日本だけダンジョン発生中――政府が検討している間に世界最強になっていた   作:御影 智人

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第6話 経験値の検証

 検証開始から二日。

 回答数は、二百八十七件になっていた。

 

「……二百八十七?」

 

 アキラは朝から表計算ソフトを開いたまま、数字を二度見した。昨夜作ったばかりの検証フォームにしては、想定より明らかに多い。

 

『集まりすぎだろ』

『全国の検証班が集結してる』

『卒論よりデータ集まってそう』

 

「いや、ありがたいけど。ありがたいけど入力形式守ってくれ。『たぶん二回くらい殴った』はデータとして困る」

 

『めんどくさい研究者』

『大学生だろ』

『卒論やれ』

 

「卒論やってる場合じゃないだろ」

『卒論も今やるものだよ』

 

 コメント欄は正しいことを言う。アキラは無視した。

 

 Wikiの検証フォームには、かなり使える回答が集まっていた。三人でゴブリンを倒したケースでは、一人目がスコップで攻撃し、二人目が後ろから押さえ、三人目はすぐ近くにいたものの戦闘には加わらなかった。結果は、戦闘に参加した二人だけがレベル上昇。三人目には変化がない。

 別のケースでは、トドメを刺したのは一人だけだったが、板を盾にして攻撃を受けていた人と、横から石を投げて注意を逸らしていた人にも上昇があった。

 

「トドメじゃないな」

『参加判定?』

「たぶん。ただ、同じ場所にいるだけじゃダメっぽい」

 

 攻撃回数やダメージ量だけでは説明できない。何をもって「戦闘に参加した」と判定されるのか、その境界の方が問題だった。

 

「条件が多い」

『嬉しそう』

「嬉しくはない」

『顔見せろ』

『今日は顔カメラ切ってる』

『昨日から学習してて草』

 

 昨日の反省を活かし、今日は画面共有だけにしていた。

 学習の方向性が正しいかはともかく、学習はしている。

 

 * * *

 

 昼過ぎ。

 Wikiに、新しい検証結果が上がった。

 同じ三人組が、同じダンジョンで何度か役割を入れ替えて試した記録だった。誰か一人が攻撃役、もう一人が盾役、残る一人は戦闘には手を出さず、入口脇で記録だけを取る。次の戦闘では役割を交代する。

 

「……うわ、役割以外ほぼ条件揃えてる」

 アキラが椅子から少し身を乗り出した。

 

「しかも同じ三人で回してる。めちゃくちゃ有能!」

 

『急にテンション上がるやんw』

『さすが検証厨、データで喜ぶ』

 

 結果はきれいだった。

 攻撃役には上昇あり。盾役にも上昇あり。記録だけしていた人にはなし。

 役割を入れ替えても、同じ傾向が出ている。

 

「ダメージ量じゃないな」

『タンク経験値あるやん』

「たぶん。敵の注意引いてるとか、戦闘成立に寄与してるなら入る」

『回復も?』

「昨日の光る手が本物なら、試したい」

 

 例の治癒らしき動画は、元データを受け取っていた。少なくとも単純な合成ではなさそうだったが、再現実験はまだ成功していない。投稿者本人も「もう一回やれと言われても出ない」と言っている。

 魔法は、今のところ経験値以上に面倒だった。

 アキラは検証ページを更新する。

『暫定仮説』

 ・戦闘への有意な寄与が必要

 ・トドメを刺す必要はない

 ・攻撃ダメージは必須ではない可能性

 ・「寄与」の判定範囲はまだ不明

 最後に、タイトルも変えた。

『経験値入る条件たぶんこれ ※要検証』

 

『たぶんこれなのに要検証なの?』

 コメントが付いた。

「断定して外した方が面倒だから」

『慎重』

「そう、俺って慎重な質なのよ」

『庭の穴に入った人が言うな』

 それは反論できなかった。

 

 * * *

 

 夕方、Wikiのアクセス数が急に跳ねた。原因はニュースだった。

『政府、ダンジョンへの一般人立ち入りについて規制を検討』

 画面の中では有識者会議の設置が発表され、危険性や救助負担、未知の感染症、私有地への対応、武器の持ち込みなどが論点として挙げられていた。どれも真っ当な話である。

 

「そりゃ規制はするよな」

『お前が言うの?』

「俺が言うから説得力あるだろ。一回入って襲われてるんだから」

『警察に待てって言われて入った人が?』

「…………」

 

 反論できない。

 コメント欄も珍しく、規制そのものには同意が多かった。

 

『まあ死人出てるし』

『無制限は無理』

『せめて登録制』

『禁止されたら困る』

 

 最後の一件に、アキラは視線を止めた。

 困る。

 そういう人間がもう出ている。

 魔石を売っている人。

 ダンジョン周辺で装備品を売る店。

 レベルが上がることを目的に通う人。

 たった一週間も経っていないのに、生活が接続し始めている。

 政府が「禁止」と言えば終わるほど、単純な段階ではなくなりつつあった。

 ニュースのテロップが変わる。

 

『全面禁止も選択肢 具体策は今後検討』

 

 アキラがWikiのアクセス解析を見ると、数字はまた増えていた。

 

「……禁止前に、行っとくか」

『は?』

『手のひらクルックルで草』

『さっき規制に賛成してた人?』

「いや、でも、ここまで来たらデータはほしいじゃん?」

『検証厨の言い訳』

『お前絶対入る側だと思った』

 

 無制限に入れる状態が危ないと思うのと、自分の検証が途中なのは──たぶん、別の話である。

 少なくともアキラの中では。

 誰もまだ禁止していない。

 それでもその夜、全国のいくつかのダンジョンでは入場待ちの列が伸び始めた。

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