私は
普通に課題をして、普通に良い点を取って、普通にスポーツも熟して、普通にオシャレな服を着る。みんなが思い浮かべる夢見る少女像は、だいたい私に当てはまる。
そんな私はもちろん、恋に恋する乙女でもある。といっても私自身の恋愛には興味なんてない。精々シスコンと呼ばれるくらい妹が好きなだけだ。
じゃあ恋に恋してないじゃないか、って?いやいや、確かに自分の恋に興味はないけれど、人の恋愛は大好きなのよ。
「あのね、りりせちゃん。ちょっと相談したいことがあるんだけどいいかな」
なので、転校生かつ友達であるあかりちゃんに恋バナを持ちかけられたときは、内心穏やかではなかった。
「で、どんな人が気になってるの?」
「ちょ、りりせちゃん近いよぉ」
恋バナということで人の少ない場所、屋上に移動した。あかりちゃんは「よく屋上の鍵持ってるね」と言っていたが、普通にそこそこ優等生な私は先生から借りる権利を持っていた。と言ってもこういう事をするためだけにその権利を手に入れたので、屋上に来ることは滅多にない。
「ごめんなさい、つい舞い上がっていたわ。それで、どんな人なのかしら?」
知らないていで聞いているが、私はおおかたの予想はついていた。彼女の交友関係は最初こそ広かったが、時間が経つにつれて実際に関わる相手は少なくなっていた。転校生だから当たり前といえばそうなのだが、私は別の理由があると考えている。
あかりちゃんが来た頃は天真爛漫な元気ガールといった感じの娘だったが、今はおっとりゆるふわ元気ガールって感じだ。元気なのには変わりないのだが、どことなく身に纏う雰囲気が変化しているように思えたのだ。これも転校したばかりは頑張っていたと考えてしまいそうになったが、さらなる理由があると考えた。
結論から言うと『好きな人が出来た』である。
こちらに来て好きな人ができて、共に過ごすうちに生活感や性格、雰囲気も似てきたら?そう仮定すると納得がいく部分は少なくなかった。そして、その条件に合うのはシェアハウスの面々だと気付くのに時間はかからなかった。
とすればあとは消去法だ。話を聞く限り弦巻先輩や京町さんは違いそう。とすると桜乃先輩か結月先輩なのだが。
「いやぁ、どんな人って言われても……。ゲームが上手くて、声がかっこよくて、優しくて正直者で……でもでもだめなところもあって、だけどそれが可愛くてぇ……」
まぁ、結月先輩だよね。
知っていたよ。週明けのあかりちゃんの話の7割近くが結月先輩の話なんだから。さすがに分かり易すぎるよ。私がお猿さんでも気づけるよこれは。
でも結月先輩は良くない噂が飛び交ってるんだよね。あかりちゃんの大切な人なんだから噂は多分嘘なんだろうけど、少し心配だな。
「誰なの?名前を教えて欲しいわ」
しかし恋バナ(というかあかりちゃんの反応)を楽しみたい私は気付かないふりをする。こういう時バシュッと当ててしまうと逆にシラケてしまうのだ。
「な、名前はちょっと……りりせちゃんも知ってる人だし」
「ふむ、私は会ったことがある?」
「会ったことはないかなぁ」
「誰かしらね……あ!シェアハウスの人とかじゃない?」
「ぐぼっちょぎ!」
ぐぼっちょぎとはなんだろう。あかりちゃんが変な言葉を発しながら金網に頭を打ち付けた。痛そう。
「大丈夫?」
「あ、うん。大丈夫大丈夫……」
涙目でおでこをさすっている。やっぱり、この子は見ていて面白い。
「でも今の反応、もしかして当たってるのかしら?」
「うぐっ……まぁ、そうだけど?」
「ほんと?じゃあ誰だろ……うーん……弦巻先輩は会ったことあったわね」
そう言いながらチラッとあかりちゃんを見ると滝のように汗を流していた。何?バスケのハーフタイムなの今。スラム◯ンクの汗のかき方してるじゃん。
「桜乃先輩は……ゲーム上手いイメージないわね」
「……」
あかりちゃんは汗をかきすぎて萎れ始めていた。さっきからどういう仕組みなの?今度はク◯コダイルに水分奪われたル◯ィだよこれ。正解したらどうなるんだろうか。
「あ、もしかしてゆづ……」
「…………」
「ちょっと待って。それはG〇ロボ?私一瞬ぞあっとしたのだけれども。殺さないでくれるかしら」
流石の私も恐怖から数歩下がってしまっていた。多分これが本物の◯Tロボだったら私は10回くらい死んでたわね。
「……で、結月先輩なのね?」
「う、うん……バレちゃったー!恥ずかしー!」
今更乙女らしく顔を真っ赤にして悶えるあかりちゃん。本当に今更すぎる。
「でも最初、気になる人って言ってたわよね。好きではなくて?」
「んー……その辺りがよくわからないんだよね」
あかりちゃんはフェンスに身を委ね、青空を見あげる。
「なんというか、好きではあるんだけどこれが恋かとかはわかんないっていうか……」
「でも他の人とは違って特別に思ってる、と」
「うん」
照れもせず真剣な眼差しで、端的に答える。あかりちゃんのこれが恋だろうがなかろうが、その想い自体は本気なのだろう。
ああ、私はあかりちゃんはこういう所が凄く良い。明るくて優しくて、他の人に無い星のような輝きを持っている。
「ふふっ、じゃあ今はそれでいいんじゃないかしら」
「へ?」
「別に決めなきゃいけないものでもないでしょう?」
私はイタズラな笑みを浮かべ、屋上の扉に手をかける。
「私は、そうやって悩むあかりちゃんも可愛くて好きよ」
「……そっか。あーあ、悩み吹っ切れたらお腹すいたー!」
あかりちゃんはいつもの笑顔で私に駆け寄る。
結月ゆかり。こんな面白い少女に好かれるんだから、面白いに決まっている。いつか会ってみたいな。
「ところでりりせちゃんは好きな人とかいないの?」
「強いて言うならしゅお……妹と、貴女くらいね」
「えへへー」