「……あ、どうも」
「どうも、お邪魔してるわ」
朝、目が覚めたら居間にめたんさんがいた。普通にいるもんだから驚くよりも先に挨拶が出てしまった。顔を洗い、タオルでぎゅっぎゅっと拭いてからようやく「なんでいるんだよ」というマトモなツッコミが浮かんできた。
「ずん姉さまは今日は昼まで起きてこないと思いますよ」
取り敢えず客?人なのでお茶を出してみた。めたんさんは感謝してズズ……と音を立てて飲む。
「確か昨日は夜まで課題に追われていたんだっけ?」
「はい、週明けに中間テストがあるらしくて。ずん姉さまから聞いてたんですね」
「いえ、感じ取っただけよ」
「……」
この人どうすればいい。何を言っているか聞き取れるのに全く理解ができなかった。
とりあえず匿名掲示板に『朝起きたら姉の女友達が居間にいたけどどうすればいい?』と安価スレを立てて見た。
(まぁ今の時代人なんていないでしょうけど)
スマホを閉じて顔を上げると、めたんさんがこちらをじっと見つめていた。野生動物か何か?獲物を見る目じゃないですか。
ぬっとめたんさんの手が伸びてくる。やっぱり私を食べようとしてるんじゃ……!
「きりたん、少し背ぇ伸びた?」
「……へ?」
ぽんっと頭に手を乗せられる。怯えて逸らしていた視線を、再びめたんさんに向けると、優しく微笑んでいた。
「ちゃんといっぱい食べなさいよ。私が言えた義理じゃないけど、ずんだ餅以外もめいっぱい食べるのよ」
「え、あ……は、はい」
急にお姉さんぶるのだから調子が狂う。と思ったのだが、これはお姉さんというかどちらかというと……。
「そういえばこの前うさぎから飴をもらったのよ。色々と味があるんだけど、どれがいいかしら」
「いや、その」
「あ、きりたんテレビ見る?この時間帯だとプリティでキュアキュアなアレが放送されているはずよ」
「えっと、あの」
「あら、きりたんの分のお茶がないじゃないの。私が注いでくるわね」
「あ、はい」
……どちらかというと、親戚のおばさんだこれ。
「ほはよー……って、めたんちゃん!来てたんだ」
「あら、ずん子おはよう。お邪魔させてもらっているわ」
「おはようございます、ずん姉さま。一緒にやりますか?」
私はコントローラーを一つ差し出す。めたんさんと一緒にやっていたのは(不)愉快なパーティーゲームだった。相手を妨害して足を引っ張り合い最も稼いだ者が勝つゲーム。4人での対戦が可能で、3人以下でプレイするときは代わりにCPUが補充されるのだが、もちろんプレイヤーはプレイヤー同士で足を引っ張り合うので、どちらかというとドベを決める醜い争いが繰り広げられることが多い。
が、私がずん姉さまにそんないじわるをするわけもなく!うちではずん姉さまが圧勝する姿だけが何度も散見されるわけだ。
「きりたん私に接待するじゃん。やめとくね」
「そ、そんなぁ……!」
「ま、きりたんもたまには本気でやってあげたら?手加減なんてむしろ気を悪くするだけだわ」
「めたんさん……」
「私も数々の嫌がらせによる不快感でこの純白の服がドス黒く染まっちゃったわけだけど、でもそれ以上に楽しかったわよ」
「めたんさん……!」
どういう仕組みなんだその服。でも、めたんさんが言う事が正しい。どうやら私はずん姉さまを愛する気持ちを間違えた方向に使いがちらしい。
「じゃ、私もやろっかなー。めたんちゃん、コントローラー取って」
「はいどうぞ」
「い、いいんですか?」
ずん姉さまは私とめたんさんの間によっこいしょと言って正座する。そのままなれた手つきでアバターを選んでいた。
「だって手加減しないんでしょ?大好きなきりたんと本気で遊べるんだから、やるに決まってるじゃん!」
「ず、ずん姉さまー!」
「やれやれ、私はトイレ行ってくるわね」
私の涙腺はズタボロだった。ずん姉さまに飛んで抱きつき、とても泣いていた。でもその柔らかくてもちもちな肌を堪能してたらおこられちゃった。気を利かせてくれためたんさんにちょっと申し訳ない。
(あ、そういえばクソみたいなスレ立ててたな。どうなってるんだろ)
スマホを手に取り掲示板を開いたが、案の定罵詈雑言だった。しかもレス数は一桁。レス数的に安価は踏まれてるみたいだから実行するしかない。
私は(どうせ安価先も暴言だろうなー)と思いながらスクロールする。
『ほっぺにキス』
まだ罵詈雑言のほうがマシだった。私はそれを見て思わず飛び上がってしまい、頭が天井に突き刺さった。
なんとかずん姉さまに引っこ抜いてもらったタイミングでめたんさんも帰ってくる。
掲示板見なきゃよかった!変に意識しちゃうじゃないですか!もー!いやでも安価は絶対だし……あーもーくそ!
「ん?きりたんどうしたの?そんなに私を見──」
「き、きりたん!?どうしちゃったの!?」
ずん姉さまが慌てふためく中、私は照れ隠しから「単なる感謝なだけです」と返した。後から全く照れを隠せてないことに気付いて悶えた。
「あれ、めたんちゃんスマホ触ってるの珍しいね。充電できる機会が少ないから連絡でしか使わないって言ってたのに」
「ん?まぁ……ちょっとだけ意地悪したかったのよ」
「?」