某年2月。階下から大声がきこえてきた。
「みんなー、降りてきてー!」
今度は、その呼び掛けに反応して自室から人が出てくる音、階段の軋む音が家に響く。結月ゆかりも例外ではなく、配信の切り抜き作業の手を止め階段を下りる。
「これでみんな集まったね」
最後に来たゆかりの姿を確認し、弦巻マキがそう言う。
「えー、こほん。なんと今日、新しい子が来ます!」
「あら〜」「おおー!」
ゆかり以外の2人――
「告知が唐突すぎませんか?というか、もう4人いるのに、なんでまだ受け入れちゃうんですか」
ゆかりは机に突っ伏しながら、マキに質問を投げかける。マキはケラケラと笑いながら回答する。
「部屋余ってるし良いかなーって。唐突なのは、事前告知してたらゆかりん引きこもるか外に行ってたでしょ?」
「うグッ……言い返せませんね」
「あはは。そういう正直なところは好きだなー」
「ずいぶんと含みのある言い方ですね」
口ではそう言っているが、ゆかりは悪い気はしていなかった。
マキとゆかりは幼馴染で、高校進学と共にこのシェアハウスに住むようになった。旧知の仲で同居までしているのだから、好意は言葉にせずとも伝わっている。だが、改めて言葉で『好き』と言われると照れてしまう。それが結月ゆかりというものだった。
「ちなみになんだけど……人が増えるってことは、家事当番を回す人数が増えるってことだから……ゆかりんの家事の頻度が減るってわけなんだけど」
「なんですと!?それは早く迎え入れなければ!」
その言葉に思わず立ち上がる。迫真の表情を見せたゆかりをよそに、そらとセイカはポリポリとせんべいを食べていた。
「じゃ、ゆかりんもオッケーしてくれたし、ご本人の到着を待ちますかー」
「あ、ちょっと待ってください。来てもらうのは良いんですけど、そのこの名前とか事前に教えてほしいです」
「ああ、ゆかりちゃん名前覚えるの苦手だもんね」
横からセイカが茶々を入れる。ゆかりは言い返そうとしたが事実なので反論できず、キッと睨むことしかできなかった。
「ああ、名前は――」
名前を言おうとしたその時。玄関のチャイムの音が鳴った。マキが代表して「はいはーい、今行きまーす」と足早に玄関へと向かう。
そして、数秒もしないうちに「みんな来てー」と再度招集された。
「ごめんね、まだみんなに来ることしか言ってないんだけど」
「いえ、お気になさらず!」
ゆかりは、マキ越しにおさげの少女と目が合った。が、人見知りだったためまばたきもしない内に目線を逸らしてしまった。
「えっと……はじめまして」
緊張しているのか、あかりはどこか余所余所しい固い笑顔で挨拶をする。
「紲星《きずな》あかり、高校1年生です。今日からよろしくお願いします」
ペコリと見事な45度のお辞儀。4人はそれぞれ「よろしく」と挨拶を返す。
「あかりちゃんって呼んでもいい?」
「あ、はい!」
「じゃ、あかりちゃん。立ち話もなんだし、荷物が届くまでリビングで自己紹介タイムにしよっか」
マキはあかりをリビングへ誘導する。あかり達がリビングへ向かう前に、そらは「お茶を用意するわね〜」と言い残した。
◆
お誕生日席にあかりを座らせ、残りの4人はいつも通りの席に座る。
「それじゃあ私から挨拶をさせてもらおっかな」
セイカが立ち上がり、あかりへ身体を向ける。
「私は京町セイカ、一応ここの大家よ。マキちゃんにも色々手伝ってもらってるから、胸を張っては言えないけどね。ここはみんないい子しかいないし、そんなに怖がらなくて良いからねー」
ゆかりはふと、自分が入居してきた頃を思い出す。
(そういえば私、大家ってワードにビビり散らかして、中々打ち解けれなかったなぁ……セイカさん気にしてたのかな)
「じゃあ時計回りとして、次は私ね。私は桜乃そら。桜の花の『桜』に『乃』で『はるの』って読むの〜。私は高校3年生だから、勉強で分からないことは何でも聞いてね〜」
高校3年生という単語に、あかりは驚愕していた。その様子を見てゆかりとマキは(私も最初は驚いたなぁ)と共感していた。
「っと、次は私か。と言っても何回か話したことあるけど……改めて弦巻マキ。セイカさんが言ってた通り、大家の仕事を少し手伝ってるんだけど、本業は高校生だから!私とこの子は2年生だから、私たちに聞いたりしてもいいからねー」
「待ってください、私は勉強は不得意なんですけど」
「ゆかりんでも1年の範囲を教えるくらいはできるでしょ」
「それすら不安だからこうして抗議してるんです!」
「えっ……それさすがにヤバくない?ホントにわからないの?冗談抜きで?」
ゆかりとマキはヒートアップし、あかりへの自己紹介をすっかり忘れてしまっていた。
「あっあの、喧嘩は良くないです……!」
「大丈夫よ〜、いつもこんな調子なのよぉ」
「そうそう。あ、昨日近所のケーキ屋さんでケーキ買ってきたんだけど、あかりちゃん食べる?」
「え!け、けけけけーき!?いいんですか!?」
そして、そらとセイカ(のケーキ)に懐柔されたあかりも、心配を放棄した。
ここは、日本某所にあるシェアハウス、『ボイロ荘』。新メンバーも増えて、今日もまた賑やかな声が聞こえてきます。