日本だけダンジョン発生中――政府が検討している間に世界最強になっていた 作:御影 智人
海外発生から一週間。
各国の対応は、今のところ順調に機能していた。
ある欧州の都市では、駅前に出現したダンジョンの周囲が恒久柵で囲われ、その外側を通勤客が普通に歩いていた。発生初日は周辺一帯が封鎖されたが、危険区域と避難経路が整理され、数日後には近隣の店舗も営業を再開している。
ニュースの取材を受けた住民は、柵の向こうをちらりと見てから言った。
『中に何がいるかは怖いです。でも、ここから先には入れないと分かっているだけで違います』
ダンジョンそのものは、何一つ解決していない。
それでも生活は戻り始めていた。
日本の初週には、あまりなかった光景である。
* * *
現地の成果も出ていた。
発生から二日で内部マッピングを開始。
三日で代表的な魔物の種類を分類。
一週間で、複数の国が主要都市部のダンジョンを管理下へ置いた。
少なくとも入口周辺で一般市民が魔物と遭遇する事故は、日本の初期より明らかに少なかった。
「普通に優秀なんだよな」
アキラは配信で、海外の公開資料をWikiへ転記しながら言った。
『なんか悔しい?』
「何に?」
『日本負けてる』
「勝負してないだろ」
本当にそう思っていた。
安全なら、その方がいい。
日本のやり方は、計画ではない。事故と現場対応と、勝手に動く一般人の積み重ねでしかない。海外が同じ失敗を繰り返す必要はどこにもなかった。
アキラは英語の資料をそのまま読み込み、魔物の外見、魔石の性質、内部構造を整理していく。海外版でしか拾えない攻略情報を追うために身につけた英語が、ここへ来て完全に実務になっていた。
「ここまでは日本とかなり似てるな」
『じゃあWikiそのまま使える?』
「そのままはやめろ。似てるのと同じは別」
『慎重』
「普通」
五か月前から何度も繰り返してきたやり取りだった。
* * *
各国の公開資料を追うと、似た傾向が見えてきた。
一般市民が入口周辺で魔物と遭遇した事故は少なく、負傷者の多くも専門部隊や調査要員に限られている。少なくとも発生初週の安全性だけを比べるなら、日本より明らかにうまくいっていた。
日本国内でも、
『最初からこれやればよかったのでは』
という声が増えた。
アキラも否定しなかった。
「事故減ってるなら、そっちの方がいいだろ」
『日本式に愛国心とかないの?』
「何の話だよ」
ダンジョン攻略に国威発揚を持ち込まれても困る。
* * *
海外発生から一週間。
ある国は、主要都市部に出現した複数のダンジョンについて「すべて管理下に置いた」と発表した。
別の国では、発生初日から一般人の侵入を一件も許さなかったという。
映像には、封鎖線の向こうで警備する部隊と、規制線の外から撮影する市民が映っている。
日本の初週とはまるで違う。
アキラはそれを見ながら、Wikiの海外ページへ一行追記した。
『現時点では、各国の初動対応は日本初期より安全かつ効率的』
『管理人が日本を失敗例認定してて草』
「事実だから」
保存する。
この時点で、海外方式の欠点を示すデータはまだ一つもなかった。
世界は、正しく対処していた。