10月某日。からっ風も強まり冬服に移行しきったこの季節。ゆかり達の学校では体育祭が開催されていた。
「はぁ……こう言っちゃなんですけど面倒くさいですね」
頬杖をつきつつため息を吐くゆかり。隣に座るマキは笑って返した。
「ま、たまには運動するのもいいじゃん!」
「とは言っても、丸一日運動っていうのはさすがに」
「いや、ゆかりんが出る競技綱引きと玉入れだけでしょ」
「……チッ」
反論できず舌打ち(チッと普通に言ってるだけ)をするしかなかったゆかり。くだらない話に花を咲かせていると、ペットボトルを抱えたずん子がやって来た。
「二人とも、良かったらこれ飲んで!」
「お、ありがとー。なにこれ」
「ずんだサイダーとずんだシェイク!」
「サイダーはともかくシェイクだとあんまり水分補給できないんじゃないかな。サイダーは貰っとくよ」
「ごめんなさいずん子さん。私まだ禁ずん中なんです」
ずん子は「無理して禁止しなくてもいいのに」としょんぼりしていたが、マキは「無理してでも禁止させなきゃずんだ代でボイロ荘が破産するんだわ」と返答した。
「言ってくれれば私が作ったやつあげるのに」
「いや、普通に太るんで……」
「ええー!ゆかりん気にしてたんだー!びっくり!」
「あ?私をなんだと思ったんですか」
一触即発……なんてわけもなく、いつも通りの雑談をしていると、今度はそこへあかりがやってきた。
「おーいゆかりさーん」
「あかりさんじゃないですか。学年違うのによくここまで来ましたね」
「えへへ。なんか近かったですし、暫く私の番は来ないので一緒に話そうかなと」
あかりが可愛らしく笑っていると、すかさずマキが「ここ近いもんね、1年席と」と補足する。ゆかりが右に視線を向けると、横どなりは1年生の席だった。
「あ!そうそう、ゆかりさんにこの子を紹介したくて」
ゆかりが紹介という単語に苦虫を噛み潰したような顔をしていると、あかりの背後からりりせが現れた。
「はじめまして、結月先輩。彩澄りりせと言います」
「ど、どうも」
ぎこちない笑みを返すゆかりとは裏腹に、マキとずん子は優しく笑いりりせに近寄る。
「お、りりせちゃんじゃん。久しぶり」
「やっほー!ずんだサイダー飲む?それともずんだシェイク?」
「お久しぶりです先輩。お元気そうで何よりです。お言葉に甘えてずんだシェイクもらいますね」
ずんだシェイクを手に取るとずん子が太いストローを差し出す。りりせがチューチュー吸っている間にずん子はあかりにずんだサイダーとずんだシェイクの両方を渡していた。
盛り上がる4人の姿を見てゆかりは目に涙を浮かべながら笑った。
(ふっ……疎外感半端ない)
「傷心中のところ悪いけど、ゆかりん次の種目綱引きだよ」
「えっマジですか。行ってきます」
白のハチマキを手に取り駆け足で去っていく。ゆかりの背を眺めるりりせは、ポツリと漏らした。
「結月先輩、もっと刺々しい方だと思ってました」
「ああ、学校ではそうかも。せっかくの美人が勿体ないよね」
「学校でのゆかりさんってそんな感じなんですね!」
ずんだサイダーをごくごくと飲みながら驚くあかりに「いやいや」とりりせがツッコミを入れる。
「噂になってるじゃないの、私たちのクラスでも」
「へ?」
「何人も人殺してるだとか、この学校で喧嘩最強だとか、睨んだだけで格闘家を気絶させられるだとか」
「え、あれゆかりさんだったの!?」
「おおう、ゆかりんにそんな噂が……通りで1年が騒々しいわけだ」
マキが苦笑いしながら右を見る。耳を澄ますと畏怖や尊敬の言葉が飛び交っているのが聞き取れた。
「ゆかりん大丈夫かねー」
「大事にならなければ良いけどねー」
「言葉では心配してるみたいですけど、お二人ともめちゃくちゃ笑顔じゃないですか」
呆れた様子でりりせは言った。だが、内心彼女も心配はしていなかった。むしろ、ここでゆかりが失態して噂が消えてくれたほうが嬉しいと思っていた。
そんなりりせの思いが届いてしまったのか、ゆかりは身を震わせた。
「なんか悪寒が……」
他のクラス同士の試合が始まり、ゆかりは眺める。ふとマキ達に視線を向けると、周囲の様子がおかしいことに気付いた。
(どうしたんだろ……あ、もしかして美少女が集まってるから盛り上がってるのかな)
ゆかりは見当違いな結論を出した。
そうこうしているとゆかり達の番になった。ゆかりは緊張しながらも綱に手をかける。
「よーい……はじめ!」
合図と共に綱を握りしめ、低く後ろに倒れ込む。全体重を引っ張る力に乗せ、味方の掛け声に合わせて全力で引き寄せた。
(こういうのは手を抜いたら後で何を言われるかわかりませんからね!全力でやらねば!)
珍しく真剣に向き合っているゆかりに、マキ達は声援を送る。
「おい、あの先輩たち結月先輩を応援してるぞ……」
「舎弟なのかな……あれ、後ろにいるのって確か転校生の……」
「まさか転校初日から〆られて……いや、最初から手下として潜入させていた……!?」
あらぬ妄想も聞こえてきたが、マキとずん子はこの際気にしないことにした。
「ゆかりんおかえり。優勝おめっと」
「ふん、見ましたか私の実力。ってあれぇ〜?マキさんのクラスは何位でしたっけ〜」
「2位だよ。煽りと受け取ってもいいのかな?ん?」
マキは表情こそ笑顔だが、こめかみに青筋を立てている。ゆかりは肩をすくめ首を横に振ったあと「ごめんなさい」と素直に謝った。
「あ、次の次借り物競走じゃないですか。マキさんがんばれ」
「うぃー。私の実力見せたりますかぁ」
「たしかりりせちゃんもだったよね?頑張れ!」
「ええ、行ってくるわね」
マキとりりせは談笑しながら待機場へと向かう。ゆかりは深く息を吐いて自分の席に座った。
「ゆかりさんお疲れ様です。かっこよかったですよ」
優しく微笑みタオルを差し出すあかりに、ゆかりの心臓はドキッと鳴る。
「……ありがとうございます」
あくまで平然を装いタオルを受け取った。あかりは気付いていなかったが、傍から見ていたずん子は2人の甘いやり取りをおかずにずんだシェイクを飲み進めていた。