「いやあ、にしてもメンツも豪華になりましたなー」
駅へ向かう道中、突然マキが言った。ゆかりは黙って頷き同意した。2月某日。あかりがボイロ荘に来て何度目かの登校道中。
「豪華……ですか」
あかりは何を言っているのかピンときていないようで、頭のうえにはてなを浮かべているようだった。
「だってそらさん美女でしょ?ゆかりんも顔は悪くないし、そこにあかりちゃんという美少女が加入したんだから、実質花魁道中だよこれは」
あかりは褒められて素直に照れる。対照的にゆかりは「顔はって何ですか、顔はって」と肘でマキをつつく。
「あら、でもマキちゃんも可愛いわよ〜?」
いつも通りの笑顔でマキを褒め返すそら。マキは少し恥ずかしがりながらも「私が可愛いのは私がよーく知ってるよー」と返事をしていた。
そんな微笑ましい光景を眺めていたあかりは、ふと気になったことを口にした。
「そういえば、みなさんはどうしてボイロ荘にいるんですか?」
聞いた瞬間、あかりは後悔した。ゆかりの顔がこれまでのどの瞬間よりも曇っていた。気軽に聞いてはいけない話だったのだ。
「……き「おっ、それ聞いちゃうー?でも一番強いエピソードトークだし、まだ取っとかせてよ」
口を開いたゆかりを遮り、 マキがおちゃらける。あかりは変に追求するわけにもいかないので、マキの言葉に「じゃあしょうがないですね」と乗っかるしかなかった。
◆
2年1組の教室。いつも通りゆかりは1人で黙々とスマホを触っていた。2年になりマキとも別のクラスになり、話せる相手もおらずこれが日課と化していた。
「シケた面した女の子をはっけーん!」
1人の少女がゆかりの机から顔だけ出してそう言った。だがゆかりは知らんぷり。
「ゆかりちゃーん?無視は良くないんじゃないかなー」
ほっぺを膨らむ姿を一瞥もせず、惰性で触っているスマホを直視し続ける。
「なんで暇潰しアイテムに美少女の私が負けるんだよおかしいだろ」
その言葉にため息をつきつつスマホを机に伏せて、そこでようやくゆかりは目を合わせた。
「自己肯定感が高いのは良いことですけど、毎日こうだと疲れるんですよ、東北さん」
「ずんちゃんって呼んでよーゆかりちゃん」
ずん子はふくれっ面でゆかりに抱きつく。ゆかりの鼻腔を枝豆の匂いが刺激する。
「相変わらず3食ずんだ餅なんですか?」
「違うよ!?私をなんだと思ってるの!」
「ああごめんなさい。さすがに失礼でしたよね」
いくらなんでもいい過ぎたか、とゆかりは心の内で反省する。
「まったくだよ!好きなんだから3食だけじゃなくておやつにも夜食にも食べるに決まってるじゃん!」
「私の反省を返してください」
傷つけたと思った私がバカだったと、ある意味反省した。
「で、なんで絡みに来たんですか?なにか私に用でもあるんですか?」
「えー?用事がなきゃだめなのー?」
「どちらかと言うとあっても駄目というのが的確ですね」
「ゆかりちゃんひどーい。ところで今朝一緒にいたのは新しい子?この前までマキちゃんとそら先輩の3人だったよね?」
「ああ、紲星あかりって言うんですよあの子。あなたと違って素直で優しくていい子ですよ」
ゆかりがずん子に当たりが強いのには理由があった。この2人が出会ったのは中学生の頃。マキの後ろの席が偶然ずん子で、たまたま友達になったのだ。そしてその後ゆかりとも交流を持つようになった。
元々友達が少なかったずん子は、(ずんだ餅狂いなのも相まって)人との距離を正しく測れず、過剰な絡み方になってしまっている。ゆかりはそれにうんざり(と言っても嫌っているわけではないが)しているのだ。
「へー、優しい子なんだねぇ。私でも友達になれるかな?」
「私に対してみたいにダル絡みさえしなければいいんじゃないですか?良かったら間に入りますよ。……マキさんが」
「あっゆかりちゃんが紹介してくれるわけではないんだね」
「私に間を取り持つ力があると思いますか?」
「んー……あるんじゃない?」
無いが、とゆかりが答える前にチャイムが鳴る。
「あ、授業始まるね。またあとでねー」
ずん子は自席に戻っていく。ゆかりはため息をつき、先生がいないことを確認してスマホを取り出した。
◆
昼休み。制服に赤の印が入った生徒が行き交う中、緑の印の生徒が2人いた。ビジュアルやら周囲からの奇異の目やらで周囲からは浮いている。
「ゆかりんから話は聞いてるよー」
1人はマキ、もう1人はずん子だった。周囲の視線には上級生に向けるもの以外にも、胸部への視線が(主に男子生徒のもの)が含まれていた。
「私自身まだ会って間もないから紹介ってわけにはいかないけど、様子を見に行くってのは口実としては良いでしょ」
「私も友達になれるかなーって思っただけだし全然いいよ!」
「さてさて……何組だっけ、あの子。おーいそこの子!」
マキはテキトーにその場にいた1年生を捕まえる。
「はい、なんでしょうか」
「ごめんね呼び止めちゃって転校生が何組にいるかとかわかるかな?」
「ああ、ちょうど私のクラスですね。今からかえるところだったんで、2人ともついてきてください」
「わー助かる!いこ、ずんちゃん!」
2人は無も知らぬ白髪の少女について行く。ずん子は沈黙に耐えきれず、口を開いた。
「ありがとうね。えっと……お名前はなんて言うの?」
「私は
りりせは淡々と答え、淡々と聞き返す。
「私は東北ずん子、こっちは弦巻マキ」
「ああ、弦巻先輩の名前は紲星から名前を聞いたことがあります。同じシェアハウスに住んでるんでしたっけ」
「そだよー。もしかしてあかりちゃんの友達?」
「隣の席です。友達と言えるくらいには仲は良いはずです」
「なるほどね。学校のあかりちゃんってどんな感じ?」
「そうですね……明るいし人当たりもいいですね。どんどん友達増えると思います」
「わぁ……すごいんだね、紲星ちゃんは」
ずん子が感嘆の声を漏らす。りりせはその言葉に少し自慢げになっていた。
「着きました。おーい、紲星ちゃーん」
「どーしたのりりせちゃ……ってマキさんと……誰!?」
あかりは驚きつつも急ぎ足で駆け寄る。
「いやあ、この美人なオネーサンたちにナンパされちゃった」
ピースしながらりりせは言った。その冗談がツボに入ったマキは思わず吹き出した。
「んふっ……そ、そうそう。私がナンパしちゃった」
「マ、マキさんナンパとかする人だったんですか!?」
「そうだよー?こっちのずんちゃんも私がナンパした子だし」
「ええっ!?」
ずん子は出会いを思い返したが、意外とナンパという表現は間違っていないなと思い、笑った。
「とまぁ冗談は置いといて。この子は東北ずん子。私の友達」
「あ、マキさんのお友達さんでしたか……!はじめまして、紲星あかりです」
「ご丁寧にどうも〜。……紲星ちゃんに1つ、ここだけの話ね」
マキの様子を伺いつつ、ずん子はあかりに囁いた。
「マキってね、ああ見えて抱き枕がないと寝れないんだよ。だからいつも猫の抱き枕を使ってるはずだよ……」
「そ、それは本当ですか……!?」
衝撃の事実に驚愕し、思わずマキの顔を見る。内容を知らないマキはどうせずん子が変なことを言ったんだろうと思い、ずん子を小突く。
「ゆかりちゃんとかマキちゃんのこと色々知ってるから気になったら私に連絡してね」
そう言ってずん子は自分のIDが書かれたメモを手渡す。あかりはマキやゆかりの友人と知り合えたことに少し嬉しさを感じつつも、今どき自分の連絡先をメモで手渡す人いるんだ……と思ったのだった。