魔法青年リリカル恭也Joker   作:アルミ袴

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 この作品には原作設定の拡大・独自解釈も含まれます。申し訳有りませんが、原作設定の絶対的な遵守をお求めの方、ご自分の解釈を非常に大切にされている方のご要望にはお応えしかねる場合があります。該当される方はご自身の責任における判断で閲覧されるかどうかお決め下さい。よろしくお願い致します。


第15話 やっぱりちょっと黙ってくれる?

「……ドクターも物好きだわあ」

 口の端に歪な笑みを浮かべて、クアットロは言った。

 評議会とスカリエッティの間でどんなやりとりが、取引が為されたのかは知らないが『高町恭也』の転院は言うまでも無く、スカリエッティへ研究素体として彼を引き渡すため最高評議会が管理本局医療センターの治療計画に横槍をいれ決行される事になったものだ。

 さすがに本局の医療センターに居られたのでは無理やりな手出しもできなかったが、移送途中なら話は別。この事態にクアットロの主人であるスカリエッティは戦艦すらあくまで一時的にだが落とせるAMF発生器、既に完成済みだったカプセルのような見た目の単純単独行動型AMF自動展開戦闘機に加え、製造途中だった航空戦闘機のようなフォルムの高速飛空型AMF自動展開戦闘機を急遽量産し、さらに今だ設計段階であった円形の頑丈かつ大火力な大型AMF自動展開戦闘機まで半ば無理やりのペースで作り上げ配備した。

 クアットロのシルバーカーテンで隠蔽されたAMF発生器により墜落させた輸送艦船を、同じくシルバーカーテンで隠蔽済みの戦闘機、その数優に数千を下らない軍勢で囲う。その中には、転送機を内蔵しいつでもこちらの戦力の増強を、つまり増援を送り込める母艦まで数機用意してある。

 これで失敗したら嘘だろうというほどの、圧倒的な布陣だ。

 元々はこの後に予定されている"ゆりかご"を幹とした大きな花火のために、参考程度に手に入れた闇の書事件のデータにあった件の高町恭也の戦闘映像から端を発した今回の事態なわけだが、あまりに大掛かりなこの準備にスカリエッティの彼への執着が伺えようと言うものである。

 高町恭也。

 最強の人造魔導師の素体、究極の生体兵器の素材、そして……場合によっては。

 既にNo.12まで計画が立っており、実際にNo.6のセインまで稼動している戦闘機人ナンバーズ――その特別チューンにして最終体、最後の一作の元にする、とまで言った。

 この後の計画を思えば、それは状況を引っくり返しうる無敵のジョーカーにしてキング、『No.13』となる。

「こんなものまで用意して……」

 今、クアットロの手の中にある複雑な文様が内部に透けて見える手のひら大のキューブは瞬間強制転移装置。起動コードを入力することで触れている物体をあらかじめインプットされた座標、すなわち今現在スカリエッティの座するアジトへと転送する機器だ。

「よーっぽど欲しいんだろーよ、あのにーちゃんが」

「……ドクターの執心ぶりはかなりのものだったからな」

 蒼空に浮遊するクアットロの隣、飛翔能力持たない二人の妹――青髪のセインと銀髪隻眼のチンクがそれぞれトランスポータとする飛空型戦闘機に乗り、そんな風に零した。

 件のドクターは今、アースラの乗り組み員達に通信をかけている……が、下手をすれば脱線して長くなりそうな雰囲気だ。元々スカリエッティが饒舌な性質であるのはクアットロ達もわかってはいるのだが、

「ドクター、あああんまりお話が長いとウーノ姉さまに怒られてしまいますわよお? もういいから、要件を言っちゃいませんこと?」

そう言ってクアットロは彼を急かした。艦を墜としているAMF発生装置には時間的制限がある、失敗するとは思ってはいないが何かあれば責任があるのは今回の現場指揮を任されている自分であるし、叱責を向けてくるのはなかなか頭が中々上がらない姉のウーノだ。出来ればお小言は避けたいところである。

 そしてアースラの乗り組み員達との通信は進んで行き――。

 

 

 あの小娘の顔が絶望に染まるのが楽しみだ、爪を噛みながらクアットロは思った。面と向かって眼鏡が似合わないなどと言われたのはもちろん初めてであり、それは思ったよりも自尊心の傷つけられる出来事だった。実際のところ、稼動年数を実年齢とするならばクアットロは十に満たない程度であり、なのはを小娘呼ばわりは出来ないのだが自分は特殊な生まれに育ちである、そんな事は無視していいもいいだろう。

 重要なのは、あの小娘が生意気であり、気に食わないというその感情だ。

「……おーおー、すっげーなあ」

 既に状況は開始されている。セインが心から感心したように零した声も爆音ですぐに掻き消えた。

 シルバーカーテンを解き、隠蔽を払った軍勢とアースラに乗った魔導師、騎士達との戦いは最初から混戦にして乱戦にして、文句なしに激戦の様相を呈していた。

 その最前線、アースラの前面で最も多数の戦闘機達を相手にするのは白いバリアジャケットに身を包んだあの小娘――高町なのはと、対照的に黒いバリアジャケットを着込んだ"フェイトお嬢様"とでも呼ぶべきFの残滓――フェイト・テスタロッサ・ハラオウンだ。

「まあ、エースオブエースに、本局のエリートなんて呼ばれるくらいの事はあるわねえ」

 彼らの戦いぶりは見事と、そう言ってやっても良いものだった。この濃いAMF下で、尚且つ各自がAMFフィールドを展開できる相手に対し、

「―――――――――――――――っ!!!」

「………………………………………っ!!!」

裂帛の気勢とともに光弾を全方位に散らせ、そして砲撃を随所に叩き込んでくるなのは。無言の気迫と共に刃を走らせ、高速で飛び回る相手を確実に着実に潰していくフェイト。

 シルバーカーテンの幻惑で、相手にはこちらの軍勢は実機と幻影の混成編隊、数千機の戦闘機がその数倍、万に届きうる数に見えているはずである。

 それでも二人には、少しも、本当に微塵も臆した様子は無い。

 無双を誇る二人の魔導師の姿に、しかしクアットロは薄ら笑いを浮かべる。

「気合を入れるのはいいけど、ああんな戦い方、どうせ持たないわん」

「……まあ、それには同意だ」

「だっよなー、いくらなんでもどんだけのっけからハイペースなんだよ」

 チンクとセインも頷いた。そう、二人――特に高町なのはの方は、魔力消費、拡散の大きい砲撃を使うのにまるで躊躇が無い。防御にも贅沢に魔力を使って厚い壁を作っているし、まるでわざと魔力をばら撒いているかのようだ。

 AMFの魔力結合解除、つまり魔法減衰効果があるためにそんな大出力高火力な戦いをせざるをえないのだろうが、あれではどうせ、長くはもたない。

 勢いが弱まった所で、チンクのシェルコートで防御を固めつつ自分のシルバーケープ、シルバーカーテンで姿を隠し艦に接近、そしてセインのディープダイバーで高町恭也の部屋まで潜り、瞬間強制転移装置を取り付け、起動。それで状況は完了である。

 規模は大きいが、結局、まともに戦う気のないこちらとしては楽な任務だ。

(ドゥーエ姉様のライアーズマスクがあればまた違った作戦もあったんでしょうけど)

 スカリエッティの傍を基本的には離れないウーノもそうだが、クアットロの尊敬するドゥーエも例の"ゆりかご"関連の任務に就いている最中なので今回の作戦には参加していない。

「……ふんっ」

 だが、彼女達の手を煩わせるまでもないだろう。

 クアットロは舐めきった眼で命を賭けて空を駆ける相手方の奮闘を文字通り見下した。

 

 

 

 

 

 まずいな、そう思うものの打つ手はない。結局は、看過せざるを得ないだろう。

 敵を潰し斬り裂き蹴散らしながら、フェイトは思った。

 それは戦況に対して、ではない。なのはについて、だ。エクシードモードのその身からAMF対策のヴァリアブル処理を施したアクセルシューターは常に最大数の三十二発を発動させ、エクセリオンバスター、ショートバスター、ストレイトバスター、ストライクスターズと砲撃魔法も躊躇無く大盤振る舞い。

「―――――おおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 爆風の中、漏れ聞こえてくる咆哮は彼女の屈さぬ意思の体現。

(……あれ、やる気だろうな)

 それを確信しながら、フェイトも眼前、円盤大型の戦闘機をハーケンスラッシュで真っ二つに切り裂いた。AMFは厄介ではあるものの、出力と速度を上げ、魔法が掻き消される前に斬り裂いてしまえばいいのであり――もし彼がこの戦線に立っていたのならなんの問題にもしていなかったろう事を思うと、自分だってと意気が上がる。

 そう。

(…………躊躇して後悔するくらいなら)

 全力で、いくべきだ。フェイトはその金色の魔力を奔らせた。

「いくよ、バルディッシュ!」

『Yes,sir!』

「サンダアアアアアアアアアアアアアアフォーーールッ!!」

『Thunder Fall』

 天候操作で雷を発生させる、生み出された雷自体は魔法ではないのでAMFの効果対象にはならない、まさに今の状況には打ってつけの広範囲攻撃魔法だ。

 降り注いだ雷光は戦闘機達を幾機も飲み込んで行った。実機と幻影の混成編隊のようで何発かは素通りするだけの結果に終わったが、戦況へはかなり影響を与えられただろう。

(……恭也さんなら実機と幻、判別できたかな)

 思わずそんな事を思ってしまう。自分も、なんとなくなら戦闘を続ける中で感覚が育ってきたのかわかるようになってきたが、無生物相手というのが大きいのだろう、未だはっきりとは見分けられない。情けなく、口惜しくはあるものの、

「……そろそろ、いいかな」

今気にするべきはそこではない。響いたのはフェイトのサンダーフォールを、それによりばら撒かれた魔力を見やったなのはの、そんな静かな呟き。

(なのは……)

 ああ、やはりやる気だ……なんて、今さら思う事じゃない。フェイトだって合わせる様に、大きな魔法も連発して魔力を空間にばら撒いて来たのだ。

 彼女がこれから始めることを、結局止められはしない。それが正しいのか、正しくないのか、わかりはしないが。

 それでも、それが彼女の選択なら、自分も自分として全力を尽くさねばならない、覚悟などとうに決まっていると言わんばかりのなのはの横顔に、そう思った。

「レイジングハート、――ブラスターシステム、リミット1・リリース」

『Blaster set』

 凛とした声の後、なのはを薄い膜のように包んだのは彼女の魔力の色を有した煌き。それはまるで、弛まぬ闘志を表すような、そんな輝き。

 一際巨大な円盤大型戦闘機が、カプセル型、航空機型を引き連れ、なのはに向かって襲い掛かり。

「エクセリオンバスター・ブラストシュート」

『Excellion Buster』

 奔った今までとは密度と速度の違うその桜色の砲撃に為すすべも無く消し飛んだ。

 ブラスターモード。エクセリオンを調整したなのはのフルドライブ、エクシードモードをさらにリミットブレイクした最後の切り札。

『……ブラスターシステム、ねえ。その正体は、術者の体が耐えうる限界を遥かに超えた自己ブースト、かしらね? 撃てば撃つほど、守れば守るほど術者もデバイスも命を削っていく』

 どこからか届いた眼鏡の女――クアットロの言葉通り、その使用者にもデバイスにも負担をかけた上で、その能力をブーストする代物だ。

『……んふふ、優秀な前衛の後ろ、チャージタイムを十分にとって後先考えない一撃必殺が撃てる状況ならそれは恐ろしいけれど、こんな乱戦混戦の状況じゃあ、……役に立ちませんわね』

 彼女は心底小馬鹿にしたようにそう呟いて。

 だが、しかし。

「……その分析の速さは褒めてあげたいけど、結論を出すのは少し早計に過ぎたな」

 フェイトは複雑な表情で聞こえるか聞こえないかは別として、クアットロの呟きに答えた。

 そう。

 今ここで発動されたブラスターモードの真髄は、高町なのはの真意は、単純な出力向上にあったわけではない。先のエクセリオンバスター・ブラストシュートにしたって、ただの前振り、試し撃ちに過ぎないのだ。

 フェイトは少し後方、アースラ近辺へと下がった。このままここにいては、なのはの邪魔になるからだ。

 命を削り、痛みに耐えて、意思を振り絞る彼女の生き様の、邪魔になってしまうだけだからだ。

 戦闘機達を斬り裂きつつ、フェイトは後退して――。

『あらあら、お仲間残して下がっちゃうんですかあ? 薄情ですねえフェイトお嬢さ』

 その台詞が最後まで紡がれることは無かった。正確に言えば、紡がれたのかもしれないが。

 

「――ブラスト」

 

 閃光、轟音、それらを伴い奔った膨大な桜色の魔力にどこかから繋いでいるらしい念話は通信不可状態となったからだ。

「……うん、問題なく発射可能だね」

『Yes,my master』

『な……な……?』

 ややあってやっと届くようになったクアットロの声は、驚愕に揺れていた。それもそのはずだろう。

 声がするという事は彼女がいる所へは放たれなかったという事なのだろうが、それでも。

 

 長い溜め時間を必要とするはずの極大集束砲、スターライトブレイカーがノータイムで放たれたとなれば、驚くのも無理はない。

 

 瞬時に奔った桜色の極光に飲まれ、餌食になった戦闘機達は百を下らない。一つの方角が丸毎空いた事になる。

『何を……何を…………何をしましたの!?』

 そのクアットロの問いに答えるように、そしてなのはは先ほどとは違う方角へ向け、レイジングハートを構えて。

「ブラスト」

 その短い掛け声と共に、再度撃った。

『Starlight Blaster』

 またしてもノータイムで奔った桜色の極大砲撃は、敵で埋まった風景に文字通り風穴を空け、青空を見せた。

(……なのは)

 それはまさに圧倒的な光景で、味方の行った行為としては喜びと賞賛で迎えるべきものなのだろうが、しかしフェイトの胸中は複雑だった。

 Starlight Blaster――スターライトブラスター。クイックスターライトブレイカーとでも呼ぶべき、スターライトブレイカーの溜め時間なし即射、速射という文句なしに常識外れの技。

 それはつまり、

「ブラスト、ブラスト、ブラスト……!」

 連射をも可能にするという事である。三連続で極大規模の集束砲が撃たれる様は、弱い魔導師なら食らわずともその余波だけで吹き飛びかねない。

「……っ」

 自身も戦闘を継続しつつも、フェイトは歯噛みする。

 周囲に散った魔力を利用するという、ある程度のチャージタイムを前提にしているはずの集束砲をノータイムで放つなどと言うのは本来ほぼ不可能であるはずであり、それを可能にしたなのはのあの魔法は――。

 なのはが最も自らの身を省みなかった時代に生み出した忌むべき禁じられた技であり、言うまでも無く一発一発放たれる毎に彼女の身体を蝕む所業だ。

「ブラスト、ブラスト、ブラスト、ブラスト、ブラスト、ブラスト、……ブラスト!」

 ほぼノータイムできちんとした集束など出来ようはずもない、あれは無理やり素早く集めた大量の魔力を指向性と体裁をなんとか保たせ砲撃の態で『暴発』させているに過ぎない、無理矢理無理繰り無茶苦茶もいいところの暴走スレスレの魔法だ。

 きちんとした集束砲であるスターライトブレイカーを連射しているわけではない。スターライトブレイカーに似た暴発を繰り返しているというのが一番近いだろう。

 魔力消費量も、スターライトブレイカーと比べると一発一発は格段に少ない。これは、ひとえに持続時間の短さに起因している。暴発であるがゆえに砲撃の維持は長くて0.5secが限界であり、それは本元の十分の一以下だ。持続時間が短いと言う事は、取りも直さず消費もそれだけ小さくなるという事になる。

 とは言えそれでも砲撃の持つ圧力、つまり威力自体はスターライトブレイカー+とまではいかないまでも、初期のスターライトブレイカー程度は確保しているところが恐ろしいところではあり。

 そして何よりも恐怖すべきは、驚嘆すべきは、なのはがあれを習得したのは弱冠十歳当時の事であり、その頃はエクシードやブラスターよりも無茶な仕様のエクセリオンで撃っていたという事だ。

 その姿は紛れも無く狂気という他なかったが、しかし彼女は間違いなく正気で、全てを覚悟の上でやっていて。

 それは、少し自らの身を省みるようになり、未来をきちんと見据えるようになった今この時も本質的には変わらない。

 本局武装隊の、当時のなのはを知る者達は誰もが彼女に溢れんばかりの賞賛と、そして紛れも無い憐憫の情を送った。あんなモノが撃てる技量には賛辞を送る他なかったが、あんなモノを撃ててしまえる精神へは――あんなモノを撃つ事を考え付き実行してしまいその上リスクをわかっていながら使用を続けてしまう弱冠十歳の少女の精神に対しては、哀れみしか湧いてこなかった。

 枠からはみ出た偉業とも言うべきあの魔法は、タガが外れた異形な心が生んだ奇跡のような悲劇であるのだという事を、魔導師であれば誰でもわかってしまえたからだ。

「ブラスト、ブラスト、ブラスト、ブラスト、ブラストッ、……ぅ、く……、……ブラスト!!」

 極大の閃光が幾本も幾本も、蒼空を奔っては消え、また奔る。まるでそれは散りゆく桜の花びらのような淡く儚くも美しい――覚悟に染まった煌きだった。

 

 

 

 

(冗談じゃない……っ!)

 心の中で毒づきながら、クアットロはセインとチンクを脇に抱え込んだ。

「ク、クア姉っ」

「クアットロ……」

「ちょっとくらい高みの見物させてもらおうなんて思ってたけどっ予定変更!」

 あんな気の違った化け物相手にしていられるか、クアットロはシルバーケープとシルバーカーテンで自分と妹達三人の身体を隠蔽したまま最高速、アースラへと向かっていく。砲撃がこちらを向かないことを祈りながら、だ。砲撃系エクストラスキルの集束砲をノータイムショットだと? あいつ本当に人間かと、そんな疑問が素直に思考を占めそうになり、慌ててを頭を振る。

 今は考えている時ではない、動かなくては。

 AMF下であり、その上チンクのシェルコートもあるとは言え、あれに呑まれれば消し炭にされかねない。

 どうやら持続時間には難があるようで貫通力には欠けるようだが、それでも馬鹿みたいな威力である事には間違いがないのだ。

 殺し合い、そんな風にあの女は言っていたが、なるほどその言葉に嘘はないのだろう。こちらの認識が甘く、緩く、温かったのだ。こちらの位置を確認もせずに、あんな砲撃を非殺傷設定で乱れ撃ってきた。それはつまりなんの躊躇も無く殺す気であるという事に他ならない。

(さっさとあの男の所へ行って、同時に転送で離脱!)

 似合わないといわれた眼鏡の奥、忌々しげに細めた瞳に怯えの色が混ざっている事は鏡を見ずとも嫌でも自覚してしまえる。

「――っ!」

 スレスレの位置を、桜色の極光が通過して言った。頬を引きつらせて両脇の妹達を見てみれば、

「……あ、が」

「なっ……あ……」

彼らは言葉も無い様子だった。

(……それでも)

 しかし、それでもクアットロは自分達の作戦の成功を疑わない。結局、どれだけあの女が猛襲を、クアットロからしてみればもはや妄執にすら見える攻勢をかけてきたとしても、それに付き合わなければいけないわけではない。あの女を倒さなければいけないわけではないのだ。自分達の勝利条件はあくまで高町恭也の奪取のみ。

 それさえ叶えば勝利なのだから。

(……精々頑張ってなさい、お馬鹿さん)

 圧倒的な戦姿を見せ付けるなのはに心の中で毒づきながら、クアットロは墜とした戦艦――アースラへと姿を隠したまま接近していく。

 

 

 

 

 

 

 

「……クロノ君」

「…………わかってる」

 気遣うようなエイミィの言葉に、険しい表情ながらクロノは頷いた。クロノがいるのは船外の戦場ではなく、管制室である。艦の復旧と本局への連絡に全力を傾けている今、自分は艦長であるのだがらそれは当たり前であるのだが。

「……皆」

 それぞれ戦場で戦ってくれているあの姿を見れば――彼を守ろうと奮戦する姿を見れば、落ち着いてなどいられない。自分も外で、などと思ってしまうのはついこの間まで第一線で執務官として戦っていたから……だけではない事は自覚している。

 自分だって、戦場に立って、力を振るって魔法を放って守りたいのだ、あの日あの時自分を守ってくれたあの人を、今度は今度こそ。

 しかしクロノは鋼の自制心でそんな激情を押さえ込む。今、自分がするべきは最前線に立つ事じゃない、管制室で全体指揮を執る事だ。自分が出る可能性を完全に排除しているわけではもちろんないが、それは本当の本当に最後の状況下においてのみだ。

 アースラ、その前面にはスターライトブラスターを乱打するなのはに、金の閃光の名の通り鮮やかに速やかに縦横無尽、敵を切り裂いていくフェイト。

『守って! クラールヴィント!』

『鋼のッ! 軛ッ!』

 横面ではそれぞれペアとなりシャマルとザフィーラの守護と援護を受けながら、

『飛竜……一閃ッ!!』

『ギガントハンマアアアアアアアアアアアアア!!』

シグナムとヴィータがその剣と覚悟を貫いて、鎚と意思を振り抜いている。

 なのは、フェイトと同様、濃いAMF下の中、その上単独でもAMFを展開してくる相手に対し、まったく臆せず果敢に苛烈に打ちかかるその姿はこの上ないほど勇壮で、いっそ悲壮とすら言える覚悟が見える。

『寄るんじゃねえええええええええええクソヤロオオオオどもおおおおおおおおおおおお!!』

 通信機越し、聞こえてくるのはその身に纏う騎士甲冑と同じく真っ赤に染まったヴィータの怒号。

『てめえらがッ! てめえらなんかがッ!!』

 ヴィータはギガントフォルムとなった愛鎚を振り回し、その小さな身体を廻しに舞わせて破壊の爆風を幾つも幾つも作り上げていく。

『"アイツ"に触っていいわきゃねええんだよオオオオオオオオオオオッ!!』

 一際大量高密度に纏まった敵集団へ突っ込み中心でグラーフアイゼンを振り回す、それはまさに嵐の如き様相で。敵を鉄クズに変え次から次へと屠っていく彼女の身には反撃や弾け飛んだ敵機の鉄片が幾度も掠めそのジャケットは傷ついていくが、しかし気に留める様子など微塵も無いその顔はまさに鬼の如き形相で。

『無駄だと言うのがっ!』

 シュランゲフォルムの相棒を振り回し、烈火の将の名に違わぬ裂帛の咆哮を上げながら、

『何故! わからんのだッ!!』

その場の空間全てを燃え上がらせるような勢いで豪炎を放ち敵機を消散、焼散させるシグナムは、『己が信ずる武器を手に、あらゆる害悪を貫き敵を打ち砕く』――いつか彼女が言っていたベルカの騎士の、その在り方の体現の様で。

『貴様らに! 貴様ら如きには! 我らに付け入る死角もアイツに触れる資格も! 一片たりともありはしない!』

 誓いを胸に恩義を心に仲間を背中に武器をその手に。

 騎士達は、空を駆ける。

「……クロノ君、アースラ背面へ人型を先頭にした敵機隊接近!」

 そしてエイミィからそんな報告が入り、

「……頼んだぞ」

『身命に賭け、必ずや』

クロノの声に返る形で響いたのは、深く静かで揺ぎ無い声。

 かつての悪夢から解き放たれた――祝福を運ぶ美しき銀の女神の声だった。

 

 

 

 

 

 出来るなと、宙に浮かび仁王立つその姿にリインフォースは敵方の力量を悟る。

 身体のいたる所に生えたブレードが鋭い目つきと闘気に良く似合う、アースラの背面を守るリインフォースの前、数多くの戦闘機達を引き連れ現れたのはそんな女だった。

 こんな状況でなければ、賞賛の一つでも送ってやりたいそれは戦士としては実に見事な立ち姿だったが、

「我らが主、ドクタースカリエッティからの言いつけでな、あの男を貰い受けに来た」

「そうか、死ぬといい。看取ってやろう」

言い終わるのとほぼ同時、リインフォースはその手から紫がかった砲撃、ナイトメアを放った。

 溜め時間により威力の可変する魔法だが、今のはほぼ速射に近い。狙いを違えるわけもなく、フルチャージショットに比べれば大分格は落ちるものの並みの敵ならなんなくこれで終いなのだが。

(……速いな)

 敵は即座に反応、空中を高速機動し砲撃を躱し。

 ライドインパルス、そう呟いたかと思うと、

「っ!」

「おおおおおおおおおお!」

一瞬にしてこちらとの間合いを詰め、咆哮を上げ腕に設えたブレードで切りかかって来た。

 相当な速度の乗ったその一撃をリインフォースは展開したシールドで受け止め、

「……ふっ!」

お返しとばかりに唸りを上げる右ストレートを返す。シュヴァルツェ・ヴィルクング――腕で貫くよう展開した魔方陣により振るう拳の威力を跳ね上げる格闘魔法の付与付きだ。

 体勢を素早く変え、女は急加速を掛けた右の蹴りでそれに迎撃をかけ。

 衝突、響いた衝撃の後、お互い後方へ弾き飛ばされる。

 強化した自分の拳と同等の威力の蹴りを放つとは、やはり相当にハイレベルな高速近接系だなと分析を走らせつつ、

「――っ」

相手方が息を呑む音が聞こえた。

 吹き飛ばされた先、衝突の段階で予めリインフォースが配置しておいたブラッディダガーに囲まれて、だ。

「沈め…………っ」

 起動コードをリインフォースは呟いて、そして爆発が巻き起こった。

 煙が風に吹き飛ばされて、改めてお互いの姿が露になったところで、相手の女が言った。

「……危なかったな。私一人では食らわされていたよ」

 その言葉通り、女の身体に目立った外傷は無い。ブラッディダガーによる爆破攻撃はクリーンヒットしなかったという事になる、寸前で避けられたのだろう。

 その理由はわかっている。

「しかしさすがは銀の女神、あそこからよく避けたな」

「…………ふん」

 爆破させようと意識を集中した寸前、女の引き連れてきた戦闘機達がリインフォースに一斉に射撃砲撃をかけてきたのだ。もちろんの事そいつらにも元より警戒していたため喰らうヘマはしなかったものの、爆破起動を一瞬だけ遅らせてしまった。結果、女に避ける暇を与えてしまったのだからミスとしか言いようが無い。

「そんな顔をされると、心苦しくはあるんだが」

 険しい表情を作ったこちらにそう言って女は苦笑した。

「悪いな、名高き銀の女神との一戦、叶うことなら一対一で戦り合いたい気持ちはあるのだが、そう言うわけにはいかなくてな」

「……ぞろぞろと引き連れてきて、そこまでしてあの騎士が欲しいか」

「欲しいらしいんだ、うちのドクターはな」

「そうか、ならばそんな愚かしい考えを持っている限りこの世に貴様らが安穏と生きる事の出来る場所など一所もないと知っておくといい」

「手厳しいな」

 零して、女は構えを作った。

「お前達の大事な男を貰い受けることになるからな、一応名乗っておこう。トーレだ」

「………………」

 リインフォースは無言、魔力を高めていく。

 痴れ者の戯言にこれ以上付き合うつもりは無い、この――トーレと言うらしいが、この女一人相手でもギリギリの戦いではあるのだろうが、それに加えこの多数の戦闘機がいるとなると戦況はかなり厳しくなってくる。

 だが、負けるわけにはいかないのだ。戦法を頭の中に組み立てていく。

 あの日あの時救ってもらったこの自分が今この時、敗する事など許されようはずもない――何よりも、自分で自分を許せない。

(騎士…………騎士恭也)

 早く目覚めて欲しい。欲しいけれど、しかしどうか、今この時はどうか穏やかに安らかに。

 何も心配などいらない。貴方に害なさんとする愚か者は、この身が必ず滅してみせる。

 だから安心して、眠っていて欲しい。

「………………」

 リインフォースは無言のまま、キリキリと戦闘意識のレベルを引き上げていく。苦しい戦いになることは簡単に予想できる、それでもなお、要されるのは絶対の勝利。

 銀の柔らかな髪をなびかせ、赤い瞳で敵を見据えて、リインフォースは口を開いた。

「さあ死ぬといい、痴れ者よ」

 あの騎士に害なすならば、そんな者にはこの世を生きる資格も価値もないのだから。

「……行くぞ」

 返ってきた苛烈な視線と声、そして自分を囲む無数の機械仕掛けの軍勢にも、リインフォースは怯まない。

 片付けてみせる、胸に浮かべるのは揺るがぬ覚悟と、――笑顔が似合うと言ってくれたあの優しき騎士の笑顔。

 リインフォースは、思う。

 いつか必ず目覚めて欲しい。もう一度、あの愛しい顔を見せて欲しい。……でも今は、だけど今は、どうか今だけは柔らかい、穏やかなまどろみの中に居て欲しい、と。

 邪魔者達は愚か者達は痴れ者達は、自分達が滅しておくから。

 そう。

(大丈夫だ、……騎士恭也)

 ――全ては安らかな、眠りの内に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 奔ったのは直感、それが戦場でどれだけ重要なものか、フェイトは理解している。

 ゆえに行動は早かった。理屈ではないその感覚にしたがって、

「……はあっ!」

プラズマランサーを高速射出、向ける先は己の後方、アースラのすぐ近くだ。

 あんな位置まで敵を通した覚えはない、ないはずだが、しかし己の直感は……未熟ながらも育ってきた気配を探る技、心は、それとは逆の結論を出している。

 あそこに、何か居る、と。

 果たして。

「……うそっ!?」

「……なあっ!?」

「くっ!」

 果たして、踊りかかった雷槍を弾きつつも声を上げその姿を現したのは、三人。一人の顔には見覚えがある、クアットロなどと名乗っていた女だ。

「――っ!?」

 それでもどうか勘違いであって欲しいとどこかで願っていたフェイトの顔からは血の気が引き、背に冷たい汗が流れた。

 プラズマランサーを弾いた三人の位置は本当にアースラのすぐ近くで……否、

「まさかばれるなんてえん、……でも、これでチェックメイト」

もうその表面に降り立っている。それもそこは……恭也の眠る部屋の丁度真上。

「――おおおおおおおお!」

 AMF下に置かれ魔力防御のほぼ消失したアースラの装甲は脆い、とは言えそれを破り内部に這入り込むのには流石に多少の手間が、時間がかかるはず。みるみる内に回転数の上がっていく頭で考えながら、フェイトは魔法を高速起動準備。バルディッシュからは二発のカートリッジが排出された。

(這入り込まれる前にトライデントスマッシャーで吹き飛ばして……)

「……え?」

 蓄えた雷の塊を射出しようとした寸前だった。フェイトの口からは自然とそんな疑問の声がこぼれた。

「……IS発動」

 ニイと笑った青髪の女が見慣れぬ陣を足元に展開したかと思うと、

「ディープダイバー」

トプン、と。

 茶髪青髪銀髪の三人は、まるで水の中にでも潜るかのように船体へ這入り込んで行った。

 茶髪の女がその右手に握っていたキューブのようなものの姿がフラッシュバックのように脳裏で画像として浮かぶ。似たようなものを以前何かの任務で見た覚えがある、あれは強制転移装置だ。起動する事で触れているものをあらかじめ設定した場所へと送る代物――。

 

(――ごめんアースラ!!)

 

「スマッシャアアアアアア!」

『Trident Smasher』

 フェイトは蓄えていた魔法を自らも乗っていた愛艦、アースラに向け放った。

 内部に這入られた所為で三人の正確な位置は気配では読めない。ゆえに直接奴らを狙うのではなく。

 そして着弾。轟音を響かせ、アースラの壁面に風穴が開き――威力や角度、着弾点を短い時間の中ながら出来うる限り調節した甲斐あって狙い通り。

(……見えた!)

 正方形の氷の中、眠る恭也の姿が見えた。つまり、恭也の眠る部屋まで一気に道を作ったことになる。魔法の通り道にアースラの船員がいなかった事は緊急時の艦員の勤務体制を熟知しているがゆえに確信を持っていた事だ。でなければ流石にこんな手法は採れない。

 後は時間との勝負。あの部屋へ、艦へ潜り込み恭也の元へたどり着いて来るであろう奴らよりも早くあそこへ飛び込めば良い。

「ソニック……」

 ムーブと、続けようとしたフェイトの瞳が捉えたのは、恭也の眠る部屋、その天井からぬるりと這い出てきた青髪、茶髪、銀髪の姿。

 ここから高速移動魔法であるソニックムーブを発動させ、あいつらを、あいつらの持つあの強制転移装置を恭也に触れさせる前にあそこへ飛び込めるかどうかの勝負。

 フェイトの頭は己の現在位置に魔法起動速度とそれによる機動速度、そして相手方の現在位置にその移動速度を鑑み――。

 そして結論を算出した。

(あ、れ……)

 

 まに、あわない?

 

 まにあわない。

 まにあわない。

 ……間に合わない。

 速度だけはどんどんと上がっていくフェイトの頭が弾き出したのはそんな答え、現実だった。今から魔法を発動させても、させたが最後、おそらく。

 いや、確実に。

 自分は、間に合わず。

(やめろ……)

 彼を、奪われることになる。

(やめろ…………)

 跳ね上がっていく思考速度に逆比例。どんどんとゆっくりとなっていく周囲の光景の中、会心の、自分達の勝利の確信を持った笑顔を浮かべる青髪女、茶髪女の顔が見えて。生真面目そうな銀髪女の顔にも緊張はあれど焦りは無い。

(その、人、に………………)

 ゆっくりと、ゆっくりと、奴らは彼に、恭也に近づいて行く。強制転移装置、キューブ状のそれが恭也の氷解へと差し伸ばされ。

 ああ。

 そんな、の……。

 

"フェイト"

 

「っ!」 

 脳裏に浮かんだ優しい声と笑顔に――愛しい声と笑顔に。

(……その、人、に!)

 何かが吹っ切れて、

(触るなああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!)

何もかもが振り切れた。

 そして、世界がモノクロに染まる。

 

 御神流奥義 神速

 

 重みを増した空気の中、フェイトはソニックムーブを起動。

「……――っ!!」

 身体が、頭が馬鹿みたいに軋み、悲鳴を上げるも構わない。ゼリーのような周囲の空気を切り裂くように、フェイトは色の抜けた空を金色の魔力を纏って翔け。

 自らの空けた穴へと飛び込み、その勢いのままバルディッシュのフルドライブモード、ライオットブレードの刃を、

「っ!!」

寸前、まさにそう言っていいだろう、恭也の眠る氷解へと転送装置を触れさせようとしていた茶髪女達三人へまとめて横殴るように振り当てた。

 反動に身体がさらに悲鳴を上げたところで、やがて世界に色が戻って。

「……ぐうっ!?」

「……がっ!?」

「……っ!?」

 濃いAMFに相手の防御技能、そして自分の疲労、最後のものが一番の理由だろうが、茶髪女達三人の身体を両断してやる事は出来なかったが、雷撃とともに思い切り吹き飛ばす事は出来たようで、彼らはかなりの勢いをもってそれぞれ壁に激突。三人がようやっと驚きと苦痛の声を上げたのはそれからだった。

 その隙に、 

「ディフェンサー・シャープ……!」

『Defenser♯』

恭也の周囲へ四重のバリアを展開。黄金の膜に氷解が包まれた。

 そしてフェイトは床へと降り立って、

「……くっ」

そのまま膝を折り、半ば崩れ落ちる。体中が痛み、動きは鈍くひどくだるい。その上頭はぼうっとして、視界は揺れっ放しだ。

 ――神速。

 おそらく辿り着けたのだろうその境地は、未熟なこの身には明らかに過ぎたものだった。

「……はっ、く……うう…………」

 強い吐き気を堪え、なんとか呼吸を整える。神速だけでなく、その中で魔法発動までしたのもどうやら効いているのだろう、とにかく身体に力は入らず、魔力もうまく制御出来ない。普通に眩体や晃刃等の魔法と共に神速を使いこなしていた彼の凄まじさが文字通り身に沁みるようだった。……もっとも、その彼にしたって魔法と奥義を併用したものに関しては、神速内で行うのは薙旋・舞だけだと言うのだから、

(本当に、無闇に使えるものじゃあないんだな……)

奥の手と、そう言っていた事の意味を強く実感した。

 しかし、先ほどの状況はそれを使うべきものだったろう。

「何をしてくれたか知らないけど……相当無理したみたいですねえ、フェイトお嬢様」

 ふらつきながらも立ち上がりそう言葉を放つ茶髪女の手には、まだあの強制転送装置は健在だ。

「いっつー…………なんだよ……何が起きたっつーんだよ……」

「元はあんな離れた場所にいたはずで、そしてシェルコート越しでもこのダメージ……おそらく凄まじい勢いで突っ込んできたのだろうが」

「自殺行為みたいなものねん、……ふらふらですわね」

「ま、そりゃあたしらもだけどな」

「だが、こちらは三人だ」

 各々立ち上がる侵入者達の前、

「あらあら、だあいじょうぶですかあ?」

フェイトの手の中、バルディッシュがフルドライブを解除、ライオットブレード、ザンバーからさらにハーケンフォームへと戻る。これ以上のフルドライブ、ましてや未だ未完成のリミットブレイクはすべきでないとの、慎重な彼らしい判断だった。

『Sorry,sir』

 それはその判断を自分で下した事と、神速内での魔法発動を手伝えなかった事、両方の意味合いを含んでいるのだろう。長く連れ添っているからこそその声の調子からそれが読み取れて。

『ううん、いいよ。……でも、まだ一緒に無茶はしてくれる?』

『Yes,sir!』

 フェイトは応えてくれた相棒を信頼を篭めて握り、眼前の敵方を睨み付けながら、

「今ならまだ、許してやる」

己の身体に戦闘態勢を要求、応えてくれた鍛えてきた身に感謝しつつ、構える。

「なんて事を、私は言わない――真・ソニックフォーム」

『SHIN Sonic Form』

 バルディッシュまで一緒のリミットブレイクモードは無理だが、自分だけのそれならまだ無茶の範疇。フェイトはその身を包む装甲を超高速戦特化に移行させた。

「この人を、狙った事を後悔しながら死んでいけ」

「……それは執務官としてのご判決?」

 その問いに、フェイトは熱烈な想いの篭った、冷酷な声で答えた。

「ただの女としての判断だ」

「勇ましいですわねえ」

「やれるもんならやってみろっつの」

「……行くぞ」

 茶髪の女が周囲にスフィアを展開し、青髪は徒手空拳、銀髪は手にダガーを構える。

 その姿さえぐらりぐらりと揺れて見えている自分の現状から言って、勝算の薄さはよくわかっているけれど。

 不思議と、そう、不思議と――負ける気は微塵もしなかった。

 後ろに、あの人がいる。

 背に、愛する人がいる。

 それだけで、為すべき事は全て為せると、そんな風に思えた。

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ!」

 腹に入ったのは拳。エネルギーブレードの方でなかったのがまだ救いか、なんて思っている間に吹き飛ばされて。

「…………!」

 全方位から戦闘機達に射撃砲撃の雨を食らわされる。バリアを展開、リインフォースはなんとか凌ぐ。

 幸い魔力は潤沢な身だが濃いAMF下、それにも限りが見えてきた。肉体に入っているダメージもそろそろ無視できなくなってきている。

 劣勢、一言で言えば現状はそんなものだった。

 あの短髪女――トーレと一対一であったなら勝てていた自信はあった。しかし周りの戦闘機達が厄介だ。一体一体はたいした事は無いとは言え数が数である上に、迂闊に後ろへ通すわけにもいかない。数百機は潰したがそれでもまだまだ沸いて出てくる。

 不利な状況下で防戦を強いられる、まさに苦境の真っ只中。

「……遠き地にて、闇に……沈め! デアボリックエミッション!」

 なんとか準備を終え発動した広がる黒い闇の姿をとる広域殲滅魔法も、

「…………っ」

「よくやっていると、讃えてやりたいがな」

周りの戦闘機達を何体も飲み込んでいくが、次第にその色を薄くしやがて淡く消え去った。まさに焼け石に水、大した効果は上げられなかったと言っていいだろう。

 AMFの濃さと自らの魔力低下という悪条件があるとはいえ、あの魔法で状況をほとんど動かせないというのは。

(このままでは、……詰まれる、か)

 結論に、リインフォースは眉間に皺を寄せた。

 事実、トーレの表情は隙こそないものの自分とは対照的に余裕そのものだ。

「そろそろ終わりにしよう、銀の女神よ。こんな戦い方は私としても本意ではないしな」

「…………」

 取り合わず、リインフォースは無言、状況を打開するための戦術構成を頭をフル回転させ捻り出そうとし、

「……っ!」

「本当に、本意ではないんだがな」

しまったと、思ったときには既に足には円形大型戦闘機から伸びたコードが巻きついていた。

 思考に嵌るあまり、周りの状況への警戒を一瞬とは言え緩めてしまった自らの迂闊さに歯噛み、する暇もない。振り払わんとする前に次から次へと同じように幾機もの大型、カプセル型の戦闘機達はコードを伸ばし、リインフォースを絡めとっていく。

「……なっ!?」

 そして戦闘機達はコードを力づくで引きちぎろうとしたそのリインフォースの力と動きを利用するかのように、引っ張られるがままにリインフォースに体当たりするように素早く寄って。

 自爆でも狙っているのか、そんな予想は生ぬるかった。

「…………しまっ」

 考えれば自明な事だった。

 至近距離、リインフォースの全方位を埋めるかのような戦闘機達は一体一体が個別にAMFを展開している。そいつらに囲まれると言う事は、

(……魔力の…………結合が…………)

当たり前ながらもとより相当濃く展開されているAMFが比較にならないほどにさらに濃くなるという事であり。

 疲弊した今のリインフォースでは攻撃、反撃どころか防御魔法の展開もままならなかった。

 ライドインパルス、と、そんな声が風に乗って届いた気がする。

 捕らわれ、まともに防御も出来ないリインフォースの身を高速を纏い突っ込んできたトーレのエネルギーブレードが容赦なく切り裂いた。

 巻き添えを喰ったのであろうリインフォースを捕らえていた周りの戦闘機達が幾体か爆散するのが遠くに見えて、ああ、吹き飛ばされたのだと妙に冷静に理解する。

 魔力の消費、身体の損傷。

 戦闘継続は、……まだ可能。

 だが、しかし。

(……この、ままでは)

 このままでは、勝てない。勝てないと言う事が意味するのは、守れないと言う事だ。

 守れないと言う事が意味するのは。

(き、し…………きょう、や……)

 彼を、奪われると言う事だ。

「――っ!」

 歯を食いしばり力を内から練り上げる。

(………………うば、われて……!)

 奪われて、なるものか。

 だから守る、だから勝つ。どんな烈撃を幾度喰らおうがそれだけは――。

 思って。

(…………?)

 リインフォースは、気づく。なんだろう、先ほどのトーレの一撃、エネルギーブレードによる斬撃は確かに強力だった。格闘近接技能で言うならばS+クラスはあるはず。

 文句なしに、強く鋭い一撃だったはず、だ。

 なのに、……なのに。

 斬られた腹部の騎士甲冑には深刻な破損、衝撃を受けた身も痛む。

 しかしそれでも、思うのだ。

 ――軽い、と。

 いくら強くともいくら鋭くとも、なぜだかあの一撃は軽かった気がする。なぜ自分がそんな事を思うのか、吹き飛ばされた姿勢のまま青い空を見上げて、

(ああ、そうだ)

リインフォースは笑った。そうだ、なんだ、簡単なことじゃないか。

 軽いと、そう思うはずだ。思わないはずが無い。だって、だって、あんなものよりも遥かに強く鋭くそして重い、想いを背負った一撃を、自分は過去に受けたじゃないか。

 五年前、悪夢に泣いていたその最中、この身に受けたではないか――他でもない、あの騎士から。

 悲しいほどに誰かを護る決意の篭ったあの斬撃。あれに比べれば、今のトーレの刃など、なんと脆く軟く軽いものか。

「……、羽ばたけッ、スレイプニール……!」

 リインフォースは飛ばされていた身に背の六翼で制止を掛けた。これより後ろには下がれない。これより後ろにはただの一機も否、一発も、通せない。

 通さない。

「頑丈だな、そして強情だな、女神よ」

 揺るがぬ視線を返しリインフォースに、トーレは続ける。

「まあ、流石にもう保たないだろう。……残念だよ、お前ときちんと戦えなかった事がな」

 トーレの中では既に勝敗は決まっているようで、そしてリインフォースにはそれを覆すだけの策も力も技もない。

 それでも、決して曲げぬ曲がらぬ意志だけは。

 それを示すようにリインフォースが自らの魔力を迸らせ周囲に風を吹かせた、

『……インフォース!』

――その時だった。

『リインフォース、聞こえるか!』

『クロノ提督……?』

 響いた念話はアースラ艦長、クロノのものだった。聞き返したリインフォースに彼が口早に続けたのは、

『用件だけ言おう! "そちらへ助っ人を送る"!』

『……………………い、や』

なかなかに要領を得ない言葉だった。

(……助っ人?)

 なのはもフェイトも主も騎士たちもどこかに手を貸せるような状況ではないはずで、まさか艦長であるクロノが直々に来るのか、そんな事を一瞬思うも、彼の発言、"送る"という表現からすぐにその考えは却下した。

 送るという事は彼以外の誰かで、しかしこの状況でここに来て助けとなってくれる者が他に――。

 なんて。

「……――――っ!」

 自分の馬鹿さ加減に、愚かさ加減に思わず笑いそうになった。

 なぜ、すぐに思い至らなかったのか。

(そうだ、……そうだな)

 転送陣が目の前に浮かんだ後、そこに現れたのは陽光に照り返されての煌き。

(そうだ、そうだな、……でも、いいのか?)

 青空から降り注ぐ鮮やかな光の下、

(私に、この私に手を貸してくれるのか?)

それでもどこか控えめに輝く、

 

――それは、銀色の指輪。

 

 何も言えずに一瞬が経って、響いたのは彼女の声。

『ずっと、思っていました』

 凛としながらも柔らかい、穏やかながらも頼もしい、そんな彼女の声。

『ずっとずっと、思っていたんです』

「何を、だ……?」

 問い返すと、彼女は微笑むようにふわりと明滅し、答えた。

『同じ光に照らされた、貴方と私は夜と月。ずっと、思っていたんです――きっと、とても気が合うと。きっと、良き友になれると』

「……――」

 彼女の主の現状の、その元凶は自分であるのに。

 そう言って、くれるのか。

 その想いは、問いは、口にしなかった。それは彼女への侮辱だ。ここに来てくれて、そして何より、あんな風に言ってくれた、それならもう、自分はうだうだとみっともなく負い目に眼を伏せているべきではなく。

「力を……」

 何より、今はそんな時ではなく。だから、リインフォースは加害者として謝るでもなく咎人として伺うでもなく。

「力を……!」

 友として、彼女に請うた。

「力を貸してくれ! ――魅月!!」

『喜んで!!』

 そして光が瞬いて、リインフォースの腰には鞘に収まった小振りな剣が二振り。

「……ユニゾンデバイスがデバイスを使うというのもまたなんというか、妙な話だが…………しかし今さらデバイス?」

 怪訝そうなトーレに、スラリと両の魅月を抜き放ち、リインフォースは厳かな声で空気を揺らした。

「……態度が全くなっていないな、弁えろ、下衆。頭を垂れ、面を下げて地に伏せろ」

 静かに、それでも確かに相手に届く声量を持った言葉で告げる。

「お前は今、世界で最も気高き刃の前に居る。無礼は許されんぞ」

「……気でも違ったか?」

 ふ、と首を振る仕草と同時、トーレの指示を受けてだろう戦闘機達がリインフォース目掛け押しつぶすように突進してくる。

 不意をうってコードを絡めることもしない、数に任せた力づくの戦法だが疲弊しついさっき大きなダメージを受けたリインフォースには確かに有効な戦法と言えた。

 リインフォースだけだったならば、有効な戦法だったと言えた。

「…………行こう、友よ」

『ええ、我が友よ』

「――Überwältigender Körper」

『Überwältigender Körper』

 噛み締めるように、詠唱を発して。

 リインフォースの体はその場から掻き消えた。

 殺到してくる戦闘機達の隙間を縫うようにして力強くしかし軽やかに、総じて言って圧倒的な速度でもって駆け抜けていく。足音と一瞬だけ生成していく足場だけが置き去りになるあまりの高速機動に、戦闘機達はリインフォースの動きはおろかその姿さえまとも認識出来ず、響き始めるのは爆発音。すれ違い様に魅月の刃に斬り裂かれた敵機達は為すすべも無く只の鉄塊に変わっていく。

『ふむ……やはり騎士恭也のようにはいかないな。斬撃の鋭さはもう言うまでもない事だが、機動速度においてもスレイプニールも併用しているというのにあまりに遠く及ばない』

『友よ、理想が高すぎるのは考えものですよ』

『む、……そうかその通りだな。うむ、そうだ。騎士恭也と自分を比べるとは我ながら畏れ多い行いだ、慎もう』

『……しかしやはり流石ですね、Überwältigender KörperもGlänzende Klingeも初めてでここまで使いこなすとは』

 Überwältigender Körper、Glänzende Klinge――彼愛用の、そして彼女の特筆すべき得意魔法、眩体と晃刃だ。

 魅月の賛辞に、リインフォースは苦味のある、しかし俯く暗さに染まってはいない声で答える。

『……私は一度、恭也を内に取り込んでいるからな。だからこうも使えるんだ』

『それでも、ですよ。真正古代ベルカの名に恥じぬ戦姿ではありませんか』

『……っ、そう、だろうか』

『ええ』

 それは、他でもない恭也の愛刀という肩書きを抜いたとしても、身が震えるほどの喜びを感じる言葉だった。なにせ、彼女魅月は、真正古代ベルカにおいては知る人ぞ知る、ある意味で伝説的とも言われた"Mond"シリーズのデバイスなのだから。

 与えてもらった評価に恥じぬよう、そしてなにより今為すべきことを為せるように、リインフォースは残り少なくなった魔力を奔らせ空を駆ける。

 四方八方、回るようにして舞いながらその実、向かう先は言うまでもない。

「……来るかっ」

 邪魔な戦闘機達は粗方片付けた、そう判断し、構えるトーレの正面へ。

「――ぉおおおおおおおおおおおおおお!!」 

 咆哮を上げ、生成した足場を思い切り蹴り背の翼をはためかせ今出せる最高速をリインフォースはその身に乗せる。

「――っ!」

 ライドインパルスという名らしい、見慣れぬ陣を足元に展開してから放つ彼女の主力技なのであろう高速移動術をトーレも発動させ。

 両者は真正面からぶつかり合った。

 ザン、と、響いた音は四重。

 リインフォースの両の手の魅月がトーレの腹部に、トーレの両腕のエネルギーブレードがリインフォースの腹部に突き刺さった音だ。

「……相打ち、狙い、か…………?」

 掠れた声でのそんな問いに、リインフォースは口角を吊り上げ不敵に返した。

「相打ち? 生憎とこちらは頑丈な身でな、そんなつもりはない。…………これからが本番だ!」

 搾り出すのはなけなしの魔力。

「来よ、夜の帳……」

 両者の間に生まれた黒い球体は少し膨らみ、二人を飲み込んだ。

「なん…………?…………これは…………?」

「ああ、魔力増幅空間だ」

「……こんな至近距離にいながら一体何を考え…………なっ!?」

 問うたトーレをリインフォースは涼しい顔で自らの身体ごとバインドで捕らえた。

「こんなっ、……正気か貴様!?」

「ああ、悪夢より醒ませてもらってからこの方、私はいつでも正気で本気だ」

 覚悟ならとうに決めてあるとばかりに、いっそ優雅にリインフォースは微笑む。

 黒き球体――魔力増幅空間、その中へバインドで固めた敵を捕らえ、そこへ魔法攻撃を放ちその増幅効果を利用して強烈なダメージを与える、というような運用をする魔法だ。

 当たり前ながら、増幅され大規模高威力になった自分の魔法の巻き添えを喰わないよう、標的とは通常よりも大きく距離を取るべきであるのだが。

「こうでもしなければお前はちょこまかとその移動技で逃げ回るだろう」

『ですから、こうして捕まえた次第です』

「な、な……」

 今のリインフォースとトーレはまさに零距離。ピタリとくっつき合っている。

 戦慄するトーレと微笑むリインフォースの周囲、黒い空間にやがてバチリバチリと稲光が生まれ始めた。

「この魔力…………デバイス諸共焼け死ぬ気かっ!?」

 発動準備段階からこれから放たれる魔法の威力を察したのだろう、眉間に皺を刻んだトーレに、

「……覚えておくといい、痴れ者よ。我ら真正古代ベルカの女はな」

リインフォースは穏やかにして厳かに言って、

『砕けぬ頑丈折れぬ強情、そして屈さぬ根性こそがその真価、なんですよ』

そして迷い無く淀みなくそう続けてくれた友のその柄を握り、

「さあ、眠るといい」

「まて、やめ…………っ」

 

「――撃ち抜けぇ!! 夜天の雷!!」

 

 視界を埋め尽くす攻撃的な雷光が、耳をつんざく破壊的な雷鳴が、身を焼き焦がす圧倒的な雷撃が、リインフォースと魅月諸共に、なんとか逃れようと身をよじったトーレへ踊りかかった。

 

 

 

 感じたのは、風。吹き抜けたそれにリインフォースの意識は戻った。

「…………っどうなった!?」

『勝利ですよ、我が友よ』

 答えた声は左手の小指から返って来た。待機状態に移行したらしい魅月だ。

『あなたが気絶していたのはほんの一瞬です、そして相手は……』

 言われずとも、その先はわかった。

 リインフォースの視界、その遠くには焼け焦げた身を航空機型の戦闘機に乗せ去っていく短髪の女――トーレの姿。

 膝立ちで荒く肩を上下させており、どうやら死にはしなかったらしいがもう戦闘を行えるような状態ではなくなったのだろう。武人のような雰囲気はあったが引き際を弁えないようなタイプには見えなかった、彼女はもう戦線から離脱したと考えていいだろう。

「……だが、まだ引き下がらない連中はいるようだな」

『ですね』

 数を減らしても増援が次から次へと沸いてくるために、戦闘機達は未だ空を埋めるような数だ。それに、トーレのような者もまだいるかもしれない。少なくとも、クアットロなどと名乗っていたあの女を始末したという報告もまだどこからも受けてはいない。

「なあ、我が友よ」

『何ですか?』

 魔力も枯渇しかけ体力も切れかけのリインフォースは穏やかに微笑み、問う。

「まだ付き合ってくれるか?」

『ええ、喜んで』

 少なからずダメージを受けたのだろう幾つか裂傷の見える魅月は、しかし迷いなく彼女らしい控えめながらも確かな輝きを見せ、そう答えてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

  

"フェイトちゃんもあれなんよな、長物使うんやろ? 斧やったか鎌やったか。んでもとにかく、せっかくやから棒術の突き、覚えてみいひん? 石突とかで打てるし、幅広がるやろ"

 

 ダン、と、響いた力強い自らの踏み込みの音はしかし、音よりも遥かに速い速度で飛び出したフェイトの耳には届かない。

 最初から全速、トップスピードで向かうは、

「……っ」

手に持ったダガーを投擲するモーションへと入っている銀髪女だ。どんな効果があるかわからないあんなものを投げられて氷解の中眠る彼に何かあってはいけない、そう判断しまず真っ先に潰す事にした。まっすぐに突っ込むこちらの姿を一応視認出来た、反応できたのか、銀髪女はバリアらしきものを周囲に展開して防御を固める。

 

"ええか? 大事なのはたった一つだけや。……『一つになること』、その一つだけや"

 

 みるみる内に両者の間合いは詰まっていく。フェイトの手には逆向きに、つまり鎌部分ではなく石突を先端に回したバルディッシュ。

 

"脚、腕、腰、手、体全体を一つに、やないで。そこに手に持った得物、武器も合わせて一つになるんや。そうすれば棒の先に篭る力は全身と武器の速さと重さと膂力と気合、自分の持ってる全部になって……そして出来上がるのは必殺の一撃や。おししょの徹が出来るんなら結構えげつないのが打てるはずやで、――アホがおったら遠慮なくかましたれ"

 

 振り下ろした脚、伸ばす腕、回した腰、握る手、うなる己の体全てとそして相棒を、一つに。

 生まれる威力のその全てを己の得物の先端へ集め、眼前の獲物を容赦なく仕留めんとするフェイトの脳裏に浮かんだのは、

 

"欲しいもんがあるんなら、護りたいもんがあるんなら、なんもなくさずに、幸せで居続けたいのなら……いつだって、闘って、勝たななあ。なあ、フェイトちゃん"

 

深い笑みを湛えたレンの、そんな言葉だった。

(はい! レンさん!)

 胸の内、感謝と共に答えながらもらった教えに違わぬ動きで放つのは、

 

 鳳家直伝棍術寸掌

 

 空気を切り裂き唸りを上げ、真っ直ぐに迫る重い突き。バリアへ刺さるように届いたそれは、衝撃を内側へと貫通させる。

「……っ!?」

 何が起きたのか理解できない、そんな顔で大きく仰け反る銀髪女。バリアの展開も大きく緩む。

『Haken Slash』

「……――ぅあああっ!?」

 そこへ廻したバルディッシュから追撃の鎌を叩き込めば、彼女のその小柄な身体は勢いよく壁へと吹き飛んで行った。

「……てんめええっ!」

 噛み付くような声と共に低い姿勢で素早く踏み込んで来たのは青髪の女。好戦的な瞳に怒りを湛えた彼女は握った拳を振り上げる。単純なアッパーだが、技を放った直後のフェイトは避けられはせず、バルディッシュでガードする。

「……はっ!」

 勝ち誇ったような青髪女の笑み。バルディッシュはフェイトの手から離れ宙へ、上へと舞っている。打撃の衝撃に耐えかね得物を弾かれた――彼女にはそう見えたのだろう。

 しかしそうではないことは、バルディッシュも、そして当然本人のフェイトもよくよくわかっている。弾かれたのではない、わざと離したのだ。

 

"フェイトちゃんも得物無しの格闘戦、やる機会あったりするんだってな? んじゃ折角だし、日本の誇る空手の技、覚えてみない?"

 

 拳を上へ振りぬいた姿勢の青髪の女の前、フェイトは捻る要領で体を回し、弓を引き絞るように力を溜める。

 

"まあ空手っつうか、俺のお世話になってる館長から教わった奥義の、そのさらに自己改良版なんだけどね。俺、御神流じゃあないけど普通の直突きとかなら師匠から教わってたし、後はほら、その、あの亀ヤローの技もちょちょっと盗んだりもして、んで作ったんだ"

 

 拳を固め、息を鋭く整える。余分な力は抜きに抜く。

 

"大事なのはタイミング。体を引き絞って溜めた力を当てた拳越しに一気にぶっ放す、その最適な瞬間をちゃんと捉える事だ。目と勘と、そして勇気が一番大事。もし失敗したらとか、そんな風にびびってちゃあ使えない技だ。絶対これでぶっ倒す、そんな気持ちで放つんだ"

 

 構えを作ったこちらへ追撃をかけるように拳を振りかぶり、そして左のストレートを放ってきた青髪女の動きを真正面から眼を見開いて見切り。

 相手の打撃を掠めて躱し、下がらず退かず振り返らない、前へのみ進む意思を篭め拳を突き出すフェイトの脳裏に浮かぶのは、

 

"できねえ、できっこねえって思ってたら、できるもんもできなくなるんだ。……どっちに進むかわかんなくても、迷う必要なんかねえ。いつだって進む方向なんて、前しかねえんだから"

 

輝くような笑顔を放つ晶の、そんな言葉。

(はい! 晶さん!)

 心の中、感謝と共に叫びながらもらった教えを生かしに生かして放つのは、

 

 明心館空手巻島流奥義 吼破・改

 

 トン、と、相手の体に触れるように当たってから爆撃のような威力を放つ激しい拳。相手の内側を揺らし震わせ掻き乱す一撃だ。魔力によって強化されたフェイトの身体で振るわれるそれは、本家と比べれば粗い出来だが威力は十分。

「―――ッ!?」

 声も無く、意識が一気に飛んだのか焦点の合わない瞳で青髪女は水平に飛んで勢いよく床を転がっていった。

「……お見事! でも残念!」

 声に振り向けば、残忍な笑みを浮かべたクアットロが周囲へ大量のスフィアを生成済み、まさに発射寸前だった。

 それを一点集中放火しバリアを破り、強制転移装置を作動させるつもりなんだろう。

 しかしフェイトは焦らなかった。二人倒しても三人目にしてやられる、そんな展開が、

「……遅いよ」

この後訪れないことを確信していたから。

 だって。

 遅くったってぎりぎりだって。

「――なのは」

 こんな時、こんな状況で、この親友が、幼馴染が、戦友が、恋敵が、間に合わないはずがないのだから。

「なっ!?」

 フェイトの空けた穴から砲撃のような勢いで突っ込んできたなのはは、驚愕に表情を揺らすクアットロの身をその勢いのまま一息の躊躇も微塵の減速も無し、A.C.S.展開モードのレイジングハートで容赦無く串刺しにした。

 

 

 

 

 

 

 クアットロが身を貫く激痛と衝撃の後に感じたのは、浮遊感、否、上昇感だった。

 上がって、昇っている? 思う間に体はものすごい勢いで上へと向かわされる。天井にぶつかる衝撃は無かった。正面からなのはに刺される形となったクアットロの背へぶつかる前に、自分を貫き背から突き出ているのであろう半実体魔力刃の効果か威力どちらかによってだろう、自分達が潜って侵入してきた艦の天井は突き破られ、吹き飛ばされて行くからだ。それは果たして幸なのか不幸なのか、あまりの状況にクアットロの頭は判断を下せなかった。

 やがて上昇感が止み、クアットロの身は青空の只中にあった。見下ろせばそこにはアースラの姿。フェイトによって横腹に、なのはによって天井に大きな穴を穿たれ中々に凄惨な状態になっている。

 しかし、凄惨な状態と言うのであれば自分も同様か。

 気づけば桜色のリングに堅くロックされ両手両足はもうまともに動かせない、そして腹には突撃槍が突き刺さっている。頼みの綱の強制転移装置にも封印処理がなされていた。

「……スマートじゃないわねえ、大事な艦にああんなことして。……ほんと、貴方の周りに居るものはみいんな傷ついて行くわね」

 震えを押し殺して、からかうような口調で言うクアットロの真意は挑発ではもちろんない。

(この女の心には傷がある……)

 兄と友、自分を守って親しい者が傷を負ったという過去をこの目の前の女は持っている。そこを突き、抉り、あわよくば動揺させてなんとかこの状況を――。

「……ぅぐ!」

 ずぱり、と腹から刃が引き抜かれた。

「悪いけど、お話聞く気はないからさ」

 そう言うと、なのはは手に持ったデバイスを突撃槍状態から通常状態へと収めた。怪訝に思うクアットロの目の前、さらに彼女はそれを手放し自らの傍らに浮遊させる。

「さて、と」

「……なんのつもりですの?」

「ん、決まってるじゃない。まずはこれが、……私の分」

『Accel Smash』 

「……――っ!」

 光を纏って真っ直ぐ奔った左拳がクアットロの顔面に突き刺さった。はりつけのように両手を固められているために当然防御も出来ず、まともに喰らわせられる。

「……うご、けない、相手を殴りつけるなんて、いい趣味してま」

 なんとか虚勢を張り言おうと顔を上げたクアットロの視界にあったのは、今度は右拳を振りかぶるなのはの姿。

「……っちょ、まっ」

「そしてこれが、…………私の分!」

『Accel Smash』 

「ぐううっ!」

 先ほどのストレートのとは違い、今度は首を横に折られるかのような勢いでの右フック。視界がぐわんぐわんと揺れる。

「それからこれが、私の分ッ!」

『Accel Smash』

 横を向いたクアットロの顔面を真正面から捉え直すように、今度は左拳による左フック。

「……う、ぐ……あ」

「そして次が、――私の分だ!!」

「……っ」

 光に煌くストレートの一撃がまた閃いて、クアットロの顔面を捉える。視界の中、何かが落下して行くのが見えた。

「ああ、なんだ、やっぱり」

 目の前の女、高町なのはは、にいと笑った。

「眼鏡、無い方が似合うねえ」

 落ちていったのは自分の眼鏡か、思えば一撃目でもう大分ひしゃげていたろう、今まで自分の顔にかかっていたという事の方が不思議なくらいだ。

「さて、それじゃあ素顔の貴方に出会えたところで、……受け取ってもらわなきゃね。続いてこれが……」

「……ひっ」

 自分の口からみっともない悲鳴がこぼれた事への羞恥を感じる余裕もなかった。

「私の分! 私の分! 私の分ッ! 私のッ……分ッ!!」

 フックストレートフック、最後は突き抜けるようなアッパー。

 途切れかけた意識にだらりと体の力が抜けかけるも、

「――……ぁあああああああ!!」

ぐちゃ、とその音と何より痛みで目を覚まされ、たまらずまたしても身は強張り硬直する。何事かと痛みに導かれるように視線を下げ、見れば。

 突撃槍で貫かれた腹の中に、今度はなのはの拳が突き刺さっていた。

「なに寝ようとしてるの? 駄目だよ、ちゃんとわかってもらわなきゃならないんだからさあ」

「な、にを……っ」

 腹に拳を突き込まれたまま今度は空いている逆の手で髪を掴まれ無理やり上げられた自分の顔は、目の前の高町なのはと至近距離。

「…………………………う、あ」

 だから、感じてしまった。

 否が応でも、その瞳の中に燃える炎の激しさを。

「あ? ……あ、…………あ、………………あああ」

 止められない。まるで極寒に置かれたかのように、その灼熱を見せ付けられたクアットロの体はブルブルと激しく震え出した。

「あ、……ま、まって、わかった、も、もうわかったから……ぅうううう!!」

「何がわかったって?」

 クアットロの腹から勢いよく腕を引き抜いて、

「……ねえ、貴方、普通の体じゃないんだね、半分くらい機械なのかな? ……ま、でも」

赤く染まった自らの拳を一瞥したなのはは、すぐにこちらへ視線を戻して。

「でも、さ。大丈夫だよね? 伝わるよねえ? だって言葉が使えるもんね? ちゃあんと心があるんだよね? ……そうでなきゃおかしいよねえ? もしも心がないんなら……」

 またしても、にいと笑って。

 

「――泣いたりなんか、しないよねえ?」

 

『Accel Smash』

 クアットロの顔面に、もう何度目かの衝撃。

「……あ」

 滲んだ視界と、

「……あ、……ああああ…………」

その中に何かが――はっきりとは確認できないがおそらくは涙が、きらりきらりと舞っているのが見えた事で自分が泣いているという現実を認識して。

「………………――ぃやあああああああああああああああ!!」

 ついにクアットロは絶叫を上げた。

「いやああ! いやあああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 怖い。

 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!

「いや! いやああああああああああああああ!!!」

「……うるっさいなあ」

「ああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!」

 この女が、目の前の女が怖い。

 そして、この女にこの後間もなく間違いなく。

「……まあいいけどね、もうすぐ貴方は静かになってくれるんだから」

 殺されるであろうという事が、怖かった。

「いや! いやあああ!! いやああああああああああああああああああああ!!」

 自分でも不思議に思うくらいの、生への執着。目の前に漂う濃厚な死の香りに、狂ったようにクアットロは泣き叫ぶ。

「いや! いやあああああ! ああああああ! ああああああああああああ………………っ!!」

「やっぱりちょっと黙ってくれる? ちゃんと聞いてもらわなきゃいけないこと、あるからさ」

 そう言って泣き叫んでいたクアットロの口をぎりぎりと万力のように自らの右手で塞ぎ締め付けながら、そしてなのはは告げる。

「貴方のご主人様だかお父様だかなんだか知らないけど、ジェイル・スカリエッティ、そしてもちろん貴方もだけどさ、本当にわかってない。わかってなさ過ぎる。……いや、ほんとに世の中多いんだよね、これをわかってくれていない方々が。もうびっくりするくらい。いい? ちゃあんと、よくよく聞いてね? いい?」

 

 あの人は、私のだ。

 

 篭められた感情の密度がはっきり伝わる途方も無い解像度で聞かされたのは、そんな言葉だった。

「"お兄さんを、高町恭也を私にくれないかい?" ……いやあ、ほんと、馬鹿言わないでよね。こんなに殴らなきゃいけなくなっちゃうからさあ。いい? あの人は、高町恭也は……」

 ぱっ、となのははクアットロの顔から手を離して、

「おにいちゃんは……」

今度は後頭部に両手を添え、

「……――――私のだッ!!」

ゴッと、回避しようもなく顔へ喰らったのは膝だった。

 もはや悲鳴すら上げる余力もなくなったクアットロの前、なのはは傍らに浮いた杖を掴み、その先端をこちらへ向け、そして魔力を奔らせ始める。

 クアットロに向けた杖を掴む左手と反対、右手は人差し指と中指を立てた形で構えを作り、パリパリと雷撃のようにあたりへ桜色の魔力を迸らせるなのはの瞳は完全に、確かな殺意で固まっていて。

 遅まきながらに、クアットロは理解した。

 ああ。

 手を出してはいけないものに、自分達は手を出してしまったのだと。

 ぶおんと、どこかからそんな音と共に四肢をだらりと弛緩させたまま投擲されてきたのは、チンクとセイン。

 どう見ても意識の無い妹二人は瞬く間に、自分と同じように空中へ固定された。

「ああ、色々してあげたみたいだね」

 やってきた、おそらく妹達を投げたのだろう金髪の女、フェイトはクアットロを見てそう言うとなのはの隣へと並ぶ。

「当たり前の事を言って、当たり前の事をしただけだよ、そっちもでしょ?」

「うん、まあね」

「で、……私はもういつでも撃てるよ、フェイトちゃん」

「うん、じゃあこっちもすぐに準備する」

 そう言うとフェイトはなのはと丁度対称の、右手に杖を持ちこちらへ向け、左手は人差し指と中指を立てた構えを作り。

 バチリバチリバチリバチリと、二人は奔る魔力を見事に同調させ、恐ろしいほどの圧力まで高めていく。

「……あ、…………は、は……」

 もう、笑うしかない。

 死ぬ。死んだ。これは。絶対に。

 周りの戦闘機達は忌々しいことに夜天の騎士達が抑えきっているし、トーレも敗して退却したという。

 助かる要素はもうどこにもなかった。

『Stand by ready, charge set』

「フィールド形成、発動準備完了」

なのはの平然とした声に、

「中距離殲滅コンビネーション、空間攻撃ブラストカラミティ」

フェイトの揺れぬ言葉が続いていき。

「……――全力全開!!」

「……――疾風迅雷!!」

 響いていた甲高い音がやがて臨界に達したかのようにふっと、一瞬だけ止まって。

「ブラスト・シュートッ!!!」

「ブラスト・シュートッ!!!」

 その掛け声と同時、暴虐の閃光が轟音と共に広がった。

 

 

 

 

 

 

 

(逃げた、か……)

 確認した事実を、なのはは頭の中でそう呟いた。

 クアットロ、そしてその仲間らしき銀髪と青髪の女。三人は結局、ブラストカラミティに身を喰らい尽くされるその寸前にあの強制転移装置を自分達に発動させて去って行った。

 予定通り、だ。

 ミスではない、わざと逃がしたのだ。最後の最後、故意にバインドと強制転移装置の封印処理を緩めて相手の逃げる隙を作った。本当に小さなそれをちゃんと突いて意識の無い仲間も連れて逃げていったあの眼鏡の似合わない女の事はまあ、褒めてやってもいいのかもしれなかった。

(これで……いいん……だよ、ね……)

 褒めてやってもいいと思っているのも本心だが、殺してやってもよかったと思っているのも本心だ。

 だが、そうするよりも逃がした方がこの後の事を考えればいいはずなのだ。

 あそこまで恐怖を煽り、脅威を振りかざし、狂気を見せ付ければ、わかるだろう――高町恭也に手を出す事がどれだけ愚かな行いなのか。

 最初の通信の様子を見る限りどうやらあのクアットロとか言う女は多少なり、ジェイル・スカリエッティに対し意見を言える立場らしいのだから、きっと彼女は進言するはずだ、決して軽々しく、あの男を狙ってはならないと。

 それに、クアットロ達を殺してしまっては報復の意味もかねて奴らは再度兄を狙いに来かねない。

 そんな風に考えれば、ああして逃がすのが正解、そのはずなのだ。

 もちろん最初のスターライトブラスターの乱打で仕留められたのなら、その程度の相手だったのなら報復も高が知れているだろうからそれはそれで構わなかったし、何より殺さず捕らえてスカリエッティの居場所を吐かせて……なんて事が出来ればそれが文句なしの最善だったろう。しかし、あんな風に激しく状況の推移する戦闘の最中、そんな選択肢を採る余裕などなく、

(フェイトちゃんも限界で、……私も、もう)

フェイトとなのは、ブラストカラミティで三人は逃したものの多数の戦闘機を屠った二人はそれまでの無茶がたたって、もう一秒だって戦闘をまともに継続出来そうにはない、あのまま身柄の確保なんて、そんな余力はなかった。

 と言うよりかは、

(……あー)

意識を保つ事すら、もはや限界だ。傍らのフェイトはもう目を閉じて、なのはも指一本まともに動かせない状態、二人は共に重力に引かれるがまま、真下のアースラ、恭也の眠る部屋へと落下していく。

 周りの光景がどんどんと淡く薄くなっていく。体がひどくだるく重い。レイジングハートも限界だろうし、

(ちゃんと着地、ってわけには行かなそうだなあ……)

その衝撃で完全に気絶するか、その前に自然に気絶するかは微妙なところだろう。

 でも、よかった。

 もう、よかった。

 相手方の主力を主犯を追い払い、あれだけ敵機を潰して、そして時間を稼いだ。

 後は、仲間達が、特に今まで我慢し力を溜めていてくれていただろうあの子が、はやてが、なんとかしてくれるはずだ。

 やりきった。

 やりきれた。

 そのはずだ。

 ……本当に?

 わからない。

(まもれた、か、なあ……)

 途切れていく意識の中、なのはが思うのはもうただ一つ、それだけだった。

(わた、し、こん、どは…………ちゃん、と……)

 大切な人を。

 愛しい人を。

 あの、人を。

 ――護りたい、人を。

(まも、れ、た、かなあ…………)

 天井を抜け、アースラ室内へと落ちていく。

 なのはの意識は99%がもう途切れ、残りの1%に覚悟していた落下の衝撃による痛みが――。

 

 なぜだか、訪れなかった。

 

(……あ)

 ふわり、と、

(あー、あ、はは……)

優しく、それでいて確かな。

 圧倒的な安心感を持つ温もりに、自然と緩み切った笑みが零れてしまうそんな温もりに、包まれた気がして。

 そして。

 疲れ切ったなのはは。

 まるで、五年前のあの頃、ごく普通に享受出来ていた、自分の全てを委ね切った無防備な、優しい愛しい心地いい――。

 あの人の傍にいる何より幸せなあの時のような、そんな眠りに落ちて行った。




 バトル尽くめ。視点もころころ変わりますね、Jokerの第一話みたい。

 この作品、この話についてめたんこダメ出しされて、嫌になって三年間更新が止まったという過去があったりします。

 過激な描写も独自な解釈による技・魔法もあります。お気に召さなかった方にはどうか、ページをそっ閉じして頂けたらなと思います。



 ナンバーズの子達、vivid読むと可愛く見えてくる子達が結構いて、アニメで観られるのが楽しみです。
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