日本だけダンジョン発生中――政府が検討している間に世界最強になっていた   作:御影 智人

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第2話 ステータスオープン

 言った瞬間、視界の中央に何かが浮かんだ。

「うわっ!?」

 アキラは反射的に上体を引いた。手にしていたスマホまで一緒に揺れて、配信画面がぶれる。

 目の前には、さっきまで絶対になかった文字があった。

 

 LEVEL:2

 

 以上。

 

「……え、なんか出てきた。待って。ほんとに出た」

 

『何が?』

『え、これガチ?』

『釣り乙w』

『何も見えん』

 

 アキラは二度、三度と瞬きをした。消えない。

 手で目元をこすってからもう一度見る。

 やっぱりある。

 

「LEVEL……2……だけ」

 数秒、沈黙する。

「……少なすぎない?」

 

『そこ!?』

『仮にガチでステータス出てきてたとして項目の少なさに嘆くの検証班すぎるww』

『まず本当に出てることに驚け』

 

「いや驚いてるよ! 驚いてるけど、ステータスって言ったら普通、HPとか筋力とか敏捷とかスキルとかあるだろ。レベルだけって情報量が少なすぎる」

 

『要求が多い』

『まだ釣りだと思ってる』

『俺も』

『ステータス?こっちに見えてないよ』

 

 アキラ自身も、半分は自分の目を疑っていた。

 

「これ……カメラに映るのかな」

 

 スマホを持ち上げ、文字が浮かんでいるあたりへレンズを向ける。

 

「今ここ。ここにLEVEL:2って出てる。見える?」

 

『何もない』

『虚空を撮るな』

『マジで地面しか見えん』

『本人にしか見えないパターン?』

 

「俺からは普通に見えてるんだけど……」

 

 スマホを少し左右へ動かしてみる。当然、コメントの反応は変わらない。

 目を閉じると消える。開くとまた同じ位置に現れる。首を振っても、文字は視界の正面についてくる。

「……カメラには映らない。視覚情報っていうより、認識に直接出てる感じ?」

 

『急に検証始めるな』

『いや今のは気になる』

『まだ釣りの可能性あるからな』

『でも腕の傷はガチっぽい』

 

 疑うコメントが残っていることに、アキラはむしろ少し安心した。

 自分でも、配信越しに同じものを見せられたらまず疑う。

 アキラは配信を続けたまま、言葉を変えて試した。

 

「ステータス」

 出る。

「能力表示」

 出ない。

「レベル見せて」

 一拍遅れて出た。

「……『ステータスオープン』という呪文が必要なわけではなさそう」

 

『そこ検証する必要ある?』

 

 ある。

 少なくともアキラには。

 もっとも、庭先で未知の人型生物を一体倒した直後にやることかと言われると、かなり怪しい。

 

 ここで配信はいったん終了した。

 警察へ追加で連絡し、「中に生物がいたこと」「襲われたこと」「倒したこと」を伝えると、電話口の向こうが一瞬無言になった。

 

「……その場から離れて、絶対にもう入らないでください」

「はい」

 今度は素直に従った。

 

 一度入るのと、危険が確定した場所へ二度目に入るのは別問題である。検証欲にも一応、損益分岐点はある。

 裂けた袖を脱ぐと、腕には浅い切り傷があった。消毒して絆創膏を貼る。

 

 その間にもSNSは爆発していた。

『穴の中から変な生物出た』

『北海道、犬くらいのデカさのネズミいた』

『弟が穴入って帰ってきたらめちゃくちゃ足速くなってる』

『ステータスオープンって言ったらレベル出たんだけど』

 

 最後の投稿を見て、アキラの指が止まる。

 投稿時刻は十二時五十八分。

 自分の配信より前だった。

 つまり、少なくとも「コメント欄のネタを見た誰かが真似した」という話ではない。検索語を変える。

「LEVEL 穴」

「ステータス 階段」

「レベル2 地下」

 報告が増えていた。

 レベル1のままという人もいる。2、3になった人。中には「何もしてないのに2になった」と書く者もいたが、詳しく聞くと魔物に石を投げたらしい。

 アキラは新しいシートを作った。

 討伐数。

 戦闘方法。

 同行人数。

 討伐時の位置。

 負傷。

 レベル変化。

「母数が欲しいな……」

 SNSで呼びかけても情報が流れていく。掲示板では後から追いにくい。既存のゲーム攻略Wikiを借りるわけにもいかない。

 なら、自分で作る。

 午後三時十九分。

 無料Wikiサービス上に、ひどく仮の名前のページが立った。

『現実ダンジョン攻略Wiki(仮)』

 トップには注意書きを置いた。

『※政府・自治体・警察等の公式情報ではありません。危険区域への侵入を推奨するものではありません。未確認情報を多数含みます』

 その下に、

『現在分かっているっぽいこと』

 ・全国に似た地下空間が出現

 ・内部に未知の生物がいる

 ・倒すと身体能力が上がる場合あり

 ・「ステータス」等を意識するとLEVEL表示が見える場合あり

 ・詳細全部不明。要検証

 一時間後には、知らない誰かが北海道の報告ページを作っていた。

 さらに十分後、大阪。

 その五分後、鹿児島。

 Wikiとは恐ろしいものである。暇な人間が一人で作り始めたものに、暇ではないはずの人間まで集まってくる。

 アキラは投稿された座標を地図へ落とし込みながら、ふと違和感を覚えた。

 日本列島が、ピンで埋まっている。

 だが、その外が空白だった。

 国内のSNSだけを見ているからではないか。

 そう考え、英語に切り替えて検索した。

 

 mysterious stairs。

 underground entrance appeared。

 strange hole city。

 

 韓国語、中国語でも検索する。海外ニュースも見る。

 見つからない。

 日本の穴を紹介する海外投稿は山ほど出てくるのに、自国で同じものが出たという一次報告が一件もない。

 アキラは条件を変え、画像検索まで回した。

 午後六時。

 暫定結論をWikiへ追記する。

 

『出現地域:現時点で日本国内のみの可能性が高い』

 保存ボタンを押した直後、テレビからニュースキャスターの声がした。

『政府は本日夕方の会見で、同様の地下空間について、現時点では海外での発生を確認していないと発表しました』

 アキラはテレビと自分のWikiを見比べた。

「……マジで日本だけ?」

 地図の上で、日本列島だけが真っ赤だった。

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