「んー……こんなもんかな」
切り抜き後の最終確認を終え、アップロードのボタンを押して伸びをするゆかり。時刻は13時。昼ご飯を食べていないことを思い出したゆかりは、腹を満たすべく階下へ向かうことにした。
「あだっ!」
「ん……?って、紲星さんじゃないですか。すみません、ぶつけちゃいました」
ゆかりが扉を開けた先には、鼻を抑えるあかりの姿があった。心配しつつ様子を見ていると、涙目ながらに突然立ち上がった。
「あの、よかったらこの後お昼食べにいきませんか?」
「……はい?」
◆
「えっと……昨日来たばっかりですけど、慣れ……てはないですよね」
「流石にまだですね。でもみなさん優しいですし、何とかやってけそうです」
「よかったです。あ、そういえば学校同じなんでしたっけ?」
「はい!マキさんから聞いたんですけど、そらさんも同じだとか……」
「ですです。じゃあ明日から登校メンバーが増えるってわけですね。ちょっと楽しみです」
ゆかりのその言葉は半分嘘だった。人と話すこと自体は好きだが、人が増えすぎると自分を出すタイミングが分からず遠慮しがちになってしまうから。
「えへへ……みんなで登校、楽しみです!」
しかし、あかりの笑顔を見た後では、そんな不安もすっかり消えているゆかりだった。
◆
「おお、こんなところに喫茶店があるとは(私でも知らないのにどうやって知ったんだろう)」
「ネットで調べたらここが出てきまして。口コミも悪くなかったんですけど、さすがに1人は不安で……」
「ああ、なるほど」
たしかセイカさんは友達と遊びに行ってて、そらさんは図書館……マキさんも友達との予定がある。ゆかりは、自分が消去法で選ばれたと理解した。
「じゃあ入りましょっか」
扉を開けるとベルが鳴り、その音で店員がやってくる。席を案内され、2人で向かい合って座った。
シックな雰囲気で纏まっており、カウンターからはコーヒーの匂いが漂っている。昼過ぎにしてはあまり人はおらず、しかし閑散としているわけでも無く、落ち着いた空気に包まれていた。
(お昼だし……まあナポリタンでいいか)
ゆかりはメニュー表をさっと見て、あかりに「注文決まりましたか?」と問う。元気にはいと返事が返ってきたので、ゆかりは店員を呼んだ。
「ご注文が決まりましたでしょうか」
「えっと、ナポリタンをお願いします」
「ナポリタンですね」
「私もナポリタンを」
お、同じだ。食の趣味が合うのかもしれない、とゆかりは思った。しかし、彼女の腹はその程度で満たされないものだった。
「あとカレーライスとたまごサンド、デザートにこのパンケーキをお願いします」
店員は一瞬動きを止めたが、表情は一切変えず注文を復唱した。それに対してゆかりは開いた口がふさがっていなかった。
「まさか麺・ごはん・パンの三大主食を1食で食べるとは……」
「あっ、ご、ごめんなさい!……引きましたか?」
「まぁおどろきはしましたけど、でも別に良いんじゃないですか?いっぱい食べれるのって、人よりご飯を楽しめる回数が多いわけですから」
ゆかりは正直な感想を言った。が、最後の一文は不要だったなと赤面した。あかりもまた、その言葉に赤面していた。
和やかだが気不味い空気をきり裂くように、ゆかりのスマホから着信音が鳴った。
「あっごめんなさい、マナーモードにしてませんでした」
「お気に慣らさず!」
ゆかりは軽く会釈して店の外へ向かう。画面にはマキの名前が表示されていた。あかりはそんなゆかりが店を出るのを見送った直後、テーブルに顔をうずめていた。
(試すような真似しちゃった……ごめんなさい結月さん。でもあんな優しい答え方してもらえるとは思わなかったなぁ)
思えば、ゆかりはマキと喧嘩したあとにわざわざ自室まで来て自己紹介をしてくれたり、荷物運びも暇だからと手伝ってくれていた。この2日間だけで、あかりの胸にゆかりが強く刻まれているのだった。
「すみません、戻りました」
「あっおかえりなさい!お時間とか大丈夫ですか?」
「いや、単なる冷やかしだったので問題ないです」
マキからの電話の内容を要約すると
『ゆかりん、今日も家にひきこもってるんでしょ?このあとお家帰ったら一緒に遊ばない?……ん?なんか周りうるさいけどもしかして外に出てるの!?あかりちゃんとデート!?ゆかりんも成長したねぇ(ここでゆかりがぶつ切り)』
というものだった。この電話は毎日のようにかかってくるのでゆかりとしてはマキも私ほどではないが友達が少ないのではないかと心配になっている。
「お待たせしました」
「「おおー!」」
初めに提供されたのはナポリタンだった。シンプルながら量も少なくなく、ゆかりの小さな胃袋を満たすのにはちょうど良い。
あかりが店員に会釈している間に、ゆかりはカトラリーを準備していた。
「はい、フォークとスプーンです」
「ありがとうございます!じゃあ……」
「「いただきます!」」
一口。ゆかりの貧弱な語彙力では『美味しい』以外の感想を生み出せなかった。同じくあかりも語彙力が乏しく、お互いに「美味しいですね」としきりに言い合っていた。
その後続々と運ばれてくるカレーやたまごサンドに驚愕しつつも、あかりが爆速で胃袋に収納していくのでテーブルのスペースは余裕があった。
「紲星さん良い食べっぷりですね。見てて美味しそうです」
「んっ……えへへ。そう言ってもらえると嬉しいです」
ゆかりがナポリタンを食べ終わると同時に、あかりは3品を食べ終えていた。
店員が食後のデザートとしてパンケーキを持ってくる。
「ゆかりさんも半分食べませんか?意外とお腹たまっちゃってて」
あかりのこれは嘘だった。本当は余裕で食べれるが、食欲よりも美味しさを分け合いたいという心が勝ったのだった。
反対にお腹いっぱいだったゆかりは、悩んだ末「じゃあ一口だけ……」と答える。
「んっ……甘い!」
「ですよね!ほんとに美味しいです〜」
幸せそうな顔で頬張るあかりを見て、ゆかりまでつられて笑顔になる。気付いたあかりは恥ずかしそうにするが、恥ずかしさは食欲に負けたらしく、気にせず頬張り続けた。