魔法少女リリカルなのは 風車の騎士   作:暮易

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EP04:腹違いの愚妹

 

 

 

 どう話しかけていいものか、迷った。

 こんなところにいるとは思いもしなかった。

 たったひとりで、薄暗くなった山の中。

 

 近辺に危険な野生動物はいないが、人は例外だ。

 誘拐される可能性はゼロではない。

 スコダ家は落ちぶれたと揶揄されまくっているが、それでもまだ資産家だとみなしてくる人はいる。

 危険な目に遭うかもしれないと、常に警戒するよう、いつだって口を酸っぱく家人さんから言われているはずだ。

 

 こうなっては、見て見ぬふりをするわけにもいかない。

 だが、人目につかないよう、こそこそ隠れて何かをやっていたのは間違いない。

 当然、興味は沸いた。

 

 静かに、浮遊魔法を展開。

 音もなくふわふわと、ゆっくりと近づいて行った。

 

 

「うぅ~っ……」

 

 地面に置いてあった"何か"が空に舞い、どうみてもまともに制御されていない軌道で近くの木の枝にぶつかった。

 そして当然、落ちる。

 

「うぁ、うぅっ」

 

 ヴェスタは魔法でそれを防ごうとしたが、できないと悟り、どう考えても間に合わないのだが、走って落下する物体を拾おうと動きだして、その途中で転んだ。

 

 まもなくカシャン、と地面から音がした。

 

 

「ふ……。うぁん、うぁんっ」

 

 ヴェスタは起き上がって、歯痒そうに地団太を踏んだ。

 

 落下した物体の正体は、ミニチュアの飛行船だった。

 壊れてはいない。かなりちゃんとした造りと軽く頑丈な素材でできていそうだ。

 

 おそらくは、元から魔法の練習用として作られたものかもしれない。

 ということは……。

 

 

「ヴェスタ、何をやってるの。練習してるの?」

 

「あッ?! あ、お兄様。あのっ……」

 

 ヴェスタは怯えていた。

 しばらく前だったか。

 コイツが遊ぼうと誘ってきたときに『忙しいんだよね』と冷酷に跳ね返したからか、それとも、お手伝いさんたちから僕の噂を聞いているのかもしれない。

 

 一部の家人は、僕を怖がっている。

 その辺の魔力の低い大人より、よほど僕のほうが強いから仕方がないかもしれない。

 そして、そんなヤツがベルグを無慈悲にいたぶった。

 警戒されて当然だ。噂になるに決まっている。

 

 というか、ものすんごい噂されていたのはわかっている。気づいていたとも。

 もう一発「というか」をぶちかますが……。

 というか僕がベルグをボコボコにした話は、間違いなく数年は使用人の中で語り継がれるような、伝説級の"サーガ"扱いされるレベルのお家の恥部である。

 リピートしまくり。リピートしすぎ問題だよ。うんざりやて。

 大学で読んだマンガの主人公が砕けた言葉でそう言っていた。

 

 とにかく、その暴力性の矛先は"ちゃんとしたスコダ一族"のベルグに向いたくらいなのだ。

 使用人程度にはもっとトリガーが軽いに決まっている、と。

 きっとそう思われている。

 

 ヴェスタもそんなカンジで怯えているのだろうか。

 

「れ、練習、してません……」

 

 明らかにしてたけど。明らかにしてただろうけど。

 なぜだかその時は、そのウソに付き合ってあげる気になったんだ。

 

 動かなくなったベルグの姿が、頭の中で何度も反芻されていたせいかも。

 

「そうなんだ。もうここ暗いし、まだここにいるなら、一緒にいるよ。そんなに怖がらないでいいよ。この間は遊んであげられなくてごめんね」

 

「う、うん。あ、はい。遊んでました。お兄様、いまから遊ぶのですか? あ、でも遅いし、お父様とお母様に怒られます……」

 

「じゃあ、帰る?」

 

「……」

 

 あのミニチュアを浮かして動かす程度なら、デバイスを使わなくともやれそうだった。

 ヴェスタは背後で浮かびだす飛行船に気づいていない。

 

「ほい」

 

 両の手のひらを上にして並べ、ゆっくりと飛行船をそこに着陸させていく。

 

 ヴェスタは感心してそれを眺めている。

 

「あ、あ、あ」

 

「アンサルド空港、午後20:20着、え~……当機はまもなく、着陸態勢に入ります……入ります……」

 

「あ、あ!」

 

「お知らせします。着陸地点の変更がありました。アンサルド空港は……ベルグ暴行事件により閉鎖中です」

 

「ふひっ」

 

 やっぱり笑った。

 実はヴェスタもベルグが嫌いだ。アイツは妹にも態度が冷たいからな。

 もっとも、僕に対するソレよりはマシだけど。

 ヴェスタに対して意地悪をするというよりは、まったくもって興味がなさそう、というのが実態だ。……まあ、前者も時間の問題かも知れないけれど。ヴェスタも道場にいくのなら、いずれはアイツと一緒に練習することになる。

 

「当機は目的地を……ヴェスタ空港に変更します……変更します……」

 

「え? あ、あう」

 

 じっとヴェスタを待つ。飛行船は僕の目の前で浮かせたままキープしている。

 髪飾り型で待機状態になっているヴェスタの……たしか"ロンデル"だったか。

 インテリジェント型デバイスだから、そいつが喋った。

 

『"Levitation.(浮遊)"』

 

 でも……。

 コァァッ、とヴェスタの手のひらから炎が出て、キッチンのコンロみたいにうっすら明るくなった。

 そしてものすごい勢いで飛行船はその場で回転し始めた。

 制御が聞かなくなるほど回転が激しくなると、嫌な予感がしていたがやっぱり当たった。

 僕の顔面に飛んできた。

 目の前20cmくらいの距離だったんだもの。よけらんねぇよ。

 

「ガッ!?」

 

「おに、ごめんなさい! ごめんなさいお兄様!」

 

「だいじょうぶだいじょうぶ。スパークス、ほらこのゴーグルつけてるから大丈夫だったよ」

 

「はなぢがでてます……ひ、ひ」

 

「大丈夫だって、目は守られたから。ヴェスタも、もう道場に行ってるんだろ? 鼻血とか日常茶飯事になるよ」

 

「にちじょうはさんじ?」

 

「日常茶飯事は……よく起こるようになるよってこと」

 

「鼻血が、日常破産時ですか…」

 

「スコダ家みたいだな……」

 

「え?」

 

「ごめん言い過ぎた」

 

「え?」

 

「しかしヴェスタ! すごいなぁ。火を出せるの」

 

 正直言って、ヴェスタの魔法制御センスは……かなり気の毒そうだった。

 浮遊魔法は誰でも使えるといっても過言ではないくらい、かなり基礎的な魔法だ……。

 あんなメチャクチャな制御の下手さ、かつて見たことがない。

 褒めるところが、"火"を出せるところしかなかった。

 

 そう、ぼくは思わずだが……ほめることができていたんだ。

 自分の劣等感を意識せずに。

 

 

「僕は風しか出せない。ぐるぐる~て」

 

 自分でも驚いていた。

 人前でこんなにも億劫にならずに"風"を披露したのは、もうどのくらい昔になるだろう。

 自分が『炎熱変換資質をもっていないことの意味』を、まだ実感していなかったころ以来なのは間違いない。

 ヴェスタのどヘタクソな魔法コントロールを見て、気が動転していたのかもしれない。

 

「なんていうか、綺麗です、お兄様の魔法。すごい、乱れてない。そうぜんとしてます。すごい……」

 

「整然としてる?」「それです」

 

 真逆の意味になっとるやんけ。

 

 僕は魔力をでたらめに放出して"強風"の檻をつくり、四方八方から空気の乱れを受ける中、浮遊魔法を制御して飛行船をぴたっと静止させている。

 けっこう技術的に高度だ。でも、浮遊や飛行の魔法は大得意だったから、デバイスなしでもこれくらいはこなせてしまう。

 

「浮遊の魔法、使ってみな。風の檻で飛行船は閉じ込めておくから、安心して」

 

「うぅ~……」

 

 僕の制御から外れた飛行船は、再び凶悪に回転し始めた。

 

「ヴェスタ、回転しちゃうのは、モーメントを意識してないからだ、つまりな……」

 

「モー、うー」

 

「押してもまわらないところ、重心だ、そこを探してみて」

 

「じゅー。うー」

 

 しばらくして、ちょっとずつ形になってきたが、まだ練習が必要そうなデキである。

 でもヴェスタは疲れてきており、集中力が乱れ切っている。

 

 これ以上は、今日は練習しても無駄になりそうだった。

 

「なあ、もう遅いし。また明日、練習しよう?」

「は、はい……っ!」

 

 お、すっげぇ嬉しそうじゃん。そりゃ誰だって基礎練みたいなのはやりたくないだろうけど。

 

「明日もお兄様、ここに来ますか? 何時ごろ、来ますか?」

 

「ヴェスタはいつごろ来るの?」

 

「学校が終わったらすぐに来ます」

 

「わかった。じゃあ明日、何時ごろ帰るか連絡するね」

 

 思ってたよりヴェスタはヤバかった。

 コツをつかむまでに、ここまで時間がかかるのは……。

 ヴェスタの通ってる学校で、ヴェスタの立ち位置を考えたら、いじめられる心配があるレベルだ……。

 たぶん僕は、気の毒すぎて、自分を下げてでも妹を勇気づけてあげたくなっていた。

 ということだったんだろう。その時はそう思っていた。

 

 

 

 その時はね。わかってるよ。もうバレてるし白状するって。

 そのあとでちゃんと"シスコン"になった自覚をしたさ。

 このあとな、このあと。文句ある?

 外野がうざいんだよな、ただの兄妹愛をシスコンシスコンって。

 

 

 

 帰りの道で、ヴェスタは最初に『練習してない』はずだったことをすっかり忘れて、ぺらぺらとその理由を話してくれた。

 

「あさって、ふゆう魔法の発表会があります……でも全然できなくて……スコダけの"あととり"としてハヂをかきたくないです……」

 

 あんなヘタクソな練習風景を、お手伝いさんにすら見られるのが嫌だった、と。

 ちょっとわかる。あの人たち、俺たちのこと噂しまくりだもの。

 

「明日ちゃんと練習すれば、大丈夫。あともうちょいだよ」

 

 たぶんそんなことなさそうだったけど、そういうしかないだろ……。

 いや1日しかないのは厳しいて。

 

 

 

 

 

 次の日。僕は。

 僕はなんだか、無性にヴェスタのことが気になって。

 大学の授業は、まだ全部終わっていなかったけど。

 ヴェスタの学校が終わる時間を逆算して。

 生まれて初めて、自分の意志で授業をサボって。

 研究室の工作機材を勝手に使い込んで、もしもの時の"保険"を作って。

 ものすごく久しぶりに。

 まだ明るいうちに、まっすぐ家に帰ったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴェスタ、まずは休憩しよ。休憩~」

 

「あひー、ふぁひー」

 

 僕ら以外はやはり誰もいない、寂れた木を切り出す製材所。

 急がなくていいと念を押していたのに、ヴェスタは走ってやってきた。

 僕が待っていると知っていたから。

 

 

「お兄様、おやつもってきました!」

 

「お、ありがとう」

 

 今日はヴェスタの背後に、ぷかぷかと浮くポットがあった。

 ポット。そう、お鍋だ。宙を浮くホットポット。

 調理用ポット型デバイス"テラコッタ"。なんとコイツ、インテリジェント型である。

 

 

『Hello, my master's brother. Call me "Terracotta"』

 

「ホット・チョコラーダ(チョコレート)です。今からつくります。てらこった、チョコラーダをふたり分おねがいします」

 

『Yes,mom.But there are no cups.』

 

「すみません、お兄様。カップを持ってくるのをわすれました」

 

『I told you so.Please pay more attention to what I'm saying.(そう言ったでしょう。もっと私の注意をお聞き届け願います)』

 

「どうにかして、てらこった」

 

 無茶を言いなさる。

 

「ヴェスタ、僕が二つもってるよ。アウトドア用のヤツと、研究室に置こうと思って収納しっぱなしだったヤツ」

 

「ほんとですか、ありがとうお兄様」

 

「あと、実は僕もお土産もってきたんだ。ほら、これ」

 

 2つのマグカップと一緒に、リュックから紙袋を取り出して、渡した。

 

「名前よくわかんないけど、学食でいつも人気の"魚の形をしたワッフル"。中にカスタードが入ってるよ」

 

「さかなだ! ほんとにさかなですね!」

 

 紙袋を夢中で覗き込むヴェスタがどちらの魚を食べようか吟味している間に、僕は昼寝用のシートも取り出して、さっと敷いた。

 昨日と違って、まだ日は高い。良い天気だ。

 

「やあテラコッタ。ヴェスタはいつもその……忘れ物とか失せ物とか多かったり、君のアドバイスをスルーしたり、そんなカンジ?」

 

『Of course,sir. I hope you also offer her some guidance as well.(そうなのです。あなた様からも彼女にご指導をお願いします)』

 

 父上はヴェスタの身の回り品にはいくつも高額なインテリジェント型のツールを揃えている。

 心配性だな、僕とちがってそんなに大事か。

 と思ってきたが、たぶんそうじゃなかったんだなコレは…、と急速に親の思惑を僕は理解しつつあった。

 

 インテリジェント型じゃないとだめだな、こりゃ。

 

「お母様に、わたしは"たどー(多動)気味"だって言われました!」

 

 むふー、と自信をもって胸を張る妹。

 え? それって、そんな自慢げに言う言葉だったっけ。

 

 どうしよう。これ、どう反応すれば、えぇ……えぇ……?

 褒めていいのかわかんねぇよ……。

 ヴァルチラ様はどんな風に、このことをヴェスタに伝えたんだ?

 

「あ、そ、そう。へぇ、そっかぁ。ふむふむ?」

 

 ヴェスタのお母上はヴァルチラ様だ。旧姓キャプストン。

 ヴァンデイン・コーポレーションの会長一派の重鎮の娘。

 ザ・政略結婚でスコダ家に来た。僕ははっきり言う。夫婦仲は悪い。

 外泊多いし……。ヴェスタの面倒もあまり見ていないと家人が陰口を叩いている。

 大人の関係はよくわからない。

 

「お兄様のこと、もうダイガクに行っていてすごいと言ってました!」

 

「そうなんだ。嬉しいな」

 

 なぜだ。なぜ僕だけがギクシャクしなければならない。なんでや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一息ついたあと、ワッフルを食べ終え、昨日と同じ練習を始めた。

 しかし、やはり残り時間が今日1日だけでは、発表会に間に合いそうにはなかった。

 夕焼け空のオレンジ色が、タイムリミットを知らせつつある。

 

 

「つかれました……」

 

 

 草の上にヴェスタは諦めたように座り込んで動かない。

 少し前から、もう練習はしたくないという態度をあらわに、いじけ始めていた。

 

「……」

 

 その根気のなさに少し怒気を覚えていたが、僕は浮遊魔法は最初から苦労せずにできたようなものだった。素質ってのは残酷だが絶対にある。

 そもそもヴェスタは僕とは持っている魔力の量がぜんぜんちがう。

 

 僕にだって決して、楽に炎が出せないように。

 人はやれることが違うはずだ。

 そう思い込んで、言葉はすべて飲み込みきった。

 

 

 

 用意しておいた"保険"を、僕は使うことにした。

 

「ヴェスタ、飛行船をちょっと改造していい?」

 

「え? はい……?」

 

「スパークス」『Yes,sir.』

 

 ゴーグルを目にかけて、用意してきたブツを取り付ける。

 耐熱エンペローブ(膜)とヒートパイプなどで出来た加熱部と、船尾につけるプロペラ等の推進部だ。

 

 これで、飛行船の形を模しただけの教材は、れっきとした熱飛行船の機能をもつミニチュアに化けた。

 

「ヴェスタ、こっちにきて」

 

「なんですか、これ?」

 

「このヒートパイプ、これが見える?」

 

「はい」

 

「ここに火を固定して、熱を送るんだ。まずはそれだけやってみて。火を出すだけなら得意だろ?」

 

「やってみます」

 

 ここはあっさりクリアした。

 夕暮れなので、もはや内部で灯った炎の明かりが目立つ。

 ヴェスタが集中すると、みるみる飛行船はふかふか浮かんでいった。

 

「浮きました! ゆっくり、浮いてます!」

 

「よぉし。では、これから僕のやることを見ているように」

 

「はぁい」

 

 僕は風に変換せずに純粋魔力を送り込んで、くるくるとプロペラを回す。

 飛行船は進む。ちゃんと飛行できている。

 

 

「できてます! できてます!」

 

「よし。次はヴェスタがやってみよ。大丈夫、回転はさせられるんだから、まずはスクリューを回してみよう。楽ちんだと思うよ」

 

 

「うー……うー……う、できてます? できてますか?」

 

「できてるよ!」

 

「できてます!」

 

 

「しばらくそれをひとりでやってみて」

 

 

「うー……」

 

 

 様子を見ていたが、炎を出して飛行船を浮かせ、スクリューで推進させることはひとりでやれている。

 あとは、舵を取る方法だけだ。これは練習するしかない。

 スクリューを回転させている浮遊魔法で、ちょっとずつ、水の上に浮く葉っぱの向きをつついて変えるように、挑戦してもらう。

 

 だが、水の上に浮いた葉っぱを常に沈まないように指で押さえて運ぶより、指でつついてちょこちょこ動かす方が何倍もカンタンだ。

 

 

「できてる、できてるぞヴェスタ。あとはちょっとずつ、つついて飛行船の進む向きを調節だ。こっからはもう、この練習をやるだけだね」

 

 

「はい……」

 

 それからは20分もかからなかっただろう。

 ヴェスタはスタート地点からゴール地点まで、ひとりで浮かせて、ひとりで着地させることができた。

 着地が美しくなかったが、浮遊魔法の発表会で恥をかかないような出来にはなっただろう。

 高得点が取れるかはわからない。

 しかし誰の目から見ても、ヴェスタは飛行船をひとりで飛ばしてみせているように見えるはず。

 

 

 

 

 

「ありがとうございます、アン兄様!」

 

「明日、がんばれよー」

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、少し帰るのが遅くなったが、ヴェスタはそれまでがんばって起きていて、僕の部屋にやってきた。

 

「アン兄様、やりました! 発表会のレースで2番をとりました!」

 

「……は? レース?」

 

「はい! 2番をとれました!!」

 

「……うおらああああっ! 最初からそれを言ええええええええっ!」

 

 ヴェスタの両肩を掴んで、ガタガタと激しくシェイクした。

 ヴェスタはカン高い声をあげて楽しそうだった。

 

 

 

 

 ヴェスタは、それから。僕の部屋によく来るようになった。

 僕も、ヴェスタの部屋に行くようになった。

 そうとも。

 もう、わざと時間を潰して、夜遅く家に帰ることはなくなったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フェディキア大学 工学部 生体医工学科。

 生体インターフェイス研究室。

 11歳の身で大学に通う僕は、しばしばそこに顔をだしていた。

 

「最近、楽しそうだね」

 

 研究室のデスクを借りて課題をやっていた僕に優しく声をかけてくれたのは、オスターマン博士だ。

 

 そもそもフェディキア大学の研究員をしていたこの人が、僕の家で1年ほど家庭教師をしてくれた先生だ。

 だから僕の家の事情は全部わかってくれている。

 学食でお昼を食べているときに出会ったら、かならず声をかけてくれて、一緒にご飯を食べてくれた。

 

 いろいろと相談する気にさせてくれる、身近な大人ってカンジだ。

 

 家庭教師は終わったあと、先生は今はこの研究室で助教になった。

 

 そんな先生が誘ってくれるので、研究室の生徒じゃないけどよくお世話になっている。

 デバイスマイスターの試験に向けてのアドバイスも、ここでたくさんしてもらっている。

 

 

「お邪魔してます。はい、最近、妹と仲良くなって、よく遊んでます」

「そうなんだね、妹さんと。それはいい。前は遅くまでここに残ってたりしてたのに、最近見なくなってちょっと心配してたけど……なんだか、いい方向に変わっているみたいで良かったよ。前よりよほどリラックスしてる雰囲気だよ、うん」

 

「あ、はい…。そうなんですか?」

 

「自覚はなしか」

 

「自覚は……ないですね」

 

 相変わらずベルグ関連のこと、道場関連のことは考えないようにしている。

 謝りにも行ってない。事件の直後は謝りに行く気がものすごくあったのに、今は気持ちがゼロにもどってしまっていた。

 

 以前の自分と何も変わっていない気がする。

 

 

「うーん……すまない、アンス君。このあと時間はあるかな? 大学の外までついてきてくれるかい? 終わったらそのままお家まで送るよ。夕方くらいまでには帰れるんだけれども、ちょっとお手伝いして欲しいことがあってね」

 

「はい、いいですよ。なにか持っていくもの、ありますか?」

 

「おや、今から大丈夫なのかい? 作業のほうはいいの?」

 

「ほぼ終わってました。あとは家でやれます」

 

「そうか、ありがとう。じゃあ、隣の実験室に」

 

「わかりました」

 

 

 

 

 

 

 聖王医療院フェディキア分院

 眼科・小児リハビリテーション科

 

 オスターマン先生に連れられた病室で出会ったのは、僕よりもいくつか歳が下のローデン兄妹だった。

 

 教えてもらった名前を呼んで、先に声をかける。

 

「カザル君、ルノアちゃん、こんにちは……アンサルド・スコダといいます。アンスと呼んでください」

 

「…こんにちは」

 

 蚊の鳴くような声で返事をしてくれたのは妹さんで、兄のほうはぺこりと頭を下げただけだった。

 どちらもブラウンのカールした髪の毛。ふたりとも一目見て血のつながりを感じる顔つきだ。

 

「こちらが例の"バカでかい家"の子、アンス君と呼んであげてね」

 

 家から出てくの確定の、僕の紹介文がソレっすか……。

 カザル君の視線が冷たくなった。

 いけすかねえ名家のボンボンをみる目だ。

 オスターマン先生、なんでバラす必要なんかあるんですか?

 

「ルノアちゃん、練習できたかい?」

 

「だいじょうぶです」

 

 人見知りなのか、オスターマン先生にもぼそぼそとした声だったが、僕よりは慣れているみたいだ。

 

「先生、ボクは手伝いがあってあまりできませんでした。いちおう練習したんですが、難しかったです。でもルノアはしょっちゅうやってました。あの……すいません」

 

「問題ないよ、実はそのためにアンス君を連れてきたんだ。カザル君、ルノアちゃんに付けてあげて」

 

 カザル君はバッグから何やらいろいろと取り出した。ロンググローブ、ヘッドギア、ファンのついているジャケット、そしてラケット。

 意味不明だ。

 しかもテニスやらバドミントンをやるにしても、すごく小さくて不便そうなラケットだった。

 テーブルテニス用と言われたら納得しそうなサイズ感だ。

 

 

 そしてさらに意味不明なのが、オスターマン先生によって、僕にも同じラケットが手渡されていること。

 

「あの……先生、コレは?」

 

「バルーンテニスだ」

 

「はぁ」

 

 カザル君はスプレーでガスを送り、風船を膨らませた。

 そしてルノアちゃんのジャケットについていた謎の器具のスイッチをいれた。

 静かに音を立てて、ジャケットの前後についていたファンが回転する。風が出ている。

 

「ルノア、いくよー」

 

 そして妹さんに声をかけて、ぽぉん、と柔らかいタッチでバルーンを放った。

 

 彼女はあらぬ方向を向いたまま、焦点のあっていない眼を動かさず、しかし顔は細かく揺り動かして、なぜかバルーンを打ち返してみせた。

 

「い、いくよー?」

 

 戸惑いつつも、僕もラケットで打ち返した。

 たった数度のラリーで、疑惑は確信に変わった。

 ルノアちゃんは目が見えていない。

 

 

「アンスくん、"スパークス"の遮光機能をフルにして、打ち返せるかい?」

 

「えぇっと」

 

 『そんなことしたら視界が真っ暗になって、何も見えなくなるじゃないですか』と言いかけたが、僕はそれを聞いたルノアちゃんがどう思うか気になって、何も言い返せなかった。

 

「頼むよ、とりあえずチャレンジしてみてほしい!」

 

「……わかりました」

 

 人前で風を使うのは嫌だった。でも、僕は頑なに固辞する気にもなれなかった。

 全身に魔力を行き渡らせ、やわらかな風を全方位へと放出する。

 

 暗闇の中、魔力的な感覚を頼りに一生懸命に腕を振った。けれど。

 

「あれっ。あれっ。うわ。あたらない」

 

 なんどかカザル君にバルーンを投げてもらっているようだが、ラケットに触れた感触はない。

 

「いやいや、"おしい"スイングを連発だよ。その調子で頼む。すごいな。どれもバルーンの数センチ手前を振ってる。コツをつかめばやれそうだね、これは」

 

「それ、本当ですか? うーん」

 

 ほよん、とラケットに感触があった。打ち返せたが、今度はルノアちゃんが外した。

 その後、いくつか形にできたラリーがあったものの、彼女もけっこう外している。

 ルノアちゃんの方も100発100中とはいかないようだ。

 彼女がつけているあのデバイスで、視覚の代わりに何らかの情報を得ているのだろう。

 しかし、そうやすやすとそれで打ち返せるものだろうか。

 ルノアちゃんが練習をたくさんしてきたのは間違いないだろう。

 なにぜ、あのデバイスはまだ完成していない。

 だからこそこうして実験してデータをとっているのだから。

 

 

 その実験データを、十分に取れたのだろうか。

 オスターマン先生が唐突にこのぐだぐだのバルーンテニスに満足すると、すぐさまお開きとなった。

 カザルくんはずっと甲斐甲斐しく、妹さんのお世話をしていた。

 なんか本当の"兄妹"ってカンジだった。

 

 

「今日はありがとうね、ふたりとも」

 

 何に対するお礼か自分でもわからなかったけど、とりあえず僕はそう言って退出した。

 

「……さようなら」

 

 と小さな声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 帰りは、オスターマン先生が家まで車で送ってくれるとのこと。

 車内での話題は、当然さきほどの病室で起きたことだ。

 

「いやぁ、予想通りだった! やっぱりアンス君の空間把握能力、いや空間検知能力というべきか。とてつもなく群を抜いてるねぇ」

 

「先生」

 

「わかってるって。今日は悪かったよ。ごめんよ、説明もなく連れてきて。でも、前もって教えたら君に断られて、おまけにうちの研究室に顔を出してくれなくなっちゃうんじゃないかって不安だったんだ」

 

「いや、そんなことは……」

 

「デバイスマイスターの資格を取るまでは?」

 

「そ、それはお願いします」

 

「ははっ。で、あの二人、どう思った?」

 

「二人とも静かで大人しくて……妹さんのほうは、完全に目が見えないんでしょうか?」

 

「そうだね。昔は見えていたけど、病気で見えなくなった。その前は二人とも、明るい性格だったらしいよ」

 

「それは、落ち込むでしょうし、そうなっちゃうんでしょうね……」

 

「ルノアちゃんはただ落ち込んでいるわけじゃない。れっきとした心の病気を罹ってるんだ。カザルくんはそれにひきづられてるんだろうね」

 

「え?」

 

「視覚に障害を持つ人たちは、その障害の大小にかかわらず、精神を大きく病む人が多い。知ってたかい?」

 

「……いいえ」

 

 

「当然のハナシだよ。人間は外界の情報の80%以上を視覚から得ている。でも、彼らは目で見ている間……つまり起きている間、意識のある間、常に"目の異常"に悩まされ続ける。片時もそれを忘れられない。骨折をしたとしよう。苦しければ、痛み止めを飲めばいい。一時的に苦しみを忘れられる。でも視覚の障害は、そういうわけにはいかない……。毎日、起きている間は"それ"を意識する。365日ずっと休まることなく……"それ"が一生続くことを、毎日考えてしまう。その長期間のストレスが、心を病ませるのも致し方ない」

 

「それじゃあ……」

 

「ルノアちゃんは目と心の両方を病んでいる。その苦しみは想像もつかない。せめてどちらかは癒せたらいいなぁって思ってるよ」

 

 僕は、居心地が悪かった。僕は、あの子達と比べたら、なにもかも恵まれている。

 オスターマン先生はそれを口にしてはいないし、そう諭すつもりもなかっただろうが、僕は自分を省みる気分だった。

 

「"視覚情報の触覚的感覚代行に関する研究"が僕のテーマだったの、覚えてるかい?」

 

「おおよそは。いや、おおよそしか、わかってないです」

 

「"感覚代行"技術。視覚を別の感覚で代行しよう、ってこと。ルノアちゃんがつけてたデバイスは、空間の風の流れを探知し、肌に圧力として伝える"流体制御型ハプティック・インターフェース"さ。完成度はさっき実感してもらっただろ? まだまだ甘いんだ」

 

 

 スパークスに調べさせる。

 ハプティクス(Haptics)とは、力や振動、動きをユーザーに伝えることで、実際に物へ触れているような感覚を再現する触覚技術(Haptic technology)のこと、らしい。

 

 

「正直に打ち明けると。ほんのちょっぴりアンス君を宛にして、このプロジェクト、『視覚障碍者の空間認識支援ウェアラブルデバイス』の責任者に名乗り出たんだよね」

 

「はぁ」

 

「ほ、ほんのちょっぴりさ。本当さ、身構えないで欲しいなぁ。とはいっても僕は、昔から、君の能力には大いなる可能性を感じてしかたがなかった。ってのはウソじゃない」

 

「期待していただくのは、嬉しいことですけど……」

 

「家庭教師をしていた頃とは違って、最近、君は落ち着いたというか、優しくなったよね。前とはちょっと変わった。今の君の方が好きだよ」

 

 男に好きと言われても、と思いつつ、僕は誰かにストレートに褒められて嬉しくもあった。

 

「妹さんと仲良くなったと聞いて、今の君にならルノアちゃんを任せても絶対に大丈夫だな、と思ったんだよ」

 

 じゃあそれ以前の僕に会わせたらどうなると思ってたんだ? ひどいや、先生まで。

 

「ベルゴリオ君との確執も耳に挟んでいた。……噂に聞くベルゴリオ君は、随分と傲慢そうだね。君が耐えかねて怒ったのも無理からぬと思ったけど……。君が妹さんと仲良くなったときいて、やっぱり君は違うな、と思ったんだ。どうしてだと思う?」

 

「え?」

 

「僕は……君が"風"を持ったから。"炎"を持たなかったからだと思う。アンス君、君は才能の塊だよ。若くして大学に入り、魔力も、闘いのスキルも高いんだろう? もし君が"炎"を持って生まれてたら……それでもベルゴリオ君のようになっていなかったと、自信をもって言えるかい?」

 

 "炎"の素質以外、ベルグは僕になにひとつ及ばないと思っている。これは確定事項だ。事実だ。

 そう思っている。強固なプライドだ。

 でもこれは、ある意味で先生のいう傲慢さではないだろうか。

 

「……わかりません」

 

「どうか怒らないで聞いて欲しい。君は妹さんのことを、意識して避けていた。たぶん、心の奥では妬んでいたんだ。でも、今は違うんだろう?」

 

「……」

 

「ルノアちゃんにも優しくしてくれた。君が経験を積んで、人の弱さを知って、思いやれる"良いヤツ"になったからさ。もっともっと"良いヤツ"になってほしいな。特に君のように、才能豊かな人には。僕は、君はいずれそうなると確信してるけどね」

 

「は、はい……頑張ります……」

 

「まずいな、説教臭くなってしまった。偉そうに語ってしまって申し訳ない。……あ、ごめん、せっかくだな。最後にもう一つだけ」

 

 先生はドリンクホルダーに置いていたコーヒーをひとくち飲み、少しだけ間を置いた。

 たぶん、先生なりに意を決して言ったんだと思う。

 

「"もってないもの"ばかり考えるんじゃなくて、もうちょっと、"もってるもの"を活かすことを考えても、人生は楽しく有意義に過ごせるんじゃないかなって。でもほら、こういうの、言葉で言ったって伝わらないからね。実際に経験するのが一番だからさ」

 

「いや、今日は。百聞は一見に如かず、でした」

 

「おお、いい返事だ。それじゃあ、もしアンス君が手伝ってくれる気になったら、迷わず僕に声をかけてくれよっ。無理強いはしないからね、君の好きな研究室を希望してくれ」

 

 時期が来れば、大学のカリキュラムの一環で、僕は希望した研究室に正式に配属され、そこでもっと具体的な研究を行うようになる。

 今回の一件はつまるところ、オスターマン先生からの巧妙なリクルートでもあったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 母上は道場を切り盛りしているため、いつも夕食の時間帯には帰ってこない。

 しかしその日は親族で会合があったらしく、夕食を一緒に取ることになった。

 

 同じ家にいるというのに、僕と母の2人だけ。

 

「ヴェスタは?」

 

「ヴァルチラ姉様と先に、お食事を取られています」

 

「今日はいらっしゃるんですね」

 

 ということは、ヴェスタと父上はヴァルチラ様と一緒に夕食か。

 

 母上はあまりその話題に触れたくないらしい。

 ヴァルチラ様と母上はたぶん仲が良くない。

 決してお互いに表面上はそのように振舞わないが、仲良く一緒にいたところは一度だって見たことがないのだから、察せるというものだ。

 

 母上からは大学のことや普段の生活について、質問攻めにあう。

 

 僕は全てに無難な答えを返した。

 いつもどおりの流れだったが、今日は僕の方から珍しく提案があった。

 

「母上、以前言われていた、リッターレーレに参加したいです」

 

「騎士見習いの教練に?」

 

「はい」

 

「……いいですよ。すでにあなたのことは、シスター・シャッハにお願いをしてありましたから」

 

「"シスター"・シャッハ? ということは修道騎士の方ですか?」

 

「ええ。わたしが教導騎士(リッターマイスター)をしていた頃に知り合いました。失礼の無いようにお願いしますよ?」

 

「わかりました」

 

「とは言っても、彼女は現役の陸戦AAAランクの傑物です。きっと彼女に無礼を働く気にもなれないと思いますよ」

 

 母上は僕をそのシスターに預けられて嬉しそうだった。

 どんな人なんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分の部屋へ戻る途中で、中庭を眺めていたヴァルチラ様と遭遇した。

 僕を待っていたようだ。

 

 

「こんばんわ、アンス君」

 

「おひさしぶりです、ヴァルチラお母様」

 

「お元気そうですね? お贈りしたデバイスはお役に立っていますか?」

 

「はい、毎日使い倒してます。とっても便利です。高性能で、ほんとにありがたいです」

 

 大学の入学祝いにスパークスを贈ってくれたのはヴァルチラ様だった。

 

「大学では何を専攻されるおつもりですか?」

 

「今のところは応用デバイス工学ですかね……実はまだ教養過程なので、迷ってます」

 

「あなたは相変わらずとても優秀ですね。将来、何かあればヴァンデインでご活躍することも是非考えていて欲しいですわ」

 

「ありがとうございます。ヴァンデインの勢いはすごいですよね」

 

「いえ。先史時代のロストロギアを所有するスコダ家ほど、歴史はありませんよ。あなたはもうご覧になって? "霧虹(ネーベルボーゲン)"、"不壊の円盤(ウンブレヒ・シャイベ)"。名前だけ知っていても歯がゆいものです。わたくしも一度拝見させてもらいたいですわ」

 

「いえ、僕は"風"ですから。一生見せてもらえないと思いますよ。ヴェスタなら、いずれ見聞きすると思います」

 

「……そう、でしたか。それは寂しいでしょう。私からも、ノルデに頼んでみますね」

 

「お気になさらないでください」

 

 

 

 ひさしぶりに会話をしたヴァルチラ様は、以前の印象と見違えるくらい、僕に興味がある様子だった。

 純粋に将来の技術者の卵として、ヴァンデイン社に迎え入れてもいいと思ってくれているのだろうか。

 昔はもうちょっと、興味のあるなしがはっきりしている人で、僕にこんなに話しかけてくれるような人じゃなかったイメージもある。気のせいだったようだが。

 その後、他愛のないやり取りを終えて、僕は部屋に戻った。

 

 

 

 

 

 

 休日。騎士見習いの教練が、その日は日が高いうちから催されていた。

 いよいよ修道騎士の猛者、シャッハさんとご対面だ。

 

 教会騎士団の練兵場で彼女は待っていた。

 すでに汗だくで、短く髪を切り揃えた、いかにも体を動かすのが好きそうな女性だった。

 

 近づいていくと、挨拶をする間もなく相手から話しかけられる。

 

「アンサルド・スコダ君ですね?」

 

「あ、はい」

 

「シャッハ・ヌエラです。ではお近づきの記念に、ひと勝負しましょうか!」

 

 竹を割ったような性格、というか。

 即断即決、迅速果断、というか。

 どう考えても、会話より手がでるタイプっぽかった。

 

 

 この人、教えるの向いてなさそう。

 それが第一印象だった。

 

 

 

 で、ソッコーでそんなものは塗り替えられた。

 そんなもんじゃなかった。

 シスター・シャッハは……。

 シスターなのに……。

 シスターのくせに……。

 

 

 僕の人生の中でもぶっちぎりでイチバンの、暴力女だった。

 

 

 の、のーもあー、暴力...。

 

 

 

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