日本だけダンジョン発生中――政府が検討している間に世界最強になっていた   作:御影 智人

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第5話 魔石、一個三万円

 翌朝。

 昨日ゴブリンに切られた腕にはまだ絆創膏が貼られていたが、御厨アキラは朝から配信をつけてWikiの整理をしていた。

 

『怪我してるくせにWiki整理はやめられないw』

『FPSやめられないんだけどの系譜』

 

「ゲームしてるわけじゃないから」

 

 机の上には、自分が倒したゴブリンの死体から拾った石が置いてある。親指の先ほどの大きさで、色は半透明の灰色。

 死体そのものは警察が回収していったが、その場に落ちていた石については「危険物かどうか分からないので触らないでください」と言われた。

 すでに触ったあとだった。

 その件は黙っておいた。

 

 Wikiでは、同じ石の報告が全国から上がっていた。

『魔石』

 誰が最初にそう呼んだのかは分からない。ただ、他に適切な名前もなかったので、そのまま定着している。

 午前十時。アキラがWikiの掲示板を眺めていると、新しい書き込みが目に入った。

 

『魔石、小さいやつ一個3万で買うって業者いた』

 

「三万?」

 

 ページを開く。

 投稿者は群馬。ダンジョン前で名刺を配っていた民間業者が、サイズごとに買い取り価格を提示しているらしい。その下にも別地域の報告が続いていた。

 

『うちは二万五千』

『大阪四万って聞いた』

『何に使うんだよ』

『発電できるって噂』

『ソースは?』

『ない』

 

 最後だけは信頼できる。

 アキラが検索すると、大学の研究室、素材メーカー、エネルギー企業など、すでに複数の組織が「未知のエネルギー反応を確認した」と発表していた。詳細は非公開だが、用途は分からなくても価値はあるらしい。

 人類は未知の物質に値札を付けるのが早い。

 午後には、ダンジョン入口の近くに即席の買い取り所まで現れた。ヘルメットや軍手、懐中電灯の隣に、「魔石買取 一個30,000円~」という看板が並んでいる。

 見た目だけならかなり終末世界なのだが、やっていることはフリーマーケットに近かった。

 アキラは机の上の魔石を見た。

 売れば三万円。大学生には大きい。だが……

 

「サンプルは1つしかない……売れないな」

 

『検証班の悪い癖』

 配信コメントに書かれた。

 

 視聴者は四十三人。昨日の十一人から大きく増えている。別に世の中に検証好きの変人が急増したわけではない。それだけ今、誰もがダンジョンの情報を欲しがっているということだった。

 アキラは別の投稿を開いた。

 

『同じ数倒したのにレベル上がる人と上がらん人いる』

 

 これも増えている報告だった。

 五体倒してレベル3、十体倒してレベル2、一体でレベル2。数字が合わない。

 

「経験値が討伐数固定じゃない」

『敵によって違うんじゃね』

「それはある。でも同じゴブリンでも差がある」

 

 アキラは報告フォームに、使った武器、トドメを刺した人、戦闘への参加方法、負傷の有無、戦闘前後のレベルを追加した。

 一時間ほどすると、少し面白い偏りが見えてくる。トドメを刺していない人にもレベル上昇例がある一方で、同じ場所にいても見ていただけの人にはほとんど変化がない。敵を押さえた人、盾代わりの板で攻撃を受けた人、石を投げて牽制した人には上昇例があった。

 

「……トドメ判定じゃない?」

『参加賞ある?』

「参加しただけでもない。何かやってる必要はありそう」

 

 コメント欄がざわつく。

 

『ゲームすぎる』

『ヒーラーも経験値入るやつ?』

 その言葉を見た直後、新しい報告が一件入った。

『友達が怪我したとこ触って「治れ」って言ったら光った。ちょっと傷ふさがった』

 

 アキラは添付動画を開いた。薄暗いダンジョン入口で、手のひらの周囲にごく弱い白い光が浮かんでいる。

 画質が悪く、加工の可能性も捨てきれない。

 

「元動画欲しい」

 投稿者へ連絡を送る。

『魔法?』

『ついに来た』

「まだ。まず加工じゃないか確認」

『夢がない』

 

 夢より再現性である。

 だが、もし本物なら話が変わる。レベルアップだけでなく、魔法まで存在することになる。しかも発動条件はまだ何一つ分からない。

 気づけば、アキラは少し笑っていた。本人にはその自覚がなかったらしく、コメント欄の方が先に反応した。

 

『楽しそう』

『こいつ完全に喜んでる』

「いや、危険なのは分かってる」

『顔』

 

 アキラはカメラを切った。

 

 その夜、Wikiに『経験値条件検証』という新しい募集ページを作った。参加条件は「無理をしないこと」と「もともとダンジョンへ入る予定があること」。新たに危険を冒してもらうのではなく、既存の探索について誰が何をしたか、トドメは誰か、戦闘前後でレベルが変わったかを記録してもらう。

 ほどなく全国から回答が集まり始めた。

 アキラは表を眺めながら、仮説欄へ一行書く。

 

『経験値は「倒したか」ではなく、戦闘への関与が影響?』

 

 末尾には、もちろんこれも付けた。

『※要検証』

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