とある喫茶店の窓際の席。日差しに照らされる中、優雅に紅茶を嗜む美少女が一人。それが私、宮舞モカである。
おっと、自分で美少女と表現するのは痛々しいという意見も分かるよ。でもこれは客観的な事実なんだ。その証拠に、クラスメイト達は私の美貌に恐れ慄いてるから、全く話しかけられないんだ。ああ、罪深い女ですまない。
さて、そんな天才的美少女たる私は今道行く人を眺めながら紅茶に舌鼓を打っているわけだが、ここに通っているのは紅茶が好きだからという理由以外にも色々ある。
まず、店の雰囲気が好きだ。シックで落ち着いた雰囲気と、お世辞にも大人気とは言い難い客入り。お店には申し訳ないがこういう隠れた名店のような空気が大好物でね。この喫茶店にはつい足を運んでしまうんだ。
そして、もう一つの理由がこの人だ。
「モカちゃん今日も来てくれたんだね」
「ふっ、紅茶の香りに誘われたのさ」
「相変わらずカッコつけてるねー」
私に負けず劣らずなこの美少女は弦巻マキという店員だ。今年の夏頃からバイトとして働いているらしく、夏休みが終わった今もよく見かける。彼女はここのマスターの娘だという話も聞いたが、そこまで似ていないので彼女は母親似なのだろう。
「いつも紅茶だけだよね。お腹空かない?奢ろうか?」
「借りを作るわけにはいかないさ。君のその美しさだけでお腹も心も満たされるよ」
「おおー」
私はマキちゃんを高く評価している。可愛いだけでなく、紅茶に詳しく、優しさも持ち合わせており、なにより頭がいい。天才的な名探偵たる私と同等かそれ以上の知能を持ち合わせているのだから、興味を持って当然だろう。
「ところでマキちゃん。勉強を教えてくれないだろうか」
私はカバンから先日出された課題の山を取り出す。マキちゃんとは同じ学校で、なんと学年も一緒らしい。クラスは違うが授業内容は大まかに同じなはずなため、時々こうして恥を忍んで教えを乞うことがある。
「モカちゃんいつも聞いてんね。私も復習になるからいいけど」
「ふっ、助かるよ」
「教えてもらってる側とは思えないキメ顔だ」
まさか私の頭脳を持ってしても解けない難問を課題として出してくるとは、恐ろしい学校だ。そして、それをスラスラと説明するマキちゃんはさらに恐ろしい。しかしそんなところも魅力的だ。
「で、ここに代入して〜……聞いてる?」
「ああ、一言一句取りこぼさずに聞いているさ」
「じゃあ、問題見てる?」
「マキちゃんに見惚れてる」
「だめじゃん」
軽いチョップをお見舞いされたので、数式に向き合うことにした。やれやれ、可愛い照れ隠しだ。
マキちゃんの説明はとても分かりやすく(私が頭脳明晰で理解力が凄まじいだけの可能性もある)、課題も10分もかからず解き終わってしまった。
「ふぅ……自分の才能が恐ろしいよ」
「教えてもらってるのによく言えるね。さすがモカちゃん」
「当然さ」
「褒めてないのに」
マキちゃんはケラケラと笑っていた。彼女の笑いのツボはよく分からない。私のアプローチも笑っていなしているのだから、恋愛経験も豊富なのだろうな。ま、まぁ私も?恋愛経験とかめっちゃあるし?むしろあり過ぎて飽きたなーくらいだけどね?
「そういや、モカちゃんってここに来ない日はいつも何してるの?」
「ん?家に籠もっているよ」
私のプライベートを探ろうとしているわけか。マキちゃんも積極的だな。まぁ、私としてもやぶさかではないさ。
「そうなんだ。家出何してるの?」
「……?家に籠もっているだけだが」
おかしいな、先程ちゃんと答えたはずだが。もしかしてこれも謎解きだったりするのだろうか。いくら私といえどマキちゃんレベルの謎はそう簡単には解ける気がしないぞ。
「あー、その、モカちゃんがよかったらだけど、今度遊ぶ?」
「ふぇっ!?えっ、あ、う、うん!」
唐突なお誘いに、鉄仮面の私も少しだけ動揺してしまった。しかしなぜ急に誘ってきたのだろう。もしかしてマキちゃんって友達少ないのかな。彼女に限ってそんなことはなさそうに見えるのだが……。
「ん?どうしてそう顔を赤くしてるんだい?あとなんか目が優しいというか……なんか憐れんでたりする?」
「いやいや、何でもないよ。一緒に思い出作ろうねー」
「ああ」
肩にポンと手を置くマキちゃん。その行為に私の胸は躍っていたが、なんとか隠せただろう。うん、きっとそう。
しかし舞い上がり過ぎても良くない。ここは話題を逸らして空気を変えよう。
「まさか、こんな美少女から逢瀬のお誘いをいただけるとはね」
「美少女だなんて調子のいいこと言っちゃってー。モカちゃんも十分可愛いでしょ」
「そうだね、自負しているよ。私とマキちゃんは世界三大美女の2人だという自負をね」
「思った100倍デカい自負だったわ。そこまで言われるとむしろ褒め言葉が嘘くさくなるよ」
なんとかいつものマキちゃんに戻ったようで、また笑っていた。その姿を見て私の身体は温まったが、きっと紅茶を飲んだからに違いない。今日はとても温かいな。
「何やってるんですか?マキさん」
ソファに寝転がるマキに、ゆかりは話しかけた。マキはスマホの画面を見つめたまま簡潔的に答えた。
「んー?デートスポット探してる」
「……!?ついに男ができたんですか!?」
「んなわけ。女だよ女」
ハッと嘲笑するマキだったが、ゆかりはそれどころではない。
「まさか彼女が出来るとは……クロワさんに御赤飯炊いてもらうように言わないとですね」
「待て待てまだ付き合ってない!というか今のところは付き合うつもりもないから!」
マキは踵を返すゆかりの肩を掴み、慌てて制止させる。しかし焦りからか言葉の節々に興味を引く単語が含まれており、ゆかりは質問攻めを始める。
「今のところっていうのは?」
「そのまんまの意味だよ……チッ」
おもむろに舌打ちをかますマキ。しかしゆかりは負けじと質問を続ける。
「向こうはマキさんのことそういう目で見てるんですか?」
「いや知らんけども」
「マキさんはどう思ってるんですか」
「良い子だし話してて楽しいとは思うよー」
「じゃあ付き合わないんですか」
「なんでだよ!まだ出会って数ヶ月なんだよ!早いよ、気が!」
「おお、倒置法」
珍しく照れ顔を見せるマキに的外れなツッコミをいれるゆかり。これ以上深掘りしても意味はないなと思い、ゆかりは自室へ向かうべく階段へ足をかけた。
「じゃ、また話聞かせてくださいね」
「はいはい、気が向いたらねー」
そのままマキを置いて、ゆかりは階段を登っていく。幼馴染の青春に微笑みながら、部屋の扉を開き編集を再開する。
(普段はああいう質問には全く答えないのに。それにあの顔、あの態度……あのマキさんがねぇ)