「で、異世界って言ってましたけど動画用のネタですよね?」
私、東北きりたんは琴葉茜に尋ねた。ゆかりさん達は驚いていたが、この姉妹はいつも突拍子もないシチュエーションの動画を投稿しているので、これくらいでは私は驚かない。どうせ今私たちがいる場所もその辺のカリフォルニア州とかなんでしょう。いやそれでもおかしい気もするけど。
「いやガチの異世界やで」
「はい?」
「この前知り合った魔法少女に頼んだんよ。ほら、現実やとこういう施設作るのにも時間とか許可かかるやん?だから異世界でスタジオ作って動画撮ってたわけや」
ケロッと当たり前かのように言い切った茜さん。葵さんに目をやるとニコッと笑い返される。どうやら冗談ではないらしい。
え、てことはこれ何、戻るために魔王を討伐とかしなきゃいけない感じのやつ?
「あぁ、安心してきりたんちゃん。魔法少女さんに迎えに来てもらうよう言ってるから」
「なるほど、そうでしたか。ちなみに何時くらいでしょうか」
「えっとね、明日の朝」
「明日ぁ!?」
「うん、こっちで撮りたいネタもあるからね」
そういえばさっき次回へ続くみたいな感じで茜さんがカッコつけてたな。こっちの風景とかも動画にするつもりなのか。まぁとにかく、帰りの足があるならそれでいい。
「実際どういう動画を撮るんですか?」
「目を凝らしたら向こうに見えるんやけどな、村があるんよ」
「んー……?あ、ほんとだ」
指を差した方向を目を細めて確認すると、まばらに建つ低い建築物のような影が見えた。ここの文明レベルはまぁ、異世界モノを観たことがあるので予想はつく。
「向こうの人たちにはうちらが異世界から来たってのは説明しとってな?エビフライとチョコミントアイスの実物と作り方を教えたら快く協力してくれるって言ってくれたんよ」
「どうせならきりたんぽとずんだ餅も布教しといてくださいよ」
「こっちに米の文化あるかぁ?」
「それ言うならエビフライ……は可能性あるから、チョコミントとか馴染みのない味で嫌がられなかったんですか?」
「なんかめちゃくちゃ気に入っとる人がそこそこおったんや。好きな人と嫌いな人の割合はまぁ、うちらの世界と同じくらいやろなぁ」
「チョコミントはすごいんですよー!えっへん!」
意外だ。チョコミントアイスの風味は独特だから異世界人の口には合わないと思っていた。案外チョコミントって凄い……?
「まぁ細かい話は全員揃ってからやな」
「ゆかりさーん、あかりさーん」
葵さんが2人を呼び、全員が集まった。どこからともなく取り出したリュックサックに手を置き、茜さんは説明を始める。
「うちらの目標はあの村に向かうことや。見えてはおるけど意外と遠いから、食料とか水とか……色々入ったこのリュックを持って行くで」
「ほんとは3対3とかの勝負形式にしたかったんだけど、気候によっては命に関わりそうだから辞めといたんだよねー」
軽々しく言ってるが私たちが琴葉姉妹の動画のために命をかける道理はないだろ。5人でも危ないわこんなの。
「じゃあ顔出しNGな我々がいるということは、一人称カメラで撮影するんですか?」
何か言いたげな表情でゆかりは言った。私と同じことを思って、それに関しては飲み込んだんだろう。
ゆかりさんはずん姉さま経由で知り合った仲で、おバカで体力も無いけど、真面目で根は優しい部分は嫌いじゃない。むしろその点に関しては尊敬する。
「せや!このリュックの中に……これこれ。まぁうちと葵が基本付けとくから気にせんでええよ。みんなの姿は隠すし」
「はいはい!ご飯は何がありますか!」
目を輝かせてあかりさんが尋ねる。彼女についてはずん姉さまから少し聞いたことがある。
たしかゆかりさんのところのシェアハウスに来た子で、ゆかりさんの配信にもたまに出ているとか。ずん姉さまいわく、この人も優しい方らしい。類は友を呼ぶと言うやつだろう。まさかこの言葉を良い意味で使う日が来るとは。
「基本は缶詰とかやな。こんな場所で下手に調理とか始めたら砂入ってしまいそうやし」
「なるほど……!過酷な環境の中、快適さからではなく消去法で選ばれた缶詰を食べるのもまた乙ですね……」
どうやら食に対して独特な関係も持っている人みたいだ。悪い人ではないんだろう。
「それじゃあそろそろ行くか!」
いつの間にか琴葉姉妹はリュックを背負っており、出発の準備は万端なようだ。
「こっちもセイカさんに晩飯は要らないって伝えておきました」
「電波通じるんですか?」
「通じちゃいました。あとそのツッコミ2回目です」
淡々と報告するゆかりさんだったが、私は内心穏やかではなかった。異世界なのに電波届くって何?どういう原理なの?
「まぁともかく行きましょう。ここにいるよりは村のお世話になって雨風しのげる家屋に泊めてもらうのが一番です」
「ですね」
「うし、じゃ改めて……出発進行や!」
「「「「おー!」」」」
異世界と言えば聞こえはいいが、私たちからするとただ荒野を散歩するだけだった。軽口叩いて駄弁ったり、動画では絶対使えないような日常会話を繰り広げたり、缶詰を食べて美味し〜って言ったりした。が、特に目新しいものは無かった。
「そろそろ着きそうですね」
日の傾き方からしてだいたい17時頃だろう。まぁこれが夏至とか冬至とかなら知らないけど。いやこの気候で四季はないか。……そもそも異世界って星は球体なのかな。
「いやぁさすがに疲れてきましたね。きりたんさんは大丈夫なんですか?」
額を汗で光らせるあかりさん。本人も辛いだろうに、わざわざ気に掛けてくれたようだ。
「こう見えて体力あるので。枝豆畑の収穫の手伝いとかもしてますし」
「えーすごい!そういえばずん子さんがずんだ餅作ってるって言ってましたね、枝豆から自家製だっただなんて」
「今度食べてみてください、美味しいですよ」
そう言ったものの、ずん姉さま経由でずんだ餅を受け取ろうとしたら毎日のように渡される羽目になるような気が……まぁ後で言えばいいか。
「あの、きりたんさんってゆかりさんとどれくらい仲いいんですか?」
「ふぇ?特にまぁ、たまにゲームするくらいですが……」
「そうだったんですね、なるほど!」
「……?」
質問の意図がよくわからなかったが、この回答で満足していただけたようだ。
そうこう話していると村はもう目前。あかりさんはぐったりとして老婆のようなゆかりさんを励まし、琴葉姉妹は肩を組み合って歩く。
……なんで小学生の私が1番体力あるんだよ。
「こんにちはアカネ様。お待ちしておりました。」
「ありがとな村長。今日はお邪魔させてもらうで」
茜さんから村長と呼ばれた老婆が、深々とお辞儀する。
この時点で異世界あるあるの『自動翻訳されてる』と『なぜかお辞儀の文化がある』が達成されて、謎の達成感を感じていた。
「それじゃあもう暗くなるやろうし、村の観光とかは明日にしようか!」
「ではアカネ様、こちらへ」
村長に案内された場所は宿だった。看板は読めない言語なので分からない。発音は同じなのに文字は違うのも異世界あるあるだ。
「今回2部屋あるんやけど、きりたんはどっちの部屋に来る?」
みんながじっと見つめてくる。2部屋となると、琴葉姉妹とゆかりあかりペアの2手に分かれるということだろう。
「私は来てほしいですけど……無理強いはできませんしね」
ゆかりさんが困り笑顔を見せる。そんなこと言われると嬉しいじゃないか。
「私も来てほしいと思ってるからね。きりたんちゃん、ウェルカムだよ」
葵さんもニッコリ笑顔で言ってくれる。なんだこれは、異世界ハーレムってやつか。
私は見つめられる中で熟考し、結論を出した。
「じゃあ私は――」