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この作品には原作設定の拡大・独自解釈も含まれます。申し訳有りませんが、原作設定の絶対的な遵守をお求めの方、ご自分の解釈を非常に大切にされている方のご要望にはお応えしかねる場合があります。該当される方はご自身の責任における判断で閲覧されるかどうかお決め下さい。よろしくお願い致します。
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番外編です。
アレな話なので、苦手な方はご注意を。一行目で方向性はわかりますので、あかんなと思ったらこの話は飛ばして下さい。
第19.5話 初心な反応
「はい、ここにエッチなDVDがあります」
「いえーい」
「……え!? 待ってなに急に!」
昼下がりの高町家、末妹の部屋。
なのはの右隣にはDVDの入ったケースを持って笑顔を浮かべたはやて、左隣には聞いていない展開に泡を食うフェイトがいる。
「今日って一緒に宿題やろうって話で集まったんじゃないの!?」
「宿題をやるって言うたな、あれは嘘や」
「なんで!? いやいや、別に、まあそれはいいけど、なんで、その……」
「随分と初心な反応だね、フェイトちゃん、私達もう中学二年生だよ?」
「そろそろそういう知識もやな、つけなあかんと思わん?」
「じゅ、十八歳未満だよ! だからまだ駄目だよ!」
さすがは法を守る執務官、遵法意識はお高くいらっしゃるようだ。
「ごめんごめん遅くなった、まだ観てないよね、例のやつ」
と、ドアが開いて新たな人物が顔を出す。少しくすんだ金髪が特徴的な少女、アリサ・バニングスだ。
「ちょっと道が混んでて……ごめんね」
その後ろからは紫がかった黒髪を湛えた月村すずかの姿もある。
「いらっしゃい、二人とも」
「ええってええって、まだ観てへんし、そこのむっつりパツキンに説明始めたとこや」
「むっつ……それ私の事!?」
「フェイトちゃんあのね、私は知っているよ、フェイトちゃんが鍛錬後のおにいちゃんの、汗が浮いた身体をいやらしい眼で視ている事を」
肩に手を置いてそういうと、一瞬でフェイトの顔は真っ赤に染まった。
「な、や、そ、な、い、や、私はそんな!」
「……図星なのね、フェイト」
床になのは達三人が座り込んでいるためスペースがないので、すずかとベッドに腰掛けたアリサがジトッとした眼で言った。
「ち、ちがう、そんな眼で、私は……バルディッシュの録画機能をオンにしてるのも決して浅ましい目的でなく、鍛錬の記録を……」
フェイトは狼狽に眼をぐるぐるとさせ、聞いてもいない罪を自白し始めた。
フェイトを除いた四人は誰からともなく視線を交わす。素早く動いたのはすずか、生来の身体能力をフルに使って滑らかにフェイトの背後に回るとその四肢を自らの手足で抑えこむ。
「す、すずか!? あ、ちょ、なのは!?」
その隙になのははフェイトの胸ポケットから金の三角片を取り出した。
「バルディッシュさん、わかるよね?」
『……Yes,ma'am』
「ば、バルディッシュ! ちょっと!」
「フェイトちゃんが録画した鍛錬中のおにいちゃんの映像の中で、最も再生回数が高いものをお願い」
「だ、駄目! バルディッシュ! バルディッシュ!」
『……Sorry,sir』
戦況を正しく認識したフェイトの相棒は、空中に映像を投影する。
半裸、である。
引き締まった肉体の男性が、その古傷だらけの上半身を露わにしてる画が大写しになった。
その場の誰もが何も言わず、食い入るようにその映像を見つめている。
『……すまんなフェイト。いつも見苦しい物を』
『いえいえ! 見苦しいなんてそんな! お気になさらず、どうぞ、しっかり、ゆっくり汗を。あ、タオルです』
『ありがとう』
フェイトから薄いブルーのタオルを受け取った恭也は、それで身体を拭いていく。観ている側の問題なのかもしれないが、なんだか艶かしい仕草で。
「……これは、その、…………その」
「言ってみい、恭也さんこれ完全に撮影に気づいていない感じで、つまるところ文句の付けようもない盗撮なわけやけど、何かしらの申し開きがあるなら言うてみい」
「た、鍛錬の映像を撮影する許可は取ってる!」
「これのどこが鍛錬の映像よ!」
アリサが枕を引っ掴み、フェイトの頭に振り下ろした。
「……あの、すずか、ちょっと痛いんだけど、締める力、なんか上がってない?」
「……首を締められないだけ、マシじゃないかな? あんな姿を生で見ておいて」
静かなすずかの声はそこそこドスが効いている。
「そうよ! 恭也は私の未来のお婿さんなんだから! 恭也・バニングスになるんだからね! 変な事しないでくれる!? あと、動画データを全て寄越しなさい!」
「恭也さんはお姉ちゃんと結婚して月村恭也になるんじゃないかな。……私でも、いいし。あと動画データは私も欲しいな」
「待て待て待てい、恭也さんは愉快な八神一家のパパになるんや、私がママでな。八神恭也、かっこええな、しっくりくる。動画は劣化なしの原データでお願いな」
「あのさ、皆して寝ぼけた事言わないでくれるかな? おにいちゃんの苗字はこれから先も、未来永劫ずっと高町のまんまだよ。で、動画データは当然として、フェイトちゃん」
「な、なに?」
真正面からその紅い瞳を覗きこみつつ、なのはは問う。
誰も気づかなかったろうが、自分だけは見逃さない。
「あのタオル、高町家(うち)のじゃないよね?」
いつも高町家で使われているのは、白かピンクのものだ。薄いブルーのタオルなんて、この家には少なくともなのはの知る限り存在しないはずである。
その問いに顔を逸らしたフェイトはその後、三十分に渡って四人から責め苦を受ける事となった。
「さ、それじゃあ今日の本題や」
「さっきの映像を観てからだと、正直どんなのが来たってインパクトに欠けるわよねえ」
パン、と手を鳴らして執り成したはやての言葉にため息混じりでアリサが零す。
「ええんやで、アリサちゃん。せやったら観なくとも」
「冗談、しっかり知識を付けて恭也との初めてに備えるのよ」
「アリサちゃんって本当おもしろいよね」
「なのはちゃん、眼が笑ってないよ」
なのはの顔を見たすずかが苦笑いでそう言った。言葉に釣られてはやてもなのはの顔を見てみて、見なければよかったと軽く後悔する。あれは人を殺せる眼だ。
誤魔化すように話題を変える。
「で、そこの常時発情中の淫乱パツキン女はどうするん?」
「観ます、観させて頂きます……」
ぐったりと床に倒れたままでこちらの声に応えるフェイトは、もうどうにでもしてくれと言わんばかりの顔だ。
どんな苦痛を与えても、これからは高町家のタオルを使えという言葉には頑として首を縦に振らなかったその姿勢は、評価してもいいのかもしれない。
「隣のクラスから回ってきたんだっけ? そのDVD」
「そうそう、ちゅうてもアレやろ? お嬢様お二人はともかく、なのはちゃん辺りはインターネッツで正直そんなん観とるやろ?」
「んーん、観てないよ。パソコンを貰う時にお母さんと約束したからね、これで年齢で禁止されているものは観ないって」
さすが高町家、実にしっかりした教育方針である。
「が、DVDデッキでそういうのを観る事までは駄目と言われていない」
言いながら、なのははこちらの手から受け取ったディスクをデッキに入れ、手早く再生を開始する。
「ちょおっとちょおっとなのはちゃん早い! まだ心の準備が!」
「いいわよそんなの、さっさと観ましょう」
「……確認だけど、今日お家の人いないんだよね、なのはちゃん」
「うん、おにいちゃんはどこかに出かけるって、お姉ちゃんとお母さんは翠屋、レンちゃんと晶ちゃんは大学、大丈夫」
そこら辺に抜かりはないとなのはが言い切ったタイミングで、テレビ画面にそれは映った。
天井から吊るされた縄に身体をギチギチに縛られ、鞭でもって男性に叩かれ嬌声を上げる全裸の女性の姿が。
「……うおおおおおい!? ちょおっ、た、な!?」
「はやて!? これは私達にはさすがに早くない!? いや早い早くないの問題じゃないかもしれないけど!」
「い、いや、あれえ? 普通のって聞いたんやけど……これが普通?」
「なわけないでしょ!」
真っ赤になったアリサが掴みかかってガクンガクンと揺すってくる。多分、こちらの頬も同じくらいに赤く染まっているだろう。
さすがにこんな映像、刺激が強すぎる。
「……うわあ、わ、あんな」
画面から眼を逸らし、やっぱり視て、逸らして視てを繰り返すすずかは、段々と視る時間が長くなってきている。耐性があるのだろうか。
そして、なのははと言えば。
「……なのはちゃん、何その反応」
「ちょっとなのは、あんたそんなキャラじゃないでしょ」
床にうずくまり、眼を硬くつむって耳を両手で塞いでいた。はやてとアリサの言葉に、その姿勢のまま首を振る。
「わ、わかってる! わかってるけど! なんか駄目!」
僅かに見える耳にはこれ以上ないくらいに朱が乗っていた。
なんだろう、言っては失礼かもしれないがかなり意外だ。この分では、たとえDVDの内容が普通のものであったとしても同じようなリアクションだったのかもしれない。
パチィンと高い音が鳴り、女性の嬌声も一際大きく、そして甘く響く。
「うわあもう! ……うううううぅ!」
慌てる子犬のような動きでなのははベッドに上り、布団を被って唸り始めた。どうやら本当に駄目らしい。
「なのは、あんたさすがにカマトトぶり過ぎじゃない?」
カマトトぶるとは中々古風な言い回しだが、言っている事にははやても同感だ。
「なのはちゃん、そんな駄目?」
「駄目……はやてちゃんお願い、もう止めて。止めよう、それがいいよぉ」
「まあ、それはそうやなあ」
さすがにこんなアブノーマルな映像を昼下がりの女子中学生の部屋で流しっぱなしにするのは、かなり問題がある気がする。
はやてにああいった趣味は今のところは少なくともないし、あれが勉強になるとも思えない。
「わ、私は別に! もし恭也がああいうのが好きっていうなら付き合わないでもないわ! 女は受け止める度胸と受け入れる度量よ!」
「ああそういう可能性もあるんやな……私に出来るかなぁあれ」
「おにいちゃんはそんな事言わない! あんな事しない!」
くぐもった声ながら、必死の言葉が布団の中から響く。
「わからんで、なのはちゃん。男の人は昼と夜で別の顔があるらしいからな。恭也さんかて、どんな趣味かは……」
「おにいちゃんは優しいから! 変わらず優しくしてくれる!」
「そもそもなのはとする可能性は零でしょうが。それはガチで駄目だからね」
アリサの言はもっともなのだが、なのは相手には今更な気もする。
「まあまあこれ以上いじめてもあれや、とりあえず再生止めよか」
まさかこんな展開になるとは、そう思いながらリモコンに手を伸ばして。
「……んお?」
ガッ、と。力強く誰かに腕を掴まれた。
白く細く、美しい手。
その持ち主は鮮やかな金色の髪の女の子。
「みてるから」
「……フェ、フェイトちゃん?」
彼女は画面から一瞬も視線を外さないままで、はやての手を掴んで止めていた。
横顔は真剣そのものだ。
「みてるから」
「は、はい!」
再度放たれる言葉には、不動の意思が感じられる。その迫力に押され手を引くと、彼女も手を離してくれたが掴まれていた箇所には微妙に赤く痕が付いていた。
(うん、あかんやつや)
リモコンは諦めよう。
ここで止めたら何をされるかわからない。はやての本能がそう告げている。
この近接領域はフェイトの棲家である。はやては元よりなのはでさえもこの距離では相手にならない。アリサは言わずもがな。一番対抗出来そうなのはすずかだが、
「あ、あんなの入るの……? うわ、わわわ!」
彼女は残念ながらフェイトの側だ。あの映像を楽しんでいらっしゃる。
「は、はやてちゃん! 早く止めてよぉ!」
「あかんわ。あかんあかん、これ最後まで流さなあかんやつや。エロ執務官が大層盛り上がっとる」
「ええええええええ……ああ、そうだフェイトちゃんドMだもんなあ……あの映像を自分とおにいちゃんに置き換えて楽しんでいるに違いない……」
「待って、なのは、フェイトってそうなの?」
「気付いてなかったの……? お姉ちゃんがデコピンされるのとか、すっごい羨ましそうに見てるんだよ、フェイトちゃん」
「きょ、恭也のデコピンってめちゃくちゃ痛いのよ?」
「フェイトちゃん真性やんけ……」
判明した事実に慄くも、しかし確かにフェイトがそうであるというのは何となく違和感がないような気もする。
「しかしすごい光景やな、金髪美少女がアブノーマルな映像に喰いついている昼下がりって」
折角なので写真を撮っておく事にする。後々、何かに使えるかもしれない。
エリート執務官のスクープ写真だ。
「ねえはやてちゃん、あの映像、あとどれくらいで終わるの……?」
「さあ……一時間はあるんちゃう?」
「……もおやだあああああぁ」
もそりもそりと、ベッドの上、可能な限り淫猥な映像の流れるテレビから距離を取るように動いたなのはは、それきり固まった。
「は、はやて、なんか場面が変わったわ。今度は椅子に縛り付けられてる!」
「なんだかんだアリサちゃん観てるよなあ……うわあほんとや、そ、それもあんな姿勢でっ」
世の中というのは広いんだなあと、そんな事を思うはやてだった。
昔、吊るされて鞭で叩かれた事がある。一度や二度でなく、それは割と何度もあった。
フェイトを叩く母親の顔は苛立ちに塗れながらもひどく冷たくて、鞭が当たった肌はヒリヒリと熱く痛むのにすぐに彼女の視線と同じように冷えていった。まるで、感覚そのものが抜け落ちるかのように。
大好きな人から、愛して欲しい人から与えられる痛みは、フェイト・テスタロッサにとって悲しみそのものだった。
お前なんかいらないと、刻みつけるように教えられているようで、泣き方を忘れそうになるくらいに辛かった。
それから少しの時間が経って、幾つかの大きな出会いと別れがあって。
そしてあの人と、出会って。
彼がその手に持った木刀が、頼み込んで付けてもらった鍛錬の最中、幾度もフェイトの身体を叩いた。
加減されていたとは言え、しっかりと痛くて。
当たった箇所の熱は、全然とれなくて。
熱くて、暖かくて、そしてそうだ、――甘かった。
根本にある優しさが、どうしようもなくその痛みからは滲み出て来た。
痛いのに、嫌じゃなかった。こんな感覚がこの世にあるなんて、想像すら出来なかった。
あの優しく響く痛みに、自分はきっと救いを求めたんだと今では理解している。
かつて、この世から追いやるように自身を責め立てたものと同じ感触に、否、同じ感触だからこそ、この世に居ていいと思わせて欲しかったのだ。
身体を苛むあの響きに、想われている事の実感を得たのだ。
どれだけの救いを自分に与えてくれているのか、きっと少しも気付いていない彼はごくごくまれに、鍛錬とは別に、悪戯にこちらの額を指で弾く事もあって。
それが、たまらなく好きだった。遠慮容赦なくそれを与えられている彼の妹には、心の底から羨望の念を抱いたものだ。いや、白状すれば今でも抱いている。
あの人から与えられるものなら、フェイトにとって痛みは全く苦しいものではなくて。
撫でられるよりも、もしかしたら叩かれた方が惚けそうになるなんて、絶対口には出せないけれど、どうしようもなく事実であって。
だから。
そういう行為が、関係の中で成立する事もあるのだというのはフェイトにとってあまりに魅力的な希望であって。
「で、結局最後まで観た感想をどうぞ」
一心不乱に喰いついてしまったのは、どうか見逃して欲しい。
映像再生の終わったテレビの前、アリサの言葉にフェイトは顔を両手で覆うしかなかった。
「すずかは今日、高町君の家にお邪魔してるのよね」
「ああ、なのはがそんな事を言っていたな」
「……ずっと仲良しでいてくれてるみたいでね。あの娘、私と同じで人間付き合い器用じゃないから、なのはちゃんには感謝してるのよ、本当に」
紅茶で口を湿しつつ、そんな事を言う彼女の表情は大人の女性としての包容力に満ちている。
「うちのも、頼まれて友達をやっているわけでなかろう。感謝をするならお互い様だ」
「ふふ、そう?」
月村忍。恭也を家に招いた彼女は、元々一個下の同級生だった。月村家の上品なテーブルを挟んで向かい側、穏やかに笑っている。
「……変わってないわね、本当に前に会った時のまま。歳下になっちゃったのね、高町君」
「お前は結構変わったな、月村」
「本当? 何処らへんが?」
「……前よりも、余計な力が抜けた」
それがたまらなく魅力的で、信じられないくらい美人になった、と。そんな事を言えるほど、中々恭也の口は女性相手に滑らかではない。
二十四歳となった月村忍は、今まで恭也が見てきたどんな女性たちよりも、もしかしたら美しいかもしれない。
「もっとストレートに褒めてくれていいんじゃない? 高町君が起きたって聞いて、ドイツから駆けつけてきたんだから」
「それはまあ、すまん」
「ほんとよ、……心配かけて」
「……すまん」
忍は今、日本とドイツを行ったり来たりの生活をしているらしい。親戚筋の綺堂家と何やら工学関係の研究をしているとの事だ。
「失礼します、高町様、お茶のお代わりを」
テーブル隣に控えていたメイド姿の女性が、優雅な所作で紅茶を注いでくれる。ノエル・K・エーアリヒカイト。戦闘用自動人形としての正体も持つ、月村忍・すずかの従者にして家族だ。
「ありがとう。ノエルは、すずかとずっと此処に住んでいるんだったか?」
「はい。ドイツに忍様を単身向かわせるのは不安でならないのですが、姉の見栄があるからと」
「ノエル、余計なことは言わなくていいわよ!」
「失礼しました」
月村家は結構、遺産騒動なんかで色々あったりもしたのだが、どうやら今は穏やかに楽しくやっているようだ。
「高町君、身体は本当にもう大丈夫なの?」
「ああ、至って健康だ。むしろ、以前よりも調子がいい」
「それはよかった。すずかにもそれ、伝えてくれた?」
「ああ。随分心配をかけてしまったみたいだからな」
恭也が起きて諸々が落ち着いたタイミングで、アリサと一緒にすずかは会いに来てくれたのだが、揃ってボロボロと泣かれてしまいかなりの罪悪感が奔ったものだ。
「……高町君が起きた時、すずか、泣きながら電話してきたんだから」
「すまん……本当に悪い」
「そう思ってるなら、責任を取るつもりはある?」
忍はそう言って、いたずらな笑みを浮かべた。そんな表情も魅力的だったが、しかし何を言われるかわかったものではないので悪寒もする。
「……責任、とは?」
「んー……ちょっとお願いがあってさ。あの娘、もう十四でしょ?」
「ああ、俺からすると九歳から一瞬でそうなった感じだが」
「そうよねえ……。で、あの娘って当然、私と同じ夜の一族なわけよ。だからそろそろ、そういう時期がくるようになるのよねえ」
「…………おい、まさか」
忍達は夜の一族と呼ばれる種族で、普通の人間とは少し違っている。長命で生命力が強く、膂力や知力に優れている代わりに、繁殖力が普段はかなり低い。
しかし、それでも定期的に子供をもうけやすくなる期間があり、その時は有り体に言うと非常に性欲が強くなる。
「私の発散には協力してくれたじゃない?」
「それはそうだが……」
月村忍と高町恭也の関係は、少し特殊だ。
兄妹か家族か友達か、恋人でもいい、好きなものを選んでくれと、かつて恭也は彼女に言われて、結局選んだのは親友といった所で、しかし普通の親友同士がおそらくやらない事を二人はやっている。
「お前は一個下だったが、すずかは幾つ下だと思ってる。俺を罪悪感で殺す気か」
「十一歳差? でも高町君を二十歳としたら六歳差? いけるいける、なんならあの娘発育いいし、今すぐでもいけるわよ」
「お前に常識を期待したのが馬鹿だった。というか何よりも、そういう事はすずかの意向というものが」
「ああ、それならオッケーよ多分。見てればわかるわ」
「適当な直感を根拠にわけのわからん事を言うな」
理詰めの研究者の癖をして、忍はどうも感覚的な物言いが多い気がする。
「何よお、それとも操を立てなきゃいけない相手でも出来たの、高町君」
「出来ていないが」
「……ふうん。フェイトちゃんは?」
「なぜフェイトの名が出てくる?」
「なぜって、……んん、勘かな?」
「お前な……」
またしても感覚で言ったらしい忍に、恭也は盛大に呆れの溜息を吐いた。
「いやいや、まあ私もそんなにフェイトちゃんと話した事があるわけじゃないんだけど、あの娘、結構びびっと来るものがあるのよ。高町君と相性すごく良いだろうなって。本当に何もないの?」
「あの娘は御神の弟子で、妹の親友だ。大切に思っているが、そういう相手じゃない。というか、そもそも歳も」
「すずかと同級生でしょ? じゃあ十四歳、つまりもう立派に女じゃない」
果たしてその意見が世間一般の標準かどうかはわからないが、忍はどうやら自信満々の物言いだ。
「思うのよねえ、あの娘ならさ、……私じゃ埋められなかった高町君の寂しさを、どうにか出来るんじゃないかって。勝手な期待かもしれないんだけど」
「……月村」
「ま、ともあれ、よ」
「……っ」
カップを置いて、ペロリと唇を舌で軽く舐めた忍からは、思わず心臓が跳ねるほどの色香が発された。
「今現在、そういう相手がいないっていうのは私にとっても非常に好都合だわ」
「…………ああ、なるほど」
露骨に変わった雰囲気に、さすがに恭也も察する。
「この状況に、もうそろそろ我慢出来ない。私今ね、あの時期なのよ――恭也」
「そのようだな、忍」
普段はしない名前呼びは、一種の合図のようなもの。彼女は席を立ち、恭也の下へ歩み寄ってきた。
「すずかが帰ってくるまで結構時間あるし……、前よりも健康なのよね?」
「お前を満足させられるかはわからんがな」
「冗談、こっちは狂っちゃったりしないように必死なのよ? あのマッサージみたいなの、本当にすごいんだから」
マッサージみたいなの、とは以前シャマル相手に使った事が恭也の記憶には新しい、不破の房中術だ。
父の遺した書物を見つけて以来、忍の発散がてら訓練しているのだがなかなか彼女には好評である。普通の人間相手にこれを全力でやったら、薬なんて使わずに壊せると太鼓判を押してくれている。無論誰かを壊す気などないが、房中術としては出来が良いと言えるだろう。
「ノエルはどうする? 混ざる?」
「五年ぶりなのですから、今日はお二人でお楽しみ下さい」
「そ? じゃあお言葉に甘えて。さ、お願いね恭也」
笑顔でそう言って、忍は恭也に手を差し出してくる。握ったら最後、寝室に連れ込まれ搾り取られるのは確実だ。
「……今更だが、俺の意向は聞いてくれんのか?」
「え、三人のがいい?」
「そっちじゃない。するしないの話だ」
「……駄目?」
美しい顔を少し不安げに揺らし、豊満な胸を強調するように自らの身体を抱く彼女は卑怯な程に魅惑的で。
お手上げとばかりに、恭也は彼女の手を取った。
こういうひっどい話、僕はすごく好きです。重い話が続いたのでこういうのが書きたくなりました。
前回、次でリリカル恭也Triangle最終回と言ったんですが、番外編なのでこれはノーカウントという事で。こんな最終回があってたまるか。
ちなみにバルディッシュですが、"本当に一番再生頻度が高い映像"ではなく、"なのは達がある程度納得しそうでまだ見せられる映像"を流しました。空気を読む忠臣。
忍と恭也さんの関係はこんな感じです。どっかで書こうかなとは思ってたんで、この話に入れました。
番外編は基本的に、日常の馬鹿な話か死ぬほど重い話かどっちかです。これからもなんか書くかも。
あと活動報告というものの存在を知りました。お知らせとかを載せています。良かったら見てね。