冥宮会長は後ろから刺されそうな独裁者ムーブばかりしている   作:PON太郎

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※冥宮ちゃんは諸事情でエセ関西弁なだけで別に標準語も喋れる


冥宮遥は生徒会長

昼休み終了を告げる予鈴が鳴る少し前。

生徒会副会長の篠崎刃は、生徒会室へ戻る途中だった。

隣を歩くのは、生徒会長の冥宮遙。

季節は春。

まだ肌寒さは残っているが、窓から差し込む日差しには確かな暖かさがあった。

 

「桜も、もう完全に散りつつあるな」

 

窓の外を眺めながら、刃はそう呟いた。

 

「今年はよう持った方やね。随分遅咲きやったみたいやし」

 

遙はいつも通り、目を閉じたまま微笑み、艶のある白い長髪を耳へ掛けた。

日差しを避けるように、廊下の少し内側を歩く。

刃にとっては、もう見慣れた仕草だった。

二人が歩くたび、廊下を行き交う生徒たちがわずかに道を空ける。

露骨に避ける者はいない。

けれど、視線だけは集まる。

冥宮遙と篠崎刃。

現在の生徒会長と副生徒会長。

本来なら二年生が中心になるはずの生徒会選挙に、一年生の秋から立候補し、そのまま勝ち切った異例の二人だ。

学校内では半ば冗談、半ば本気で、

『冥宮政権』

などと呼ばれている。

刃としては不本意極まりない。

選挙で勝っただけだ。

それを何度説明しても、なぜか誰も信じてくれなかった。

 

「午後の新年度予算の調整会議、何事もないといいがな」

 

刃がため息混じりに言う。

生徒会長に就任して以来、遙が予算審議を穏便に終わらせたことは、ほとんどない。

研究委員会が新型測定機器の導入を求めれば、

 

『去年買うた機材、まだ使いこなせてもおらんでしょう。新しい玩具が欲しいだけなら、ご自分のお金で買うてください』

 

と資料を突き返し、

設備委員会が修繕費の増額を求めれば、

 

『必要なんは分かるけど、必要いうだけで全部通してたら予算なんていくらあっても足りません。もうちょっと頭使って持ってきてください』

 

と容赦なく削る。

相手が上級生だろうと、委員長だろうと関係ない。

遙にとって重要なのは、その要求に価値があるかどうかだけだった。

反論すること自体は構わない。

むしろ、自分より筋の通った案を出せるなら歓迎する。

ただし。

ろくな代案もなく、立場や感情だけで自分の判断を覆そうとする者には、驚くほど容赦がなかった。

 

『うちを納得させられへん程度の話で、学校のお金使おう思わんといてください』

 

以前、そう言われた委員長が絶句していたのを、刃は今でも覚えている。

問題は風紀委員会だった。

能力事故の鎮圧や地域巡回まで担う彼らは、常に人員も装備も不足している。

そして同時に、学内でも屈指の実力者が集まる武力組織でもあった。

遙は、その存在を必要だと認めている。

だからこそ、その強い権限が生徒会の管理から外れすぎていることを嫌っていた。

 

『力ある人らに好き勝手されるんが、一番面倒なんです』

 

それが遙の言い分だった。

風紀委員側からすれば、たまったものではない。

能力暴走の現場では、一秒の判断が生死を分ける。

そのたびに生徒会の許可を待つわけにはいかない。

現場を知らない人間に口を出されたくない。

両者の主張は、どちらにも理がある。

ただし遙本人に、その認識がどこまであるかは怪しかった。

前回の予算審議では、装備更新を巡って風紀委員長と真正面から衝突した。

 

『現場を知らない会長様に、必要かどうかを決められる筋合いはねえ!』

 

風紀委員長がそう言った直後。

遙は笑顔のまま首を傾げた。

 

『ほんなら、必要やいうことを説明してくれはったらええだけでしょう?』

 

『説明はしてるだろうが!』

 

『うちが納得してへんのやから、足りてへんいうことです』

 

会議室の空気が凍った。

 

『それとも何です? 風紀委員さんは、強いから説明せんでもお金も権限も好きに使わせてもらえる思てはるちゅう事?』

 

『て、てめえ……』

刃が割って入らなければ、その日の会議は予算審議ではなく決闘になっていたかもしれない。

今日もおそらく、似たようなことになる。

にもかかわらず、当の本人はどこまでも涼しげだった。

 

「今回は三十分で終わらせよか」

 

「無理に決まってるだろ。今回は研究委員の追加予算に、設備委員の修繕費、それに風紀委員も装備更新を出してる」

 

遙は少しも困った様子を見せず、いつものように目を細めたまま笑った。

 

「いざとなれば、いつも通り正面から叩きのめして黙らせればええんよ」

 

「そういう発想が怖いんだよ」

 

「話し合いも、立派な正面衝突やろ?」

 

「今の言い方でその弁明は無理がある」

 

遙のその笑顔だけを見れば、育ちのいい令嬢そのものだった。

実際、性格も完全に悪くはない。

むしろ善良な部類だと刃は思っていた。

遙は、人を傷つけたいわけでも誰かを困らせたいわけでもない。

むしろ逆だ。

もっとも効率が良い様に自分が一番いい形を決めてしまえば、それで済む。

誰も迷わなくていい、迷うことは無駄で、それを取り除くことは善だ。

そういった一種の傲慢さの様な考えを遙は兼ね備えている。

そして少しずつ周囲を整えていき、そして気づいた頃には、

遙が本音を言える相手がいなくなっている。

それが、刃は嫌だった。

昔の遙は、もっと人の顔色を窺う子で、

自分から何かを決めるなんてできなくて、

嫌なことがあっても、ただ困ったように笑っていた。

そんな遙に、

耐えかねず刃は昔、言った言葉がある。

その言葉が間違っていたとは思わない。

けれど、

もしその結果、

遙が誰より高い場所まで登って、

誰も隣にいなくなってしまうなら。

それは間違っていると思う。

だから刃は、彼女の隣にいる。

止める為というより、一人にしないために。

その時だった。

廊下の先で、鈍い破裂音が響いた。

直後、床が大きく揺れる。

刃が足を止める。

 

「……能力事故か?」

 

曲がり角の向こうから、生徒たちが避難してくる。

能力事故そのものは、この学校では珍しくない。

ここは一般校ではない。

能力を持つ生徒を集め、制御・運用・社会適応まで含めて教育する特別自治校。

力を持つ者自身が、力をどう扱うかを学ぶ場所。

教師が何から何まで解決してくれる学校ではない。

軽度から中度の能力トラブルは、まず生徒自治組織が処理する。

そのための風紀委員であり、

その風紀委員を監督する生徒会でもある。

遙と刃が先へ進むと、すでに風紀委員が現場を封鎖していた。

 

「下がってください! この先は危険です!」

 

腕章を付けた生徒たちが、廊下の左右に人垣を作っている。

その奥。

一人の生徒を囲むように、数人の風紀委員が展開していた。

生徒の周囲からは、黒い棘のようなものが何本も伸びている。

壁。

天井。

床。

触れた場所を、次々と砕いていく。

 

「一年生か」

 

刃が呟く。

遙は状況を眺めた。

 

「風紀委員さん、もう動いてはりますな」

 

「なら任せるか」

 

それが本来の筋だった。

能力暴走の鎮圧は風紀委員の仕事。

生徒会が現場に直接口を出しすぎれば、また面倒な摩擦が増える。

ただでさえ風紀委員側からは、

 

『生徒会は現場を知らないくせに口を出しすぎる』

 

という不満が出ている。

その筆頭が誰なのか、刃はよく知っていた。

横を見る。

遙は、相変わらず穏やかに笑っている。

嫌な予感しかしない。

そう思った直後だった。

一人の風紀委員が能力で棘を押さえ込もうとする。

しかし次の瞬間。

黒い棘が、その能力ごと弾き飛ばした。

 

「っ!」

 

別の委員が庇い、二人まとめて床を転がる。

刃の眉が動いた。

 

「……相性が悪いな」

 

「みたいやねぇ」

 

風紀委員たちは退いてはいない。

すぐに体勢を立て直し、別方向から制圧を試みる。

ただ、時間がかかっている。

その間にも、黒い棘は数を増していった。

 

「上級の風紀委員が来るまで持たせるつもりか」

 

「それでは少し、遅いかもしれへんなあ」

 

遙が一歩前へ出る。

刃は横目でその姿を追った。

 

「手を出すのか?」

 

「見てるだけいうんも、薄情やろ?」

 

「風紀委員の仕事だぞ」

 

「せやから、邪魔はしません」

 

遙は穏やかに笑う。

 

「少しだけ、やりやすうします」

 

「その“少しだけ”で毎回揉めるんだよ」

 

その声に、近くの風紀委員が気づいた。

 

「会長?」

 

「そのまま続けてくださいな」

 

遙は暴走している生徒へ視線を向ける。

そして、普段は閉じられているその目を、ゆっくりと開いた。

遙が能力を使う時だけ見せる姿だった。

 

「この廊下にいる者は、今から能力を用いて他者を傷つけてはならない」

 

空気が張り詰めた。

刃の息が無意識に止まる。

冥宮遙の言葉が、ただの言葉ではなくなる。

彼女の能力は、規則を定める。

一定の範囲内にルールを作り、違反した者へ罰則を課す。

その代わり、作ったルールは、必ず遙自身にも適用される。

彼女らしい、圧倒的で、圧制的な能力だと刃は改めて思う。

 

「破った場合、三分間の能力停止を罰則とします」

 

宣言の直後。

 

黒い棘の一本が、風紀委員へ向けて再び伸びる。

 

だが、その寸前。

 

棘が崩れ落ちた。

 

遙の定めた規則に反し、他者を傷つけようとした。

その瞬間、罰則が適用されたのだ。

そして、その様子を見た風紀委員の一人が、すぐに叫ぶ。

 

「今だ!」

 

数人が一斉に動き、暴走した生徒を取り囲み、拘束具を取り付ける。

今度は抵抗もない。

数秒後、黒い棘は完全に消えていた。

遙は何事もなかったように袖を整える。

 

「これでよろしいでしょう」

 

刃はその横顔を見る。

 

「結局、手を出してるじゃねえか」

 

「補助しただけですえ?」

 

「また風紀委員と揉める要因になりそうだな……」

 

遙がにこりと笑う。

 

「またその話です?」

 

「お前が毎回やるからだろ」

 

その向こうでは、風紀委員たちが負傷者を確認していた。

誰も彼も、慣れた動きだ。

風紀委員は強いし、権限もある。

暴走した能力者を止めるためなら、一定範囲で拘束や能力行使まで認められている。

だからこそ、遙はあの組織を放っておきたがらない。

強い力を持つ組織が、自分たちの判断だけで動ける状態を彼女は好まない。

そして風紀委員もまた、生徒会に細かく口を出されることを嫌っている。

生徒会長は管理したがる。

風紀委員は干渉されたがらない。

どちらの言い分も、分からなくはない。

だから余計に面倒だった。

 

「刃くん」

 

「なんだ」

 

「午後の予算審議、二十分でいけそうな気がしてきたわあ」

 

「今のでなぜそう思った」

 




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