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この話から、魔法青年リリカル恭也Triangleという新しいシリーズになります。章は分けましたが、話数はJokerからの通算です。
第13話 幸せ
どうかな、おにいちゃん。
母の用意してくれた桜色の着物を身にまとい、そう聞いた自分に。
「馬子にも衣装、と言ったところか……」
いつもどおりの無表情からは、そんな答えが返ってきて。
ひどいよ、と、少しむくれて見せると、
「悪い悪い、……似合ってるよ」
兄は、今度は微笑と共にそう言ってくれた。
嬉しくて、抱きつくと。
その大きな、硬いけど温かい、何より優しい手で兄は髪を撫でてくれた。
その手と、自分の小さな手を繋いで。
同じように晴れ着を着込んだ家族みんなと、にぎやかに家を出て、なじみの八束神社へ初詣に向かう。
街中を歩き、ほどなくしてたどり着いた山の麓から石段を登る。
慣れない着物と履物に少し苦戦する自分を、手を繋いだ兄は優しく引いてくれて。
石段の数は決して少なくなかったけれど、それでもあっという間に迫る鳥居に、もう少し多くてもいいのにと自分勝手な不満を胸の内零してしまった。
人で賑わう境内に入り、拝殿の前、手を合わせ。
二つの願い事を心の中で口にする。
一つ目は、家族と友達、みんなが幸せでありますように。
二つ目は。
二つ目、は……。
「……もういいのか、なのは」
瞑っていた目を開き、掲げ合わせていた手を下ろした自分に、隣の兄がそう問うてくる。
うん、となのはが頷くと、
「そうか」
言って兄は手を差し出してくれた。
笑顔でそれをぎゅっと握って。
相変わらずにぎやかな家族達と、おみくじを引いたり、甘酒を飲んだり、写真を撮ったりして、初詣を満喫し。
神社を後にした。
手を繋いだままの兄と一緒に、長くて、でもやっぱり短い石段を下り、行きと同じ道をたどって家の前に着く。
他の家族達はもう中に入っていて。
当然のように続こうと歩みを進め、門をくぐる、その寸前。
するりと、なのはの手の内から温もりが抜けた。
振り返って。
おにいちゃん? と、その足を止め、自分の手を離した兄へなのはが問いかけると。
「……俺は、ここまでだ」
優しげな表情と首を振る仕草と共に、そんな言葉が返ってきた。
どういうことか、わからなくて。
手を伸ばして。
背筋が凍った。
だって、――届かなかったのだ。
透明な、壁のような何かに阻まれて、微笑む兄になのはの手は届かない。
どうして、どうして?
ばん、ばん、と、それを叩いてみても、びくともしない。
おにいちゃん、おにいちゃん! そう叫んでも、兄は微笑んだまま、また首を振った。
「さよならだ、なのは」
そんな言葉を放つ兄の身はいつの間にか、漆黒の軍服じみた衣服……彼のバリアジャケットに包まれていて。
「元気でな」
叫ぶなのはに背を向けて、兄はどこかへ歩き出す。
なんで?
嫌だよ!
待って!!
なんで、なんで……、混乱するなのはは自分の愛杖を展開し、兄に当たらないように角度をつけ、阻み隔たる邪魔な壁へ。
力一杯の魔法を放つ。
奔った桜色の閃光は、轟音と共に着弾して、しかし。
突き抜けず。
撃ち抜けず。
なのはと兄の間、壁は在り続けた。
おにいちゃん待って!
お願いっ、待ってよお!!
行かないで!!
叫びながら魔法を撃ち続けるも。
壁は破れず。
兄は止まらず。
自分は、無力で。
何も、出来はしないまま。
待って!
待って!!
置いていかないでっ!!
いやだよ、こんなのっ!!
声を上げても、足掻いても、何もならず。
泣き叫ぶなのはの視界から、兄の姿は消え去って――。
「……ん」
差し込む日射しに、目を開く。
朝、か。
理解して、なのははベッドの上、身を起き上がらせた。
時計を見れば、六時四十分。どうやら目覚ましが鳴る前に起きたらしい。
「…………」
目を伏せて、今しがた見た夢を思い出す。
もう何度見たかわからない夢を思い出す。
無力な自分が大切なものを手から零す、そんな夢を、思い出す。
それは、夢だけど、夢でもなんでもなくて。
「………………着替えなきゃ」
誰にとも無くそう一人ごち、ぎしりとスプリングを軋ませてなのははベッドから下りた。
寝巻きを脱いで。
ふと、部屋の隅にある鏡を見やる。
そこに写るのは、なんという事も無い、今の自分の姿。
あの夢の自分よりも、背も髪もずいぶんと伸びた姿。
壁際にかかった聖祥大学附属中学校の制服を手に取り、着替えて。
十二月の冷えた空気に少し身震いしながら、なのはは部屋を出た。
「ああバカそれは年末年始用に買い込んだやつだよ使うんじゃねえぶっ殺すぞウスノロ亀…………あ、なのちゃん、おはよー!」
「やったら紛らわしいとこ置いとくなやっちゅうかお前この前うちの作った秘伝のタレ勝手に…………お、なのちゃん、おはよう!」
「うん、おはよう」
一階に下り、顔を洗って髪を整えリビングに向かうと、隣のキッチンには朝から賑やかに喧嘩しつつ料理をしている姉的存在二人の姿。
「なのちゃん、これ、お弁当ね」
近寄ると、晶から可愛らしいデザインの布で包まれた弁当箱を手渡された。受け取り、礼を言う。
「あ、うん、ありがとう晶ちゃん」
「ちゅうかなのちゃん、今日はもう終業式やろ? お弁当いるんやっけ?」
「午前中までは普通に授業があって、その後に終業式だから」
スタイルのいい高身長に艶やかで長い髪と、そういえばもしかしたら自分以上にあの夢の頃からは外見が変わったかもしれないレンにそう答えると、
「おお、そかそか。むう……お嬢様学校は勤勉や」
怠惰な大学生とはちゃうなあと、苦笑しながら彼女は言った。
晶とレン、二人は揃って海鳴大学生だ。
「おはよー」
玄関から声、ほどなくしてリビングに母、桃子が入ってきた。翠屋の開店準備をしていたのだろう、一仕事終えた感がある笑顔を浮かべている。
「おはよう、お母さん」
「あ、おはようございます桃子さん」
「おはようございます、朝御飯できてますよー」
「ありがとー!」
なのはも支度を手伝い、そしてテーブルに付き、四人で朝食を食べ始める。
「そういえば、美由希ちゃんそろそろ帰ってくるんですよね?」
なのはの対面、晶が言った。
「うん、年明け前には美沙斗さんと一緒にこっちに戻ってくるってさ」
魚を綺麗に骨と身に分けながら、答える桃子。
「香港警防隊で短期講習でしたっけ? すごいですなー美由希ちゃん」
湯気立つ湯のみを手に、レンが心底感心したように零した。
正確には従兄弟であるところの姉――美由希は去年御神流の皆伝を受け、今は基本的には翠屋を支えつつ、なのはから見れば叔母である彼女の実母、美沙斗の仕事を時折手伝っている。
「なのはも、年末年始はお仕事入ってないのよね?」
「うん。よっぽどな緊急出動でもかからない限りは、のんびりできるよ」
「フェイトちゃんとかはやてちゃんもそやったっけ? ご一緒できそ?」
「てかハラオウン家と八神家ご一行、みんな集まれっかな?」
レンと晶のそんな問いに、
「うん、フェイトちゃんとはやてちゃんは大丈夫なはず。他のみんなは……どうだろう、今日あたり二人に聞いてみるね」
そう、答えつつも。
わざわざ聞くまでもないことだとは思う。おそらくは、皆、集まるだろうから。どんな予定があったって、こじ開けて、こじ空けて、来るだろうから。
だってそれがあの日、あの後、涙を流し声を震わせただただ謝罪する彼らに、母が出した条件だから。
12月30日。
毎年その日は絶対に、悲しい顔をしないで、皆で、この家に集まって笑って騒ぐこと。
それが、母が彼らに出した条件。彼らの謝罪を受け入れる、そのために出した唯一の条件。
"あの子は、貴方達にそんな顔して欲しかったんじゃなかったはずよ。だから、ね?"
瞳から一粒、二粒、雫を落として。
穏やかに微笑みを浮かべながら、母はそう言って。
すぐ隣にいた自分にしか聞こえないくらいの声量で、小さく、――まったく似た者父子なんだから、と、そう呟いていたのをよく覚えている。
「来てもらえるんだったらなっかなかの大人数になるからなあ。がっつり腕振るわないと!」
「いやいやあんたは脇役料理をちまちま作っとったらええねん。メインディッシュはうちが華麗に用意するんやからな」
「ああん? 日本の年末なんだから高町家和食担当ことこの城島晶様本領発揮デーに決まってんじゃねえか、胡散臭い関西チャイニーズは引っ込んでろ」
「おおいそれは関西を馬鹿にしてるんか中国を馬鹿にしてるんかまあどちらにしてもぶち殺すぞ。ちゅうかな、男だか女だかわからん生命体の料理なんて皆どんな顔して食うたらええんかわからんやろ」
「料理人の性別なんてどっちでもいいだろうが!」
「どっちでもええんやろうけどどっちだかわからんのはなんか嫌やろ」
「てめえなあちょっと背とか………………胸、とか、でかくなったからって調子乗ってんじゃねえぞ!」
「ちょっとお? ちょっとやないやろ、見よっ、このダイナマイトバディ! セクシーレンちゃん! これ見たらおししょもさぞ驚」
「っ、おま……っ」
「あ……っ、や、…………その」
相変わらずの軽口の応酬が、そんなふうにして止まった。
晶とレンは、気まずそうに眼を伏せぎみにして。
「……うん、そうだね」
なのはは、二人に微笑んで言う。
「おにいちゃん、今のレンちゃん見たらきっと驚くよ」
「そ、……そかな」
「うん。はやてちゃんを指さして、"俺の知ってるレンと言うのはこういう……"とか言うかも」
「……うわ、師匠それ言いそうだなあ」
「あの子、そういうこと真顔で言うのよねえ」
桃子が苦笑しながら晶に続いた。
「それじゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃいなのちゃん」
「気ぃつけてなあ」
サイドアップにまとめた栗色の長い髪を揺らしながら、通学鞄を手に玄関から出て行ったなのはを見送って、
「……おい亀」
「…………わかっとるわ。…………悪かった」
その姿が完全に見えなくなったところで、低い声で言った晶にレンは素直に非を認めた。
別に、あの人の事がタブーなわけではないけれど。
それでも、なのはの前では決して迂闊に口に出していいわけでもない。
やってもうたなあと、レンは心の中自責の念を浮かべた。
「……わかってんならいいけどよ」
なんだかんだ付き合いが長いゆえにレンの反省の深さを感じ取ったのだろう、晶もそれ以上は責めてこなかった。
流れた少しの沈黙の後、
「でもよお…………、改めて思うけど、―――奇跡だよな」
目を細めなのはの出て行った門を見つめがら、晶は言った。
そんな少し唐突な言葉に、しかしレンも頷き返す。
「……そやな」
そう。
奇跡なんだ。
「なのちゃん、……笑っとるもんなあ」
今では珍しくもなくなった、なのはの笑顔。
それがあるのは、間違いなく奇跡だった。
「それこそ、あの後半年間ぐらいは…………」
「……ああ」
後半を略したレンの言葉に、晶は同意の声を上げ、顔を伏せた。
レンも、眼を伏せて。
思い返す。
生気のない表情。抑揚の消えた口調。投げやりな挙作。
それでも、その眼だけは寒気がするくらいに爛々と、暗くて眩しく強くて怪しい、闇を纏った光を放って。
とてもじゃないけれど見ていられなくて、でも、とてもじゃないけれど眼を離す事もできなかった。
「ちゅうか、……こう言うのもなんやけど、笑えるようになった事どころか…………なのちゃんが……その……」
「……大怪我一つ負わずに生きてんのだって、奇跡だよな」
「……せや」
あの頃のなのはは、危うさの塊みたいなものだった。
いつ死んでしまってもおかしくないと言うよりは、生きている事が不思議なくらいの。
「……今日だって、休息日やからってちゃんと朝練やらんかったもんな」
「ああ」
あの日の後、晶とレンも管理局や魔法ついては教えてもらったが、それでもやはり門外漢ではあって。
しかしその自分達から見ても、あの頃のなのはが行っていた訓練、鍛錬は常軌を逸していたように思う。
その身を省みず、むしろ自らで自らを罰するかのように、眼を覆いたくなるような無茶を繰り返して。
破滅へ向かって一直線、そんな言葉がぴったりだった。
「なさっけねえ事によお、あん時はやっぱ思っちまった。……師匠が居てくれたらなって」
晶が下を向いたまま言った。
「……師匠が居なくならなかったらそもそもなのちゃんはああなる事もなかったわけで、だからありえねえ仮定ではあるんだけど、……でももしあん時師匠が居てくれたなら、なのちゃんをちゃんと支えて、包んで、守ったろうなって」
「……せやな、間違いない」
居なくなって、改めて。
桃子が高町家の大黒柱だと言うのなら、あの人は屋根だったんだとレンは思った、痛感した。
激しい風からも、冷たい雨からも、硬い雹からも、重い雪からも、恐ろしい雷からも、……たとえ天から鋭い槍が降ろうとも、あの人はその全てを弾いて中に居る家族を守ってくれて。
自分達の誇らしい師は、あの人は、そういう人で。
「……次の誕生日が来たら、俺、師匠と同い年になるけどさ」
「あー……そか、そやな。うちはまだ一個差があるけど、お前は、そうか……」
「ああ。でも、…………あの域に達せてる気はしねえ」
「そりゃ当たり前やろ、うちかて無理や。……そもそも、おししょは昔っから、……それこそうちらがあの人に会った頃からそういう人やったやろ」
「……まあ、そうだな」
ため息ひとつ、晶は吐いて、
「しっかし、……あれだよな。玄関に居て、こういう話してると思い出すな」
周りをちらりと見渡しながら、少し口調を変えて言った。レンも苦笑して頷く。
「せやなあ。いやはや、ほんまにうちらはヴィータちゃんはもちろん、……フェイトちゃんにも足向けて寝られへんよな」
「だな」
晶も苦笑を浮かべた。
「もう結構経つけど未だに昨日のことように思い出せるぜ、N&F顔面ボコボコ事件」
「別嬪二人が揃ってあれやったからなあ、強烈やったな」
「"この娘が馬鹿だから殴りました"ってなあ」
「……うちらには、出来んかった事や。ほんま、何度礼言ったって言い足りんわ」
「違いねえ。……年末、ハラオウン家と八神家がうち来てくれたらやっぱご馳走振るまわねえとな」
「ああ、うちの作ったご馳走な」
「馬鹿言え、俺のだ」
ど付き合いながら、あの娘達の好みのメニューはなんだったかと記憶を掘り返しつつ、レンと晶はリビングに戻った。
「ねえフェイト、貴方はお人形よ。あの娘にはならなかった、あの娘の代わりにもならなかった、ただのお人形」
(ごめんね、母さん)
「失敗作よ。不用品よ」
(ごめんね。……でも)
「ずっとずっと、私は貴方が大嫌いだったわ」
(私はやっぱり貴方が好きだったよ。……今でも、愛してる)
「お人形、失敗作、いらない子。ねえ、わかっている?」
(…………ごめんね、母さん。―――わかってないよ)
「そんな貴方が誰かに愛される事なんて、あるはずないって」
(ごめんね、母さん。あるんだって思ってる)
「ねえ、ちゃんとわかっているの? 貴方を作った私すら、貴方を愛する事なんてとてもじゃないけどできやしなかった。なのに……」
(貴方には、愛してもらえなかったけど)
「それでもまだ誰かに愛してもらえるなんて、本気で思っているの?」
(うん、思っているよ)
「ねえ、わかっているんでしょう?」
(ううん、全然わかんないや)
「今は傍にいる人間達も、時が経てばいずれ離れていくわ」
(今は少し、離れてしまったけど、でも、言ってくれた人が居たから)
「だって彼らは、――人間だもの。お人形の貴方とは違って」
(大好きな人が、愛しい人が、言ってくれたから)
「貴方は、お人形として遊んではもらえても」
(まともじゃなくてもおかしくてもちがっていても、いいよって)
「人間として愛される事なんてないわ」
愛しいよって、言ってくれたから。
閉めたカーテンから溢れる朝の日差しに照らされながら、ベッドの上、胸の中、フェイトは呟いた。
「……んんっ」
身体を起き上がらせ、軽く腕を伸ばして、ストレッチ。
うん、いい朝だ。
そう思いながら、柔らかいベッドから降りる。
まあ、悪夢は見たかもしれないけれど。
「おはようございます、プレシア母さん、アリシア」
ベッドサイド、ケースに入れて立ててある写真へ微笑みつつ挨拶する。
悪夢は、見たかもしれないけれど。
だけど、恐れない。
だって。
だって。
母と姉の写真の隣、同じく立ててあるケースの中、幼い自分と手を繋いで精悍な顔つきに僅かな笑みを浮かべた男性を見やる。
そう、だって。
「おはようございます、―――恭也さん」
この人が、あの夜、抱き締めてくれたから。
話す事も、触れる事も出来ない寂しさに押し潰されそうにはなるけれど。
それでもあの記憶が、熱が、喜びが、この心にある限り、自分は決して過去に呑まれず、影に竦まず、闇に怯えない。
愛しいその名前を、姿を、今日も胸に眼に焼き付けて。
フェイト・T・ハラオウンは聖祥大学附属中学校の制服に着替え、部屋を出た。
「おはよう、フェイト」
「……おはよう。……びっくりした、珍しいね」
身支度を整え、リビングへ向かうとそこにいたのは言った通りに珍しい姿。
「クロノが朝からここにいるなんて」
クロノ・ハラオウン。自分の義兄にして、時空管理局提督である多忙な人だ。
ここ、海鳴市のマンションに顔を見せるのは月に一回あればいい方。ましてや朝から居るなんて、本当に珍しい。
「まあな」
苦笑するクロノ。
「何かあったの?」
「いや……なんというか……」
「……?」
歯切れの悪い彼の反応に首をひねっていると、
「それがねえ、うふふふ」
「あ、母さん。おはようございます」
「うん、おはよう。ねえフェイト、お兄ちゃんからなんだか大事なお話があるみたいよ、聞いてあげてちょうだい」
なにやら上機嫌な義母、リンディ・ハラオウンがエプロン姿でキッチンからこちらへ歩み寄って来て、そう言った。
「大事なお話?」
「ま、……まあな」
クロノに視線を向けると、彼は少し困ったような……照れたような顔をした。
促され、木製テーブル、彼の対面に座ると、
「……その、エイミィとな」
非常に言いづらそうな、そんな口調で紡がれ始めた言葉だったが、……そこまで聞いただけでピンときた。
テーブルの隣、リンディは立ったままでにこにこと嬉しそうな笑みを浮かべていて。
自分の予想が当たっていることを確信しながら、フェイトは言葉の続きを待った。
果たして、
「まあ、なんと言うか…………結婚を前提に交際していてな。それを、一応、伝えておこうと思って」
やはり、予想は当たっていた。
「……そうなんだ、うん」
フェイトは嬉しいという気持ちをそのまま笑顔にのせる。
「二人とも、すっごくお似合いだよ。よかった」
「……そうか?」
「うん、幸せにね」
「……ああ、ありがとう」
真面目で誠実な義兄と陽気で優しいエイミィは本当にぴったり嵌り合う二人だと、ずっと前から思っていた。
腐れ縁の姉弟みたいなものだって、二人は事あるごとに言っていたけど。
それが変わり始めたのは、もちろん自然な成り行きもあってだろうけど、でも、……あの日の事もきっと無関係じゃないんだろう。
尊敬していた、父のような、兄のような人が、長い眠りについてしまって。
クロノはやっぱり、自分を責めて。そうしないでくれとあの人に言われてはいたものの、それでもやっぱり強く強く、潰れるくらいに自分を責めて。
そんなクロノを支えたのは、エイミィだったから。
「あまり、驚かないんだな」
「うん、だって、だろうなあって思ってた」
「……そうなのか?」
意外そうに眼を少し見開いたクロノに、フェイトは微笑んで言う。
「クロノ、あんなに人気あるのに誰にも振り向かないから。だからきっと、もう誰かがいるんだなあって。それで、その誰かが誰なのかなんて、考えるまでもないっていうか。エイミィよりクロノに近くて、エイミィよりクロノをわかってて、エイミィより……クロノを好きな人なんて、私の見る限りいなかったよ」
「……そうか」
ふ、とクロノは柔らかく笑みを浮かべた。
若くして執務官として活躍し、提督の座にまで上り詰め、そこでも堅実に実績を上げ続ける彼は局内でも有名人だと言える。
頼りになって面倒見が良い性格に、声変わりし、一気に背が伸びてからは男性らしく、平たく言って格好良くなったそのルックスも相まって、女性からの人気はかなりのものだ。
それなのに誰の誘いにも乗らない様子を見て、フェイトは先ほど言った通りにエイミィとの仲をある程度予想していた。
エイミィの方だってそうだ。優秀なオペレータとして名が通っていたし、可愛い人だ。かけられる声は数多あったろうけれど、フェイトの知る限りは歯牙にもかけなかった。
そんな二人が結ばれたというのは、何も不思議な事なんかじゃなくて。
すごく、ものすごく嬉しい事だった。
「でもまさか、朝からこんなにいい話が聞けるなんて思わなかったけど」
「帰って来られるタイミングがここくらいしかなくてな」
「そうなんだ、やっぱり忙しい?」
「まあ、それなりにな。…………ああ、ただもちろん……」
一瞬だけ眼を伏せて、クロノは言った。
「……年末のあれにはちゃんと顔を出させてもらうよ。その旨、よかったらなのはにも言っておいてくれ」
「あ、私もちゃんと行けそうだから、桃子さん達に伝えておいてもらえる?」
「うん、わかりました。じゃあ今日、高町家に寄らせてもらって言っておきます」
「行ってらっしゃい、フェイト」
「気をつけてな」
「いっへらっさいふぇいふぉ……」
「はい、行ってきます」
リンディとクロノ、そして起き抜けで呂律の回っていないアルフに穏やかな笑みを返して、フェイトはマンションを出ていった。
「ふぁああああ……」
「まだ眠いのか? アルフ」
「うん……」
問うたクロノにこくりと頷き、ふらりふらりと身を揺らしながらアルフは寝室へと向かっていった。
どうやら二度寝する気らしい。
「あの身体にしてから、どうも朝はほんとにダメみたいでね」
苦笑しながらリンディが言った。
フェイトの魔力をなるべく消費しないようにと、少し前からアルフは人型のデフォルトを10歳くらいの姿に変更した……という事はクロノも知っていたが、どうやらそれにはそんな副作用があったらしい。
「クロノはもう、すぐにお仕事行くの?」
「ああ」
「そう。じゃ、ほんとにあの話するためだけに帰ってきたのね」
「ま、まあな」
からかうように言ったリンディに照れながらクロノは頷いて。
「……しかし」
表情を改め、言った。
「よかったのだろうかな、フェイトに伝えて」
「どうして?」
「……フェイトはもうずっと、片想いどころか話す事すら出来ていないと言うのに、無神経なんじゃないかと思ってしまってな」
「…………心配性ねえ、お兄ちゃんは」
リンディは少し呆れたように肩をすくめて、
「大丈夫よ。あの子は、私の娘は、貴方の妹は、そんなに弱い女じゃないわ。……強くなったもの」
力の篭る口調で言った。
「……そうか。…………ああ、そうだな」
その言葉に、クロノは眼を閉じ思う。
そうだ、あの娘は本当に強くなった。
あの日の悲しみを、おそらくあの場に居た誰よりも早く乗り越えて。
彼の残した書を手に、教えを胸に、前へ進んで行った。
頑張って頑張って、でももちろん言われたとおりにちゃんと身体も大切にして、それで、強くなって。
あの人に、一歩でも近づくんだと。
そう言って、自分を壊すことなく丁寧に丹念に鍛錬を積み重ねていった。
執務官試験にも一発で合格し、今や本局内でも一目置かれる高名な魔導師だ。
「でも……まあ、もちろん、強いからって辛くないって事はないんだけれどね。……もどかしいから、大好きな人に、愛しい人に会えないって言うのは」
重みのある声で言ったリンディに、
「……そうだな」
クロノは頷いた。自分達二人は、それこそ母は、それをよくよく知っている。
そしてフェイトにとって、あの人は疑いようもなく大好きな人で、愛しい人だろう。
大分の昔の事だが、よく頑張るなと鍛錬後の彼女に声をかけた事がある。
その時に、はにかんだ顔から返ってきたのは、
"頑張って強くなればその分近づけるし、…………それに、その…………ちょ、ちょっと不純かもしれないんだけど"
"ほ、褒めてもらえるかな、って。いい娘だって思ってもらえるかな、って。そ、そしたら……ほんのちょっとでも…………"
"―――好きになってもらえるかな、って"
そんな言葉だった。
その想いはきっと、変わらず鍛錬に励む今も微塵も揺らいでいないだろう。
あの娘は、ずっと。本当に、ずっと。一途に、純粋に、深く深く、あの人を想い続けている。
「あの娘の気持ちは多分、色褪せないどころか日増しに強くなってるくらいでしょうし……やっぱりとっても辛くはあるはずよ」
「……ああ、だと思う」
「だけど、だからと言って貴方とエイミィが幸せになる事で傷ついたりはしないわ。そりゃあもちろん寂しい思いはあるかもしれないけれど、それ以上に、嬉しいって思ってくれているはず。わかってるでしょ、そういう娘だもの。……優しい娘だもの」
「…………ああ、そうだな」
複雑な笑みを浮かべたリンディに、クロノも笑みを返した。
フェイトの強さは、優しさは、沢山の人の救いになっている。
それこそ。
あれだけ傷つき涙を流しながらも立ち直り、立ち上がった彼女の強さにクロノは力をもらったし。
自らを傷つけ破滅へと突き進むなのはを止めたのは、彼女の優しさだった。
彼女はあれからずっと、周りの人々の幸せを支えて、護ってきたのだ。
「ほんっとーにいい娘よね。あれだけモテるのもわかるわあ」
湿っぽくなった雰囲気を消し去るように、明るい口調でリンディが言う。
「本人は謙遜してるけど、学校じゃあもう何人から告白されたかわかったもんじゃないみたいよ。お兄ちゃんとしては心配?」
からかうようなリンディに、しかしクロノは余裕の笑みを返した。
「心配なんてしていないさ。フェイトは恭也さん一筋だし、その恭也さんに比べればそこらの男なんて等しく木偶の坊に過ぎん。フェイトがよろめく事など万に一つもないだろう」
「……何と言うかまあ」
断言したクロノに、本当にうちの兄妹は揃って恭也さん信者ねえとリンディは苦笑いを浮かべた。
「謝らないで」
「……っ、で、でも……」
「お願いだから、さ。謝らないでよ、はやてちゃん」
「でもっ、わ、わたしが……」
「ねえ、はやてちゃんはおにいちゃんをあんな風にしたかったの? はやてちゃんが望んでこうなったの?」
「そ、れは…………」
「違うでしょ? 違うよね? 違うって言ってよお願いだから、謝ったりしないでよお願いだから。お願いだから、お願いだから、―――私に友達を恨ませないで」
「っ!」
「折角出来た友達を、おにいちゃんが守った娘を、私は、恨みたくなんかない」
「なのは、ちゃん……」
「謝ったりしないで、悲しい顔をしないで、自分を責めないで、……そんな風に生きないで。おにいちゃんはそんなの、望んでないよ。だからお願い、お願いだよ、はやてちゃん」
「わ、たし……」
「笑って生きてよ、楽しく生きてよ、幸せに生きてよ。はやてちゃんや八神家の皆がそうしてくれたら、おにいちゃんは喜ぶよ。……私には、ちょっと出来そうにないからさ、はやてちゃん達にお願いしたいんだ。ごめんね、勝手な事言ってるね」
「なの、は、ちゃん……」
「謝らないでね、はやてちゃん。……友達で、いさせて」
「朝……」
眼を開いて、呟いた瞬間目覚ましが鳴った。はやては上部のボタンを押してアラームを止め、
「んっと……」
手足を伸ばし、身体を目覚めさせて――。
「……っ」
ぱん、と、頬を両手で叩き、自分に喝を入れる。
沈んではいけない。落ち込んではならない。悲しむ、わけにはいかない。
八神はやては今日も幸せに生きるのだ。
謝る事は赦しを乞う事で、自分にそれは許されていない。
償いなんて出来ないし、そもそもしてはならないし、しようなんて思ってはいけない。
ただ、感謝して。礼を籠めて。
一日一日、守ってもらった自分の幸せを噛み締めて、生きていくだけだ。
それがあの日、救われた自分の生き方だ。
ベッドから下り、両の足で床に立つ。
一歩一歩、歩ける幸せを。
一歩一歩、一人も欠けなかった家族のもとへ歩いていける幸せを。
一歩一歩、友達でいてくれるかけがえのない人達と歩き続けていける幸せを、噛み締めて。
聖祥大学附属中学校の制服に着替え、はやては自分の部屋から自分の足で歩いて出た。
「ああ、主はやて、おはようございます」
リビングへ降りたはやてへ、キッチンから穏やかに微笑む銀髪の美しい女性。
「おはよう、リイン。そか、今日の朝御飯はリインの当番やったか」
「はい」
答えながらも、彼女――リインフォースの手はぱっぱと手際よく作業をこなしていく。
八神家において、リインフォースははやてに次いで料理上手だ。
「おはようございます、主はやて」
「おはよーはやて」
リインフォースの丁寧で鮮やかな手際をなんとはなしに眺めていると、背後からそんな声。
「おはようヴィータ、シグナム」
自分がついさっき閉じたばかりの扉を開き、そこから現れた二人にはやては挨拶を返した。
「はい」
「うんっ、お、今日の朝飯はリインのか」
キッチンへ視線を向けたヴィータが嬉しそうに言う。
「うんうん、いいこった。リインの飯はうめえからな」
「主はやてには遠く及ばないがな」
ヴィータの言葉に、照れたようにリインフォースはそう返した。
「なに、全く作れぬ我らと比べれば遥かに上等だろう」
「そうそう、シグナムの言う通りだ。それに何よりリインのおかげでシャマルの飯を食う回数がぐっと減ったからな!」
「ヴィ、ヴィータ……」
あまりにあまりなその台詞にはやてはさすがに苦笑いするも、悪びれない様子のヴィータは笑顔で続ける。
「朝からシャマルの飯なんて食った日にゃあとてもじゃねえけどグラーフアイゼン振り回せねえよ。まったく、なんの罰ゲームだって感じだ」
「……え、なんで私朝からこんなぼろくそに言われてるんですか?」
「うわあ、どんぴしゃにあかんタイミングで入ってきたなあシャマル……」
最悪なタイミングでキッチンに近い方のドアから部屋に入ってきたシャマルは、そのあまりの間の悪さに苦笑するはやての前で、え、え、泣いちゃいますよ? と、呆然とした顔で嘆きの声を零す。
「お、シャマル。起きてたのか」
「ええ、玄関のお掃除をしてて……って、ええええええちょっとちょっと今の発言に対して何かしらないんですかヴィータちゃん! ひどい事言ってごめんとか、あんな台詞を本人に聞かれていたのに何もフォローないの!?」
「……?」
首を傾げるヴィータ。
「え、え、なんでそんな"何言ってんのコイツ"みたいな顔で見るの……?」
「いや、だってアタシ嘘も間違った事も言ってねえし、ひどい事って言うか事実だし、つうかひどいのはお前の飯だし」
「………………っ」
悪意の色すらないあまりに純粋な声音で吐かれたそんな言葉に、シャマルはその場に崩れ落ちた。
「や、……そ、その……シャマルも、…………もうちょっと練習すれば上手くなると思うぞ……。そ、それにまあ、何と言うか、シャマルの作る食事もあれはあれで個性が……」
うずくまるシャマルに駆け寄り屈んで床に膝を落とし、柔らかく声をかけるリインフォース。
「リ、リイン……ありが」
救いの女神はここに居たとばかりに、シャマルは身を起こし顔を上げ――。
「おいシャマル、リインは優しいから気遣ってくれてるだけだぞ。個性が、なんつうのは下手くそに対するオブラートの常套句だ」
「…………っ」
「あ、シャ、シャマル……っ」
再度のヴィータの言葉に、気遣わしげに声を上げるリインフォースの傍、シャマルはもう一度床の上に崩れた。
「ヴィータ……、いくら何でももうちょっと言葉を選べ」
たしなめるシグナムに、しかしヴィータは険しい顔で返す。
「いや、あんな事言われてんのほうっておいたらシャマルが勘違いして"個性を生かした創作料理!"なんてもんに手を出すかもしんねえ、ちゃんと叩き潰しておかねえと。考えろ、シグナム。仮にそんなもん毎日食わされでもしたらお前は生きていけんのかよ?」
「…………この身の未熟を許せ、シャマル」
「謝られるのが一番辛いいいいいいいいっ!」
とうとう涙目でシャマルは慟哭を上げた。
ま、まあ要精進ちゅうことで……、と、執り成すようにはやてが言おうとした時、
「なんの騒ぎだ……」
またしてもドアが開き、入ってきたのは蒼色の狼、ザフィーラと、
「朝から賑やかですー!」
ちょこまかと浮遊する小さな、まるで妖精のような身の丈の銀髪の女の子。
「ああ、おはようザフィーラ、リンツ」
「おはようございます」
「おはようです、はやてちゃん!」
渋い声で返したザフィーラの頭上、銀髪の女の子――リンツがその顔に満開の笑顔を浮かべる。
リンツ、正式名称リインフォースⅡ。
彼女は八神家末妹にして、リインフォースと同じく融合騎、ユニゾンデバイスだ。
姉のリインフォース不在時にその代わりを務める事が主な役割である。
リインフォースは、はやてとユニゾンした時こそ広域魔法特化になるものの個人としてはどの距離、種類の魔法も満遍なく使いこなすオールラウンダーであり、豊富な知識と経験、書が完全な形で本来の姿に戻ったために並外れた屈強さ・頑丈さと非常に高い回復速度を有する身体、そして膨大な魔力に言うまでもなく高い魔法行使技能を持つ、実に優秀なSランク魔導騎士である。
そのため単独で動くことを求められる状況も多々あり、はやてのユニゾンデバイスではあるものの常にはやての傍に付いていられるわけではなく。
そんな事情の下、リインフォースⅡが生み出される事となった。
リインフォースの単独行動中はやてがユニゾンを行う必要が出た時にその力を発揮するのが主たる役目であり、また、姉のリインフォースほどの力はないが単独での魔法行使も可能で、その上シグナムやヴィータ達とのユニゾンもこなせる、なかなかに優秀な末妹だ。
「あっ、今日の朝御飯はお姉さまのですか!」
「ああ、リンツの好物も入っているぞ」
「やたああああああ! さすがお姉さまです!」
優しげな笑みを浮かべるリインフォースに、はしゃぐリンツは無邪気な声で続けた。
「やっぱりリンツははやてちゃんとお姉さまのご飯がいいです! お仕置きみたいなシャマルのご飯は食べたくないです!」
「おし……おき…………って………………」
もはや固まるしかないシャマルに、ザフィーラが近づきその肩に手を置いて言う。
「……俺は、この姿ならお前の作った飯も問題なく食えるぞ」
「…………なんのフォローにもなってないわよおおおおおおおおおおお!」
シャマルの悲しい叫びがキッチンに響いた。
「……ほんま、朝から元気やなあ」
はやては思わず苦笑を零す。
八神家は、今日も賑やかだった。
「ほんなら、みんな年末はちゃんと行けるゆうことやね」
「はい。テスタロッサに言っておいてはありますが、その旨、宜しければ……」
「うん、なのはちゃんに伝えとくわ」
そうシグナムに返し、八神家玄関、靴を履き終えたはやては立ち上がった。
「主はやて、お鞄を。お弁当も入れておきましたので」
「うん、ありがとうな」
エプロン姿のリインフォースが差し出した鞄を受け取って、
「それじゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃいませ」
「お気をつけて」
見送るシグナムとリインフォースに手を振り、はやては玄関から出て行った。
「将は、今日は?」
「この後、すぐに部隊へ」
「そうか。……栄えある首都航空隊の、第14部隊だったか? その副隊長に抜擢だものな、多忙な身だ」
感心したように言ったリインフォースに、シグナムは苦笑する。
「お前だって遺失物管理部にしょっちゅう出向を請われているだろう。引っ張りだこだと聞いているぞ」
「いや、そこまでのものでは……」
「そう謙遜するな、『銀の女神』」
「っ、そ、その呼び方はやめてくれ……!」
にやりと笑ったシグナムの言葉に、リインフォースはその白い頬を一瞬で真っ赤に染めた。
リインフォースは基本的には特別捜査官補佐としてはやてと共に任務についているが、本人自体がロストロギアであることから遺失物管理部によく助力を請われている。
そこで任務を共にし、それこそ窮地を救われた者たちからは――
「『祝福を運ぶ美しき銀の女神』、だったか」
そんな風に呼ばれ、半ば信奉されているのだ。
魔導騎士としての高い実力、神聖さすら感じさせる整った美貌に、優しく穏やかで気の利く性格。
まあ、そんな風に慕われるのも納得だ……と、シグナムとしては思っているのだが、
「わ、私は美しくもなければ、そんな女神だなんて呼ばれるようなものでは……」
本人はそんなやや大仰な呼び名に対し、それはそれは恐縮しているらしかった。
「いいじゃないか。私が見る限り、これを言っている奴らはからかい等ではなく心からそう思っているようだぞ」
「だ、だから余計に申し訳ないんだ、勘違いをさせてしまって……。……だって、女神どころか私は…………」
声と顔に影を落とし、困ったように言うリインフォースに、
「……いいだろう、リインフォース」
シグナムは少し表情を真面目なものに変えて言った。
「お前に救われた者たちからすればそれは真実なんだ。だからお前は祝福の風で、銀の女神で、それでいいんだ」
「でも……」
「アイツもきっと、お前のそんな評判を、活躍を聞いたら喜んでくれる」
「……っ」
その言葉にリインフォースは瞳を揺らし、泣きそうな顔をした。
「そう、だろうか……」
「そうだ。と言うか、……それを疑うことは許さんぞ。だからこそ、アイツがそんな奴だからこそ、我らの今があるのだからな」
「………………」
リインフォースは項垂れ、沈んだ顔で、
「そうだな、その通りだ。……馬鹿な事を言ったな、すまない将…………」
憂いを含んだ声を上げ、
「…………」
「すまない………………いたっ!?」
シグナムは無言でそんな彼女の頭を軽く叩いた。
「い、痛いぞ将……」
「お前がそんな顔をするからだ」
顔を上げ、涙目で言うリインフォースにシグナムはしれっと返す。
「そ、そんな顔って……」
「笑顔が似合うと、アイツに言われたんだろうが。だったら、ちゃんと笑っていろ」
「…………将……」
無論、無理矢理笑わせたところで意味はないだろうが、それでもふとした事で沈みがちなこの女神にはこれぐらい言ってちょうどいいと、シグナムは思う。
そしてなんとなく沈黙が流れ、
「そこまで下手だと言うのなら練習するわよ! もちろん協力してくれるわよねヴィータちゃんっ、試食係として!」
「ふっざけんな! 試食係どころか毒見係っつか人柱じゃねえか! 誰がやっかそんな役っ、アタシはまだ命が惜しいんだよ!」
「リンツも嫌ですー!」
「…………シャマル、諦めも肝心だぞ」
「ザフィーラの言うとおりだ! お前はもう料理すんな!」
「そうですそうです!」
ドア越しに聞こえてくるのは、そんな賑やかな声。
それは、かつて終わらぬ悲しみと苦しみの中にあった自分達が決して手に入れるはずのなかったもので。
「……ふふ」
「騒がしい妹たちだ」
自然な微笑みを浮かべたリインフォースと共に、シグナムも笑った。
「……なあ、将」
穏やかに、リインフォースが言う。
「……幸せだな」
「ああ」
「…………本当に、幸せだ」
悲しいことばかりで、苦しいことばかりで、辛いことばかりで、痛いことばかりで、そんな世界がもう嫌で。
泣き叫んでいたあの日の彼女は、しかし今は温もりの中で微笑みを浮かべる。
それは、悪夢を斬り裂き未来を切り開き、光を降らせたあの騎士のおかげで。
同じ騎士としてシグナムは心からの尊敬を抱くと共に、……言うまでもなく彼に救われた者の一人として、深く深く感謝の念を浮かべる。
「この想いを、……あの騎士に伝えたいな。貴方のおかげで幸せだと、幸せに生きている、と」
「ああ、そうだな」
リインフォースが言った通り、胸に溢れるこの感謝をあの気高き騎士に贈りたくて。
しかしそれは、未だ叶わない。
「………………」
リインフォースもそうだが、やはりシグナムが一番心配なのははやてだった。
シグナムの目から見て、自分達の主は幸福に生きていると思う。友に囲まれ、職務では活躍し、家族と共に過ごしている彼女は、幸せに過ごしているように思う。
だが、……幸せである事を強く自分に課すところがあって。
その歪さは、気丈に振舞う彼女の心をおそらくは静かに苛んでいる。
夜天の主と言えどそれでも、彼女は繊細さを内に孕む、まだ子供と言ってもいい歳で。
護らなければと、強く思う。護りたいと、強く強く思う。
それこそあの日、あの騎士が、自らを省みず護り通してくれたのだから。
誰かを護る姿を、その尊さと美しさを、自分達に見せてくれたのだから。
それを見本とし手本とし、守護騎士を束ねる将として、誰より自分がしっかりしなければならない。
「……さて、それでは私もそろそろ行くとする」
「そうか、気をつけてな」
「ふ……、リイン、誰にものを言っている?」
「……ああ、そうだったな」
微笑むリインフォースにシグナムは不敵な笑みを浮かべる。
そう。
己が信ずる武器を手に、あらゆる害悪を貫き敵を打ち砕くのがベルカの騎士だ。
……そうでなければ。
護るべきものを護り抜いたあの気高き御神の剣士に、―――会わせる顔が、ないだろう。
「それじゃあハラオウン家と八神家みんな、来れそうなんだね?」
合流し、学校へと向かう道すがら聞いた年末の予定をなのははそう再確認した。
「うん、うちはみんな大丈夫やで」
「うちも、あ、エイミィもちゃんと来るみたい…………それと」
はやての後に続いたフェイトが、少しいたずらな笑みを浮かべて言う。
「その時に、ちょっといい話が聞けるかもしれないよ」
「え、なになに?」
「ええ話? エイミィ絡み?」
なのはとはやては、珍しいフェイトの思わせぶりな言葉にそう思わず前のめりになるが、しかし当のフェイトは、
「んー……まあ、まだ秘密」
そんな風にぼかし続ける。
「え、えええ……何その謎の秘密主義……。フェイトちゃんがそんな事言うとなんかちょっと気になる……」
「ええやん教えてくれたって!」
「んー……ダメ、ふふ……………………って、なのは! 髪の毛引っ張らないで!」
毛先付近で一纏めに結われたフェイトの金髪をぐいぐいと下に引くなのは。
「ん、引いたら秘密、出てくるかなって」
「出てこないよ! ……………………って、はやて! どこ触ってるの!?」
なのはに気を取られている内に、はやてがフェイトの中学生にしては豊満な胸をぐにぐにと揉みしだく。
「ん、揉んだら秘密、出てくるかなって」
「出てこないよ!」
パンと、粗相を続ける二人の手をはたき落すフェイト。
「ほおら、フェイトちゃん。もっとすごい事されたくなければさっさとその秘密とやらを漏らそうか」
「朝っぱらからその綺麗な身体、汚されたくないやろぉ?」
「さ、最悪だ! この人達最悪だ!」
顔から血の気を引かせたフェイトが叫んだときだった。
「……朝から元気ね、三人とも」
「おはよう、なのはちゃん、フェイトちゃん、はやてちゃん」
呆れたような顔のアリサと、相変わらずの穏やかな笑みを浮かべたすずかが、道の先、こちらを見ながらそう言った。
「アリサ、すずか!」
これ幸いとばかりに二人に駆け寄って、フェイトはその後ろに隠れる。
「どうしたの、フェイト?」
「駄目だ、あの二人は駄目だ」
「はあ? 何が言いたいのかわかんないんだけど……このでかい胸をぶるんぶるん震わせて走ってきたのは何かの嫌味?」
そう言ってアリサは振り返り、むんずとフェイトの胸を鷲掴む。
「うわああああもう! もうやだあああああああ!」
アリサの手から逃れるも、フェイトはまさかの展開に涙目だった。
「逃げ場はないよフェイトちゃああん。さあ、さっさと吐くの」
「そおしたら許したるから、な?」
フェイトがそんな事をしている間に追いついたなのはとはやては、にいいいと口元に獰猛な笑みを浮かべる。
「も、もうやだあ……」
「なのはちゃん、はやてちゃん、アリサちゃん。フェイトちゃんが可哀想だよ」
今まで傍観していたすずかが、怯えるフェイトを背にかばう。
「す、すずか……ありがとうっ」
「すずか、そのデカメロンをかばうの?」
「デカメロンって……」
アリサのあんまりな言に苦笑するすずか。
「そやで、すずかちゃん。慎み深いこの国の文化っちゅうのを調子に乗ってるそのパツキンのわがままボディに教えてやらな」
「ふふ、私はまだ忘れていないよ。貸した体操着の胸元をびろんびろんに伸ばされた恨み」
すぱあんと、音高く右の手のひらに左の握りこぶしを打ちつけて、なのはが言った。
「なんか趣旨変わってない!? て言うか、そ、それはちゃんと謝ったじゃない!」
「おっぱいおっきくてすいませんでした☆ って? はっ! 言ってくれるよまったく……」
「えええええええええ言ってないよそんな事! 何その解釈!?」
悲壮に表情を染めるフェイトに、アリサが追い打ちをかける。
「て言うかね、同じ外人組みとしてことある事にフェイトとスタイルを比較される私の身にもなれっての! 私だって悪くないのに! て言うかいいのに! 平均考えれば遥かにいいのに! フェイトがデカメロンなせいで!」
「えええええええええええ!? し、知らないよそんな事!」
「まあまあ、三人とも」
憤る三人と震えるフェイトの間、すずかが穏やかに取り成す。
「フェイトちゃんが悪いわけじゃあないんだから」
「そ、そうだよ! さすがすずか!」
それに乗り、声を上げるフェイト。
「私だって別に好きで大きくしたわけじゃないよ! なんにもしてないのに勝手に大きくなったんだよ! そもそも肩は凝るしっ、運動するとき邪魔だしっ、そんなにいいもの…………で…………も……………………」
こちらを見つめる三人の視線が険しく、そして冷たくなっていくのを感じ、フェイトは言葉を途中で止める。
「好きで大きくしたわけじゃない? なんにもしてないのに勝手に大きくなった? ……はああああ、へええええ、言ってくれるよ、ほんとに…………。それで? そんなにいいものでも、なに? なんなのかなあ?」
底冷えするような声でなのはが言い。
「す、すずかぁ……」
フェイトは救いを求めるようにすずかに声を掛け。
「フェイトちゃん」
すずかは笑顔で振り返り、伸ばされたフェイトの手をとって、
「ちょっと反省しようね」
持ち前の高い身体能力を活かしてぐいっと引っ張り、三人のもとへとフェイトをほうった。
「え、えええええええええ!? すずかああああああああ!」
フェイトの断末魔の叫びが、朝の通学路にこだました。
「しかし、今日は冷えるねえ」
「あんな、あんな事をしておいて! 何もなかったかのように世間話を始めるの!?」
吹いた12月の風に身震いしながら言ったなのはに、スキンシップの域をやや超えた暴行を受けたフェイトが怒りの声を上げる。
「まあまあ、朝からそんな血圧上げることないやん」
「その台詞をそっくりそのままさっきの皆さんにお返ししたいよ!」
しれっと言うはやてに涙混じりの声を返して、乱された制服を整えるフェイト。
「ひどい、ひどいよ……! こんなの絶対おかしいよ……!」
「ま、まあまあ、……あ、ほら、そういえば三人とも、今日は終業式だけど、出られそう? お仕事あるの?」
ごまかすようにすずかがそう言って話題を変えた。
「う、ううううう、わ、私は、あるけど放課後からだから終業式も出られるよお」
なんだかんだ恨み言をこぼしながらも、ちゃんと答えてしまうあたりがこの親友の人の良さだよなあと、なのはは内心微笑ましく思うも口には出さない。出せばどの口でそんな事をと怒られるに決まっているからだ。
同じように感じているのだろう、苦笑しながらはやてが言った。
「わたしも出られそうや。今は担当事件の事後処理やっとるだけやから、そんなに切羽詰ってるわけやないし」
「ふうん、なるほどね。なのはは?」
アリサに問われ、なのはは答える。
「私も、今日は本局行くけど終業式終わった後だから」
「そか、じゃあ三人とも式は出られるんだね。……でも、なのはもフェイトもはやても、お仕事大変ねえ」
「あ、私は……」
「ん?」
「今日は、…………仕事じゃなくて」
そこまで言ったところで、先を予想したのだろうその場の全員の表情に少し、影が落ちた。
なのはは意識して微笑みを作り、続きを口にする。
「……おにいちゃんのところ、行ってくるの」
「……そっか。いつもの、定期診断報告?」
「うん」
アリサの問いに、なのはは頷く。
月に一度、現状とこれからの展望を担当の医師と話すことになっており、今日はその日なのだ。
なんとなく、場には沈黙が降りて。
そこに再び吹き抜ける、刺すような冷気。
「……今日の体育、種目なんだっけ? もしかして外で短距離走かなにかだっけ?」
なのはの言葉には、フェイトが答えた。
「そう、短距離走。タイム測定だよ」
「そっかー……やだなあ。ていうかフェイトちゃん、ちゃんと体操着持ってきた? もうやだよ、予備を貸してびろんびろんにされるの」
「持ってきたよ! ほら、ほら!」
ナイロンのバッグを真っ赤な顔で押し付けてくるフェイトに、皆が吹き出して。
五人はそのまま姦しく、学校へと向かっていった。
「それでね、やっぱりフェイトちゃんとすずかちゃんがぶっちぎりだったよ」
低い動作音の響く薄暗い部屋で。
「アリサちゃんは悔しがってたけど……あはは、私とはやてちゃんはもう勝ち目ないから諦め切ってたって言うか」
少し白く染まる息を吐きながら、なのはは言葉を続ける。
「で、でも、一応頑張ったんだよ? それなりに武装隊で揉まれてるし、そこそこ速くはなったんだよ? ま、まあ」
白で統一された教室程度の大きさの部屋には、他の者はいない。
いるのは、二人だけ。
「……おにいちゃんと比べたら、全然だけどさ」
兄と、自分だけ。
おにいちゃんのは速いとかもうそう言う事じゃないか、と、苦笑しながら最後にこぼして。
「………………」
なのはは、言葉を止めた。
そして、静かにただただ、氷解の中目を瞑り穏やかに眠り続ける兄を見つめる。
その体はもうどこも崩れても傷ついてもおらず、完全に治っているように見える。
実際、医師もそう言った。
身体強化魔法をハイレベルに使いこなしていた事と、元々の身体が非常に強靭であったことから、身体修復魔法の効果が驚くほど強く現れ治療自体はスムーズに行き、兄の身体はもうすでに完治している。
いまだ凍結魔法を解除していないのは治療や生命維持目的ではなく、ただ無為に年齢を重ねさせないために、老化を抑えるために過ぎない。
兄の意識レベルが覚醒状態まで至れば、凍結魔法は自動的に解け、あの氷解はすぐに跡形もなく融けて無くなるようになっている。
―――いつ目覚めても、おかしくはありません。
長い治療が完了し、そんな風に担当医師が言ってから、しかしもう一年が経つ。
いつ目覚めてもおかしくないのに、それでも兄は眠り続ける。
その原因は局員たちにも掴めていないらしい。なにか決定的な要因があるのか、それとも時間が解決してくれるものなのか、それすらわからない、と。
今日も、今までと同じようにそう言われただけだった。
「………………」
兄を、高町恭也を、愛しい人を。
見つめながら。
なのはは氷塊を囲む透明なケースに、手を突いた。
決して破ることの出来ない透明な隔たりに、壁に、手を突いた。
そして口を開きかけ、
「…………っ」
顔を俯かせ、やっぱり閉じた。
早く起きて、なんて、気が狂いそうなくらいに言いたいけれど、でも言えなくて。
今まであんなに頑張ってくれていたから、ゆっくり寝ててもいいんだよ、なんて、言わなくちゃいけないのかもしれないけれど、それこそ気が狂いでもしない限りは言えそうになくて。
幸せだよ、と。
なのはは、俯いたまま声にならない声で言った。
笑えるようになって、楽しめるようになって、喜べるようになって。
高町なのはは幸せに暮らしているよ、と。貴方に護られて生きてきて、貴方に護られたから生きている、高町なのはは今、幸せに過ごしているよ、と。
そう呟く。
嘘じゃない、本当の事だ。
もちろん色んなことがあるけれど、でも、自分は幸福に包まれている。それは、真実だ。
幸せ、なのだ。本当だ。
「………………――」
なのはは、伏せていた面を上げて。
目の前、透明なケースに映り込んでいたのは自分の泣きそうな顔だった。
「…………………………っ」
その顔を再び伏せて、
「…………………………幸せ、だよ……っ」
なのはは、搾り出すように言う。
「私、幸せだよ……っ、幸せ、だよ……! 私、幸せに生きてるよおにいちゃん……。ほんとだよ……? ほんとに、ほんとに、幸せに、幸せに生きてて…………………………………………」
言葉と共に吐いた息が白く染まる、冷えた空気の中、
「幸せで、幸せで、私、ちゃんと幸せで、……………………………でも、ね」
なのはは、そして一拍置いて、
「―――おにいちゃんが居ないよ……」
震える声でそう言った。
「おにいちゃん、が……」
自分にとって、言うまでもなく兄は世界の中心で、この世の根幹で、高町なのはが高町なのはの人生を生きるその意味で。
「おにいちゃんが、……居ないんだよ」
それがなくては。その人が居なくては。
どれだけこの手が幸せを掴んでも、この身が幸せに包まれても、この胸には、この心には、決して埋まらない空白がある。
途方もなく大きい、致命的な虚無がある。
今、幸せに生きているのも確かに高町なのはなら。
今、枯れ果てて死んでいるのも同じく確かに高町なのはなのだ。
いつの日か高町恭也が目覚めるその時まで、高町なのはは幸せに生きながら、満たされない想いを抱え飢えて枯れ果て決定的に死に続けるのだ。
生きながらにして死んでいて、幸福ながらも満たされていない。
それが紛れもなく、疑いようもない、高町なのはの今だった。
「……………………っ、………………」
これ以上何を言えばいいのかわからなくて、そのままなのはは押し黙る。
これ以上はもう何を言ってしまうかわからなくて、だからただ口を噤む。
別れ際は、いつもそうだ。
壁に掛かった時計を見れば、面会時間はもう一分も残っていない。
そろそろ、行かなくては。
「………………っ」
また来るね、とも言えない。
それは、また来るまで兄がここで眠り続ける事を決定する言葉のような気がして、言えない。
「…………おにい、ちゃん」
結局。
「………………―――おにいちゃん」
いつもの通り、愛おしいその人を指す呼び名だけを最後に口にして。
なのはは、部屋を出た。
高町なのは。
私立聖祥大学附属中学校二年生。
時空管理局本局武装隊・航空戦技教導隊所属、二等空尉。
あれから、もうじき五年の月日が経つ。
なのはは、十四歳になって。
兄、恭也は、二十歳のまま。
未だに。
―――その眼を、覚まさない。
リリカル恭也Joker終了時より五年後のお話となります。
なのは、フェイト、はやて。高町家、ハラオウン家、八神家。
三者三様、三家三様の五年後です。
原作とは違うところがちらほらあります。なのは撃墜、重傷を負うという事態が起こっていなかったり(代わりにヴィータが怪我をした)、フェイトが執務官試験を一発で通ってたり、そしてはやての傍にリインフォースがいたり、と。
リインフォースⅡ、愛称リンツとなっている彼女については作中に書いたとおりの位置づけとなっております。
胸のことでフェイトさんがあんな目にあっていますが、彼女達のバストサイズランキングは一年後にちゃんと公式のA'sエピローグ時と同じになります(すずか一位、アリサ二位、フェイトはやて三位、なのは五位……な、はず。でもなのはってstsでは立派に巨乳になっている気がしてならない、変身シーンを見る限りは。他がでかいのか……)。
このバストサイズに関する注釈、必要か……?
前書きにも書きましたが、この話からリリカル恭也Triangleという新しいシリーズになります。