ただいま午前10時ごろ。皆様お久しぶりです、彩澄りりせって言います。名前だけでも覚えていってください。
本日は右隣に凛と佇むこのそら先輩と一緒にあかりちゃんのデートを尾行しようと思います。
「「行ってきまーす」」
噂をすればなんとやら、シェアハウスからお2人が出てきましたね。
私はそら先輩に目で合図を送り、そのまま電柱から電柱へ、時に立て看板へ……物陰に隠れながら2人の後を追った。
「あ、見てくださいゆかりさん!ホトトギスがいますよ!」
「ほんとですね。本物見たの初めてかもです」
あかりちゃんが指差した方向を見ると、確かに街路樹にちょこんと座る鳥がいた。でもあれはホトトギスじゃなくてヒヨドリですね。なんならホトトギスは夏鳥だし。今度野鳥図鑑をプレゼントしたほうがいいかな。
「にしてもすっかり秋ですね!」
「そうですねー。落ち葉もこんなに……今年もあの季節かぁ」
「あの季節というのは?」
「あー、毎年落ち葉拾いというのを地域でやってまして……」
ゆかり先輩の話にあかりちゃんは百面相のように表情をコロコロと変えていく。やっぱり見ていて面白い。この前ゆかり先輩と顔合わせができたのも僥倖だ。そら先輩からあらましは聞いているけど、私自身で彼女の気持ちも聞いてみたいのよね。
「2人とも良いわねぇ……見ていて飽きないわぁ」
「そうですね。あかりちゃんの表情の変わりようなんて特に」
「あら、私はゆかりちゃんの方が見ていて面白く感じるわよ」
「そうなんですか?」
意外だ。ゆかり先輩も一応見ていたが、表情もたまに微笑むくらいで大きな変化はないし、言動も落ち着いている。どこを面白く感じ取ったのだろうか。
「ゆかりちゃんね、あかりちゃんが来るまではずーっと家に引きこもってたのよ。それが今では毎週街に出てるのよ」
「あ、そういえば言ってましたね。確かにそれを考えると……」
「それにあかりちゃんが良い反応する時ね、ゆかりちゃんも嬉しそうに微笑んでるのよ」
それを言われ、改めてゆかり先輩を見る。どうやらちょうど話も盛り上がっている最中らしく、あかりちゃんがオーバーリアクションで驚愕していた。……あ。
「ほんとですね、ゆかり先輩すっごく幸せそうに笑ってます」
「ね。私たちとの会話でも笑顔は見せてくれるけど、あそこまでのものは中々見ないわぁ」
そら先輩は「マキちゃんと話す時なんて、小さい頃から一緒にいたせいか笑顔の頻度自体が少ないのよ〜」と付け足していた。
ゆかり先輩もああいう顔とかするんだな。案外あかりちゃんのいっぽう通行なんかではなさそうだ。
「ってあ、角曲がっちゃいますね」
「急がないとねぇ〜」
すっかり話し込んでいたせいか距離もだいぶ離れてしまっていた。左折した2人を見失わぬよう追うべく駆け足で丁字路まで向かう。
しかし、2人はどこに向かっているんだろうか。歩くスピードもそこまで速いわけではないし、散歩が目的なのかしら。いや、さすがにそんな熟年夫婦のようなデートコースは無いわね。
「この辺詳しくないんですけど、お2人がどこに向かっているかわかりますか?」
曲がり角から顔だけ出し、あかりちゃん達の影を確認しそら先輩に尋ねる。そら先輩は少し悩む素振りを見せて答えてくれた。
「あ、この先公園があるわね」
「こ、公園ですか?」
「ええ。逆にそれ以外だと遠回りだわ。この辺りは見ての通り住宅街だし、お店とかならまずこの道を通らないわね」
「ほんとに老夫婦ですね……」
「枯れちゃってるわよねぇ」
そら先輩が言った通り2人は公園に立ち寄り、ベンチに並んで座っていた。住宅街の中の小さな公園で、休日だというのに子どももおらず木々のせせらぎの音だけが聞こえてくる。
(……驚くくらいに無言ね)
気不味さなんかではなさそうだ。見て分かる。一緒にいるのが当たり前というか、2人だけの時間を堪能しているように目に映った。もしかすると2人のその感情は、恋だとかなんて既に通り過ぎてしまってるのかもしれないな。……いや、邪推か。
「そら先輩、今日はこの辺にしませんか?」
「……そうね。見つかったりしたらそれこそお邪魔だわ」
私達は踵を返し通ってきた道を戻っていく。角を曲がり2人の姿どころか公園すら見えなくなってから、ようやく私はそら先輩に話しかけた。
「私正直、あかりちゃんの感情は最終的に恋とかそういうのに当てはまるって思ってたんでけど、今の見るとなんというか、もっと強くて、しっとりしてる感じでしたね」
「そうねぇ。あれはあれで好きよぉ、私」
「私もです」
私はすかさず同意した。もっと高校生らしい青春な恋愛模様かと思ったらこんなものが見れたんだ、面白い以外の感想なんてあるわけがないだろう。
「まぁでも、私はとにかくイチャイチャが見れればいいわぁ」
「なんとなく想像ついてました」
私と同じように、2人に干渉せず見守り、今の状況も好きだと言う人なんだ。イチャイチャを見てドキドキすることが好きなんだと容易に推測できた。私はそこに面白さを感じるわけだが。
「だから初々しい高校生カップルみたいなのもいいし、熟年夫婦らしさが出ている若々しい2人っていうシチュも……ふふっ」
この先輩もどうやらかわった人のようだ。自分の世界に入り込んでいる。
あかりちゃんと関わり始めて色々な人を見ることができた。そしてどの人も変わり者で、面白い。
次は彼女は何を見せてくれるのだろうか。
「おはよう、あかりちゃん。週末は何をしていたのかしら?」
「おはよ!えっとね、ゆかりさんとデートしてた!途中マキさん達と会ったんだよねー」
「そんな……っ!見逃したわ……一生の不覚!」
「え、ちょっ、デート見てたの!?どこから!?」