日本だけダンジョン発生中――政府が検討している間に世界最強になっていた 作:御影 智人
ダンジョンは、一度掃討すれば終わりではない。
それ自体は、日本の五か月分の記録から分かっていた。昨日まで空だった通路に、数日後には小型魔物がいる。どこから来るのか、どう増えているのかは分からないが、再出現する以上は定期的に処理するしかない。
海外各国は、その部分でも合理的だった。
* * *
ある国のダンジョン管理局では、すべての管理対象地点を危険度ごとに分類していた。
評価項目は周辺人口、過去の出現個体数、確認された個体種、入口の広さ、内部構造、交通への近さなど。暫定的にAからCまでの区分を置き、高危険度地点には毎日、中危険度には数日おき、低危険度には一週間前後で部隊を入れる。
もちろん、七日という数字に特別な意味があるわけではない。
日本の公開記録、自国での再出現状況、これまでの個体数、監視センサーの変化、そして使える人員を合わせて作った、現時点での暫定運用だった。異常が出れば前倒しするし、危険度が上がれば区分も変える。
担当官は翌週の巡回計画を確認していた。
「第十四地点、前回の掃討から五日です」
「危険度Cですね」
「監視映像に異常なし。外部流出もありません」
「入口付近の観測値は?」
「通常範囲です」
上司は資料を見直した。
「なら、次回は予定どおり七日目で」
「了解」
判断におかしなところはなかった。
駅前や住宅密集地の高危険度ダンジョンを毎日確認する一方、郊外の小規模入口へ同じ頻度で部隊を送る意味は薄い。人員も弾薬も車両も医療班も有限であり、優先順位を付けなければ本当に危険な場所へ人を回せなくなる。
行政は無限の資源を持っていない。
ダンジョンが出ても、そこは変わらなかった。
* * *
第十四地点は、郊外の物流倉庫から二百メートルほど離れた空き地にあった。
入口周辺は二重柵で囲われ、監視カメラが常時稼働している。一般市民は中へ入れず、周辺住民もわざわざ近づかない。
過去数回の巡回では、管理対象としている範囲に小型人型種と犬型の魔物が少数確認されただけだった。大型個体の痕跡はなく、内部構造にも急な変化はない。同じ範囲を同じ手順で確認し、処理後は個体数が低い状態へ戻っている。
危険度C。
次回討伐は七日目。
監視担当者は、画面の隅に表示された予定を見ても特に気にしなかった。
昨日も問題なし。
今日も問題なし。
柵の外ではトラックが普通に走り、地域住民も入口の存在に慣れ始めている。正確には、封鎖されていて自分に関係がないなら、見えないものとして生活できるようになっていた。
それは悪いことではない。
* * *
一方、都市部の高危険度地点には、専門部隊が毎日のように入っていた。
「またいる」
隊員が通路の奥を見て言った。昨日三体倒した場所に、今日は二体いる。
研究員が記録を確認する。
「再出現は二十四時間以内かもしれませんね」
「面倒だな」
「でも数は少ない」
小型個体を処理し、魔石と記録を回収して帰還する。十五分ほどで終わった。
毎日やれば、大きな問題にはならない。
この事実は、逆に管理側を安心させた。
魔物は再出現する。しかし、適切な頻度で処理すれば低い個体数を維持できるように見える。ならば危険度に応じて巡回間隔を変えればいい。
少なくとも、その時点では筋が通っていた。
* * *
六日目の夜。
第十四地点の監視カメラに、二秒弱のノイズが入った。
すぐに復旧し、映像上の異常は見つからない。各種センサーも、これまで設定していた暫定注意基準を超えてはいなかった。
その基準は、ブレイクの境界を示す数字ではない。そんなものはまだ誰も知らない。
これまでの観測値から大きく外れた変化を拾うために、管理側が置いた暫定線にすぎなかった。
翌朝、入口付近の魔素濃度が前日より少し高くなっていた。
上昇自体は記録されたが、過去の変動幅から大きく外れてはいない。システムは緑色のままだった。
担当者が確認する。
「次回討伐は?」
「明日です」
「なら予定どおりで」
その判断にも、おかしなところはなかった。
七日という数字に、ダンジョン側が合わせてくれる理由がないことを除けば。
管理画面には、いつも通り表示されていた。
第十四地点
危険度:C
次回討伐予定:明日 08:00