「なるほどねぇ、それでゆかりちゃんが」
マキが簡略的にセイカ達に現状を説明した。セイカはあかりに膝枕されたままのゆかりを見やる。ビジュアル的に深刻さを感じないが、傷心中というのは間違いないのだから、どうにか元気づけてやりたいと思う一同だったが、中々アイデアは思い浮かばなかった。
そんな中思い出したかのようにセイカがつむぎに謝罪する。
「なんかごめんね春日部ちゃん」
「いーよいーよ、あとつむぎってよんでセイカさん」
「そ?じゃあ今度からそうするわ」
つむぎは実際気にしていなかった。むしろゆかりという可愛らしい女の子が暴走している姿を目の当たりにし、好奇心が勝っていた。
「つむぎちゃん、だっけ。話には聞いてたよ。草むしりありがとうね。私はマキ」
「よろしくマキマキ!」
「私は
「そら!うちにも同じ名前の子がいるよー!」
つむぎが思い浮かべたのは九州そら。美少女型のアンドロイドで、正式名称は「九州そら
「あらあら、じゃあどうお呼ばれしちゃおうかしら」
「んー……あっちがそらさんだから、こっちはそらっち!」
「そらっち……ふふっ、そういうあだ名は新鮮ね。よろしく、つむぎちゃん」
心做しか普段より嬉しそうに笑うそら。マキとセイカは2人を見守る。
「私はあかりです。こちらが結月ゆかりさん」
「あかりちゃんとゆかりちゃんね!よろしくー!」
あかりはこういうグイグイ来るタイプのギャルと遭遇したことがなかった為、少し緊張すると同時に、人見知りなゆかりがこの状態だったのはある意味良かったのかもしれないと思った。
「で、今ゆかりちゃんが暴走してるわけだけど、どうしようか」
「思いつかないし一通り暴れさせてもいいんじゃないかな」
マキの提案に一同は黙り込む。現在の要求や罵詈雑言は生易しいもので、特に危害を加えられた自覚は無い。マキの案に対する回答は『過激になっていくまではそうしよう』という形で可決された。
「結月さん、大丈夫ですか……?」
頭を撫でながら優しく語りかけるあかり。その声にゆかりはついに寝返りをうち、仰向けの状態になった。
「紲星ママ……」
「ママ!?」
皆に見守られる中、ママと呼ばれたあかりは顔を真っ赤にしてあたふたと狼狽える。正気を失ったゆかりは、そのまま言葉を続ける。
「ママー」
「あっ、あー……ゆ、結月さん、ママですよぉ〜……」
恥じらいからなよなよした小声でしか返事ができないあかり。マキはその様子を見て「これはこれでアリな関係性だな……」と呟き、そらは「あらあらぁ」と生暖かい視線を送ってきた。
「……ママは娘を苗字で呼びません」
「うぇぇっ!?え、っと……ゆ、ゆゆゆ」
あかりに残される選択肢は1つしか無かった。ただ下の名前を呼ぶだけだ、と自分自身に言い聞かせているのに心臓の鼓動は収まる気配がない。ゆかりは、悲しそうな顔であかりを真っすぐ見つめる。目が合ってしまったゆかりは、耳まで真っ赤にして、今日一番の大きな声を出した。
「ゆ、ゆかりさん!どうしたんですか!」
「……!えへへ、あかりママー」
「うぐふああっ!!!」
「あかりちゃん!?」
純粋な笑顔と名前呼びという、二段構えのカウンターパンチに耐えきれず、あかりは吐血しながら後ろに倒れる。心配して駆け寄るセイカだったが、既にあかりは気絶してしまっていた。
「まぁなんとなくオチは読めてたよね」
「ですねぇ」
「2人ってそーゆー関係だったの?」
純粋な疑問を投げかけるつむぎに、マキとそらは「少しややこしいんだけどねー」とこれまでの2人の行動ややり取り、距離感なんかを説明し始めた。つまり、ゆかりの対処ができる人間はセイカしかいなかった(というか他の3人は心配こそしているが深刻には捉えていなかった)。
「……セイカさん」
「はいセイカですよ!」
急に話しかけられて挙動不審になるセイカ。ゆかりは訝しみながらも要求を提示した。
「セイカさん、魔法少女になってくれませんか?」
「はい?」
突拍子も無く意味不明な要求に、セイカは固まる。そしてさっきまで話していたはずのマキがニヤニヤと笑いながらセイカの肩に手を置いた。
「セイカさぁん、今のゆかりんにこう言われたら……ねぇ?」
「くっ……!」
自分の尊厳を守るべく断る道もあった。しかし、唯一の大人である自分が逃げる方がもっとダメなんじゃないか、私がもっとしっかりしていればゆかりちゃんはこうならなかったんじゃないか、と自責の念を感じ始めている。結果。
「ま、マジカル☆セイカ!参上!」
顔を真っ赤に染め、声は裏返り、身体は嫌な汗をかきガクガクと震えさせて、セイカはフリフリの魔法少女衣装を着こなしていた。
「おおう……」
反応に困りつつ写真を撮るマキ。
「てゆーか、そんな衣装持ってたんだねセイカさん」
純粋に可愛いと思いながら写真を撮るつむぎ。
「あ、私が貸したんですぅ」
実はコスプレ衣装の収集が趣味だったそらは、面白さ半分に写真を連続で撮る。ただ、集めることが趣味であって本人はコスプレすることはないらしい。
「……」
無言で写真を撮るゆかり。
「いやゆかりちゃんはせめてなんか反応して!?」
「まぁ……はい。いいんじゃないですか?服の好みは人それぞれといいますし」
「着せたのゆかりちやんだよねぇ!?」
怒りと羞恥心で顔を真っ赤に染め、今にも暴れ出そうとするセイカをマキとつむぎがなんとか取り押さえる。
なんとか気持ちが落ち着いた頃には遣る瀬無さとある種の悲しみから、その場に崩れ落ちた。
「う、うぅ……殺してください……」
「あ、今度はセイカさんがダメになった」
「まーまーセイカさん。あーしが今度なんか奢るから、元気出してー?」
先程のあかりのように、優しく頭を撫で回すつむぎ。セイカは涙ぐみながら「居酒屋でもいい……?」と聞き返していた。
「ちゃっかりしてんなぁ……お?」
マキがふとゆかりに目をやると、あかりの上ですっかり寝てしまっていた。そらに目配せをして、あかりとゆかりの2人を毛布に包み、リビングを後にするのだった。
「ん……あ」
自室で目が覚めたゆかりは、今日の愚行を思い出し消えてしまいたいと思った。顔を手で覆っていると、ゆかりが起きたことに気が付いたあかりが歩み寄った。
「起きたんですね、ゆかりさ……あっ」
間違えて下の名前で呼んでしまい、頬を赤くする。呼ばれたゆかりも釣られてぽっと赤くなった。2人は互いに目線を逸らし黙りこくる。
1分後、むず痒い空気を打破するべくゆかりはあかりに話を振る。
「そ、そういえばなぜ私は自室に?」
「マキさんと私で運んだんです。こう見えて少しは力あるんですよ」
ゆかりはマキの筋力が人並み以上であることは知っていたが、あかりが目の前でムキッと腕の筋肉を見せつけている姿を見えて感嘆の声を漏らした。恐る恐る手を伸ばし、あかりの力こぶに触れてみる。
「わっ……かたい」
「ふふーん。いっぱい食べる分運動してたらこうなったんです。最近はゆかりさんと一緒にゴロゴロすることも増えちゃいましたけど……あっまた……!ご、ごめんなさい」
咄嗟に口を塞ぐが気付いた頃にはもう遅い。ゆかり達からは再び湯気が出る。今回はあまり間を置かずにゆかりが話しかけた。
「あのっ……私、嫌じゃないので。名前で、呼ばれるの」
「え……」
「だから、その……ゆ、ゆかりって呼んでもらって、いいので!」
気持ちがこもり声が大きくなる。目をつむり言ったが、待てどもあかりからの返答が来ない。恐る恐る目を開けると、あかりは放心状態にあった。
「あの……きず……あかりさん?」
あかりに下の名前で呼ばせて自分は呼ばないのか、と考えたゆかりはあかりの名を呼ぶ。ピクリと反応したあかりが、ゆかりに視線を合わせる。
「ゆかりさん……ゆかりさん」
「……はい、ゆかりですよ。どうしました、あかりさん」
「えへ、えへへへ」「ふふっ、ふふふ」
2人は思わず笑ってしまったが、すぐに見つめ合い、幸せそうな笑みを浮かべる。
「今後ともよろしくです、あかりさん」
「こちらこそ!ゆかりさん!」