、押しつぶすように、吹き飛ばすように。

 何度も、言って。必死に、消そうとした。

 なのに。

 一度だって、一瞬だって、消えなかった。

「おにいちゃん…………っ」

 その手に、声に、言葉に、心に、優しさに、強さに、愛しさに、存在に、触れるたび燃え上がって、思い出すたび燃え盛って、つまりいつだって燃え続けて。

 消えないんだ。

 消えたことなんて、なくて。

 消えることなんて、ない。

 永劫の、永久の、――――永遠の、炎。

 高町なのはが高町なのはである限り、決して消える事のない、永遠の炎。

 そうだ、だから、さっきの一撃は、火の粉。

 なのはの内、燃える炎が飛ばした火の粉。

 彼を求めて燃え続ける炎が、身じろぎするように飛ばした火の粉。

 正しいとか、間違いとか。

 そうするべきとか、そうしないととか。

 そんなものを、しがらみを、まるで無視して奔った、一筋の火線。

 そして。

 この炎は、……言うまでもなく、自分自身で。

 だから、さっきの行為は、自分の本意で。

『Master』

「…………レイジングハート……」

『Yes. It's my name "Raising Heart"』

「……………………レイジング、ハート」

『Yes,master. I'm your "Raising Heart"』

「レイジングハート……っ」

『Yes,my master』

 レイジングハートは、言った。

 レイジングハートだと、言った。

 私は貴方の、"レイジングハート"だと、そう言った。

「そう、っ、……だね…………」

 星は、天に。

「そう、だよね…………」

 風は、空に。

「そうだ、そうだよね……っ、レイジングハート……っ」

 不屈の心は、そう、この胸に。

 この手に魔法を。

 そうしたら。

「…………そう、だ……!」

 愛しい人は、―――私の傍に。

 思った瞬間、はっきりわかった。

 炎が、その温度を、規模を、存在を、大きくした事が。

「…………そうだ、そうだよ、…………そうだよ、レイジングハート……! 私、間違ってたね……! 馬鹿だったね……! 大馬鹿者だったよ……!」

 そうだ、間違っていた。

 馬鹿だったんだ。

「手加減なんか……するべきじゃなかったんだ……」

 ましてや。

 火加減なんて、もっての他だった。

「いつだって、全力全開、それが私だったのにね……っ!」

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう」

 恭也は、そう言って頭を下げた。

「ありがとう、本当に、ありがとう」

「え、いや、コーヒー煎れるってくらいでそんな、なに言ってるの恭也?」

 困惑する桃子に、首を振って。

「いいんだ。……いいんだよ。ありがとう」

「恭ちゃん?」

「お兄ちゃん?」

「……師匠?」

「おししょ?」

 不思議そうに見てくる妹達に、笑いかけて。

「……素敵な時間をありがとう、幸せな世界をありがとう。でも、いいんだ。―――俺はここには居られないよ」

 ピシ、と、音が響き。

 ついで、士郎のため息。

「…………恭也、いいのか?」

 桃子、美由希、なのは、晶、レンの五人は、まるで彫像のように動きを止めて。

 きらきらと、光を散らせて消え去った。

 残ったのは、士郎と、恭也だけ。

 父と、自分だけ。

「ここにいれば、お前が欲しかったもんは全部手に入る。……幸せに、なれるぞ」

「……ああ、そうだと思う」

 穏やかな日常。

 父の存命。

 そして、―――自分の剣士としての完成。

 願って止まなかった、自分の欲しかったそんなもの達が手の中にあるここは、幸せな世界だ。

「…………だけどな、父さん」

 恭也は眼を瞑り、言う。

「俺は別に…………いいんだよ。ここに来て、改めてわかった。結局、そうなんだ」

 こんなにも満たされた世界に置かれて、いくら自分が死ぬほど欲しかったものを手にしても。

 それでも想うのはやはり、……外にいる大切な者たちの事だった。

 そうだ、そうなんだ。

「……俺は、俺はな、父さん」

 この"自分の幸せがある世界"に来て、改めて強く実感する。やっぱりそうなんだと再認識する。

 そうだ。

「俺にとっては…………―――俺自身が幸せになることは大して重要なことじゃないんだ」

 高町恭也にとって、高町恭也自身の幸福は、どうでもよかった。

 血に塗れ傷を負い這い蹲って生きてきたこんな自分の幸福なんて、自分が好きになれないこんな自分の幸福なんて、もうとっくの昔に、どうでもよくなっていて。

「俺は、周りの大切な人達さえ幸福であれば、彼らの幸福さえ護れれば、それでいいんだ。それだけでいいんだ」

 誇るわけでもなく、驕るわけでもなく、それはただの端的な事実。前向きな思想ではないだろうが、別に後ろ向きだとも思わない。

 ただ単に、自分はどうしようもなくそういう人間だと言うだけだ。

「ここは、……永遠だぞ。それでもか?」

 恭也は、苦笑を浮かべて、また首を振る。

「永遠なんて、……ない。皆変わっていくし、変わっていかなければならない。……俺は、もう大して変わる事は出来ないけれど」

 恭也は前を見る。士郎を見つめる。

「それでも、変わっていく大切な人達を、護りたいんだ」

 返ってきたのは、はああ、と、再度の大きなため息だった。

「馬鹿だな、お前」

「知ってる」

「俺の息子だ」

「……そうかな」

「そうさ」

「…………なあ、父さん」

 いつの間にか、フィアッセの歌は止まっていて。

 相変わらずどこからか遠く聞こえてくる鳥の鳴き声をバックに、恭也は士郎に言う。

 それは、ずっと言えなかったこと。

 それは、ずっと言いたかったこと。

「ごめんな、父さん」

「何がだ?」

「出来損ないの、息子でごめん」

 無言の士郎に、恭也は続ける。

「俺は貴方のように、明るく大らかじゃなくて。俺は貴方のように、稀代の天才じゃなくて。俺は貴方のように、家族を優しく愛してやれない」

 多少改善されたとはいえ、仏頂面の暗い雰囲気。少し明るい展望が見えてきたとは言え、故障を抱えた欠陥剣士。心から愛しているとは言え、不器用な触れ方。

 それが、自分で。

 父とは、似ても似つかない。

「ごめん、ごめんな、父さん」

「……お前は、何回俺にため息を吐かせる気だ、恭也。お前は本当に馬鹿だよ」

 渋い表情で、言葉の通りため息を吐いて、士郎は言った。

「馬鹿野郎が、俺の息子を馬鹿にするな」

「………………っ」

 その言葉に、恭也は俯いた。

「なあ恭也、いいじゃねえか。それがお前ならいいじゃねえか。……俺の息子だ、いいのさ、それで」

 言って、士郎は席を立った。

「……父さん? どこへ……」

「庭だ、行くぞ。ここから出るんだろ? ついでに、……一個、技を教えてやる」

 言われたとおり、父と共に夏の匂いの色濃い、見慣れた庭に出て。

「ほらよ、恭也」

「……っ、と。…………ありがとう」

 放られたのは、銀の指輪。

 嵌めて、展開する。

 恭也の身を漆黒の衣が包み、腰には二刀が下がる。

「いい刀だな」

 そう言う士郎の腰にはいつの間にか、恭也も長い時を共に過ごした刀、八景があった。

「なんていうんだ、そいつ」

「魅月」

「……いい名だ」

 士郎は満足気に微笑んだ。

「恭也、……俺の動きをなぞって、お前が完成させろ。なあに、俺には出来なかったけれど、お前になら出来るさ。俺の息子だからな」

「……ああ」

 頷いた恭也に、士郎は、唄うように言った。

「これを極めた剣士の前では、すべてが零になる。間合いも距離も、武器の差も。御神の奥義、その極み…………、行くぞ」

 そして始まった素早く、無駄のない、あまりに美しい、その動きを。

 まばたき一つせず、見つめ、そしてなぞり、自分の中で消化して、押し上げていく。

 父から技を受け渡される懐かしい感覚を、感触を、味わいながら。

 

 御神流奥義乃極 閃

 

 青空が裂け、世界が割れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一つ、誇れることがある。

 高町なのはには、一つ、誇れることがある。

 暗い気持ちも黒い気持ちも重い気持ちも、抱え込んで、生きてきて。

 そう、だから決して、綺麗ではないけれど。この身に纏うバリアジャケットのように、純白ではありえないけれど。

 まっしろでは、ないけれど。

「………………」

 眼を閉じ、思う。

 そうだ。

 まっしろでは、ないけれど――――まっすぐでは、あったんだ。

 愚直でも、正直に。

 そんな道を生きてきた。それだけは、これだけは、誇れるんだ。

 寄り道なんかするはずなくて、周り道なんかあるはずなくて、帰り道なんかなくていい。

 いつだって、一本道。

 まっすぐに、兄の下へ。

 大好きな、彼の所へ。

 愛する、あの人の傍へ。

 それが自分の、生きてきた道で。生きていく道で。

「…………そう、だ」

 行き先を照らすのは、自らの内にいつでも、いつまでも、宿り輝き燃えるこの炎。自分自身が生んだ、この炎。

「………………そうだよ、間違ってた。馬鹿だった」

 届かない?

 意味がない?

 私の愛は、求められていない?

 …………だったら、話は簡単じゃないか。シンプルだ、ごくごく単純な事。

 なのはは、大きく大きく息を吸った。青空の下、堂々と。自らの身の内、燃える炎に空気を、酸素を、燃料を、送り込むように。

 そして。

「…………あああああああああああああああああッ!!!」

 咆哮をあげる、これは叱咤だ。馬鹿だった自分への、叱咤にして、……激励。

 もう間違うなと。

 この想いは間違いじゃないんだと。

「…………なにを、なんの……っ、つもりだ……!」

 フェイトと鍔迫り合う銀髪の書の彼女が、こちらを睨み、困惑気に言う。

「…………遅いよ、なのは」

 フェイトが、親友が、―――恋敵が、首だけ振り向きにやりと笑う。

「………………ははっ」

 なのはも、笑う。笑った。気持ちよく、清清しく。

 そうだ、そうだ。

 届かない? なら、届くまで。

 意味がない? なら、意味を成すまで。

 求められていない? なら、求められるまで。

 方法が、方向が、間違っていたわけじゃない。ただ、足りなかっただけ。力が、熱が。 

 愚かな事に手加減していて、馬鹿らしい事に火加減していて。

 足りなかった、ただそれだけだ。

「そうだ、そう、そうだ……!」

 彼に飛びつき抱きつく時、いつもなのはは少し力を抑えていた。手を抜いていなくとも、加減をしていた。

 全力じゃなく、全開じゃなかった。

 だって、まっすぐ前へ進んではいても、やっぱり後ろめたかったから。

 許されない想いを、普通じゃない想いを、抱いてしまっているから。

 だから、いつも少し、力を抑えた。全力全開で抱きしめて、全部を伝えてしまったら、いけないと思っていたから。

(馬鹿だな、本当に……)

 今ならわかる。もう、わかる。

 好きな人を、好きだと叫んで何が悪い。

 愛する人を、溶けるほど愛して何が悪い。

 ……いや、悪くたって構わない。構うもんか。

 悪くたって、いい。

 間違ってないから。

 転んでも、倒れても、汚れても、傷ついても、血を流しても。

 いい。

 それは正当で、それが正答だ。

 だから、燃えろ。燃え盛れ。燃え上がれ。大丈夫、燃え尽きることなんてありはしないから。

 未来永劫絶対に、永遠に、消える事などありはしない。

 それが自分の、この、永遠の炎だ。

 瞳に、心に、胸に、魂に。

 誇るように灯る、愛の炎。

 彼を想う、永遠にして無敵な、―――私の炎。

『Master,call me Exelion Mode』

「…………本体の補強は終わってない。私がコントロールに失敗したら、レイジングハートは……壊れちゃうよ?」

『I'm unbreakable if you have the eternal blaze』

「……レイジングハート」

『Please call me,my master』

「…………うん!」

 相棒のその言葉に、なのはは片手に握った彼女を眼前に掲げた。カートリッジが一発、勇壮なコッキング音と共に空へ排出される。

 なのはは魔力を身に漲らせ、強く叫んだ。

「レイジングハート、エクセリオンモード……ドライブッ!」

『Ignition』

 声に応えレイジングハートの各部が稼動、その姿をエクセリオン――リミッターを解除したレイジングハートのフルドライブモードへと変える。

「お前…………っ! なんだっ、結局は、自分の欲に生きるのか!」

 なのはの戦意を取り戻した様子を見て、顔をしかめた書の彼女はそう叩きつけるように罵倒の言葉を向けてきて。

「私の中で幸福を享受せんとするこの騎士のっ! 邪魔立てをするのか!? お前は所詮っ、結局……」

 なのははそれに俯いて――

 

「うるっさいなあ」

 

「なっ!?」

「……うるさいって、言ってるの」

苛立ちを隠さずに、言葉を返す。

「ごちゃごちゃごちゃごちゃ好き勝手……………………まあでも、そうだね、貴方が私に、気付かせてくれたっていうのは事実か。大切な事を教えてくれたっていうのは確かか。……うん、じゃあ、私も、教えてあげるよ。知らないでしょ? そう、知らないはずだよ。私以上にこれを知っている人なんて、悪いけど一人だっていないんだから」

 すごいんだよ?

 なのはは、困惑の表情を浮かべる彼女に、そう続けた。

「おにいちゃんの愛はね、すごいんだよ? すっごく、すっごく、……気持ち良いの。わかる? ねえ、わかる? すごいの、傍に居るだけで、声をかけられるだけで、あの手に触れられるだけで、もうそれだけで、頭が溶けそうになる。正気を保っていられる自分を褒めてあげたいくらいだよ。ねえ、わかるかな? すごいんだよ?」

 あんな感動ほかになく、あんな官能ほかになく、あんな快楽ほかにない。

 あるはずない。

「熱くて甘くて、頭を溶かして、あっという間に体全体に染み渡って、骨抜きにされちゃうの。気持ち良くて、ほんとに、気持ちよくて……ああ、そう、そうだよ、本音を言えば、一時だって、一秒だって、一瞬だって離れたくない。あの人の傍から、愛から、離れたくない。だってそんなの生きている意味ないよ。私はあの人を愛して、あの人に愛されるためだけに生きているんだ。ねえ、だからさ」

 そこで一旦言葉を切って、なのははレイジングハートを両手で構え、顔を上げ。

「返せ」

 睨みつけ、言う。

「いいから返せ。さっさと返せ。即座に返せ。とっとと返せ。即刻返せ。今すぐ返せ。返せ、返せ、返せ……! …………おにいちゃんは」

 息を吸って、言った。

「おにいちゃんは、――――私のだ!!」

「…………呆れて物も言えんっ! 自分のものだなどと、そんな戯言を…………」

「戯言じゃないよ、冗談でもない。……そう、いやはやほんとに冗談じゃないって言うか、寝言は寝て言えって言うか、何を考えてるのって言うか、何も考えてないんじゃないのって言うか、勘違いしてる方々が世の中にはずいぶん多いんだよねえ、困ったものなの。……ねえ、今まで一体何人いたと思う? 私のおにいちゃんに手を出そうなんて人が、今まで一体何人いたと思う?」

 タガが外れたように、なのはの口は正直に言葉をつむぐ。

「私の知っている限りでも、両手両足の指の数じゃあ足りない。……まったく、勘弁してほしいの。私のおにいちゃんに手を出そうなんて、ほんっとにもう、止めてよね。あの人の隅から隅まで一切合財一つ残らず全部が全部、私のなのに」

 相棒、レイジングハートが限定解除の姿となったと言うのなら、自分だってそうだ。

 今まで、思ってはいたものの決して口にはしなかった言葉を、もうなのはは隠さない。

 完全に、本気で本音の本心で。

 正真正銘にして、全力全開。

 高町なのはのフルドライブ。

「いい? おにいちゃんはね、私のなの。わかったら早く返せ。誰にも渡す気もなければ譲る気もない、おにいちゃんは、私のだ。……もう、ほんと、それをほんとに、わかってない人が多い…………ああ、そこにもいたね」

「……さっきまで泣いてたくせに、言うねえなのは!」

 なのはの言葉と視線に、鍔迫り合いを続けながらもしかしフェイトは、……中々に獰猛な笑みを返した。

 受けて、なのはも苛烈な微笑を浮かべる。

「言うよ、言っておくよ。釘を刺させてもらうよ。出る杭は打たせてもらうし、場合によっては撃たせてもらう。私のおにいちゃんに手を出すのなら、私とおにいちゃんの邪魔をするのなら、撃ち抜かせてもらう」

「…………いい加減に、しろっ!!」

 耐え切れないといったように、周囲の空気を吹き飛ばすような勢いで書の彼女が怒号を上げる。

「本当におめでたい頭をしているなお前は! 確かに、お前はこの騎士の傍にいればそれはそれは幸せなのだろうがな! 何度言えばわかる!? この騎士はどうなるんだ!? 幸せになれるのか、それで!!」

「なれるよ。するよ、してみせる」

 なのはの即答に、一瞬鼻白むも、すぐに反駁の言葉は紡がれる。

「っ! だが、実際! お前の傍にいても、今まで、今の今まで、この騎士は内に孤独を、虚無を、決して埋まらぬ空白を! 抱えて生きて……」

「そうだね。……それに関しては、本当に、心の底から反省してる。後悔もしてる。申し訳ない気持ちで一杯だよ、ほんとに。だから、もう繰り返さない」

 そう、もう繰り返さない。同じ徹は踏まない。

「馬鹿だったよ、私は。いけない事だなんて思って、手加減して、火加減して、…………だから、おにいちゃんに届かなかった。届いてなかったんだ、私の愛は。意味も無くて、求められることもなかった。あの人の幸せに繋がらなかった。だから、―――もう抑えない!」

 なのはは、強く言い放つ。

「私は誰より、愛される喜びを、悦びを、歓びを、知ってる……! ……だから、おにいちゃんにもそれを味わってもらう! おんなじ気持ちになってもらう! 私はこれからはもう、あの人への愛を、想いを、抑えない!! 私の愛がおにいちゃんに届きさえすれば、……おにいちゃんも幸せになれるはずだから!!」

「っ!?」

「この世で一番の幸せは、愛されることだ!!」

 あの人は、あの人自身の幸せなんて、望んでいないのだろうけど。そういう人なんだろうけど。

 でも、それでも。

「そして、この世で一番おにいちゃんを愛してるのは私だ!!」

 自分のこの想いで、炎で。

「だから、私の傍にいることが!!」

 焼いて、焦がして、溶かして。心から愛して、芯まで愛して。

「おにいちゃんが一番幸せになれる道だっ!!」

 ―――あの人を、誰より幸せにしてみせる。

 そして、幸せな事というのがどれだけ素晴らしい事なのか、あの人にわかってもらうんだ。

 それを自分に教えてくれて、与えてくれる、愛しいあの人に、あの感動をあの官能をあの快楽を、わかってもらうんだ。

 きっと自分は、……そうだ。

 なのはは胸の中、想う。

 自分は、高町なのはは。

 

 そのために、生まれてきたんだ。

 

 あの人は私のだと、あの人の隅から隅まで一切合財一つ残らず全部が全部私のだと、そう傲慢に、強欲に、厚顔無恥に口にする勝手な自分は、高町なのはは間違いなく、その身体の心の存在の、隅から隅まで一切合財一つ残らず全部が全部、あの人のためにあるんだ。

「……都合の良い、論理を!」

「都合が良くても悪くても構わないよ……どっちでもいい、そんなの! 間違ってさえいなければ! ……繰り返してきた過ちは、もう終わらせる!!」

 レイジングハートから勢いよく、二発の空薬莢が排出される。充填された魔力によって展開されるのは、輝く桜色の翼。

 あの人へ向かい飛ぶための翼。

『A.C.S. standby』

「アクセルチャージャー起動! ストライクフレーム!」

『Open』

 なのはの声に合わせ、レイジングハート、その金色の先端部から、展開された翼と同じく桜色の半実体魔力刃が突き出した。

 A.C.S展開、レイジングハートを突撃槍とする……まさに今の自分に似合いの戦法だ。

「エクセリオンバスター、A.C.S.……」

 奔る魔力を高めていき、まさに飛び出さんとする、飛び立たんとするその寸前、なのははフェイトへ視線を向けた。

 アイコンタクト。

 ……わざわざ念話を使うまでもない。

「ドライブッ!!」

 レイジングハートから輝く六翼を大きく広げ、疾風怒濤の勢いで前方、書の彼女へなのはは突撃を敢行し。

 フェイトはその邪魔とならないよう、そして突っ込んでくるなのはを避ける余裕を書の彼女に与えもしないような、完璧なタイミングで鍔迫り合いを弾いて中断、上方へ離脱した。

 恋敵で、それでもやっぱり親友にして戦友だ。同じ思いを胸に抱く同志だ。

 これくらいの連携は造作も無い。

「ぐううううっ!!」

 二刀を交差させるように眼前に構え、なのはの重厚な刺突を受け止める書の彼女。

「な、ぜ………………なぜっ、わからない!? この世は悲しみに満ちていて……そんな中で生きても傷つくだけなんだ!!」

「そんな……こと、あるもんか!!」

「ある、さ! 少なくとも……私や! あの騎士にとってこの世界はそうだったはずだっ! だから……あの騎士は私の中にいるべきで……」

「っ!! ああああああああああああああああああああああああああああもうっ!!」

 その許せない言葉に、事実に、なのはは激昂、吼える。

「それ、さああああああああああああああ!! それ!! さっきからっ、ずっとっ!! あんまりに苛立って!! 頭が焼き切れそうでっ、妬き切れそうだよ!!」

「な、なに、なにを……? っ!?」

 至近距離、火花を間に挟んだなのはの憤怒にとまどう書の彼女へ、

「ああっ! やっぱりなのはもそう思ってたんだねっ!!」

上段から振り下ろされる金色の巨大な両刃剣。なのはと書の彼女が拮抗する間にザンバーフォームへと姿を変えたバルディッシュだ。

 書の彼女はやむなく二刀のうち一振りを頭上に掲げ、そちらへの防御に回した。

「そうだよねええええ! やっぱり許せないよねええええええええええっ!!」

 容赦なく黒い刃へ斬りかかり、押し切らんとしながら、フェイトもそう叫ぶ。

「あったり前だよ!! こんな事を、そんな事を、許せるもんか!!」

 言いながら、なのはも一振りとなった眼前の邪魔な黒刃を突き破らんと出力を上げていく。

「お、まえ、たち! さっきから……何を…………っ」

 必死に受け止めながら、しかし二人の怒りの意味がわからず、書の彼女は相変わらず困惑気で。

「だっからさああああああああ!! わかんないかなあああああああああ!! 許せないのっ!!」

「大好きな大好き大好きな!! あの人がっ!! 恭也、さんっ、がああああああああああああっ!!」

「―――他の女の!! "中"にいるなんて!!」

 そして、ビキビキと、

「あ、あああああ………………っ! ………………そん、な…………っ」

猛撃を受け止める黒刃にはヒビが入っていき。

「我慢できるかああああああああああああああああああッ!!」

「我慢できるかああああああああああああああああああッ!!」

 揃っての、そんな咆哮が響き渡るのとほぼ同時、

「っ!?」

甲高い音を立て、粉々に砕け散って。

 桜色と金色の爆発が、辺りを包んだ。




 こういうのが書きたかったから書きました。
 こういうのが読みたかったから書きました。


 あと、このなのはは当初よりも大分大人しくなったバージョンです。もともとはもっとすごいこと言ってました。さすがにアレかなと言うことでマイルドになっての、これです。
 
 なのは、フェイト共に魔法は非殺傷設定。殺す気なわけでは当然ない。


 次回が魔法青年リリカル恭也Joker最終回です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。