ボイロ荘の百合コメ記録   作:涼川奈緒

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※東北イタコの意見です


その31 イタコは降霊って言ってるでしょう?除霊は専門外ですわ!

 時は結構遡り2月某日の夜、N県にて。あたし、東北イタコとその他2名が廃村の『滅血矢古環井(めっちゃこわい)村』に訪れていた。季節外れの肝試しだとかそういう訳ではなく、とある依頼を受け廃村へ向かったところに、何故かこの2人がいただけだ。つまり目の前にいる白髪の少女たちとは初対面。って、あたしも白髪ですわね。白髪3人組じゃありませんの。

 

「あ、あの〜……皆さんも依頼を受けて?」

 

 背が高い方の白髪の少女がおずおずと尋ねる。あたしはコクリと頷き「そうですわ」と答えた。

 しかしながらあたしの本職はイタコ。降霊を生業としているので除霊はプロ並みとは言えない。こうして2人もついていると心強いですわね。

 

「私もです!幽霊退治はしたことがないですが、それで依頼者である山田さんが幸せになるのであれば……とお受けしました」

 

 まさかの未経験者!?いきなりこんな廃村に呼んでしまっていいんですの?いや、まだこのお姉さんが本職の方であれば何とかなるかもしれませんわ!ほら、着物だって着てますし(あたしや小さい子も着物なのには目をつぶりつつ)。

 

「あ、奇遇ですね。私も困ってる人を放っておけなくて依頼受けたんですけど、除霊なんかはしたことなくて」

 

 こっちも!?え、素人3人が集まってますの?死者3人出ますわよこれ。むしろ怒りに触れて周辺地域にも影響が出かねないのでは?

 

「ところでお名前は何というのですか?私はWhite CULって言います。気軽に雪とお呼びください」

 

「私はつくよみちゃんって言います!ちゃんまでが名前ですが気軽につくよみやらつくつくやら、好きなように呼んでください」

 

 何やら自己紹介が始まったようで、2人が名乗り終わると、こちらに視線が飛んできた。あたしはなんとか笑顔を見せて簡易的に名乗る。

 

「あたしは東北イタコですわ。名前の通り、本職はイタコをしておりますの。まぁ、お二人よりは経験はありますわ」

 

「東北先輩ですね、よろしくお願いします」

 

「しますなのです!」

 

「先輩はよしてくださいな!イタコで良いですわよ」

 

 経歴詐称をする勇気もなく経験の有無まで言ってしまった。これはリーダーを務める流れになってしまうな、と思いつつ依頼内容を振り返ることにした。

 

 依頼者の山田さん曰く「この村には幼い頃に亡くなった少女の怨念が残っており、訪れたものを死に追いやっている」だとか。

 触らぬ神に祟りなし、無視すればいいと考えたけれど大金を積まれてしまったので断るわけにはいかなかった。

 ……初心者3人って、大金積む相手間違えてません?

 

「さて、いきますわよ。たしかお屋敷の近くに祀っている墓地があるんでしたっけ」

 

 覚悟を決めて村へ入り、奥に見える大きな廃屋に足を運ぶ。

 

「私もそう聞いてます」

 

「なんだか嫌な空気ですね……纏わりついてくると言いますか」

 

 このつくよみちゃんという少女はおそらく、ある程度霊力があるのだろう。身を震わせてキョロキョロとしている。逆に雪さんは霊力がないのか平常心のように見える。流石に2人を守りながらとなると厳しいので、なるべく戦闘にならなければいいのだが。

 

「そういえば今回は悪霊の除霊の依頼ですけれど、お二人は戦闘や自衛のための者は持ってらっしゃるのかしら?」

 

「はい!私はこの愛刀があります!」

 

 つくよみちゃんはシャキーンと言いながら抜き身を見せてくれた。普通に危ない。鞘が見当たらないが、どこから取り出したのかしら。

 

「私はクナイ、手裏剣は持っていて……あとは雪の妖術を少し使えます」

 

「妖術を使えますの!?霊感なさそうなのに!?」

 

「あはは……父からも妖術を使えて霊感がないのは珍しいと何度も言われてます」

 

 雪さんは忍びの家系の子なのだろう。クナイや手裏剣の扱いにも慣れている。現存する忍びに出会ったのはこれで2人目だ。

 

「あの、妖術っていうのは?」

 

「魔法みたいなものですわね。霊力を行使して使うものですわ」

 

 簡易的に説明しつつ、あたしは手のひらをつくよみちゃんの前に差し出す。そして霊力を込め、小さい炎を発生させた。

 

「わっ、すごいです!」

 

「これが妖術ですわ。なので使えるということは霊力はふんだんにあるはずなんですけれど……霊感が無いということは何かしらの特異体質なんでしょうね」

 

「はわわ……私もできるでしょうか」

 

 つくよみちゃんも手を前に出して「はぁぁー!」と一生懸命に力を込めている。とても可愛らしくてずっと見ていられる。

 まぁ、すぐに出来るようになるものでもないし、ここは危ない場所だから止めないとですわよね。

 

「つくよみちゃん、そのへんに──」

 

「あ」

 

 ビュンと音が鳴り、あたしの頬を何かがかすめる。恐る恐る頬に触れると血が滴っていた。

 さっきのあたしのを真似しようとしてこうなったということは、高出力で発した霊力……つまりビームのようなものということかしら。すさまじい威力ですわ。

 

「ご、ごごごごめんなさい!腹を切って詫びます!」

 

「そこまでしなくてもいいですわ!その気持ちだけで十分、十分ですわよ!」

 

 ハラキリをご所望なつくよみちゃんをなんとか宥め、あたしたちは再び歩き始める。つくよみちゃんはどうやら才能の原石のようだ。この業界にいれば何億も稼げるだろう。あとでスカウトしようかしら。

 呑気にそんなことを考えていると何事もなく墓地に辿り着いた。先ほどまで聞こえてきたカエルの鳴き声もいつの間にか消えており、辺りは静まり返っていた。

 

「これは……凄まじいですわね」

 

「たしかにさっきよりも空気がとっても重いですね」

 

「え、そうなんですか?お二人とも無理しないでくださいね?」

 

 若干1名を除いて身を震わせつつ、話に聞いていた祠に近づく。扉は開いており、中には今にも破れそうな札で封をされた箱があった。

 

「どうやらこの封印が甘くなっていたようですわね。封印し直しますのでお二人は下がって」

 

「「は、はい」」

 

 緊張の中、あたしは淡々と封印を進めが、呪いの力が強くどんどん疲弊していく。

 そして最悪なことに、あと3割といった所で呪いにはじかれてしまった。

 

「とうっ!ぐへぇ!」

 

 吹き飛ばされるあたしを庇うようにつくよみちゃんが飛び、そのままあたしの下敷きになった。心配の声をかけたところ「私は全然大丈夫です!それより祠を……!」とたくましい返事を貰えた。

 

 急いで祠の方へ向き直るが遅かった。

 

「……!封印が解かれてしまってますわ!」

 

 箱から人のものであろう腕が這い出る。しかしそれはあらぬ方向にひしゃげており、とても人間のものとは思えない。間違いなく今回の除霊対象の悪霊だろう。

 箱からぬるりと抜け出したそれは地面にべチャリと落ちる。まるで今生まれたばかりの赤子のように。しかし視線だけはこちらを見ていた。

 

 あたしは咄嗟に2人の前に立ち塞がった。

 

(前に出たものの、恐怖で全く動けませんわね)

 

 一周回ってあたしは冷静だった。可愛らしい女の子を2人も守って死ねるのなら、ずんちゃんにも自慢ができようものですわ。

 身体を起こし殺気を飛ばす悪霊。あたしは死の覚悟を決め目をつむった。

 

「えいっ」

 

「……はい?」

 

 が、そんなあたしにはお構いなしにつくよみちゃんが気の抜ける掛け声とともに悪霊を蹴り飛ばしていた。

 ゴロゴロと転がり雑木林に侵入していく。あたしの制止も間に合わず、つくよみちゃんはそれを追いかけて行った

 林から「えいえいえい」と可愛らしい声と共に鈍い音が聞こえると、のそのそと悪霊を引きずりながらつくよみちゃんが帰ってきた。

 

 いやいや、えぇ?強すぎません?あたしの出番要ります?

 

「人に悪いことをしたらだめです……よっ!」

 

 つくよみちゃんは刀を大きく振りかぶり、全力で振り下ろした。しかし悪霊は咄嗟の判断でそれを避け、雪さんの方へと向かった。

 

「雪さんっ!危ないですわ!」

 

 あたしも駆け出そうとするが、足がすくんでその場に倒れてしまう。雪さんが妖術を使える程の強さを持っているとはいえ悪霊が見えないなら意味がない!もし彼女に取り憑こうものならそれこそ打つ手無しだ!

 

「あ、こっちに来てるんですね。よいしょっ」

 

 パチンと指を鳴らすと、雪さんを中心とした半径1メートルが即座に凍りついた。足元には霜が出来ており、悪霊に関しては全身が氷漬けにされている。

 

「父から教わったんです。幽霊は見えなくても妖術は効くって。だから取りあえず周りを凍らせちゃいました」

 

 いたずらっぽく優しく微笑むその姿はクールビューティとしか表現できなかった。

 

 

 

 

「えいっ!やぁっ!せいっ!」

 

 氷漬けされた悪霊に霊力ビームをグミ撃ちするつくよみちゃんを横目に、あたしは雪さんに話しかける。

 

「あんなに指示とかしていたのにこの体たらく、本当に申し訳ないですわ」

 

「いえいえ。あの言葉がなければ私はダメでしたし、むしろ役に立ててよかったです」

 

 雪さんはフッとあたしに微笑みかける。その笑顔にあたしの胸がドキンと躍った。吊り橋効果っていうやつかしら?うふふ。

 

「雪さん、今度お礼も兼ねてうちに来ませんか?」

 

「良いんですか?じゃあ連絡先交換しましょう」

 

「あたしのアドレスはこれですわ」

 

「ふんふん……」

 

「むっ!私も混ざりたいですーっ!」

 

 あたし達が友達登録をしていると、ムギュッと間につくよみちゃんが現れた。悪霊がどうなっているかをチラッと見ると、霊力を削がれて見るも無残な姿になっていた。下手すると見た目だけなら今のほうが怖いかもしれない。

 

「つくよみちゃんもありがとうですわ。食べ物とか、欲しいもの用意しておきますわよ」

 

「えっ!いいのですか?じゃあお餅がいいです!」

 

「まぁ、ならちょうどずんだ餅が──」

 

「……を絵に書いてほしいです!」

 

「まさかの芸術を要求!?」

 

 なんやかんやで連絡先を交換し、その日のうちにそれぞれ帰路につくのだった。




「こんにちはゆきさん。たしか昨日、旅行で小さい村に行ったんでしたよね?どうでしたか?」

「あ、ユカちゃんこんにちは。んー……お姉さんにナンパされちゃった♡」

「ひゃっ……!ゆ、ゆきさんは大人ですね。ナンパされたというのに平然だなんて」

「ふふっ、そんなこと無いですよ」

 優しく微笑む雪の内心は、全然穏やかではなかった。

(大人だったらこんなにバクバクしてないよぉー!あー!お金に目がくらんで行ったもののめちゃくちゃ暗いし怖かった!一人じゃなくてよかったほんとに!凍らせたときは怖くて立ち尽くしちゃってたしなぜかイタコさんには褒められるしなんなんだよほんとにー!もう二度と除霊なんてしない!絶対!……でも結構貰えたんですよね報酬。……気が向いたらやるかもしれない!)
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