「ただいま戻りましたー……って、なんですかこれ!?」
私、東北きりたんが帰宅すると居間がずんだ餅で溢れかえっていた。甘ったるい匂いが鼻腔をくすぐる。床の踏み場もなく、私が困惑していると、ふとももの気配を感じた。
「もしかしてずんねえさま、このずんだ餅たちの中にいるんですか!?」
流石のずんねえさまでも窒息して死ぬんじゃないの!?急いで助け出さなきゃ!
「ずんねえさま、耐えてください!いっけー!きりたん砲!」
ずんだ餅を粗末にするなと怒られるかもしれないが、それよりもずんねえさまの命が優先と判断した。きりたん砲の衝撃波でずんだが壁にベチャベチャと跳んで行く。
「見えました!ふともも!……ハァハァ」
このふとももは間違いなくずんねえさまのもの!ずんだ餅越しに感じ取ってはいましたが、改めて実物を見るのはいいですね。
命も助けたんですから写真の一枚や二枚は許されるでしょう。
私がスマホを取り出すと、にゅっとずんだ餅の合間から腕が生えてきた。
「きりた〜ん?助けてもらったのはありがたいけど、違うよね?」
「ハ、ハイ……」
全身がずんだまみれになったずんねえさまが起き上がった。命に別状はないようだ。しかし、なぜこんなことになったんだろ。ずんねえさまに限ってずんだ餅を粗末に扱うとは思えないけど。
「これはどういう状況なんですか?」
「ああ、これはね。めたんちゃんに勉強教えてたんだけど、おやつ休憩にずんだ餅を用意したのね」
「はい」
「お皿に盛って運んでる最中にこけちゃって」
「はい……」
「そしたらこうなっちゃった」
「ナルホド!」
お皿に盛れる量じゃないとか、部屋一面に散らばるわけないだとか、お皿はどこだとかこけたずんねえさまがなぜずんだの下にいるのかとか、色々と聞きたいことはあったが、私は思考を放棄した。
「って、その話を聞く限りだとめたんさんもこの中に……って、あ!なんか脚生えてます!あのふとももは……めたんさんです!」
「わぁ、さすがふとももソムリエ」
褒められて照れつつも、2人でなんとかめたんさんを引っ張り出す。呼びかけても反応はなかったが、ペチペチと顔をたたくとすんなり起き上がってくれた。
「ありがとうきりたん。お礼に今度遊んであげるわね」
「別に大丈夫ですよー」
私はめたんさんが苦手だ。メタンハイドレートを理由にずんねえさまとチュッチュするし、私たちと同じくらい……だけど、それとはまた違う形でずんねえさまに愛されてるから。
子供っぽいのは十分理解しているけど、私はまだ子供なんだ。
「で、汚れてないのもメタンハイドレートのおかげですか。ホント便利ですねーそれ」
「まぁね。って、きりたんも少し汚れてるじゃない。失礼するわね」
「んにゃっ!?」
嫌味っぽく言っていると、気にしていないのか逆にほっぺたにちゅーされてしまった。突如、私の中へエネルギーが流れ込み、どういうわけか服も綺麗に整っていく。
「ほら、ずん子も」
めたんさんは私にしたようにずんねえさまの頬にちゅーした。
本人は綺麗にするためにやっているんだろうけど、私からすれば勝手に人の姉に対してキスをしている訳なので、虫の居所が悪くなるのは仕方がないはずだ。
「あー!何やってるんですかめたんさん!そういうところが嫌いなんです!」
だから、思わず思ってもいない『嫌い』という単語が出るのも仕方ない……はず、だ。
「そう。まぁ、いいわ」
「……」
無関心といった様子でめたんさんはそっぽを向いた。罪悪感は芽生えたが、私みたいなお邪魔虫は嫌われてるんだろうから気にしないことにした。
そんな冷え切った私たちの間に、ずんねえさまは割って入った。
「きりたん、今の言葉は本当の気持ちなの?めたんちゃん、本当にそれでいいの?」
その言葉に即答できなかった。だって、本当は嫌いではないから。ああ返されて傷ついたから。
「う、うぅ……ご、ごめんなさい……」
気付けば泣いて謝っていた。
「いいわよ、謝らなくて。私はきりたんのことも好きだけど、お姉ちゃんを取ろうとしてるのは事実なんだから、嫌われても当然よ」
言われた通り、めたんさんに憎らしさはある。でも、それを遥かに凌駕する気持ちがあった。
「ちが、ちがうんです……!嫌いじゃ、嫌いなんかじゃないんです……!ほんとは私だって、めたんさんは大切な友達って思ってるんです!」
「……!そう、なのね。んふふ、少し嬉しいわ」
涙目で前はしっかり見えていなかったけど、その時のめたんさんの顔は、これまでで一番優しい顔だった気がする。
◆
「さて、ずんだの素晴らしさを布教するストーリーが繰り広げられるかと思ったら唐突に胸がぎゅっとなるハートフルストーリーに方向転換されてしまったわけですが」
「ずんだに埋もれて死ぬのは素晴らしさに入るのですか?」
私はあのあと10分くらい泣いてしまって、ようやく落ち着いた。ずんねえさまが私をよしよししてくれていた間にめたんさんが部屋の掃除をしてくれたので(なんか8割くらいたべてたように見えたけど)、今はちゃぶ台を囲んで3人で座れている。
「てことで3人揃ったしずんだの手線ゲームしない?」
「いいですねやりましょう。めたんさんもやりますよね」
「やるやらない以前に、まずどんなゲームか教えてくれないかしら。それこの世のゲームではないでしょう?」
失礼な、我が家では定期的に開催される素晴らしいゲームなんですよ。と、返そうと思ったがよくよく考えると元になったゲームに山手線ゲームがあることを思い出した。
「要するにずんだの特徴を言っていくんです。言えなくなった人が負けです」
「超シンプルな上にずん子一強のゲームね」
「じゃあ私、きりたん、めたんちゃんの時計回り順ね!」
「おっとスルーされてしまったわ」
めたんさんの嘆きは耳を右から左へと通り過ぎ、ハイテンションなずんねえさまによってゲームが開始される。
「みどり!」
パンパンと2回手を叩き、リズムを取る。めたんさんには細かい部分を教えていないので、見様見真似で真似するるように視線で促した。
「枝豆」
「も、餅」
めたんさんは戸惑いつつも答える。順応速度が速い。
「甘い」
「別腹」
「腹持ちがいい」
1周、また1周と繰り返すうちにテンポが早くなっていく。いよいよ思いつくものが減ってきて、ずんだ味がある商品名を連ねるフェーズに突入した。
「ずんだサイダー」「ハーゲン◯ッツ」「ずんだシェイク」「カントリーマ◯ム」「ハッピー◯ーン」「プ◯ッツ」「じゃ◯ビー」「ずんトッツォ」「あっきりたんそれずんだ餅だって言ったじゃん!」「はいずんねえさま反応したので負けです」「あーーっ!」「これ言えないのもだけど反応するのもだめだったのね」
これが私が編み出した究極の奥義『ずんトッツォリバイバル』。マリトッツォが流行した際にずんねえさまが作ったものだ。しかし、マリトッツォの語源が『マリ(夫)』『トッツォ(太った〜)』なのでつまり、ずんトッツォは……ということで禁句となっている。
「1度しか通用しない上に言った後に関節技をキメられるのが玉にキズな大技なんですよね」
「長々と説明してくれたのは嬉しいけどどこにも使えない情報よねそれ」
今日も東北家は平和です。