「なー葵」
「どうしたのお姉ちゃん」
私こと琴葉茜は、ぐでーんと寝転んで家の見知った天井を見上げている。パタンと本を閉じる音が聞こえてきたので、葵はさっきまで本を読んでたのだろう。しょーもない話で読書の邪魔をしてしまったと思うと申し訳なく感じたり。
「うちの喋り方、どう思う?」
「どうって……関西弁じゃないの?」
「それがな、違うんよ。あえてエセにしとるんよ」
「……えっ、そうだったの!?」
「驚きのあまりリアクションまでに5秒もかかったんやな」
葵の声が家中に響き渡る。どんだけ驚いとるんや。
「昔は無知なせいでエセ関西弁だったんやけどな、今はもうちゃんと言えるんよ(多分)。でもな、私の関西弁とエセ関西弁がイコールになってしまっとるんや。今更関西弁で話し始めたら、全人類から総スカン食らうかもしれないって思って変えることができないんや」
「そんな壮大な理由があったんだね……!ちなみに実際どう違うの?私そんな詳しくないから教えてほしいな」
「それ今の話聞いたあとに言うか?姉に全人類から総スカンを受けろって言ってるようなもんやで?」
「いいから早く」
「急かしに来た!?」
真正面から期待されると小っ恥ずかしいが、ここはやるしかないだろう。コホン、と小さく咳払いをして、関西弁で話し始める。
「葵、なんかうちに話しかけてーや」
「あ、うん……お姉ちゃん、私たちってお昼ご飯何を食べたんまっけ」
「葵覚えとらんのか?うちらマ◯ド買うて来たやんか。月見のシーズンやし食べたいなって」
「そうだったね。今年の新作美味しかったね」
「せやな!味がしっかりしとってボリュームも満載!そんで月見バーガーと言われんくとも『これは月見や!』と思わせる卵のインパクト!間違いあらへん、あれこそ月見の究極形態や!」
「今年はやけに褒めるね」
「それくらい美味しかったっちゅーことや。……で、どないや葵、うちの口調」
熱くなって立っていたので一旦あぐらで座り直し、質問する。
葵はうんうんと唸ったあとに答えた。
「なんか……お姉ちゃんじゃないを超えて話してるこの子は女の子なの?と思ってしまった」
「おお、なんでや」
「なんというかこう、いや私は関西弁とか詳しくないんだけどね、インターネットも普及して日本全体で繋がれる今の時代にさ、そんなコテコテな関西弁の女の子とかいるのかなって。お姉ちゃんの方言があってるかも分からないからあれがコテコテに分類されるかも私わかんないんだけど。
ご年配の方とか上京した時に関西出身を持ちネタにすべく無理に関西弁話してる大学生とかならわかるけど、女の子ではない感が凄い」
「めっちゃ言うやん。多方面に飛び火してないか、それ」
「いいのいいの、お姉ちゃんしか聞いてないんだから」
「ならええか」
「まぁ、だからさ……」
葵は席を立ってこちらへ歩いてくる。私が身構えていると、葵は背後に回り、ぎゅっと抱きついてきた。
「お姉ちゃんは今のままのお姉ちゃんがいいかなって」
「ん……葵に言われたんならしゃーないな。えへへ」
照れ隠しで笑ったが、耳も赤くなってそうだし葵にはバレバレなんだろうなぁ。こんな可愛い妹に愛されるだなんて、私は果報者だ。前世は相当徳を積んだのだろう。
「む、お姉ちゃんおっぱい少しおっきくなった?」
抱きついていた腕は、いつの間にか服に侵入しており、直接素肌で私の胸を揉んでいた。葵の奇行は今に始まったことではないので奇声は出さないが、怒りは普通にこみ上げてくる。
「どこを、触っとんじゃ、おらぁー!」
勢いよく立ち上がり、そのまま背中から倒れる。私の全体重が葵にのしかかった。背後、もとい葵から「うぐっ」という苦しそうな声が聞こえてきたが自業自得だ。
「そうやったな、可愛くて優しくて私を愛してくれてるだけやなかったな。愛の形歪みまくってド変態やったな」
流石に可哀想になってきたのでゴロゴロ転がって葵から降りる。寝転んだまま横を見ると、葵と目が合った。
「そんなことないよ?世の中のカップルはこれくらいするって」
「うちら双子姉妹なんよ」
「双子姉妹のカップルじゃないの?」
「違うやろ」
もし私たちが双子の姉妹じゃなかったのなら、傍から見ればこの関係性はカップルに映っていたのだろうか。2人暮らしで、服装や髪型はペアルック。お風呂には一緒に入るし、同じベッドで並んで寝ている。確かにこれだけだとラブラブカップルにも程がある。……いや、いくら何でもたらればが過ぎるか。
「ともかく、まぁ葵の言う通りこのままエセでやっていこうと思うわ」
「ほんと?さっきはああ言ったけどお姉ちゃんが変えたいなら私はそれに賛成するよ?」
「あんなの聞いて変えれる奴はおらんわ!」
今日も琴葉家は平和です。