ボイロ荘、午後7時13分、金曜日。
「……」
「……」
晩飯前のこの時間帯に、ゆかりとマキは沈黙を貫いていた。リビングには彼女ら2人以外の姿はなく、全員が自室で好きなように過ごしているようだ。
そんな重苦しい空気を漂わせる2人だったが、ついにゆかりが口を開いた。
「すごく、良かったですよね」
「あぁ……すごく、よかったよ……!」
2人はその言葉だけ言って、頭を抱え苦悩する。まるで完全に反立する感情を背負っているかのように。
今度はマキが天を仰ぎながらポツリとこぼした。
「正直あれはずるいって」
「ほんとにそうです。最終回の特殊エンディングは覚悟をしていましたが、予想を超えてきたといいますか」
「私泣いちゃったもん」
「ふっ、あの程度で泣くだなんてマキさんもまだまだですね。あっ思い出し泣きしちゃう」
「これツッコんだほうがいい感じ?」
呆れた顔でマキは笑う。ゆかりもずびっと鼻を鳴らしながら笑い、互いに同じことを思った。
((私らもオリジナルの斬◯刀使ってみてぇ……))
彼女らの脳内にあったのは、完結の祝いでもなくリスペクト溢れるスタッフへの敬意でもなく、中学生が通り過ぎたであろう幼稚な妄想だった。無論、この2人は最終回放送日から毎日大泣きして感謝し尽くしているため、行き着くところまで行き着いたというのが正しいだろう。
「章毎のボスはそれぞれ、催眠で『現在』の改変、栞で『過去』の改変、全知全能で『未来』の改変をするじゃないですか」
「まぁそうだね」
「だから考えました。じゃん、私の◯解の能力は時止めです」
「うーん……競合が強いってのと能力を聞くだけだとオサレ感が少ない、却下」
「くそっ!」
マキのその却下は、くだらない遊びが始まった合図だった。
「じゃあ次!氷雪系で、自分に近づいたものを問答無用で凍結させる!」
「あー、作中に出てた氷雪系って2人だけだっけ。たしかにアリかもしれないね。まぁなんというか他の2人より能力が控え目な気がするし出る幕無さそうだけど」
「いやいや、私は原作ありきで考えたいタイプなんですよ」
「……というと?」
「例えばメアリー・スーってあるじゃないですか」
マキはゆかりが珍しく賢そうな事を話し始めたことに感銘を受けつつ「なんだっけそれ」と返す。ゆかりは何故か自慢げに話し始める。
「簡単に言うとな◯う系主人公なオリジナルキャラを二次創作に登場させるみたいな感じのやつです」
「言わんとすることはわかるけど、そう一纏めにしてるといつか夜道で刺されるよ」
「夜に出歩いたりしないんでいいですよ。まぁ、私はそういうの大の苦手なんです。だからこういう能力の妄想も原作を尊重したものをですね……」
拳をギュッと握って熱弁するゆかり。それに対してマキは机に頬杖をつきながら言った。
「そう言われると気持ちはわかるなぁ。でもさ、ある意味夢ないんじゃない?」
「ほう、夢がないとは?」
「いや、なんかさ。とっても強い能力とかで無双な妄想をするのもある意味健全な行為なんじゃない?恥ずかしい話、私もそういう経験はあるし……」
「まぁ私もあります。それはそれとして私は人の物を使った独り善がりなオナニーを見るほど物好きじゃないってだけです」
マキは呆れながら「そろそろ刺されても庇いきれないよー?」と零す。その言葉にハッとしたゆかりは咳払いをしてマキの隣に座った。
「話を戻しますけど、マキさんはどんな斬◯刀を使いたいんですか」
「ふっふっふ……私は
「全部既出じゃないですか!」
「いやいや、あれって同じ頭文字でもいけるから!私にどの素質があるかによって変わるから!」
「え、そうなんですか」
ゆかりはスマホを取り出し設定を読み漁る。するとマキの言う通り『ラスボスが力を与えていた』のではなく『その者の魂魄に刻まれた素質をラスボスの力で開花させた』だけという内容が出てきた。ゆかりは驚きのあまりスマホを落とした。
「てことは私も
「そだよ。あ、そうそう私が欲しいなって思ってるのは
「なんとなく能力の想像はつきますけど、どんなのですか」
「電子操って熱とか電磁波とか電気とか起こす」
「熱とか電気に関しては原作で炎と雷とか言う上位互換がありますね。……でも、小回りが利く点や出来ることの範囲という違いがあるから一概に否定できないですし、良い能力調整だと思います」
「おお、批評されてたんだ今」
その後も2人はオリジナルの能力や既存能力のどれが欲しいかなどの話題で盛り上がり続ける。そして、20時過ぎには晩ご飯ということで階下に来たあかり達3人に、その作品を布教するのだった。
「え、アニメだけでこんなに……」
「アニメオリジナルエピソードとか多いですからね。とりあえずここまで見てもらって、ここから……100話ちょいまで飛ばしてしまっていいですよ」
「ゆかりんはもはや、そろそろ刺されるべきだと思う」