もうひとつ、書いてる途中の小説も、まだ書いてます。
ですがどうしても、昔、途中まで書きかけていたなのはさんの小説を出してみたくて。
次のシーズンから、とあるのアニメもありますからね。
やる気よ、湧いてくれええええ。
この小説は、自分なりの「ざまぁ系」になるんでしょうか、ね。
風光明媚な森林と蒼海が惑星表面を多う、第12管理世界フェディキア。
温暖な気候で住みやすく人気があり、古くから栄えている。
それ故に歴史を通して多くの難民がこの世界に逃れ落ち、だんだんとベルカにもゆかりの深い土地となっていった。
今ではここにもベルカ自治領がある。
それどころか聖王教会中央教室や教会騎士団の"管区(コメンデ)"もあり、修道騎士団の本部もある。
つまりミッドチルダを除けば、次元世界で最大規模のベルカ人コミュニティが存在するということである。
このフェディキアの首都であるハイデン市は、ある次元港を中心として臨海地域に大きく広がっている。
何を隠そう、その次元港とは、管理世界有数の歴史と規模を誇る"Stワレリー空港"である。
有名ではあると思う……不名誉ながら、今ではたびたび災禍に見舞われてきたことでも名が知れ渡っていよう。
そんな空港の広場のど真ん中に、まるで巨大な機械製品からごっそり抜き取ってきたのか、と笑われそうなほどに巨大な"ファン"が、モニュメントとして飾られている。
ところどころ焼け焦げ、いくつかの羽根は欠けて壊れているが、誰かがかわるがわる手入れをして、今日も風を受けてゆったりと回っている。
このインペラ(羽根車)は、"風車の騎士(ラウフラートリッター)"と称される私の兄のシンボルだ。
私は"ヴェスタ・スコダ"。古来より続く聖王教会教会騎士団の名門、スコダ家の跡取り娘……となれるかはまだ怪しい。そんな私の、自慢の兄のハナシをしたい。
これもまた、これから有名なハナシになる予定なのだから。
唐突だが、物語の導入にはインパクトが必要だと思う。
なので私が思い出せる限り、おそらくは最もコメディチックで、穏やかで、懐かしくもドタバタとしていた"あの日々"から描いていこうと思う。
私の兄こと"アンサルド・スコダ"が唐突に、"ヴォルケンリッター"の"烈火の将"こと"騎士シグナム"に、求婚を開始した。
あの混迷の日々から、はじめよう。
その日も教会騎士団の第3練兵場には大勢の見物人が集まっていた。その理由は明らかだ。
遠巻きに見えるは、対面する赤髪の女騎士と黒髪の少年騎士。
だが観客の興味は、2名の研ぎ澄まされた剣技の応酬にあるというよりは、試合の勝敗によってもたらされる、両者の恋の決着にこそあるのであろう。
「スパークス、セットアップ」
『SET UP. BARRIER JACKET, TYPE LIGHT ARMOR.』
少年剣士は騎士服と騎士甲冑を纏った。
とはいっても、プレートは最低限、動きをジャマしない程度に軽装である。
「いいんですか?」
一方で女騎士は、もとから装着していた騎士服のままである。
「ああ、始めるぞ」
この人は頑固だ、指示を聞くしかない。
それを嫌というほど知っている少年騎士ことアンサルド・スコダ、愛称アンスは、愛剣のアームドデバイスを構えた。
「ミッテルメッサー、"スロットルコントロール"」
『"Throttle Control.(慣性制御)"』
フェディキア教会騎士団の訓練では、試合の開始とともに互いに大声を張り上げ、裂帛の気合を示し合う"習い"があった。
だが、最近のこの二人の"それ"には、大きな異変が生じている。
「すぅ~っ……。シグナムさんッ!」
これから試合が始まるというのに、シグナムの目には『またか、やめろ、頼むからやめてくれ』という、らしくない弱りが見えた。
だが、現実は無情である。
「僕と結婚してくださぁぁぁいッ!」
アンスがぶちまけた叫びは、周囲の笑いと、試合に対する緊張感を大きくそこなわせるものだった。
「とっとと! かかって、来ぉぉぉいッ!」
なげやりなシグナムの叫びをかいくぐるように。
全力を注いで、とにかく速く。アンスは飛び込んだ。
「らぁっ!」
そう勇んで踏み込んだ一撃。シグナムさんの剣を持つ篭手を狙ってのヒットアンドアウェイ。
「っ!」
をするつもりが離脱は叶わず、相手から詰められる。
その思い切りの良さに、飛び込み後の流れをまた読まれていたか、と急ぎ注意を改める。
「はぁッ!」
シグナムさんに即座に小手を返されるも受けきり、つばぜり合いになる。
視界の奥で、いい匂いのする赤髪のポニーテールが遅れて跳ねた。
まだまだシグナムさんが相手ではこの間合いでの攻防は不利である。
相手はそれをわかっているからこそ、寄ってくるんだろうけれど。
「"風"を使え、アンス。でなければ」「"勝てると思うなよ"、ですか? だから甲冑がないんですね」
甲冑があると動きが鈍くなるから。
そのことを暗にからかうように言いかえすと、不敵に鼻で笑い返された。
笑えなくしてやるっ。
「ではお覚悟を。今日はそのつもりで来ました」
と言い終えるかどうかだった。
カキョッ、とレヴァンティンがいきなりカートリッジをロード。
なにせ、つばぜり合い中である。レヴァンティンの排莢部は、目のド真ん前ある。
蒸気のいきおいが顔にかかってきて、ギョッとした。
『"Schlange Form.(連結刃)"』
レヴァンティンの刃が炸裂した。
『"Air Sprint."』
咄嗟に足から出した魔力は、俺の場合は"風"になってしまう。
だが、制御魔法はとっくに走らせてある。
垂直に飛び上がる。
一筋の刃が頬を掠めて、目に映る範囲を飛び越えていった。蛇のようにしなってぐんぐん伸びていく。
足の裏は空気にくっついてくれる。そのまま、存在しない壁を蹴り上がっったかのように、空気を蹴って、体勢を変えてしまう。
(手加減なしスかッ!)
いや今のは話すタイミングだったでしょ? 会話のターンだったでしょ!? まじでエゲつない。馬鹿なの? あんたの方から攻撃するんかいっ。どんだけ負けたくないの? てか、先週もそれしたでしょ。俺、やり返せるかもよっ。
刹那の間に、恐らく俺はそんなことを脳の背景で愚痴っていた。
これはあとになって思い返すと。
つまりはシグナムさんの不意打ちに対して、思いのほかリラックスできていたってことなんだろう。
脚に巡らせていた"風"の魔力は、そのまま放出を強めてカラダ全体に覆わせていく。
全身で"風"を感じる。
なんてカッコつけて言ってしまったが、これは言い過ぎである。
そんなアニメみたいなことはできない。
背後でびゅうびゅうと唸る空気の音が、そのまま連結刃の伸びていく軌道を教えてくれているようだった。
自分の感覚を信じて、この"なんとなく"をやり通すだけだ。
だってこれ訓練だし。そう自分に言い聞かせる。
幸いにも、刃の数珠つなぎは、まだカラダに当たってこない。
こっちも攻撃をしかけてやる。
並列で複数の魔法を同時に発動させるのは得意な方だ。
『"Gale Step."』
このために、うんと砂を噛ませていたプレートシューズの裏から、蹴ると見せかけて別の方向へ意識を誘い、首を振って避けたシグナムさんの顔面へ、本命の"砂風の踏みつけ"を叩き込んだ。
指向性を伴った風圧の直撃。
防御用の魔力フィールド越しでも、目潰しとしてなら通用する威力のはずだ。
俺の身体は完全に宙を逆さに浮いている。世界の全てが上下逆に映っている。
だが、昔から空を飛ぶのも得意だった。この"0G"の世界には慣れ親しんでいる。
今なら空気の中でも踏ん張りが効く。
相棒の片刃剣"ミッテルメッサー"にも、ついに"魔力(風)"が浸透しきった。
足先から身体へ巡らせた魔力を、そのまま腕先まで流したのだから、スムーズに行える。
届け。これはほかならぬシグナムさんから盗んだワザだ。
「"穿空牙"ッ!」
あと少しでも時間的な猶予があったなら、シグナムさんは俺のどこかに"連結刃"を当てることなど造作もなかっただろう。
だが、伸ばした刃を引き戻すのには時間がかかる。
その隙に決められる。
いつものようにあなたの一撃から間合いを取ると思ったんだろう?
だからこその"連結刃(中遠距離攻撃)"だった。
でも残念、今回は刃の嵐のなかに踏みとどまってみたよ。
シグナムさんの背中から逆胴(左胴)を狙う予定だったが、彼女は振り向いてみせた。
赤紫の魔力光が目に入る。勝負勘のすさまじさか、とっさにシールドを張りやがった。
だが、目潰しは効いていた。シールドの位置が甘く、まだ狙えるところが残っている。
剣先にインパクトを合わせる。
甲冑をつけていない彼女の胴(右胴)から、にぶい音が鳴った。
俺にはその瞬間も、世界は逆さに見えていた。
『"Spaltgang.(空洞走破)"』
残心を忘れない。"ショートジャンプ(短距離ワープ)"でしっかりと距離を取る。
こらえきれずにしゃがみ込んでいたシグナムさんがつぶやいた。
「見事……な曲芸だ」
「正直に負けを認めてくださいよ」
立ち上がってレヴァンティンを持ち上げようとしたが、筋肉の連動で打たれた箇所に痛みが走ったのか、ピタリと動きを止めてしまった。
「1本ですよね! 1本ですよねっ?!」
彼女は左腕を右脇へ伸ばし、何かを確かめるように沿わせていった。
「あぁ。折れたのは2本だがな。はしゃぐな」
「っしゃー……あと1本。あと1本……」
興奮している。こんなに綺麗に決めたのは久しぶりだった。
俺は強くなっている!
(折れてる。あれ折れてるっ。これならイケる。イケるッ! イケるぞ、俺、イケちゃう!)
あと1本でいい。あと1本シグナムさんから取れれば、俺が勝ち越す。
そうなればついにシグナムさんと婚姻を結ぶ、ということであり。
そのうち初夜がやってくる、ということであり……。
ということは……つ、つ、つ、つまり、か、戒律違反的な行為がそこで行われるってのに……。
そのときにはもう戒律違反じゃないってこと……?
やめろ! その先を考えるな! "今"に集中するんだ!
だめだ、脳がゆだっている。
落ち着かないと負けちゃう、と自分に言い聞かせる。
折れたであろう箇所を見つめろ。自分がやったんだぞ。
痛いだろう。剣を振るのに難儀するほどだ、可哀想じゃないか。
ヘンな気を起こしている場合か。
シグナムさんの胸部は甲冑をつけていないため、女性的な丸みが……丸見えで。
……非常に豊かで……。
イカン、負ける。落ち着け。落ち着け……。
いや無理。ダメだ、正直コーフンした。
シグナムさんの肋骨を折った感触がこんなにもキモチイイなんて……。
好きな女性の骨を折ることがこんなにも快感を伴うだなんて!
なんで今まで誰も教えてくれなかったんだッ?!
「おい、さっきからなんだその目はッ?! 今に見ていろよ! ぐぅっ、チッ」
「ちょっとシグナムッ! 大丈夫? アンスくんの言うとおりよ、デバイスで本稽古するなら甲冑はつけなさいっ。もうっ!」
とっくに異常に気づいていたのか、小走りで駆け寄ってきたシャマルさんからは緑の魔力光がほとばしっている。俺の魔力光にも似ているが、自分のほうがもっと深い緑色だ。
彼女はぷりぷりと怒りながらも、すぐさまシグナムさんの治療を終えてしまった。
「あぁ~……」
思わず漏らしてしまった。
治しちゃうの? って感情がダダ漏れの声を。
「露骨に残念がるなっ! まったく。油断はあった。それにお前を見くびっていたことも認めよう。もはや一度見せた手は通用しないか……」
最後のほうの声色は、どことなく嬉しそうだった。
うすうすその可能性を考えてはいたが、やっぱり、敢えて先週と同じ手を使ってきてたのか。
じゃあもうこの人、こっから先は絶対に油断しないな。
隙も見せてくれないってことじゃん。やべーじゃん。
ジャキィン! と連結刃が元に戻っていく。
油断なくレヴァンティンを構え直して、シグナムさんが声を荒らげた。
「さあ、やるぞ。早く構えろ。…おい聞いてるのか、アンス!」
自分に問うてみた。このまま勝ち越せるか? このテンションで?
「いやムリでしょ…」
「レヴァンティン!」
赤紫の魔力光が、シグナムさんを覆った。
改めて眺めてみる。
今度は騎士甲冑をカッチリ身に付け、鉄壁の通常戦闘スタイルで復讐に燃える、赤い女傑がいた。
「ふむ……。スパークス」
『RESET UP. BARRIER JACKET, TYPE HEAVY ARMOR.』
もうひとりの相棒であるフェイスガード型インテリジェントデバイスのスパークスに、盛れるだけ騎士甲冑を盛るよう指示を出した。
すぐに深緑の魔力光がアンスの全身を包み込んだ。
非殺傷といえどもベルカ式はミッド式よりダメージのリスクが高いのでね。
「貴ッ様ぁ!」
「り、リスク管理ですよぉ」
いや、だって、そらそうでしょ。
倍返しで骨を折り返す気マンマンなのバレバレですやん…。
「後悔するなよ」
構えたレヴァンティンの切っ先をゆらゆらと揺らすシグナムさんに、そう脅された。
殺すぞ、と言われている気がした。気がしたとか嘘。殺す気でしかないよこの人。
ある意味、勝つ気がないと表明したアンサルドの行為は、火に油を注いだようだ。
もちろん粘りに粘ったが、そのあと2本続けて取られ、その日も下克上は叶わなかった。
ハイデン市の貴族街の中でも、スコダ家の邸宅はそれなりの大きさがある。
というのは控えめな表現で、ここはまるで小さな宮殿だ。
フェディキアでもおそらくTOP3に入る広さと豪華さで、雅な外観を備えている。
なぜかというと、スコダ家は500年を遡れる、名門中の名門貴族だからだ。
聖王家に代々仕えてきたという歴史がある。
もとは魔道砲火兵隊を預かっていた軍事技術者集団から始まり、果ては聖王家の宮廷火工師"ホーフフォイアーヴェルカー"(Hoffeuerwerker)を代々輩出するほど成り上がったと聞いている。
爵位こそ低いが、昔はフェディキアの政治に関しても相当な発言力をもっていたとか。
兵器製造会社も経営していて、スコダ社は一時期は軍艦すら造っていたとお婆様に教わった。
今は? 見る影もない。没落貴族というほどではないが、その二歩手前といったところだろう。
スコダ社は新暦から、つまりは管理局の発足以降、急激な技術革新にまったく追いつけず、今は地位を完全に失墜した、と昔の雑誌や記事にはそう書いてあった。
規模はどんどん縮小していき、今では老舗高級デバイスのメーカーとして多少名が売れているくらいだ。
お爺様の代で経営もかなり危うくなり、ヴァンデイン社やカレドヴルウ社など、豪商のお家の人たちとあからさまな政略結婚をして、お嫁さんをもらっている。
大きな声では、いや小さな声でも絶対にそんなことを面と向かっては言えないが、ガメサお婆様や、ヴェスタの母上のヴァルチラ様がそうだ。
なんでも歴史だけはあるので、古ベルカ時代からいくつかロストロギアを下賜され、それが我が家に伝わっている。今も家宝として所持を許されており、俺は見たことがないが、代々受け継がれているらしい。
子供ながらに、ロストロギアのために結婚までするのだろうか? そんなにすごいロストロギアを持っているなら、なぜ家は廃れたのか? と考えたこともあった。
いずれにせよ、俺は見せてもらったことがないし、今後もその予定はないので、永遠に解けない疑問となるだろう。
こんなに大きな家には、それなりの数のお手伝いさんがいるわけだが、家族も含めだれも俺の帰りには頓着しない。
だから練兵場からカイトボード(ミッドではホバーボードというのだろうか?)で飛行して直帰し、ロッジア(庭園に面した開放廊)に乗り付けても問題ない。
「ヴェスタ! ヴェスタ、いずこかー?」
自ら当人の部屋へ来ておいて"いずこか"もクソもないと分かってはいるが、これが最近流行っているやり取りだった。
「アン兄様! いかがなされましたか」
とてたたーっと小走りでやってくる桃色長髪の女児こそ、我が妹であるヴェスタ・スコダ、御年10才、俺の五つ下である。魔力光も桃色で、我が妹ながら目に痛い。
「やったぞ、今日はとうとうシグナムさんの肋骨をバッキバキにしてきたぞ!」
「して、いくつでござりますか!?」
「2本だ! これまでで最高の出来だったな!」
スパークスは待機状態に戻ると、アイガード(ゴーグル)になる。
こいつを外してヴェスタに手渡すと、さっそくとばかりに、録画しておいた戦闘風景を意気揚々と視聴しはじめた。
スカスカとスパークスがずり落ちるので、両手で持っている姿が愛らしい。
「さすがですニイサマ! この調子で、来週にはきょうこつあたりをばっきばきです!」
「胸骨かぁ……いくらシグナムさんでも死んじゃうんじゃないか?」
「死なせる気があるくらい本気だと示すのです」
「な。そういう思惑だったのか…。至らない兄ですまん…ただ、意図的に"折り"に行ってたのが今回のでバレちまったよ。おかげですんごい怒ってたな。次からは俺が死ぬかも」
「アン兄様ならやり遂げられます!」
「やり遂げ……っ。なあ、相手をムキにさせて再戦の約束を取り続けるってのは成功してるけど、いい方向に向かってる気配はまったくしないんだが」
「きっと怒りが足りないのです。まだまだ足りないのです!」
「兄はちょっとキミが怖くなってきたよ…」
ヴェスタは飽きたのか、ボコボコにされ始めた兄貴の映像に辟易したのか、唐突にスパークスを外してテーブルに置いた。
「今日は遊べますか?」
「うん、いいよ」
まだヴェスタが寝るには早い時間だ。
「けど、見てほしい宿題とかないの?」
「……ありませーん」
ワードローブで玩具を物色しているが、こちらの顔を見ようとしない。
たぶん宿題はありそうだが、追求しないでおこう。
「モノポリーやりたいです」
山積みになった木箱の一番上に、埃で汚れないようにクロスがかけてあった。
「2人でかぁ?」「うーん」
気になったので近づいて、そっと布を取り払ってみる。
古びた熱飛行船(ルフトシッフ)の模型があった。懐かしさに思わず声が漏れた。
「おぉ、これ。ここに置いてたんだな」
ヴェスタは無言で模型に手を伸ばした。が、身長が足りていないので、俺が取り出して渡してやった。
「ちょっと飛ばしてみます」「おっけー」
床に飛行船を置いて、ヴェスタは指先に魔力を込めた。
ガス袋の中央部に光が灯る。ゆらゆらと揺らめいていて、それが"炎"だとわかる。
若干萎れていた耐熱素材のエンペローブが膨らみ、ゆっくりと浮かび始めた。
部屋の中で使うとけっこう熱い。
「浮きました!」
「じゃあ、俺の番だな」
飛行船の周囲に、魔力を込めて"風"を発生させる。
意図的な流れを作っているので、これは気流だと称するのが適しているだろう。
楕円形のいちばんお尻にくっついているスクリューがくるくると回る。
この模型は、完璧なミニチュアというわけではない。
本物のような細かな機能はもちろんついていない。
舵もついていない。
魔法で周囲の気流を操作して、ソレっぽく動かしているだけである。
スクリューが回って推進器となっているのではなく、飛行船が風を切って進むから、それにつられて羽根車が勝手に回ってしまうだけである。
ただ、見た目は本物ソックリだ。優雅に宙を漂っていく。
ヴェスタは夢中で観ている。そのせいか集中が乱れ、内部の炎が不安定になっている。
もはや僕が強引に気流を制御して、宙に浮かせているだけになる。
でもそれで全然構わなかった。
「おい、消すなよ」
「めんどいのですぅ」
ヴェスタは魔力の制御がまだまだヘタだ。
ちょちょぎれた火が手のひらの上で最後に踊り、消えた。
あの"炎"は自前だ。無意識に魔力を放出すると、勝手に火になる。
そう。ヴェスタは僕と違って、ちゃんと炎熱変換資質を持って生まれてきた。
僕は残念ながら"風"だ。"風圧"変換資質。一族の中で、唯一の仲間はずれ。
消えた炎を、つまりはその手のひらをずっと見つめていた僕に気づいて、妹は焦ったように、気の毒そうに、何も言わず再びワードローブに向かっていった。
"炎"。魔法で生じる火。僕は毎日そのことを考えてしまう。
頭のイカレた変人だと言われても仕方がない。
もし僕の心の中にぽっかりと空いた穴があるとすれば、それを埋められるのは炎だけだ。
永遠にそれが叶わないことはわかりきっている。
そしてその穴が、この家に生れ落ちなければ存在しなかったのだということも。
時代に即して様変わりしてきたスコダ家だが、変わっていない部分もたっくさんある。
武器を作り続けてきた兵器職人のお家であること。
スコダ社の社長と研究部門の長は、我が父ノルデクス・スコダが兼任している。
軍人の家系としても存在感を示してきたこと。
とくに商売でうまくいかなくなってからは、こちらの方面で名声を得るようになったという。
古来からつづくスコダ流武術(スコダ・フェヒトクンスト)の道場は、我が実の母アクシオナ・スコダが師範をしている。
そしてなにより、かつて宮廷火工師だったという誇り。
こいつは少しも薄まっていない。
兵器の素材づくりや鍛冶師に必要な資質はなにか? それは"炎"だ。
スコダ流武術を受け継ぐのに必要な資質はなにか? それも"炎"だ。
かつて我が家を興した兵器職人の集まりは、みながベルカ人には珍しくもない"炎熱"変換資質保持者の集団でもあったらしい。
彼らの戦闘技術はスコダ流武術として伝わっているが、その戦技はどれも"炎熱変換資質"が前提となっている。
ゆえに、スコダ流の師範は代々、魔力変換資質"炎熱"を持つ人間が受け継いできた。
残念ながら、一人も例外はいない。
だから、僕では武術を引き継げない。
そんな戦闘集団でもある一族の結束を強固にするためか【当主は炎の資質を持つもの】という絶対の家憲があり、これまで一度も破られたことはない。500年もだ。
ゆえに、スコダ家の当主は代々、魔力変換資質"炎熱"を持つ人間が受け継いできた。
残念ながら、一人も例外はいない。
ゆえに、僕では当主を引き継げない。
自分で言うのもなんだが、僕はそこそこの逸材だ。
11才でデバイスマイスターの試験に受かって、兵器職人としての資質を証明した。
伸び悩んでいた時期もあったが、14才で空戦AAA+ランクの資格を取って、軍人一家の子息たる能力も示した。
余所の教区や巷では"ハイデンの麒麟児"やら"スコダ家の神童"など、こっぱずかしい異名も流れている。
それでも、この伝統の前では無力だった。
一族の、まるで"部外者"を見るような視線は、こぞって炎使いのくせに僕を凍らせる。
ヴェスタはきちんと炎の魔力変換資質がある。だけど、兄妹仲はとても良かった。
なぜかというと――僕以外の人間がこのことを口にしたら惨殺決定だと前もっておくが、我が妹は、ほんのちょっとだけデキが悪かったからだ。
ただしあくまで現時点では、と注釈をつけておく。
10歳を超えているが、魔導士ランクはDランク。この間受けたCランクは落ちてしまった。
いずれCランクは取れると思う。けど……。
目算だと、登竜門のBランクはしばらく越えられそうにない。
スコダ家の一族は皆、スコダ流を習う。……自分も型や理念、生存技術などは習わせてもらえたが、炎の変換資質がないので見様見真似の域を超えられていない。
そして親戚には、ヴェスタに近い世代でBランクやAランクに達しているものは珍しくない。
Cランクだってちゃんとしたデバイスがあれば一般の武装隊でやれるくらいだ。
とりわけデキが悪い、なんて口汚く罵倒されるいわれはないはずだ。
スコダ家に生まれていなければ。
僕は論外だった。側室の子だけど長男だっていうのに、物心つく前から跡が継げない四男坊や五男坊の扱い。
ひどければ居ない奴扱いする人もいた。
妹は正妻の娘ゆえに、ほぼすべての親族から激しく叱咤されてきた。
なまじ、まだあきらめられていなかった僕が、がむしゃらに勉学と武道に励んで成果を出したばかりに、"火着かず"の問題児になにもかも及ばない"跡取り"として、比較され続けた。
いつのころからだったか。気が付けば、僕らは2人で1セットになっていた。
妹まで"火着かず"呼ばわりの仲間入り。
僕ら腹違いの兄妹は"火着かず"の兄妹となじられ、親戚一同から馬鹿にされている。
父も母も肩身が狭そうだ。
でも、今ではそんなに気にしてないんだ。いや、内心は気にしてるよ?
そりゃ気にしてるけど、堂々と人前で『気にしてないッス』って言えるくらいには成長したってことだ。
諦めがつき始めたのは、僕が12歳の頃だった。
ノルデお父様が、僕のひとつ下の従弟、ベルグ・スコダを養子にして、スコダ家の跡継ぎにする、と口にした。
来年、ベルグはこの家にやってくる。
僕はそれまでに家を出ないといけない。
ベルグがここに居座るようになったら、殺し合いになるのが目に見えているから。
心残りは、この家にひとり残されるヴェスタのことだけだ。
才気溢れる麒麟児のアンス様は、家の外に出ていってもやっていけるだろう。
でも、ヴェスタはこの家でずっとつらい生活を送らなきゃならないのか?
そんなの俺様が許さねえ!
と額の血管が切れそうなほどイラついても、この家で僕の発言力は無慈悲なほど無かった。
発言どころか存在すら無視される場合がある……。
繰り返すが、普通の家庭と比べても遜色がないくらい、明らかに兄妹仲は良い。
僕らにとってお互いが、イジワルをしてこない気が休まる唯一の家族だったから。
互いに別れの時が来ることを覚悟してからは、それまで以上に時間を作って遊ぶようになった。
そうした最中の何気ない会話のなかで、アニサマに好きな人はいないのですか?
と、ホルモン分泌はいたって正常な妹様から色恋の質問攻めをくらったときに、ふと思いついたのだ。
古代ベルカの騎士、魔導の生命体である"雲の騎士"の"剣の騎士"ことシグナムさんの、その価値を。
我が家は研究を貴ぶ家でもある。
古代ベルカの魔導生命体、要するに生きるプログラム。
シグナムさんと結婚をしても、子は作れない。
それが良い。
祖父の代で余所の力ある商家と縁を結び、そして父も正妻は別の商家の御嬢さんをもらった。
そのしわ寄せか、父とその弟(叔父)は、分家の姉妹を妻にした。
姉が父の側室に入り、妹が叔父と結婚した。
身内とのつながりを強化したいらしい。いかにも貴族家の有様だ。
幼いころから家を出ていくつもりで暮らしてきた僕は、その辺のことは客観的に見れている気がする。
世間は貴族だと扱うから、その自覚はあった。
けれど、必ず家を放逐される身の上だったので、そんな自信はあまり持てずに生きてきた。
話をもどそう。
だからこそ、シグナムさんは安全なのだ。
子供を作れない。家を乗っ取られる心配がない。
古来より炎を扱う騎士である彼女なら、暫定当主に認めさせられるかもしれない。
やがて生まれてくるヴェスタの子供に、その座を引き継げばいい。
ヴェスタは意外なことに、その作戦にGOサインを出した。
なかなかにエグい計略なのだが、ちゃんと理解してくれているか不安である。
"婚儀の申し込み"というワードにだけ興味を持っての行動ではないと思いたい。
そうさ。だから……。
あのなげやりなシグナムさんの怒声を思い出す。
申し訳なく思う。本当になげやりなのは、僕のほうだ。
こんなデタラメな作戦で、結婚の申し込みがうまくいくはずなんてない。
でも、もう、何をすればいいかわからないんだ。
うまくいかなくとも、これはきっと、ぼくら兄妹の。
最後の"レクリエーション"として、いい思い出になればいい。
そんな心境もなきにしもあらずだった。
もとより、何もせず、ただ黙ってこの家を出ていくつもりはなかったから。