魔法青年リリカル恭也Joker   作:アルミ袴

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 この作品には原作設定の拡大・独自解釈も含まれます。申し訳有りませんが、原作設定の絶対的な遵守をお求めの方、ご自分の解釈を非常に大切にされている方のご要望にはお応えしかねる場合があります。該当される方はご自身の責任における判断で閲覧されるかどうかお決め下さい。よろしくお願い致します。


第12話 身勝手な願い

 泣き声が、聞こえて。はやては車椅子を走らせた。

 こっちだろうか、あっちだろうか。

 不思議な空間だった。真っ暗で、なにも見えなくて。なにもなくて。

 寂しい空間だった。

 そんな中に、かすかに響く、誰かの泣き声。

 誰か、わからなくて。でも、知っているような気がした。

「…………っ、……っ…………」

 やがて、はやての前にその姿を浮かび上がらせたのは、長い銀髪の、美しい女性。

「……っ、…………っ」

 彼女は立ち尽くし、かすかな嗚咽を上げながら、静かに、しかし確かに泣いていた。

 悲しそうに、寂しそうに。切ない泣き声を上げている。

「どうしたん?」

 明らかに年上に見えはしたけど、気がついたらまるで小さい子を相手にするかのような口調と声音で、はやてはそう声をかけていた。

「なにか、あったん?」

「……かな、しいんです…………っ」

 女性は綺麗な、しかしやはり憂いを含んだ声で返してきた。

「悲しい? なにが悲しいん?」

「この、世が……っ、世界が…………っ、悲しいん、です…………っ」

 彼女は、俯いたまま続ける。

「悲しいことばかり、で……っ、……苦しいことばかりで……辛いことばかりで…………っ、…………痛いことばかりで……っ。この世は、この世はっ、ずっと、そうで…………っ……」

 もう嫌だ。

 すすり上げ、頬を濡らして彼女はそう言う。

「もう、もう、もう……嫌、なんで、す…………っ…………。悲しいのも、苦しいのも……、辛いのも痛いのも……っ、嫌なんです…………っ…………もう、もう………………」

 それは、絶望に塗れた声で。

 でも、確かに切望の滲む声だった。

(ああ…………そうか。この子は…………"あの子"や)

 自然にわかって。

「……そかあ。…………色々、大変やったんやね」

 はやては、なんとか車椅子の上、片手で体を支えながら立ち上がろうとする。

 だって、このままじゃあこの子に手が届かないから。

 しかしやはり少し無理があって、バランスを崩してしまい。

「あ…………、っと、ありがとなあ」

 前方に倒れこみそうになったはやてを、彼女が抱きとめてくれた。

 悲しそうなのに、それでも心配そうな顔を彼女は向けてきて。向けてくれて。

 ああ、やっぱり優しい子なんだと、それがよくわかった。

「…………なあ、泣いたらあかん、なんて言わんよ、言わん。悲しいときは泣いてええんや。ええ。……ええんやけど、な。ずっとは、やっぱあかんねん」

 はやては抱かれながら、彼女の頬に手を伸ばした。

「泣いてもええけど、……いつまでも泣いてたらあかん。いつかは泣き止んで……笑わなあかん」

「わら、う……?」

「そや。……そんなに美人さんなんやから、笑ったらめっちゃ綺麗やろ?」

 困惑したような顔の彼女。その白い頬に、はやての手が触れた。

「……もう、泣き止んで、な? 笑ってみせてや。ええもん、あげるから。一生懸命考えたんやで、……まあ、すぐに決まったんやけどな。ぴったりのが、あったから」

「な、にを……?」

 少し悪戯に笑って、はやては彼女に言った。

「名前をあげる。もう闇の書とか、呪いの魔道書なんて言わせへん。私が呼ばせへん。私は管理者や、私にはそれが出来る」

「……私はっ…………でも、…………貴方を…………っ、どれだけ素敵な名を頂いても…………貴方にっ……害なすだけの…………っ」

「そんなことあらへんよ、絶対あらへん。……たとえ、ちょっとくらい迷惑がかかったとしても、ええよ。だって……」

 そう、だって。

 あの人も、そう言っていた。

「だって、家族やん。せやからええんや。家族やから、ちょっとくらい、迷惑かけて、わがまま言って、それでええんや」

「っ、か、ぞく…………っ」

「そう、家族や。私の大事な大事な、大好きな家族や」

 すうと、深呼吸一つ。はやては告げる。

「夜天の主の名において、汝に新たな名を贈る。……強く支える者」

 一言一言、力を籠めて、想いを籠めて。

「幸運の追い風、祝福のエール、―――リインフォース」

「リイン、フォース……」

「そや、リインフォース」

「わ、たし…………っ、リイン、フォース…………っ」

「……ああ、あー、……なんや、もっと泣いてもうたなあ…………」

 ぼろぼろと、彼女の赤い瞳からは大粒の涙が零れていく。

 どうしたものか、悩むはやての前に。

「……リインフォース。いい名だ。君に、ぴったりの名前じゃないか」

 現れたのは、精悍な顔つきの男性だった。

「恭也さんっ」

「泣き声が聞こえてな。気になったから、……ちょっと寄ってみた」

 恭也はそう言ってはやてに笑いかけてから、震えるリインフォースの肩を優しく抱いた。

「…………騎士っ」

 リインフォースは顔を上げて、恭也を見つめ、涙を零しながら言う。

「騎士、……なあ、騎士よ…………っ」

「ああ、なんだ?」

「この…………世に………………光は、……ある、のか? わ、わたしは、……それを、…………受け取って、しまっても…………いいのか?」

「当たり前の事を聞くな、リインフォース。そんな事は……当たり前だよ」

 返答に、リインフォースは嗚咽を上げ、なおも尋ねる。

「お、お前は、お前は…………どうなん、だ……? あんなに悲しい世界を……あんなに寂しい瞳で生きて…………お前には…………光は、あるのか……っ?」

「あるさ。ある」

「……でもっ、……お前は…………っ」

「……たとえ、俺自身に降っていなくとも、……俺の大好きな人達に降ってくれていれば、俺にとって、世界は光に溢れていて、優しいところなんだよ」

「…………騎士………………っ、………………………………お前は、お前は…………強いんだ、な……っ。本当に、…………本当に、強いんだな……っ」

 そう言ってリインフォースは、はやての見ている前で初めて、……涙を自らの手で拭った。

「私も…………強くなれるだろうか……っ? お前のように……っ…………強くなれるだろうか……?」

「それも当たり前の事だ、リインフォース。強くなる。強くなれる。……だって君にはもういるだろう? 大切な人が。君を大切にしてくれて、君が大切に想える人が」

 恭也はそう言って、今度は柔らかくはやての肩を抱いた。

「リインフォース、簡単な事なんだ。強くなる理由なんて、強くなれる理由なんて、それだけでいいんだ。大切な人がいる、それだけでいいんだ」

「………………そう…………っ、か…………」

「……なあ、リインフォース。私も強くなるよ。マスターやからな、みんなの。家族をちゃんと護れるように、私も強くなる。…………だから、リインフォース」

 未だ涙の流れる瞳でこちらを見返すリインフォースに、はやては言う。

「一緒に、強くなろう。これまでずっと一緒やったし、これからもずっと一緒や。……一緒に、強くなろう」

「…………………………はいっ!」

 リインフォースは、しっかりと頷いてくれた。

「そうと決まればほら、笑ってや、リインフォース。これが私達の新しい始まりや、折角の門出やで。せやったら、やっぱり、笑顔が見たいな」

 そう言って、はやては微笑みかけて。

「……ほら、リインフォース。マスターの言う事は、ちゃんと聞かなければな。……それに、家族のお願いだ。聞いてあげるといい」

 恭也も、優しく促して。

「………………はいっ、……………………はいっ!」

 やっぱり泣いてはいたけれど。

 それでも、彼女は、リインフォースは。

 美しくて、嬉しそうな笑みを、見せてくれて。

 やがて、世界が光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

(…………帰って、きたんだな)

 海風の匂いに、恭也はそれを悟った。

 自分の身にはバリアジャケットが展開されていて、両の手には魅月がいる。

「………………」

 恭也は無言、頭を振った。

 たしかに、魅力的な世界だった。去りがたい、世界だった。

 でも、それでも。

(……いいんだ)

 そう、いいのだ。

『主…………』

「いいんだよ、魅月」

 答えたときだった。

「おにいちゃんっ!!」

「恭也さんっ!!」

 眼下から、声。

 視線を向ければそこには、こちらに一直線すごい勢いで上昇し向かってくる白と黒、少女が二人。

 両方とも本当に速かったが……しかし、単純な速度で言えば、やはり。

「……恭也さんっ!!」

 黒の少女――フェイトの方が上だった。フェイトは勢いそのままに、恭也の胸に飛び込んできた。

「っと」

「恭也さん! 恭也さんっ! 恭也さん!!」

「……ああ、…………すまない、心配と、苦労をかけてしまったな」

 フェイトはその言葉に首を振って、

「いいんです……そんなのっ!」

嬉しそうに恭也の胸に顔を埋めた。

 恭也はそれに笑顔一つ浮かべ、魅月を鞘に納め、彼女の柔らかい髪を撫でようとして――。

「おにいちゃん!!」

 そこへ、なのはの声。追い着いたなのははすぐに恭也とフェイトの傍へ寄って。

「……あれえ、なのは」

 そんななのはをフェイトの、恭也からすれば珍しい……言ってしまえば初めて聞くような調子での声が迎える。

 からかうような、と言うか、

「どうしたの? すいぶん遅かったねえ?」

挑発するような、と言うか。

「……へええ、そう、そうくるんだね、フェイトちゃん。…………ふうん」

 受けてなのはも力の篭った言葉を返す。

「お、おい……二人とも…………」

 状況はわからないがなんとなく止めておいた方がいいような気がして、恭也がそう声をかけるも。

「ほいっと」

「…………なっ!?」

 遅かったらしい。フェイトの驚きに揺れる声が上がった。

 フェイトの両手には……桜色のリング。

「レストリクトロック!? いつの間に!?」

「いつの間にって……呑気な子なの。フェイトちゃんの方が速いなんてことわかってたからね、飛んでる時にはもう準備完了してたよ」

「な…………っ」

「お、おいなのは……。何して……」

「―――おにいちゃんっ!!」

 恭也と両手が固められたフェイトの間になのはは勢いよく、淀みのない動きで体を割り込ませ。

「……おにい、ちゃん…………っ!」

 すぐに恭也の胸に抱きついて、その顔をすりつける。

 ああ、悪い。心配をかけて、苦労もさせてしまったな、……と、フェイトへ向けたものと同じような言葉を口にしようとして。

 しかし、

(………………な…………んだ?)

恭也の体は、驚きに、戸惑いに、固まった。

「おにいちゃん……! おにいちゃん……っ!」

「…………っ」

(…………なんだ? ……この、………………………………熱さは)

 自らの胸にすがりつくなのはの、その体が放つ熱が明らかに今までとは段違いで。

 しかしそれは、―――体温の問題ではない。

 それは、行為が、言葉が、吐息が、雰囲気が、存在が、持ち放つ熱の温度。

 高町なのはの熱であり……。

「おにいちゃんっ!!」

「っ!」

 恭也の胸から顔を上げ、なのはがまっすぐに恭也を見つめてくる。

 そうだ。

 高町なのはの温度であり、彼女が高町恭也に向けてくる熱、その温度だ。

 今までと明らかに、それは桁が違った。気のせいかとも一瞬思ったが、ほんの一瞬だけだった。気のせいなんかじゃない。

「おにいちゃん……っ、…………おにいちゃんっ!!」

「なの、……は…………?」

 疑いようもないほどに、熱すぎる。焼かれ、焦がされ、……溶かされるような温度。

 時間にしてどれくらいかはわからないが、恭也はその驚き、戸惑いから硬直し続けてしまい。

 だから、何も出来なかった。

 するりと体の位置を上方へずらし、こちらの首の後ろへ手を回して、少しの躊躇いもなく顔を近づけてきたなのはに。

 気がつけば、

「――?」

「………………んっ…………んん……」

「……っ!? っ!?」

唇を奪われていた。

 二度目のその衝撃は、あまりに予想外にして想定外の、馬鹿らしいくらいに大きすぎ強すぎたそんな衝撃は、今度は恭也の体を硬直から一週回って完全な脱力へとシフトさせ。

 抗力を失った恭也の口は、機を逃さずすぐさま差し込まれたなのはの舌にいとも簡単にこじ開けられて。

 口腔内へ、なのはの柔らかい舌が押し入り。

「――――――――」

 完璧に思考を停止した恭也は最早何も出来ず、

「んんっ、ん、ん………………っ」

ただただ、されるがまま、歯列をなぞられ歯肉をなでられ、全体をなめ尽くされるままで。

「…………んんっ………………………………………………、ふふ」

 なのはが自分からその行為を止め、顔を少し離して、

「…………な、……の、…………は」

そこでようやく、やっと、そう言葉を発せ、……しかしそんな言葉を発するだけで、やっとだった。

「なあに? おにいちゃん」

 至近距離、瞳を潤ませ頬を上気させつつ、微笑みを浮かべるなのは。

「……っ」

 そこにあるのは。

 鮮やかにして、あまりにも艶やかな、溢れかえるほどの―――。

 熱い愛情。

「ふふ……、ねえ、おにいちゃん……」

 なのはは恭也を恐ろしく熱量の篭った瞳で見つめながら、自らの小さな桜色の唇を、舌を、愛おしそうに指で撫で。

「もういっかい、する……?」

 そう問いかけて。

「…………もういっかい、しよ……」

 答えを待たずにもう一度、顔を寄せてきて。

「……ねえ、おにいちゃっあああああああ!?」

「させるかああああああああああああああああああっ!!」

 勢いよく後方へ吹き飛んだ。

 バインドから抜け出して、なのはの首根っこを掴み思い切り投げ飛ばしたフェイトは、肩を怒らせ叫ぶ。

「ひ、人のことを、バインドで固めておいて! その隙に、あ、あんなっ! あんな!!」

 フェイトは恭也を背に庇い、怒気を孕みに孕んだ声を上げる。

「みだらだっ! ふしだらだっ!!」

 足元のフィンを羽ばたかせ制止をかけたなのはは、それを真っ向から受けて余裕の表情を返す。

「みだら? ふしだら? はっ! 能天気な子なの。飛んだまま寝言が言えるなんて、器用だねえフェイトちゃん」

「……ふふ、………………いいよ、なのは! 買うよ、その喧嘩っ! 買ってあげる……!」

「……それはこっちの台詞だよ! 折角の良い雰囲気をぶち壊してくれて、……高くつくよ?」

「上等!!」

 そして、取っ組み合いを始めるなのはとフェイト。

「…………あ、…………いや、止める、べき、だよ、な? いや、……いや、……いや…………そもそも何が……………………いや…………いや……」

『主っ、主っ! 大丈夫ですか!?』

 未だ状況を飲み込みきれずにひたすら疑問の声を諳んじ続ける恭也へ魅月が言葉をかけるも、しかし恭也の頭は醒めない。

「…………んん?」

『主っ! お気を確かに!!』

 収集がつかなそうな、そんな状況に、

「…………あ、あのー!!」

響いたのは少し遠慮がちな、

「……わ、わたしの事も、ちょっとは、……その、思い出してもらえると……嬉しいんやけど」

はやての声だった。

「……はやてっ!」

 見れば下方に、金色の十字錫杖と書を手に持ち法衣のようなバリアジャケットに身を包んだはやて。

「はやてちゃん!」

「はやて!」

 その姿を見てとりあえずは困惑と混乱から抜け出した恭也、取っ組み合いを止めたなのはとフェイトの三人は、すぐさま駆け寄る。

 被った帽子の下、髪の色を変化させたはやてはまず真っ先に傍に着いた恭也を見上げて、

「…………もてもてやね、恭也さん」

少し困ったような顔で言った。

「……い、いや、正直俺にはもう何が起こっているのかわからないんだが…………」

「………………」

 はやては無言、頭を振って。

 上方から来るなのはとフェイトを仰ぎ見て、

「……これは強力や、強烈や…………強敵や。ううん……、前途多難……。道は険しいなあ…………頑張らなっ!」

覚悟を決めたように握りこぶしを作った。

「……はやて?」

「恭也さん! わたしも頑張るで!!」

「あ、ああ……?」

 よくわからずに、恭也は首を捻る。……よくわからない事だらけだった。

『主……』

「なんだ、魅月?」

『正直に言わせて頂きますと、…………いつかこうなるんじゃないかと思っておりました』

「…………?」

 魅月の言葉も、よくわからなかった。

「はやてちゃん! 大丈夫!?」

「はやてっ、体は……?」

 はやての左右に降りた二人に、はやては微笑んで答える。

「大丈夫や、ありがとうな。わたしも、それに――この子も、……もう、全部良くなっとる。治っとる。…………壊れてた部分はちゃんと直って、欠けてた部分も補修されて、そんで、…………悪くなってた部分は……あそこや」

 はやてが斜め下を視線と杖で指す。

 指された方へ目を向けると、あそこ――演習空間内の海に、黒い半球体が蠢いていた。

「無事、ワクチン展開とそれによる治療は、終わったみたいですね」

 不気味なそれを眺めていると、後ろから近づいてくる気配と声。

「あそこにあるのは……排出された治しようのない改悪部分にして改悪それ自体の原因、核、……闇の書の闇と言ったところでしょうか」

 恭也達の背後、高速で飛んできたらしいクロノがキレよく減速して静止し、そう言った。

「クロノ」

「ご無事でなによりですっ、恭也さん! なのはとフェイトも、ありがとう。……影の獣も、さっき全て消え去った」

 その言葉通り、ぐるりとまわりに眼をやれば確かにあれだけいた獣達が一匹残らず姿を消していた。

「いや、……しかし、あれだな。危険も負担も最大限引き受けるなんて大口を叩いておいて、すまんな、結局お前達に苦労をかけてしまった」

「いえ、そんな! 最初の膨大な力を有した状態の、あの拒否反応で暴走した彼女の相手は恭也さんに引き受けて頂かなければ、本当にどうしようもありませんでしたよ」

「恭也さんが取り込まれてしまった後、私となのはで相手をしましたが、恭也さんとの戦闘で力の大部分を使い果たしてしまったようだったからこそ何とかなったようなものですし」

 恭也の謝罪に、クロノとフェイトが即座にそんなフォローを入れて。

「そうそう、そうだよ、おにいちゃんっ!」

 なのはが素早く恭也の腕を抱くように取った。

「おにいちゃんが気にする事なんてないの。ちゃんと私のところに帰ってきてくれたんだしっ」

「あ、ああ、そうか……?」

「うんっ!」

 弾んだ声をあげるなのはだが、どうにも恭也は先の記憶が脳裏にちらつき、対応がぎこちなくなる。

「……ねえなのは、今、そんなに恭也さんにくっつく必要ある? ないよね? ううん、ないよ、ない。だから離れて、離れて、すぐに、さっさと」

 なのはの右肩を掴み、恭也から引き剥がしにかかるフェイト。

「必要があるかないかなんてそんなのどうだっていいよ。したいか、したくないか。その二択だよ人生はいつだって。したいからする、それだけなの」

「そんなにくっつかれたら、恭也さんが動きづらくて困るよ」

「そんな事ないよ、ねえおにいちゃん?」

 どう答えたものか、迷う恭也。

 そうしている内に、

「まあ、ほら、"妹"さんにそんな迷惑やなんて恭也さんも言われへんやろ、な」

事態はさらに進んだ。今度ははやてがなのはの左肩に手を置き、フェイトと同じように後ろに引き始める。

「……へえええ。そう、……そうなんだ。はやてちゃん、そういうこと言うんだねえ…………」

「正論やろ? …………それに、恭也さんは別になのはちゃんのところに帰ってきたってわけやないんやないかな思うんやけど」

「…………へええええええ。言うねえ」

 きりきりと、恭也の目の前で張り詰めていく空気。

 相変わらず、状況が把握できずに恭也は戸惑うばかりで。

「な、なのは? フェイト? はやて?」

「三人とも、今はそんな事している場合じゃな、んでもない、…………続けてくれ……」

 見かねたクロノが仲裁に入ってくれたが、三人に睨まれ途中で言を翻した。

「ク、クロノ……」

「すいません恭也さん……僕にはどうする事も…………」

 すまなそうに頭を下げるクロノ。

「強いて言うならば……個人的にフェイトを応援する事くらいしか……」

「お前もお前で一体何を言ってるんだ……?」

 恭也には本当に、よくわからなかった。

「おい、どういうことだよこれ。なんで修羅場ってんだよ……?」

「きょ、恭也、何が……?」

 そう声をかけてきたのは、はやてが無事と見、文字通り飛んできたらしいヴィータとシグナムだ。

「あらららら……すごい事になっちゃってますね……」

「むう……」

 その後ろには、口に手を当て眼を丸くするシャマルと困惑気なザフィーラ。

「なんかよくわかんないけど……フェイト! がんばれ!」

「…………こんな緊張感、どんな遺跡の発掘でも味わったことないよ……」

 笑顔で応援の声を上げるアルフと苦笑いのユーノ。

 人は増えるが、しかし事態は混迷を増すばかりで。

『あのー、皆さんすいません。闇の書の闇の暴走臨界点まで、あと十分切りました。各々準備をお願いします……』

 届いたエイミィのそんな言葉で、やっと一応の落着を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 複合四層式の防壁を抜き、その後本体へ攻撃、コアを露出させる。そしてそれを強制転移魔法で軌道上に待機するアースラの前へ転送、アルカンシェルで消滅させる。

 これが、闇の書の闇への対策として予め考案された作戦である。

 個人の能力頼りでギャンブル性が高いものと言わざるを得ないが、しかしこれ以上の方策も挙がらなかったのだ。

 闇の書の闇、その近くで海洋上に浮遊し、皆でその時を待つ。

「………………」

 眼下、蠢く黒い半球体を見つめながら、恭也は集中力を高めていく。

 作戦を立てた時点での闇の書の闇の能力や危険性は、ワクチンへの拒否反応により引き起こされた暴走進化の影響を基本的には考慮に入れていない。正確には予測がつかなかったために、入れられなかったと言うのが正しい。

 何が起こるか、わからない。

 その場その場で判断、対処するしかないのだ。

 悟られないように、恭也は周囲の顔をちらりと瞳のみを動かして伺う。

 皆、一様に緊張した顔をしている。

(……何かあったら、…………俺が何とかしなければな)

 戦闘力そのものもそうなのかもしれないが、何より、この中で突発的な事態に対し一番対応力があると言えるのは、瞬間的に膨大な魔力を得る技、SCLを有する自分だ。

 何かあったら……何があっても。

 剣となって。

 盾となって。

 彼らを護らねばならない。

 命に代えても、なんて事は今更決意し直す事でもない。プランBを推した時点で、……ある程度の覚悟はしている。

 恭也の、そんな意思は、意識は、

「っ!?」

自らを包んでいた黒い膜を割り、ついにそのキメラのような姿を闇の書の闇が現した時にまず、すぐさま役に立つ事となった。

 全員が息を呑んで、

「……砲台!? しかも、なんて数だ!?」

クロノがそんな声を上げる。

 言葉の通り、キメラのような闇の書の闇の周辺には、金属的な質感と肉のような生々しさの間をとったような素材で作られた、無数の砲台がせり出していた。

『なっ!? チャージがもう……!? ほ、砲撃、来ます!!』

 エイミィの焦った言葉とほぼ同時、全砲台の先端に光が灯り、―――間髪入れずに白い砲撃が恭也達へ向け放たれた。

「――っ!!」

 眼前を埋め尽くすような規模・量の砲撃に皆が思わず固まる中、恭也は前方へ迷い無く飛び出した。

 そしてすぐさまSCLで魔力充填、両の魅月から二発ずつ、計四発の空薬莢が排出される。

 そこから放つは、

 

 御神流奥義 花菱・夜

 

二刀による、迫りくる超多数の砲撃を上回るほどの、無数の連撃、斬撃。

 連撃奥義である花菱に影刃を乗せ放つことで無数の魔力刃を生成・射出、その場を、空間を、漆黒に染め上げる。

 青空の下、恭也の作り出した宵闇は迫った白い光、その全てを喰らい尽くし。

「…………な、……んつー…………チートだろ、もう」

 夜が去った後、響いたのは呆然としたようなヴィータの声。

「ノータイムであんなの出すって…………完っ全にチートだろお前…………」

「そう言われてもな……」

 苦笑を返すしかない恭也。

「あれだけあった砲台も、ほぼ全滅……。味方となると頼もしい事この上ないが……」

 我らはこんな奴を相手にしていたんだな……、と、シグナムも半ば呆れたように続ける。

 シグナムの言った通り、恭也の連撃に喰われ闇の書の闇の周辺にあった砲台達はそのほぼ全てが斬り潰されていた。

「チェーンバインドッ!」

「ストラグルバインドッ!」

「縛れッ! 鋼のッ、軛ッ!」

 アルフ、ユーノ、ザフィーラが残った砲台や触手たちを切り落としていく。

 その傍らで、ヴィータが己のデバイス、グラーフアインゼンを構えた。

「……よおし、ちゃんと見てろよキョーヤ! お前みたいのが相手じゃなきゃ、アタシだって、守護騎士だってなあ!! いっくぞアイゼン!!」

『Jawohl!』

「鉄槌の騎士ヴィータと! 鉄の伯爵グラーフアイゼン!」

『Gigantform!』

 グラーフアイゼンがコッキング、カートリッジを装填し、変形。ハンマーヘッドを巨大化した。

「轟天爆砕!」

 そして、ヴィータがぐるりと振り回し振りかぶれば、みるみる内にグラーフアイゼンはさらにさらに大きく、当初の数十倍の規模を誇る姿となり。

「ギガントッ、シュラーク!!」

 掛け声とともに一息に、しなり、うなりを上げて闇の書の闇へ振り下ろされる。

 豪撃と呼ぶにふさわしいその叩きつけは、威勢よく防壁、その第一層目を打ち砕いた。

「……大した破壊力だな。喰らわなくてよかったよ」

 恭也がヴィータ達を拿捕したあの戦闘で、彼女が使おうとしていたのはおそらくこれだったのだろう。その威力を目にし、恭也はそう賞賛を贈る。

「…………ど、どーせあんときやってても、おまえにゃ当たんなかっただろーよ」

 手に握るグラーフアイゼンを元の大きさに戻しつつ、ヴィータはどこか拗ねたように……照れたように返した。

「高町なのはとレイジングハート・エクセリオン! いきます!」

 足元に魔方陣を展開し、天に向け相棒を掲げるなのは。

『Load Cartridge』

 レイジングハートから響くコッキング音、その数四つ。

 計四発ものカートリッジから魔力を装填、なのはは愛杖を振り回し、そして目標に向け構えを取った。

「エクセリオン……バスター!」

『Barrel Shot』

 前振りとして、高速にして不可視の衝撃波が放たれなのはへと迫ってきた触手たちを吹き飛ばしつつ、障壁へと突き刺さり、道を作る。

「ブレイク……っ!」

 続いて、四発の高密度にして高出力の砲撃が中央を空けるようにしてやや緩やかな軌道を描きつつ、奔り。

「――シュートッ!!」

 最後に、満を持して傍目にもひしひしとその魔力の力強さが伝わってくる大規模な主砲が中央を轟音とともに迸り、第二層目の防壁を見事に撃ち抜いた。

 実に重厚な一撃を見舞ったなのはは、青空の下、

「おにいちゃあああああああんっ! 見てくれた!? 見てくれたっ!?」

満面の笑顔で恭也に手を振ってきた。

「……ああ。すごいな、見事だった」

 苦笑しつつ、そう返して。

 思う。

 ……この娘にはもう、自分の庇護なんていらないのかもしれない、と。

 生き抜く力も、輝く光も、羽ばたく翼も、この娘には既に、ちゃんとあって。

 慕ってくれてはいるが……、この娘には、自分なんてもう必要ないのかもしれない、……そんな風に思った。

「……次っ、シグナムとテスタロッサちゃん!」

「剣の騎士、シグナムが魂……炎の魔剣、レヴァンティン」

 シャマルの声に答え、闇の書の闇を挟んでなのはの対面に浮かんだシグナムが、手に握る剣、その切っ先を誇るように空へ向け、

「刃と連結刃に続く、もう一つの姿」

言って、鞘を柄尻に合わせた。鞘は光に包まれて。

『Bogenform!』

 その声が響いたときにはもう、シグナムの相棒は弓へとその姿を変えていた。

 輝く弓弦をシグナムが引けば、瞬きと共に矢がつがえられ。

「駆けよ! 隼!!」

『Sturmfalken!』

 疾風の如き鋭く、何より速い一撃が空を裂いて放たれた。

 一瞬にして闇の書の闇へ迫ったそれは、着弾と同時、爆炎を上げて三層目の防壁を鮮やかに砕き、散らせてみせた。

「弓も使えたのか……、いや、流石だな」

 恭也の呟きが風に乗って届いたのか、シグナムは顔をこちらへ向けて、

「……ま、まあ、……騎士の嗜みだ」

ヴィータ同様、少し照れたようにそう返した。

「フェイト・テスタロッサ、バルディッシュ・ザンバー……! いきます!」

 バルディッシュから、三発の空薬莢が力強く排出された。

 フェイトは体をぐるりと横に一回転させ、金色の大剣をうなりを上げて振り回す。

 それにより発生した鎌いたちは素早く真っ直ぐに突き進み、闇の書の闇に組み付くやいなや、その巨体を竜巻で囲う。

 その隙にフェイトは大剣を真上に向けて、刃に紫電を纏わせた。

「撃ち抜けっ、雷神!!」

『Jet Zamber』

 そして後ろから前へ、上から下へ、背負い投げのように肩から構えた剣を大きく振るい落とす、豪快な唐竹割り。

 バルディッシュの体もその斬撃に合わせ、大きく伸びて。

 四層目、最後の防壁をその苛烈な一撃で叩き斬り、さらに本体の左足まで豪断した。

「……よしっ、…………あ」

 凛々しい表情で己が技の結果をしっかりと見やった後、フェイトは恭也に視線を向けて、

「ええっと……その…………」

どうだったか聞きたい顔と、褒めて欲しい顔が合わさった表情を浮かべる。

 恭也は笑みを返し、素直に感想を告げた。

「迷いも淀みもブレもない、……いい太刀筋だった」

「……は、はいっ、ありがとうございます!」

 青空の下、握る剣の刃と同じ金色の髪を陽光に輝かせながら、フェイトは嬉しそうな笑顔を弾けさせた。

「……む」

 ザパン、とあちらこちらで水の跳ねる音。見ると、砲台付きの触手達が海面に次々と顔を出し、今にも砲撃を放たんとしている。

 斬るか、そう思ったが、その必要はなかった。

「盾の守護獣、ザフィーラ! 砲撃なんぞ、撃たせん!」

 吼えたザフィーラが自らの眼前に白い魔方陣を展開すると、海中から棘が現れ触手達を串刺しにしていった。

「あれは、未だにバインドとは思えんのだが」

「……守れれば、それでいい」

 その鋭さに思わずそう零した恭也へ、ザフィーラは実に渋い声で返答。

 方法なんて二の次で、守りきる事こそが何より肝要……そんな意図を感じる、恭也と思想の合致しそうな意見だった。

「…………ああ、そうだな。その通りだ」

 恭也とザフィーラは、視線を交わして頷き合った。

「はやてちゃんっ」

 送られたシャマルの声と視線に、はやては書を広げ詠唱を始める。

「彼方に来たれ、宿り木の枝。銀月の槍となりて、撃ち貫け!」

 ひゅっと手に握る十字錫杖を横に払い、その魔力を奔らせる。

 闇の書の闇の上空に黒い渦と白い魔方陣が現れ、

「石化の槍……ミストルティンッ!」

その声と掲げられた杖の振り下ろしを合図に、そこから幾本もの光の槍が放たれる。

 壮麗にして荘厳な一撃一撃、一突き一突きが闇の書の闇の体へ深く刺さり、その周辺からみるみる内に石化させていった。

 その変化に耐えられなかったらしい箇所は、脆くも崩れ去っていく。

「わたしとリインフォースも、なかなかのもんやろ?」

 書と身の丈ほどもある長い杖をまとめて抱いて、恭也へ笑顔を向けてくるはやて。

「ああ、いいコンビだ。強いし、強くなるよ」

 返答に、はやてはもう一度、にっこりと笑った。

「…………うわ、うわああ」

「なんだか……すごい事に……」

 アルフとシャマルの慄いたような声に眼下を見やれば、そこにはぐちゃぐちゃと、キメラのようなその身をさらにでたらめに変化させていく闇の書の闇。

 元から統一性はあまりなかった体だが、より一層ひどくなったと言える。

「やっぱり、並みの攻撃じゃ通じない……! ダメージを入れたそばから再生されちゃう……!」

「……だが、攻撃は通ってる! プラン変更は無しだ! ……行くぞ、デュランダル!」

 エイミィに力強く返したクロノは、右手に握るグレアム達から託されたデバイス……氷結の杖、デュランダルに声をかける。

『Ok,Boss』

「悠久なる凍土、凍てつく棺の内にて、永遠の眠りを与えよ……」

 静かで、穏やかで、しかし強い意思の篭った声の詠唱。

 応えて奔った魔力が、闇の書の闇を中心にして雪のように煌きながら海を凍らせていく。

「……凍てつけぇっ!!」

『Eternal Coffin』

 クロノの裂帛の叫びがデュランダルの声と共に響き渡り、闇の書の闇の体が冷たい氷に包まれた。

 バキンと音が鳴り、凍てつきながらもなんとか闇の書の闇は蠢かんとするが、しかしクロノの作り出した氷が、凍土が、その動きを阻害する。

「……やっぱりお前は、すごい奴だよ」

「……い、いえ……、これは、デュランダルの力ですから」

 恭也の賞賛に、少し焦ったように謙遜するクロノ。

 恭也は首を振る。

「お前とデュランダルの、だろう。見事だ」

「…………は……はい…………えと……ありがとうございます」

 クロノにしては珍しい、……歳相応と言っていい少し幼さの残る笑顔での返礼に、恭也も笑みを返した。

「…………さて、行くよ! フェイトちゃん! はやてちゃん! ……―――おにいちゃん!」

 なのはの言葉に、視線に、フェイトとはやては頷いて。

 フェイトはなのはの下方右、はやては下方左に位置を変えた。

「ああ」

 恭也も、声と共に頷きを返して。

 三人の少女が作るトライアングル、その中心に立った。

 そして二刀を前へ突き出すように構える。

「全力全開!!」

 まっすぐに、一直線に、そんな強靭な意思の篭るなのはの声が上から響いて。

「雷光一閃!!」

 美しく、深い、清廉な心の煌きを宿すフェイトの声が右から届いて。

「……ごめんな…………おやすみな…………っ……、……響けっ、終焉の笛!!」

 少しの躊躇いと、しかし確かな決意、そんな想いを秘めたはやての声が左から聞こえて。

 応えるように恭也はSCL、魅月に残った最後のカートリッジ二発を装填し、自らの少し前方へ巨大な黒い魔方陣を作り出す。

 これは元々、なのは、フェイトと共に合わせ技として考案していたものだ。はやてにも闇の書の闇が動き出す前に、既に説明と打ち合わせは済んでいる。

「スターライトオオオオオ……ッ」

「プラズマザンバアアアアア……ッ」

「ラグナロク……ッ」

 三人からそれぞれ、特大規模にして超高威力の、魔力満ち充ちる砲撃が放たれた。

 彼女達のような砲撃魔法を持たない恭也自身は、特別何かを撃ち出すわけではない。

 ただ。

 纏めるだけだ。

 彼女達の、力を、想いを。

 桜色、金色、そして白の閃光が漆黒の魔方陣へ吸い込まれるように突き刺さり。

 うねるように一束の光となって、さらに恭也の黒い魔力を外縁に纏い――

「「「ブレエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエドッ!!」」」

一振りの巨大な剣が、なのは達の叫びと共に生み出された。

 剣は間を置かず大きく上方へ振りかぶられて。

 一刀両断、豪快な垂直斬りを闇の書の闇へと浴びせた。

 青空を裂き蒼海を割る、鋭く、それでいて太く巨大な刃は闇の書の闇の体を触れ、斬った部分から瞬く間に消滅させていき。

「「「―――ブレイクッ!!!」」」

 斬り抜いた直後、その合図で衝撃波、爆炎、轟音、閃光、そんなものを周囲へ撒き散らす極大の爆発を巻き起こした。

「本体コア、露出……! …………捕まえ……った!」

 クラールヴィントの紐を輪のように眼前に構えたシャマルが、露となった闇の書の闇のコアを捕らえる。

「長距離転送っ!」

「目標、軌道上っ!」

 ユーノとアルフが逃さないとばかりにすぐさま、その上下へそれぞれの魔方陣を展開。

「「「転送!!」」」

 三人合わせて声と共に腕を振り上げ、闇の書の闇、そのコアの上部へリングを生成。

 コアはそれに引きずり出され、打ち出されるようにして上空へ飛んでいく。

『コアの転送、来ます! 転送されながら生体部品を修復中! すごい速さです……!』

『アルカンシェル! バレル展開!』

 アースラからの音声通信が響き渡る中、皆、固唾を呑んで上空を見つめる。

『ファイアリングロックシステム、オープン。命中確認後、反応前に安全距離まで退避します。準備を!』

 リンディが万感の想いを籠めつつであろう力ある声で指示を出す。

『了解!』

『了解!』

 アースラクルーの返答後、そして少しの間を置いて。

『―――アルカンシェル、発射!!』

 上空、かすかに、しかし確かに、光が瞬いた。

 皆、無言で空を見つめ続け。

「……どうなった? やった、のか……?」

 クロノが、そんな風に零した直後だった。

『――なっ!?』

 届いたのはエイミィの驚愕に揺れる声。

「どうしたっ!? エイミィ!?」

 ただならぬ様子の同僚に、焦りの含んだ声で問うクロノ。

 一拍の間を置いて、エイミィから返ってきたのは。

『め、命中したアルカンシェルが……、魔力ごと………………吸収、―――蒐集、された!?』

「っ!?」

 息を呑んだのは、この場の全員で。

 状況はさらに変化した。

『こんな、こんな…………え、な…………転送反応!? …………ど、何処へ!?』

 何処。

 それは、しかし恭也達にはすぐにわかった。

 なぜなら、今や白い光の球体と化した闇の書の闇のコアは、恭也達の眼下、元居た場所へ舞い戻ってきたのだから。

 もう一度、場の全員が息を呑んで。

「……エイミィ! コアの現状、解析は!?」

 クロノがコアを睨みつつ、鋭く指示を飛ばした。

『い、今やってる! わかった事から言ってくよ! ええっと、とにかく、そのコアに魔力攻撃は効かない! 大部分が吸収されて終わり! アルカンシェルで仕留め切れなかったから、どんな大規模砲撃でもまず不可能! コアに魔力を与えちゃうだけ!』

 早口でエイミィは続ける。

『次に、尋常じゃない回復速度と回復能力も備えてる! アルカンシェルは完全に吸収され切ったわけじゃないから多少なりダメージは通ったはずなんだけど、もう全部綺麗に回復されてる!』

「……くっ」

 苦虫を噛み潰したという表現がぴったりのクロノ。

 エイミィは続けて、

『それで、げ、現在コアは………………っ!? 大規模魔法の発動準備中――いや、これは……………………ア、アルカンシェル!?』

[Arc-en-ciel]

 エイミィの声とシンクロするように、目の前のコア、その周辺を囲うように一瞬だけ現れたリングにはそう書かれていた。

『しかも発射式じゃなく自分を中心にして……ま、まるで爆弾………………ク、クロノ君っ! 皆っ! 退避を!!』

「っ、わかった! ユーノ、アルフ、シャマル! 転送を――」

『急いで! 発射まであとっ、ええっと――』

 解析結果を待っているのであろう、焦りきったエイミィが少しの間の後、そして告げたのは、

 

『……い、ち、……びょう?』

 

 あまりに絶望的な残り時間だった。

「―――ッ」

 言葉を失い、この場の全員が退避完了するにはあまりにも時間が足りないことを理解しながらも、クロノはユーノ、アルフ、シャマルと共に転送魔法を発動させようとし。

「おおおおおおおおっ!!」

 シグナムは、ヴィータ、ザフィーラと共に、アルカンシェルの威力からすればほとんど意味などないとわかってはいても悲壮な表情で障壁を展開しようとし。

「そ、ん……」

「……あ、あ……」

「な……」

 なのは、フェイト、はやては余りの事態に固まり。

 

 そして恭也は一人、両の手に握る己がデバイスから空のマガジンを落とした。

 

 よどみない動きで、素早く、カートリッジの満ちる予備マガジンを左右それぞれの魅月へと込めて。

 脳のスイッチを切り替える。

 

 御神流奥義 神速

 

 世界がモノクロに染まって。

 恭也は、相棒へと指示を出す。

『魅月、全装填』

『…………主っ』

 神速内、念話で出された恭也の指示に魅月は反駁するも、

『魅月』

『っ、全装填……!』

有無を言わさぬ再度の声に、結局は従って。

 魅月の柄から勢いよく空薬莢が排出される。その数、右から六発、左から六発、全十二発。

 シークレットフルカートリッジロード。

 刹那にも満たない時の中、体感的には無限にすら思えるほどの量の魔力を得て。

 恭也はその全てを使い、眩体の効果を増強した。

 はち切れんばかりの魔力を滾らせた身で空を駆け、闇の書の闇のコアへ接近。

 二刀から、可能な限りの強さ、速さ、鋭さで連撃を叩き込んでいく。

 浴びせた太刀が百を超えたあたりで神速が切れかかり、迷い無く恭也は一瞬も挟まぬ完璧なタイミングで繋ぎ直す。

 二度目の神速に入り。

 恭也は、目の前の白く光る球体へ斬撃を続ける。

『主っ! わかっているのですか!? こんな、こんな事を続ければっ!』

『ああ、わかっている』

 コアは、神速の中であっても与えられたダメージをすぐさま回復、破損を修復していく。

 それを目の当たりにしながらも、恭也の心は静かだった。 

『わかっているさ。……いいんだよ』

 一秒以下の残り僅かな時間で、圧倒的で反則的な回復能力を持つコアを魔力攻撃以外の方法で破壊しなければならない。訪れた状況は、端的に言えばそういう事で。

 恐らく、これが唯一の方策。

 斬っても斬っても回復し続けると言うのならば、そのキャパシティを超えるまで、限界が訪れるまで。

 いくら続けても一瞬にも満たぬこの神速の世界で、斬り続ける。

 ―――たとえこの身が、砕けようとも。

 神速が、三回目に入った。

『と言うかな、もうほとんど手遅れだろう』

『……それを、わかっていながら……っ』

 カートリッジ十二発分もの魔力を注いだあまりにも無茶な眩体を使った時点で、肉体にはもう取り返しのつかないほどの負荷がかかっている。その上でこんな風に全開で神速内を動いているのだ、はっきり言って恭也の体はもう、皮肉にも、その眩体がかかっているからこそ形を保つ事が出来ているようなもので……。

 魔法が解けたら、既に自壊は免れないところまで来ている。

 

 御神流奥義 薙旋・千舞

 

 巻いたゼンマイが切れたとき、その身に破滅をもたらす技だ。

 それを理解しながらも、やはり恭也の心は穏やかだった。

『主……っ、貴方は……』

『魅月、……別に、俺は何も美しい自己犠牲の精神でこんな事をしているんじゃないんだ』

 猛烈な勢いで斬撃を続けながら、恭也は静かに魅月へ言葉を紡ぐ。

 過去を、思い返しながら。

 人生を、振り返りながら。

『…………なあ、魅月。俺はな、……結局、俺を愛せなかった』

『主……』

『人間としては、まあ、歪んでいたんだろうな』

 暗殺を生業とする家の生まれ。学ぶ剣の黒さ。もらえなかった母の愛。一族の潰滅。父との死別。家族や流派を護るという重圧。壊した膝。味わった挫折と絶望。

 原因を挙げればそんな所か、……もしくは、元々自分という人間はそんな風に出来ていたのか、わからないけれど。

 高町恭也は歪んでいて。

 それは結局、直せなくて。

 でも。

『でもな、魅月。……そんな俺でも、周りの人達を愛する事は出来たんだ』

 自分を、愛せなくとも。

 少し特殊とはいえ家族と言って間違いのない人達を、そう数は多くないとはいえ友人と呼ばせてもらえる人達を。

 愛することは、出来た。

『だからな、魅月。これは自己犠牲じゃない。俺のやりたい事なんだ、本望と言ったっていい。……だってそうだろう?』

 今後ろにいる、なのは、フェイト、はやて、クロノ、ユーノ、アルフ、シグナム、ヴィータ、ザフィーラ、シャマル、リインフォース。

 彼らは恭也の愛する、護りたい人達で。

『俺にとっては、俺よりも、俺の護りたい彼らの方が大切なんだ。俺の愛せない俺自身と、俺の愛する彼らを天秤にかけたら……結果は見るまでもない』

 彼らを護れるのなら。

 こんな自分の命一つ、何を惜しむ事がある?

 自己犠牲なんかじゃない。

 ただ、そうしたいだけだ。

(俺はやっぱり、……貴方の息子なんだろうな)

 似てないところは多々あるが、しかし、それでも根っこの所はやはり同じようなのかもしれない。恭也は苦笑する。

 爆弾から、その身を挺して護りたい人を護り切った父。

 息子である自分は、今、その父と実に似通った最期を迎えようとしている。

 父の最期に敬意を払っているように。

 恭也は、この自分の最期に不満なんて何一つなかった。

『……私などよりも』

 魅月は、悲しげに呟く。

『私などよりも、あの娘……リインフォースの方が、貴方の事をきっと、よくわかっていましたね』

『魅月……』

『……貴方は、主は、……そういう方なんですね』

『……ああ。すまない』

 恭也は、魅月に謝罪を口にする。

『すまない、魅月。君の主はそんな奴で…………そしてもう、君の主ではいられなくなる』

『…………』

 黙り込んだ魅月に、恭也は続ける。

『本当に、すまないな。……その上で、恥知らずに言うんだが、恥知らずを言うんだが、……二つ、頼みを聞いてくれないか?』

『…………』

 魅月はまだ無言で、恭也はそれでも続けた。

『一つ目、……伝言を、残したいんだ』

『………………このまま、念話でお話下されば、お伝え致します』

『……ありがとう』

 答えてくれた魅月に、応えてくれた魅月に礼を言って。

 恭也は伝えたい人達に、伝えるべきことを、どうか伝わってくれと願いながら、言葉を紡いで。

 終えた後、また魅月自身に対して言葉を向ける。

『二つ目は……』

『聞けません』

『……魅月』

 遮った魅月に、恭也は苦笑する。

 ああ。

 本当に、彼女はいいデバイスだ。

 自分には、もったいないくらいの。

『魅月、なあ、頼むよ』

『聞けません。聞きたくありません』

『……魅月、それでも、言うよ。…………―――どうか、俺以外の主を見つけて、そいつと一緒に生きてくれ』

『嫌です!!』

 それは、初めての言葉。

 聞き分けも察しも良く、何より忠誠心に厚い魅月が初めて恭也へ向けた、……我がまま。

『私は、私の主は! 貴方だけです! これまでも……これからも……っ! ずっと、貴方だけです!』

『……魅月』

『貴方以外の主なんて! そんな、そんなの……私は要りません! 嫌です! 私の刃は貴方に振るって頂くためにあって! 私の柄は貴方に握って頂くためにあって! 私の鞘は貴方にっ、……愛しい貴方に撫でて頂くためにあるんです!』

 そんな我がままが、やはり恭也には嬉しくて。しかし、聞いてあげるわけにもいかなくて。

『魅月、ありがとう。君と出会えてよかったよ。……短い付き合いだったが、でも、君の事を心から愛しく思っている。そんな君の最初の主であれたことを、俺は誇りに思うよ』

『…………私はっ、……私、はっ…………』

『ごめんな、魅月。ありがとう、魅月』

 こうしているうちに、もう、続けた神速の回数はのべ百五十を超え。

 体に、ほとんど感覚はない。

『…………主……、貴方は…………、これでよかったのですか……っ?』

『ああ』

 ……家族は実際の所、風芽丘を卒業したあたりからもう自分がいなくても大丈夫なようになっている。

 母、桃子の営む翠屋は順風満帆。義妹にして弟子、美由希はそろそろ完成に近く、何より美沙斗がいる。晶も巻島館長の下、空手への道を進んでくれるだろうし、レンも手術を終えて健康に、元気に過ごしている。フィアッセも遠い異国でその美しい歌声を響かせ続けていくだろう。

 そしてなのはも、もう自分がいなくても大丈夫なくらいに強くなった。

『……まあ、それなりに過酷な人生ではあったような気もするが、…………いいさ』

 そう、いい。

 よかった。

 そう言える。

『なあ魅月、いい人生だったよ。自分自身を愛せない俺が曲がりなりにも二十年、生きてこれたのは間違いなく周りのおかげで、だからやっぱり俺は、幸せ者だったと思う』

 痛みも傷も泥も血も。

 抱えて被って生きてきたけど。

 それでも、幸せに生きる愛する人達の傍に居させてもらえた自分は、幸せ者だったんじゃないかと思う。

『……いい人生だった』

 出来損ないにしては、上等の。

 いい人生だった。

 エピローグは随分とファンタジーに染まったけれど、それも楽しかった。

 そして、恭也の目の前でついにコアが、その再生を止めた。

 容赦なく恭也は斬撃を続けて。

 コアは、崩れていく。

 合わせるように、恭也を強烈な眠気が誘う。

『………………主、……………………―――主恭也』

『ああ』

 薄れていく意識の中。

『……どうか、………………どうか安らかな眠りを。我が、主よ』

『……ああ。……………………ありがとう、みつ、き…………』

『……安らかに。どうか、安らかに。優しい貴方よ、安らかに』

 粉々になったコアの前。

『…………お眠り下さい、我が、愛しい主』

 そんな魅月の言葉を、最後に聞いて。

 恭也は、深い眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 陶磁器やガラスが割れる時のような甲高い音。それが幾重にも幾重にも積み重なったような……そんな不思議な響きが聞こえて。

 今にもその魔力を迸らせ、絶望の一撃を放たんとしていたはずの白いコアが、崩れ、さらさらと風に流れて消えていく。

「おにい、ちゃん……?」

 なのはのすぐ近くにいたはずの兄、恭也は、いつの間にかその前に居て。

『コ、コア、完全崩壊…………。再生反応、ありません…………っ』

 エイミィの、半信半疑と言った調子のそんな声が届いて。

 青い空の下。

 蒼い海の上。

 白い光の前。

 黒い衣に身を包んだ兄から。

 赤い花が咲いた。

 真っ赤な、真っ赤な、大きな花だった。

 海風が、鉄の匂いを運んできて。

「――――――――――――――――――――――――――ッ!!!」

 自分の口が何事か、叫んだらしいがよくわからず、とにかくなのはは飛び出して。

 海へ落ちていく兄の下へと急ぐ。

 だって、だって。

 飛ぶなのはの顔に濡れる感触。そして匂い。

 だってそうだ、これは鉄の匂いじゃなくて。

 あれは花じゃなくて。

 兄から吹き出て、今自分の顔にかかっているのは――。

 血、で。

 自分と同様、飛び出して来たらしいフェイトとはやてと共に、兄の体を受け止めて。

 

 ぐちゃ、と。

 

 そんな音がした。

「…………え、……あ、…………え、………………え、……………………え…………?」

 人を受けとめたときに、普通、そんな音はしなくて。

 ああ、そうだ。

 目の前の光景に、自分の中の冷静な部分が悟る。

 受け止めたのは、人と言うより、人だったもの、で。

 受け止めたのは、兄と言うより、兄だったもの、で―――。

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!? あ、あああ、ああああああああ!?」

 熱くて、冷たくて。

 バリアジャケットはもう消え去っていて、血で濡れそぼった兄の服の合間から除く肌には、肌色なんてなかった。

 赤とか、ピンクとか、白とか。

 そんな色で。

 どんどんと流れていくのは、零れていくのは血にして。

 命。 

「あ、ああああああ、あ、あああああああああああ、ああああああああ……!」

 医療、緊急、準備、転送、連絡。

 そんな単語がどこからか聞こえてくる中。

 兄の体を抱きながら、なのはには何も出来なかった。

 

 

 

 

 

 

「残念ですが……」

 何を言われたのか、わからなくて。

「え、あ、の………………え?」

 一歩、なのはは後ろへ下がり。

「我々に出来る事は、なにも……。……お兄さんは、もう……」

 白衣を着込んだ総髪の男性は、沈痛な面持ちで首を振る。

「え、……え、…………え?」

 二歩、なのはは後ろへ下がり。

「……一緒に、居てあげてください。そう長くは……。……もってあと一、二時間です」

 三歩目、上手く下がれずに尻餅をついた。

 管理本局、緊急医療センター、集中治療室。

 その白い床は、この白い床は、きっと冷たいのだろうけれど、なのはにはとてもじゃないがそんな事はわからなかった。

 前に立つ男性――管理局付きの医師から視線を横にずらせば、そこには少しの丸みを帯びた細長い白い機械。傾斜をつけて置かれたそれは上半分が透明になっており内部が覗けて、……中には、横たわる兄が見える。

 治療ユニットの中、兄は身じろぎ一つしなくて。

 まるで、棺の中にでも、いるかのようで。

「嘘だ。こんなの、嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ……、嘘だ」

 なのはの後ろから聞こえる、空っぽの声はフェイトのもの。

「………………は、…………はは………………ちょお、…………い、意味が、…………わからん。だって、……こんな、…………こんな…………わたし…………」

 上擦り乾いたその声は、はやてのもの。

「僕の、僕のせいだ…………僕が…………僕が…………僕が………………」

 震える声は、クロノのもので。

「……………………―――」

 なのはは、もう、何も言えない。

 何を言えばいいのか、わからない。

 何か言ったら、どうにかなるのだろうか。

 どうにかならなかったら、どうなるのだろうか。

 なにが、どうなっているのだろうか。

 わからない。

 現状を、理解できない。

 他の者達、リンディやエイミィ、ユーノ、アルフ、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、そしてはやてと融合を解いたリインフォースも、ただただ言葉を失って。

『―――伝言が、御座います』

 そして響いたのは、魅月の声だった。

 治療ユニットの脇に置かれた彼女は、言葉を放つ。

『主より、伝言が御座います。……まず、クロノ様』

「っ!」

 振り返ったなのはの視界の中、呼ばれたクロノがびくりと震えた。

『クロノ』

「恭也、さん……」

 魅月から放たれたのは、確かに恭也の声で、恭也の言葉だった。

『クロノ、お前が今まで書の事で誰も責めてこなかったのなら、……お前もお前を責めないでやってくれ』

「っ!? で、でも……ぼ、僕は……僕が…………っ」

『こんな事にはなったが、俺が勝手にやりたくてやった事だ。本望だし自己責任だ、お前に非なんかない。前にも言った通り間が悪かっただけで、お前は必死に、一生懸命やっていた。俺はもちろんお前を責めなどしないし、……だから、頼むから、お前もお前を責めないでやってくれ』

「で、でも、でも! 僕は! 僕はっ!」

『なあ、クロノ。お前がどう思ってくれていたのかはわからないが、……お前と親しくなれて、俺は』

「ぼ、僕は……っ!」

 ここで何を言い募ったところで恭也へ届くことなどないとわかってはいるのだろうが、それでもクロノは何かを言おうとして、

『弟が出来たみたいで、楽しかったよ。ありがとう、クロノ』

「――――ッ!」

その言葉で、床に崩れ落ちた。

「……あ、…………あ、ぼ、くは…………ぼく、も………………う、ううううう…………うううううううううう!」

 頭を抱えて、クロノは唇をかみ締め、必死に涙を堪えて。

「クロ、ノ……」

「クロノ君……っ」

 リンディとエイミィが悲痛な顔で傍に寄り添った。

『次に、……はやて様と、守護騎士の皆様』

「っ、わ、わたし……わたしのせいで……っ」

『はやて、……はやても、はやて達も、クロノと同じだ。頼むから、君と君達自身の事を責めないでくれ。……いいんだよ』

「そんな! い、いいことない! いいことなんか、何もあらへん……っ!」

 引き絞るような声音で叫ぶはやてに、魅月は、恭也の伝言を続ける。

『俺は、君に悲しんでほしくて、悔やんでほしくてこうしたんじゃないんだ。……すまない、勝手な事を言ってるだろうか、どうか、頼むよ。……折角、これで家族揃って幸せに暮らせるんだ。気にしないでくれ、なんて言っても無理かもしれんが、……せめて、気に病まないでくれ。やりたい事をやっただけなんだ、だから、いいんだ』

「そん、なあ……っ!」

 言葉を無くすはやて達に、恭也の伝言はまだ続く。

『シグナム、ヴィータ、シャマルさん、ザフィーラ、そして……リインフォース。君達なら、わかってくれるだろう? 護りたい人達を護れたんだ、俺は、本望だよ』

「恭也……っ!」

「……騎士…………ッ」

 シグナムとリインフォースは険しい顔で苦しげに呟き。

「キョーヤァ……!」

「恭也、さん……」

 ヴィータとシャマルが切なく揺れる声と表情を浮かべ。

「……っ」

 ザフィーラは俯き、拳を握り締めた。

『それと……出会いがあんな形で、終わりもまあ、こんな形にはなったが……それでも、君達に会えてよかった。……俺に会えた事を君達が幸運に感じてくれたように、俺も君達に会えた事を幸運に感じる』

「…………騎士……っ、騎士…………! 私は、私は貴方に……、貴方に…………っ!」

『リインフォース、あんまり悲しい顔ばかりしているんじゃないぞ、綺麗な顔がもったいない。君には、笑顔が似合う』

「きょ、恭也、さん……っ! わ、たし……っ」

『はやて、家族と仲良くな。皆が君の傍にいる、なにも心配なんてない』

「心配とかっ……そんな…………」

『まあ、あまり駄々っ子でも駄目だが、……我がままを言って我がままを聞いて、八神家みんなで、楽しく生きていってくれると嬉しい。……じゃあな』

「―――っ」

「あ……あ……」

 結ばれたそんな言葉に、崩れかかったはやてとリインフォースを、ヴィータとシグナムがそれぞれやり切れない表情で支えた。

『続いて、……お弟子様。フェイト様』

「…………嘘、嘘……こんなの……嘘だ…………」

 身じろぎ一つせず、空ろな表情のフェイトは呟き続ける。

『フェイト。……すまないな、もう、君に指南する事は出来なくなった。本当に、すまない』

「嘘……嘘……嘘……嘘、だ」

『無責任な師匠で悪いが……鍛錬自体は、君に渡してある指導書があれば何とかなるとは思う。もしわからない事があったら、その時は遠慮なく美由希を頼ってくれ。君の力になってくれるはずだから』

「………………」

 言葉を止めたフェイトは、彫像のように微動だにしない。

『なあ、フェイト。君は強くなったし、もっともっと強くなる。それをこの眼ではもう見られないが、しかし、何も心配などしていない。君がこれから翼を広げて羽ばたいて、遥かな高みに辿り着く事は、俺にとっては疑うべくも無い。力も、技も、心も、君はもっともっと強くなる。……そして」

「………………っ……」

 その表情を、感情を、大きく揺らせながらも、しかしフェイトは頑なに固まり続ける。

 動いてしまえば何かが終わってしまうとでも言うかのように。

『断言するよ、フェイト。君はその腕に胸に、一杯の愛を手に入れられる。大丈夫、君の未来は明るい。光輝く世界を、時を、これからを、君は生きていける』

「…………っ、……っ、っ」

 息を呑み、瞳を揺らし、それでもフェイトは停止を選ぶ。

『フェイト、……ありがとう』

「っ!」

『一時とはいえ君に指南できた事を、君の師であれた事を、俺は心から誇りに思う。ありがとう。……前にも後ろにも行き場のない、道の無い俺のこの力が、君の進む先を少しでも切り開けた事を、俺は誇りに、そして何より嬉しく思うよ。ありがとう』

「――っ!」

 ついにフェイトは俯いていたその顔を上げ、横たわる恭也へ視線を向けて。

「……う、…………あ、………………あ……」

 動かない恭也を視界に捉え。

『君のこれからに、幸多からん事を祈っている。愛しい人達と、手を繋いで、幸せに生きてくれ。……本当に、君に会えて師になれて、本当に、よかった。ありがとう、フェイト』

「あ…………あ…………あ、……あ」

『さよなら、フェイト』

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」

 頭を抱え、その金色の髪を振り乱し、床にうずくまりフェイトは叫ぶ。吼える。

「嘘だあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! こんなの!! こんなのっ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!!」

「フェイト……ッ」

 駆け寄り抱きしめたアルフの服へすがりつき、胸に顔を埋めながらフェイトは叫び続ける。

「嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! 嘘だ!! う、あああ、ああああああああああああああああああああああ!!」

 狂ったように、しかし決して狂えずに、現実を理解してしまったからこそ、

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」

フェイトは涙と共に叫び続けた。

「……――――っ!! ――――っ!!」

 やがて、喉がつぶれ、声が嗄れたのか。

 同じく涙を零すアルフの腕の中、フェイトの叫びはその音量だけは下がっていき。

『最後に…………妹様。なのは様』

「……っ!」

 そして、なのはの番が来て。

『なのは』

「聞きたくないっ!!」

 しかし、なのははそれを遮る。

「嫌だ!! 嫌だ嫌だ嫌だ!! 聞きたくない!! 聞きたくない聞きたくないっ!! だって、だってこんなの!!」

 そうだ、こんなの。

「伝言じゃ、ないよ!! 伝言じゃない!! こんなの、こんなの……………………っ、遺言、だよ……っ!」

 それは、最後に残す言葉で。遺す言葉で。

 思ってしまう。

 それを聞き終わってしまったら、本当に、決定的に。

 兄は。

 兄には。

 もう。

『なのは、まず……家の皆によろしく頼む。勝手に、先に逝ってすまないと、……それから、あの家で生きて、愛する人達の傍で生きられて、俺は幸せ者だったと、ありがとうと伝えてくれ』

 一瞬の逡巡の後に、魅月は恭也の言葉の再生を続けた。

「う、ああ、う、…………」

『そして、―――なのは』

「う、ああああああ…………」

『約束してくれるか? ……なんて事は、後出しになってしまうから言えないな。だから、お願いだ。俺からの、お前への、身勝手な願いだ。聞いてくれないか? 叶えてくれないか?』

「…………っ」

 予感が走った。

 兄が、何を言おうとしているのか、予想がついて。

『俺が死んでも、泣かない事』

「――っ!!」

 そして、やはり、ああ、……当たってしまって。

 それは、その言葉は。

 聞き覚えが、あった。

『俺は、いつだって明るくて、幸せそうに暮らしているなのはが、好きだから』

 いつか、母が話してくれた、父がその命を散らす前に、母と交わした約束。

『だから、お願いだ。俺が居ても居なくても……ずっと笑って、幸せに暮らしてくれ』

 それを今、お願いという形で、兄は自分に告げて。

『そうしたら俺は、……安心して、眠れるから』

「お、にい、ちゃ…………」

 

『愛しているよ、なのは』

 

 最後に結ばれたそんな言葉に、なのはは弾かれたように立ち上がり、兄の横たわるユニット、その透明な蓋に手をついて。

「おにいちゃああああああああああああああああああああああああああああんっ!!」

 叫ぶ。

「好きなの! 大好きなの!! 愛してるのっ!! わた、しはっ、わたし、はっ、おにいちゃんの……こと、が……っ、世界の誰より、好き、で……っ! ……愛しててっ!!」

 思いの丈を、血を吐くように叫ぶ。

「だからっ、無理だよおっ!! そんなの無理だよおおおっ!! おにいちゃんが居なくなっちゃったら!! 幸せになんかなれないよっ!!」

 自分の幸せは、何より、大好きな大好きな、愛しいこの人の傍にいる事で。

 それが叶わないのなら、そもそも一体どういう風に生きていけばいいのか、それすらわからない。

 息の仕方すら。

 わからなくなる。

「おにいちゃんさえ居てくれたら!! もう何にもいらないよお!! それだけでっ、それだけでいい!! だから、だからっ! おにいちゃん!! おにいちゃんっ!!」

 時々意地悪で、自分をからかうけれど。

「おにいちゃん!! おにいちゃん!! おにいちゃんっ!!」

 それでもなのはが声をかけて、手を伸ばし、温もりを求めれば、いつだって応えてくれたその人は。

「……おにい、……ちゃん…………っ!」

 必死に叫ぶなのはの前、ただただ、黙して、動かず、―――冷たくなっていく。

「……あ、…………あ、あ」

 それを見て、現実がどんどん頭と心に入ってきて。

『……いい人生だったと』

 魅月が魅月の言葉で、なのはに声をかけてきて。

『いい人生だったと、主は、最期におっしゃっておりました』

「…………………………………………………………………そっ、か。あ、はは……」

 なのはは、笑顔を浮かべた。

「そっか。……うん、私、も、だよ。幸せで、……いい、人生だったよ。おにいちゃんの傍に居られて、本当に、幸せだったよ。あ、はは、ははは」

『なのは様……』

 幸せだった、本当に。

 本当に。

「ね、おにいちゃん……」

 だからなのはは、笑って。

「わたしも、一緒にいくよ」

 素早く手にレイジングハートを展開し、その先端を自らの左こめかみに押し当てた。

「ディバイン…………」

『なのは様!』

『No! Master!』

 魅月、そしてレイジングハートが声を上げ。

「なのはさんっ!」

「なのはっ!」

 リンディが飛びつくようになのはを押さえ、ユーノがその手からレイジングハートをむしり取った。

「離してっ! 離してえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!!」

 二人に押さえ込まれながらも、なのはは暴れ、叫ぶ。

「意味ないよ! なんの意味もないよ! おにいちゃんのいない世界なんて! なんの意味もないよ!! 一秒だって居たくないよ!!」

 だから、離して。離せ。

 ここから先、なのはは自分が何を叫んで、どんな事したのか、おぼろげな認識しかできなくなって。

 とにかく叫んで暴れてのたうち回って。

 止める周囲の人間達に、おそらく。

 方法があるのなら言ってみろと。

 兄を助ける方法があるのなら言ってみろと、ないのだったら邪魔するなと、そんな言葉を吐いたのだろう。

 

「―――方法なら……、ある」

 

 そして、場に響いたのは、そんな声。

 やけに、鮮明に聞こえた。

「方法なら、ある」

 再度の言葉に、なのはは声のした、……ドアの方へと視線を向けて。

「……辛い、選択にはなるが…………」

 そこにいたのは、そう言ったのは、何人かの局員達に連れ添われながら二匹の使い魔と共に険しい顔を、苦しげな顔をした、グレアムだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 無機質な部屋の中央、治療用の白い衣服を着込んだ兄の身体がふわりと宙に舞い上がって。

「凍て、つけ……っ」

『Eternal Coffin』

 クロノとデュランダルのそんな声とともに、白い魔力が浮かぶその身の周囲に奔り。

 兄は、あっという間に氷漬けになった。

 宙に浮かんだ、中心に兄の眠る一辺三メートル程の大きさを持つ正方形のその氷解をすぐさま周囲の局員達が注意深く降ろし、下方に設置された銀の台座の上へと乗せる。

 そして、氷解はその上から透明なケースで囲われて。

 これで完全に、兄に触れる事は出来なくなった。

「………………っ…………うっ………………くっ、……う…………っ」

 零れそうになる涙を必死に抑え込み、嗚咽を押し込みながら、なのはは凍った兄の前、手にレイジングハートを構える。

「恭也…………さん…………っ」

「こ…………んな…………こんな…………っ」

 なのはの両隣には、同じように己がデバイスを構えるフェイトとはやての姿がある。

 二人は、その瞳から涙を溢れさせていて。

 しかし、なのはは抑え切る。唇をかみ締め、時折まぶたを硬く硬く瞑り、流れかける涙をそれこそ死ぬ気で抑え込む。

「……それでは、魔力の充填を」

 グレアムの指示になのは達は前方、銀の台座にはめ込まれた青いコアへ、展開した魔法陣とデバイスを介して魔力を送り込んでいく。

 

 "デュランダルによる凍結を利用した特殊治療"

 

 グレアムが恭也の命を助ける方法として示したのは、そんなものだった。

 氷結の杖デュランダルによって、恭也の身体を完全凍結の状態に置く。その身に流れる時を止め、もってあと一、二時間だった命をそうして長らえる。

 そしてその間に、この銀の台座が内部にセットされた魅月を仲介し、凍った恭也の身に身体修復魔法を送り込み、治療を行うのだ。

 元々、この銀の台座はこの治療のために作られた代物ではなくただの遠隔魔法発動装置だったらしいが、あの戦闘をモニターし恭也の惨状を見たグレアムがリーゼ達ともに局内を駆けずり回って準備し、調整したらしい。

 その機能から恭也と強くリンクする性質を持つ魅月が仲介となり、その上その魅月が身体強化を非常に得意とするデバイスであったからこそできる荒業であり。

 凍結という老化や代謝の一切をも止める状態に置きながらも回復だけはさせるという矛盾を、凍結魔法継続中にまれに起こる僅かな揺らぎ、凍結が解けたとは、溶けたとは決して言えないような微小時間の空白にねじ込むようにして少しずつ少しずつ身体修復魔法を送る事で踏み越える裏技であり。

 奇跡のような手法ではあって。

 

 しかし、この奇跡は万能ではなかった。

 

―――長い時を必要とする。

 グレアムは、そう言った。

 一年か、五年か、十年か、もっとか。

 何年かかるかわからないが、とにかく、何年もかかると。

 まれにしか来ないチャンスに僅かずつしか身体修復魔法を送る事ができないゆえに、それは避けようがなかった。

 これから、長い時が過ぎ。

 周りが、年を重ねて。

 なのはも、歳を重ねるけれど。

 凍った兄は二十歳のまま止まり、眠り続けるのだ。

「魔力充填率…………20%…………40%…………」

 技術局員のカウントを聞きながら、なのはは胸の中、思う。

 誓う。

「…………っ、……………………っ、……!」

 泣かないと、泣くものか、と。兄がいつか起きるその時まで、決して泣くものか、と。

 だって、それが兄の願いだから。そしてそれは、自分が叶えてあげられる唯一の願いだから。

 それしか叶えてあげられないから。

 笑う事も、幸せになる事も、出来るわけがない。だからせめて、泣かない事は、守ってみせる。

「60%…………」

「…………っ」

 噛み締めた唇が破れたのだろう、口の中、血の味が広がる。それでもなのはは力を緩めない。

 血は唇から溢れ、顎を伝って流れ、なのはの白い服を赤く汚していく。

 涙の代わりに血を流し、震えながら、ひどく冷え切った心の一部分で。

 なのはは、胸に刻む。

 弱さは、罪で。

 いずれ、罰が下って。

 一番大切なものを、傷つける事になるんだと。

「80%…………」

 優しい気持ちに守られて、きっとずっと、甘えていた。

 その結果が、これだった。

 強くなる。兄を守れるくらいに強くなる。

 あの日、病室で誓ったその想いは守れなかった。少なくとも、間に合わなかった。

 結局自分は弱いままで。

 その罪に下った罰は、自分でなく兄を傷つけた。

「100%……稼動、開始します」

 ヒイインと笛が鳴るような高い音が響いて、台座のコアに籠めた魔力が奔り始めたのを感じる。

「……………………っ!」

 前方、無言のクロノの肩が震えている。

「こんな…………こんなん…………何でや………………わ、たし…………」

 隣では、はやてが呆然と立ち尽くし。

「恭也……、さ……、ん…………っ! う、うううううううううううう…………っ! うあああああああああああああああああああああ……っ!」

 反対側で、フェイトが床に崩れ落ちた。

「…………っ、っ……!」

 なのはは、涙をこらえ続ける瞳で、ただ前を見据える。

 氷の中、眠る兄を見つめる。 

 ああ。

 ああ……。

 

 

 

 訓練は毎日欠かさず行って、着実に堅実に確実に、一歩一歩、前へ進んでいたはずだった。

 

 実践も実戦も経験を積んで、確かな力を掴んできたはずだった。

 

 少し、強くなれたと思っていたんだ。

 

 だけど。

 

 だけど。

 

 この手はこんなに小さくて。

 

 自分は無力で。

 

 なんにもできない。

 

 運命を撃ち抜けない魔法なんて。

 

 なんにもならない。

 

 そう。

 

 そうだ。

 

 

 

 

 

――守りたいもの、ありますか?

 

 

 

 

――守りたいもの、あったんだ。

 

 

 

 

――守りたいもの、あったのに。

 

 

 

 

――守られる、ばかりで。

 

 

 

 

「………………私……っ、は…………っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――守れなかったんだ。

 

Magical youth lyrical Kyouya Joker is over.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued Magical youth lyrical Kyouya Triangle.




 この終わり方は最初から決まっていたものです。

 恭也さんは、管理局の裏に精通した特殊な魔導師なわけではありませんし、彼の相棒となるデバイス魅月も、封じられた超強力な機能を持つ伝説のロストロギアなわけではありません。

 そんな彼らがリリカルなのはA'sの物語に介入したとして、全ての悲劇を完璧に回避させ見事に大団円を呼びこむ……なんて、果たしてそんな風に都合良くいくだろうか? そう考えて、僕の中ではその答えは否になりました。

 原作ではリインフォースが消え去ってしまうところを、そうはならず代わりに恭也さんが永くはないが長い眠りにつく……、魔法青年リリカル恭也Jokerはこの結末を前提にして書かれました。

 単純な生き残った人数で言えば事態は好転したわけですが、しかし、特になのは視点で最後を書いた事もあり、エグい終わり方かなあと思います。自分で読みなおしてテンションが下がって若干具合が悪くなりました。
 
 リリカル恭也Jokerはこれで終わりですが、リリカル恭也シリーズはまだ続きます。

 ハッピーエンドが大好きなので、そこへちゃんと繋げたいなあと思います。

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