「大丈夫ですか?そっち狭くないですか?」
「私は大丈夫です!きりたんさん、近すぎたりしたら言ってくださいね!」
「あ、はい」
一泊二日の異世界生活、1日目の夜。私はゆかりさんとあかりさんに挟まれて寝ていた。なぜ挟まれているのかという話だが、この部屋にはキングサイズのベッドしかないからだ。
もちろん茜さんを問い詰めた。返ってきた答えは――
「ああごめんな?取り高のためにも犠牲になってくれ」
――というものだった。ここまでくると清々しいまである。
私としてはゆかりさんはいいのだが、あまり馴染みのないあかりさんには気を遣ってしまって少し疲れる。かと言って琴葉姉妹のほうへ行ってしまうと良からぬことをされる気がしてならなかった。まさに前門の虎後門の狼というやつだ。
「……皆さん寝ました?」
「はい寝ました」
あかりさんが乙女みたいなことを聞いてきたので寝たと素直に答える。これは寝言です。
「きりたんさん起きてるじゃないですか!」
「ぐーぐー」
「あっゆかりさんも!」
「ないすないすぅ」
「……?」
「いいねいいねぇ」
「あっゆかりさんのそれいびきじゃなくてグッドグッドって意味の!?」
両端のお姉さん達が謎のコントを始めた。まざろうかな。
「わんわん」
「ちょっ、きりたんさんまで!?というかそれはもう人間ですらないですよ!」
「わんっ、わんっ」
「きりたんさんの鳴き声どんどん強くなってる……」
「ワンッ……ワンッ……」
「……?」
「
「あ、そういう意味!?……とはなりませんよ!なんで急に王なんですか」
「いやこの世で一番偉いのって私だよなと思って……」
「自己皇帝感すごいんですね、きりたんさんって」
「きりたんらしいですね」
「おいゆかり、これが私らしいとはどういう了見だ」
ほんとに失礼な人だ。私にとって一番はずんねえさまだというのに。思わずタメ口で話してしまったがまぁいいか、明日こっそり謝るし。
「それで、あかりさんは何故私たちが寝たか確認しようと?寝込みを襲って殺害するつもりだったんですか?」
「だとすると私の確認方法迂闊過ぎません?単純に気になっただけですよ!」
「なるほど、そうでしたか」
静寂が訪れた。いや夜だし寝なきゃだからそれは正しいんだけども、旅行気分というか、宿に泊まってる状態だと浮足立つというか、落ち着かないというか……眠気はあるけどまだ寝たくない気分だった。
私はもぞもぞと布団の中を移動し、あかりさんの眼前に飛び出る。そして、隣の部屋の琴葉姉妹の迷惑にならないよう小声で話しかけた。
「あかりさんあかりさん、好きな人とかいないんですか?」
「すっっっ!?」
「こ、声が大きいです」
「あ、ごめんなさい……」
この反応は多分いますね。ワクワクしてきました。
たしかあかりさんはこちらに来て間もないということですし、シェアハウス内の誰かの可能性が高そうですね……案外ゆかりさんだったり?いやいや、確かに優しいですけど流石にそれはない……ですよね?
「べ、べべ別にイナイカナー……なんちゃって」
「棒読みになんちゃってをセットしたらもう嘘つく気が無いと言ってるようなもんですよ」
「はうぅ」
「勘弁してください。じゃあそうですね、誰とかは言わなくていいので、どういうところに惚れたのかとかを」
「いや、そのぉ……」
あかりさんはとても渋る。この人は思った何倍も初心のようだ。恋バナなんかもしたことがなさそう……いや、恋自体をしたことないのかもしれない。
まさか『恋したことがないからこの感情が恋かどうか分からない』みたいな状態だったりして……。
「さすがに漫画の読み過ぎですね」
「……?どうしたんですかきりたんさん」
「ああいえ、なんでも。それよりほら、教えてくださいよ」
「えっ、いやぁちょっと恥ずかしいといいますか」
暗闇に目も慣れてきて、あかりさんの顔が見える。月の光に照らされた白い肌だというのに、頬はリンゴのように赤くなっていた。可愛いですね、この人。チラチラと私の方へ視線を向けているのは、恥ずかしくて目を合わせられないのだろうか。
「そのぉ……ごめんなさい!今はちょっと!」
「そうですか、なら仕方ないです。無理強い良くないですし」
さすがに可哀想だと思った私は引き下がり、ずももとお布団に潜る。逆に私がずんねえさまの素晴らしさ(太もも写真集)を伝えてもよかったが、明かりもないし何がきっかけで本人に伝わるかも分からない。今はまだその時ではないだろう。
(……ん?)
私がお布団の中からあかりさんを見ると、先ほどまで私がいた方向に視線が固まったままだった。思いを馳せている相手は私?いやさすがに今日会ったばかりだし無いだろうから……。
そこで1つの結論にたどり着く。これは100%の確率で当たっているだろうと、東北家へ帰還したあとも確信を持って言える。
彼女が好意を抱いている相手は、ゆかりさんだ。チラチラしていた時も、今じっと見つめているのも、私越しにゆかりさんを見ていたんだ!
(てことはさっきの会話聞かれてたらまずいんじゃ……)
そんな考えは杞憂に終わった。ゆかりさんの方から寝息が聞こえてくる。あの人この状況で即座に寝れるとか、もしかしてあかりさんのこと意識してないのかな。
(ん?あれ、私って今百合に挟まってる?最悪ですねこれ)
かと言って琴葉姉妹の姉妹愛を超えた何かの間に挟まる度胸も無いわけなので、いっそのことコラボ自体断ればよかったとすら思っている。
(もし私がここにいなかったら、2人がおっぱじめる展開もあったりして)
邪な考えをしつつ、眠気に耐えかねた私は意識を落とすのだった。
ゆかり達が異世界旅行している最中、ボイロ荘にて。
「あれ、ゆかりんは?」
「あー、なんかきりたんとかあかりちゃんと一緒に異世界にいるらしいよ」
「はぁ?」
「いや私も耳疑ったけど、まぁともかく要らないらしいよ晩御飯」
「どっかに泊まってくるってことか。3人で小旅行でもしてんのかねー」
「琴葉んとこの2人の企画で連れてかれたらしいよ。ま、あの2人のチャンネルで何かしらの動画上がるでしょ」
「あー、あの2人かぁ。どおりで唐突な旅行だと思った」
「ま、私はお土産に地酒でも買ってくれてたら何でもいいよー」
「あの子ら全員未成年でしょーが」