「いい加減ななちゃんのプライベートを暴きたいっす」
とある寮の食堂にて。4人がけのテーブル席に3つの人影があった。そのうちの1人が、改めて声を上げる。
「ななちゃん普段何してるか分からないじゃないっすか。だから気になってるんすよ」
少女は冥鳴ひまり。ニンマリと企み顔をする姿は子供らしさを感じるが、こう見えても死神である。本人曰く、死神界ではそこそこの実力者なのだとか。
「たしかに言われてみれば……ってことはひまり先輩、セブンちゃんを一日中ストーキングする感じですか」
ひまりに反応するのはもち子。プラモデルをこよなく愛するごく普通のオタク女子。ひまりとはネットスラングなどアングラ系の話題で盛り上がることがある。
「あーしもちょっと気になるかも!ついてってもいい?」
「もちろんさぁ、っす」
もう1人は春日部つむぎ。いつも元気で、バカというわけではないが思いついた事を即行動に移すタイプ。オタクトークに花を咲かせる2人に混ざりたがる事もあり、そのたびにひまりともち子は何かしらのダメージを負いながら説明している。
「じゃあ早速ナナちゃんを探しに行きましょうか」
「行くぞぉ!でっでっでででっ」
「ん?ひまっちそれなんの曲ー?」
「えっあっ……なんでもないっす」
無知ゆえの暴力。ひまりはつむぎの言葉に精神的ダメージを負い、見て分かるほどに気分を落ち込ませていた。見かねたもち子はやれやれといった風に近づき、耳元で「カーン」と言ってやるのだった。
「意外とすんなり見つかりましたね」
時刻は11時40分。寮周辺を探し回っていると、信号待ちをしているNo.7を発見した。
「方向的にボイボ寮でも無いし、声箱塾でもなさそうっすね」
「そだねー」
声箱塾とは、No.7が経営する学習塾である。主にボイボ寮の寮生が通っており、この3人は全員生徒である。
集団指導型の塾だが、先生として
「あ、動きました!追いましょう!」
一同は電柱や看板、挙句の果てに通行人の背中などに隠れて尾行を続ける。
「初めてこんなことしましたけど、結構楽しいですね」
「セヤナーっす」
「あーしもこんな人数でやるのは初めてでドキドキしてる!」
「ん?今『こんな人数では』って言ったっすか?」
「うん!あ、1人ではよくやってるよ?ひまっちとか追いかけてる。昨日も気付かれなかったよー」
「ファッ!?うせやろ……」
「まぁ実害はなかったんだし許してちょっ♡」
ひまりはわなわなと身体を震わせ下を向く。この一触即発の盤面で、緊張が空気を支配した。それは、ただ1人No.7の監視をしていた真面目なもち子すらも2人の行く末を見守るべく振り向かせるほどに、強大な重みだった。
場が完全に静まり返った時、ひまりは顔を上げ言った。
「いいよ」
「四コマの方の緋◯美琴の真似ですね。……って誰がわかるんですかそんなの!」
「確かにあーしはわかんなかったけどさ、そのツッコミできる時点でもち子ちゃんは知ってるんじゃないの?」
つむぎの冷静なツッコミで一気に場の空気は砕け、3人は一斉に笑った。しかし重大なことを見落としていた。それにいち早く気づいたのはもち子だった。
「あ!セブンちゃんいない!」
「もうだめだぁ……おしまいだぁ……」
「ちょ、ひまっち諦めるの早いっしょ!あっこ丁字路だから、1人がまっすぐ、もう1人が曲がった道、最後の1人がこの辺のお店を探索ってやったらすぐ見つかりそうでしょ!」
「ナイスアイデアですつむぎさん!」
「さっすがつむぎ先輩!私たちが思い浮かばねぇことを颯爽と思いつきやがる!そこに痺れる憧れるぅ!」
「はいはい何のネタかは知らないけどとにかく行くよー!」
つむぎの案は素晴らしく、開始1分足らずでNo.7を発見することができた。発見者のひまりがメッセージで集まるように連絡し、ようやくスタートと同じ構図に戻ることができたのだった。
「ひまっち、今何時?」
「そうね大体ね〜」
「一大事の方じゃないんですね、ひまり先輩」
「まぁぶっちゃけると11時47分っす。ほらちゃんと言ったからそう睨まないで欲しいっすよつむぎ先輩」
またイチャイチャが始まったと思いつつ、同じ轍を2度も踏むまいともち子はNo.7の監視を続ける。
「ふくれっ面な先輩にはー……えいっ!」
「あっ、ちょ、やめて……!んっ!」
つむぎから聞いたことのない、か弱い少女のような声が耳に入ったとたん、もち子の精神世界で振り向くか否かの葛藤という名の大戦争が勃発していた。
「ほらほら、こことかさぁ……」
「やめっ……!んんっ…!」
艶めかしい声に吐息が混ざっている。もち子の理性は今にも限界を迎えそうだった。
「ひまりちゃん……やめてよぉ……ここ、外だよ……?」
(ひ、ひまりちゃん!?ひまっちではなく、ひまりちゃんだとぉ!?)
もち子の集中力はすっかり削がれており、全神経を耳に集中していた。もち子が我慢の限界を迎えたその時、ひまりの言葉が決定打となった。
「私がこうすることで喜ばぬ女はいなかった」
「チッなんだよ後ろから抱きついてるだけじゃねーですかバカバカしい」
もち子は見なくてもわかった。背後への興味は薄れ、No.7の動向に集中できるくらいには落ち着き、反動でやさぐれてしまっていた。
「あ、ほらセブンちゃんがまた曲がりましたよ、いきましょう」
「あ、うんそうだね。てかもち子ちゃんなんか不機嫌になっちゃった?」
「別にぃ。友人のガチ百合が見れると思ったらただネットミームでダル絡みしてるだけの不審者女と思わせぶりなギャルなだけだったってのに心底失望してるだけですよ」
「すっごい言われようだねあーし達!?」
「残念だが当然」
かくして。
紆余曲折(殆ど自爆)がありつつも尾行し続ける3匹のJK。
バレずに終着点まで辿り着けるのか、そもそも見失わずに済むのか、果てには途中で飽きないのか!
次回へ続く。