10月中旬。ボイロ荘のリビングにて私は泣いていた。
「やばい……さすがにこんなのずるい……」
「ただいまー……え、何でゆかりん泣いてんの」
後ろからマキさんに話しかけられたが無視した。というか反応する余裕がなかった。
「なんか見てたの?」
「はい……最終決戦をちょっと見てて」
「あー、なんとなくわかった。私も昨日見て震えたわ」
私が泣いていた理由は、とある作品がついに完結しそうだからだ。完結目前という事実にも涙しているが、もちろん内容に対しての感動が大部分。長年愛され続けた作品を、愛あるスタッフにより高クオリティな映像芸術へと昇華させてくださったのだ。
なにより話題になったのがアニオリ……アニメオリジナルの展開。よくマイナスなイメージを受けがちだが、この作品は原作者が漫画で描ききれなかった部分の補完なのでむしろファンは大歓喜。私もその一人だ。
「最終章のアニオリは……全部良かった……!」
「わかる、わかるぞゆかりん」
「正直ヒロインは胸デカいしぶりっ子なところが嫌いでしたけどもうあれ見せられたら好きになるじゃないですか」
「おい待てその発言は実況者としてどうなんだ、燃えるぞ」
思ったことを口にしただけで炎上する時代、恐ろしい。ちなみに誰に言うわけでもないけど、あくまで私の個人的な意見ですからね。否定したいわけではありせんからね?
「そしてまさかの活躍を見せた面々……!」
「ほんとに。アイツがこんなかっこいいところ持ってくとはね」
「まぁネタバレになるから具体的な話はできないんですけど」
「それもそうだね」
「「あっはっは」」
露骨に笑い声を被せたあと、つかの間の静寂が訪れた。我慢ならなかった私はついに言ってしまった。
「いやさぁ!あの技がラスボスに効くとは思わないじゃないですか!」
「ゆかりん!結構言ってるからそれ!」
「誰のどの技とは言ってませんよ」
「いやまぁそうだけどさ」
「あと最終決戦で最初期のコンビ技を見せるっていう手法に弱いんですよね私」
「それはもうほぼ言ってるじゃん!」
「はて、誰と誰のコンビか言ってませんよ」
「ぐぬ……」
私はただ匂わせてるだけで何もネタバレなどしていない。やれやれ、マキさんは気にしすぎなんですよ。第一この会話をファンが聞いてるわけでもないのに何をムキになってネタバレを防ごうとするのやら。
「あと最後の攻撃をアイツがやるとはですよね」
「んんっ……まぁそれくらいならいいか。でも確かにこれこそこいつらの在り方だ!って思わされたよ」
「ええ。まさか……」
私は該当のシーンを思い返す。技のまさかの使い方、信頼と覚悟、責任を感じる強い力、友情・努力・勝利の展開。
私は噛み締め言葉にした。
「まさか……ドン・観◯寺がとどめを刺すとは」
「普通に嘘じゃん!ネタバレとかじゃなくて嘘じゃん!」
「あれ、違いましたっけ」
「全然違うよ!?ネタバレになるから言えないけどさ」
「そうですか……」
「うん……」
「……」
「……」
「……」
「……というかサラッとキャラの名前出したよね今!?」
今日のマキさんは一段と騒がしい。まるで決着を観てそのまま話し始めたせいで変にテンションが高い人みたいだ。
「キャラの名前出さなきゃ会話は難しいでしょう?それともあれですか、文章をこそあど言葉で染め上げて認知症を早めようって目論見ですか」
「んな誰も得しない馬鹿げた計画は立ててないよ」
「あ、ちなみにアニオリ全部良かったとは言いましたが◯面の軍勢が相変わらずでちょっとほっこりしました」
「それは……まぁ……ノーコメントで」
マキさんも少し思うところはあったらしい。1名は普通に優秀でもう1名は相手が悪かっただけだが、その他のメンツは活躍がその……うん。この話はやめておこう。
「ところで一番好きなキャラ誰ですか?」
「今日はよく話が飛ぶなぁ。うーん……日◯谷隊長かな」
「えっ……ショタコンなんですか、おねショタなんですか」
「ゆかりんは胸だけじゃなくて発想力も貧しいなぁ!」
無言でヘッドロックをお見舞いしたら2秒でギブアップ。もちろん私が。マキさんに体力で勝てるわけがなく2秒で返り討ちにあいました。
「いやいや、私達の世界って百合ですよ?男の影出てくるだけで嫌がる人いるんですから」
「えっ私たちがいるのって百合作品の世界だったの?いや確かに女の子とばっかり関わってる気はするけど……いやいやノンフィクションだよね私たち」
マキさんは顎に手を当ててまじめに考え始める。私はそんなマキさんを嘲笑うかのように笑ってみせる。
「やれやれ、ままならねーですねマキさんは」
「なんだとー!やんのかー?」
「ふっ、いいですよ。1京分の1のスキルでぶっ倒してやりますよ」
「なんだ、今までの発言は安◯院さんの真似してただけか……」
この会話ほかの人達に通じるのだろうか。今あかりさんとか来られたら説明めんどくさいぞ。
「にしても来週ついに完結かぁ。どうなるんだろうね」
「噂では原作と違う終わりだとか。まぁここまで魅せてくださったんですからどうなっても文句は言いませんよ」
「だね」
「誓ったんですよ。どんな結末でも称賛し続けるって」
「……一応聞くけど誰に?」
「誰でもないですよ」
私はいつの間にか血まみれで這いつくばっていた。呆れるマキさんを睨みながら、残った力で踏ん張る。
「ただ私の……魂にです!」
「あ、うん。そっか。さすがに流れが無理やりすぎる、0点」
「クソっ!!!!」