7月某日。夏休み開始から数日が経過しており、ある者は宿題を計画的に熟し、ある者は考えなしに遊び回り、ある者は夏休み後半に向けて短期バイトをするような時期。ボイロ荘の学生も例外ではなく、マキはカフェで働き、そらは図書館で宿題、あかりとゆかりはリビングのフローリングに寝そべっていた。
「少しは外で遊ばないのー?」
麦茶をちびちびと飲みながらセイカは言った。かく言うセイカ自身も外出の頻度はめっきり落ちているのだった。
「外暑いじゃないですか。あと、私は結月さんはインドア派なのでそれに合わせてるだけですから」
「今の時代家でゲームして遊べるんですからわざわざ外に行く理由がないですし。というか、紲星さんは私を気にせず遊んできていいんですよ?」
「今日は結月さんと過ごすって決めてるんですー」
あかりはゴロゴロ転がるが、うつぶせ状態になる度に胸がつっかえてバウンドする。そしてその度にゆかりはものすごい形相であかりを見ていた。
「でもゲームもしてないじゃん。そうやってゴロゴロするだけなら宿題すればいいじゃん」
「「暇だからゴロゴロしてるんじゃなくて、ゴロゴロしたいからゴロゴロしてるんですー」」
「はいはい。じゃ、私は仕事あるから」
コップを煽って麦茶を飲み干し、セイカは席を立つ。一瞬2人は気が付かなかったが、はっとして玄関に向かうセイカの後を追った。
「セイカさん、ここの管理人以外にも仕事あったんですか!?」
「てっきり管理人という肩書で未成年者から金を巻き上げるだけ巻き上げて、実際の管理はマキさんに任せっぱなしの飲んだくれかと思ってました……」
「いや管理人関連の仕事だよ。あとゆかりちゃんは帰ったらゲンコツね」
握りしめられた拳には青筋が立っていた。ゆかりは思わずあかりの背後に隠れる。
「でも、仕事って具体的に何するんですか?」
「このシェアハウスの点検。電気のメーターとか水道とか。あと草むしりとか玄関掃除かなぁ」
「すごく管理人っぽい仕事です!」
「こんなに暑いのに大丈夫なんですか?別に今日じゃなくてもいいんじゃ……」
「点検を怠って困るのは私達だからね、無理はしないけどこういう日でもやると決めたらやらなきゃ」
そう言い残して玄関を開き、セイカは出ていった。日光も相まって、ゆかり達にはセイカの背中が大きく映っていた。
「働く大人かっこいいですね」
「ですね!」
「……我々も見習って宿題しますか」
「……ですね!」
各々は自室に戻り、課題として出されたプリントや参考書をリビングへ持っていく。
1日で終わるとは端から思っていないので、取り敢えず簡単なものからやっていくことにした。
「結月さんは……数学ですか」
「紲星さんは英語ですね。分からないところがあったら聞いてください、一緒に悩んであげます」
「頼りに……まあ、一緒に頑張りましょう!」
『頼りに』の後にどんな言葉を続けるつもりだったのか気になるゆかりだったが、聞いても仕方がないので課題と向き合うことにした。
数十分後。
「あっ結月さん酷い!遠距離からちまちまするの酷いです!」
「これがこのキャラの戦い方なんで許してください」
「いやその人近距離も強いじゃないですか!」
気付けば2人は格闘ゲームに没頭していた。
テーブルに散乱した課題たちは殆どが空欄で、哀愁すら漂っている。
「くぅぅ……別のゲームで対戦しませんか!」
「そうですね、流石に今のは卑劣でした。じゃあ次はこのレースゲームで勝負しましょう」
「望むところです!」
こうして1時間、2時間と経過していき、途中清掃の休憩で帰ってきたセイカも混ざりったりしつつ、苛烈な対戦は続いた。
彼女らが自分たちがやらかした事に気付いたのは、マキとそらが帰宅してきた頃……17時頃だった。
「明日、明日こそはやりましょう……」
「ですね!」
ゆかりとあかりは晩食の時にそう言っていたが、他の3人はどうせ課題は進まないんだろうなと察しているのだった。
「ん〜っ!日差しもだけど腰がきついねぇこれ」
時刻は13時。
「こんにちはー」
「おわっ!?こ、こんにちは」
腰を休ませるために塀にもたれかかっていたら、道行く女子に話しかけられてしまった。今どきこんな挨拶するのって珍しくないか?というか髪は染めてウェーブかけてるし、オシャレな服着てるし……これギャルだ!
「草むしりですかー?」
「そうだね。夏だから一気に生えてきちゃって」
「大変ですねぇ……よかったら手伝いましょーか?」
「ギャルなのに!?」
「え?」
「あっいや、なんでもない」
思わず声にでてしまった、あぶねー!なんだこのギャル、話しかけただけに飽き足らず手伝うだなんて。ここまで来るともはや怖いぞ。
「君ネイルしてるでしょ?それにメイクもしてるし……せっかくの可愛いが台無しになっちゃうんだから、私のことは気にせず遊んできなよ」
「……お姉さん名前なんて言うの?」
「私?京町セイカだけど」
「じゃーセイカさん!あーしと遊ぼ!」
「は、はぁ?」
塀に乗り出してニカッと笑うギャル。いやいや、こんなおめかししてるんだから今日遊ぶ予定の相手がいたはず……私なんかになぜ構うんだ!?
「てか遊ぶって言ったってこの草むしりが終わらないことには……あ」
言って気がついた。まさかこのお人好しギャル……!
「じゃー手伝わないとね!よっしゃー!」
「うっわぁダイナミック不法侵入!?てかパンツ見えるって!」
普通に門戸を通ればいいものを、あろうことかこのギャルは塀をひょいっと飛び越えやがった。彼女が着地する瞬間、少しその色が見えてしまった気がするが見なかったことにする。ギャルは言われて気付いたのか、顔を赤くして「……えっち」と呟いていた。いや見せたのそっちじゃないか。
「まぁ……ここまでされたらどうしょうもないや。手伝ってくれる?ギャルちゃん」
「まかせんしゃーい!この《春日部つむぎ》にかかればこれくらいお茶の子さいさいだよ!」
そんなこんなで愉快に楽しく草を抜いていったのだった。
「へー、それでその人はどうしたんです?」
「手伝ってもらったし家に上げようとしたんだけど『いーって別に!それより今度はちゃんと街で遊ぼーね』って言って、連絡先だけ交換して帰ってっちゃった」
「セイカさんそれナンパですよ!」
「おー、セイカさんやるね、ヒューヒュー」
「あかりちゃんもマキちゃんも茶化すなー!」