魔法少女リリカルなのは 風車の騎士   作:暮易

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EP07:真夏の夜の料理長

 

 

 

 僕は13歳になって、いささか足踏み中だった。

 

 ケイマンもミューズもカデットを卒業してしまっていた。

 2人はフェディキア大学に通いながら、教会騎士団の方で訓練を受けている。

 おかげでシャッハさん以外に張り合いのある相手もなく、僕は不抜けていた。

 

 

 そんな僕にとって起爆剤になったのが、ふらりと訓練に現れるようになった"八神一家"との出会いだった。

 とくにシグナムさんとの初対面の記憶は苦いものにしてしまった。これは僕のせいだ。

 炎を使っていた彼女に、僕は悪感情を暴走させてしまったのだ。

 

 まあしかし、感情を抑えられないほどの強い衝動というのは、ある意味ではこれまでにない違いを生ませるキッカケにもなるわけで。

 

 シグナムさんとのイザコザは、シャッハ先生には隠し通しようもなかった。

 さくっと追求されて、僕はさくっと答えていた。

 

「シグナムさんはわたしより強いですよ。空戦S⁻(ニアエス)ランクです」

 

「そうなんですね…」

 

「炎を使う剣士で、あなたの母上よりも上のランクです。彼女を超えれば、あなたの胸のつかえは取れますか?」

 

 バレてる。いや、これに関してはバレバレだったか。

 

「わかりません。そうかもしれません」

 

「どうなるかはわからない。でも、それでいいじゃないですか。かつてのアシー先生を明確に超えたと胸を張り、一族最強を証明し、堂々と土をつけて去ってやりなさい」

 

「…そうですね。それは気持ちよさそうです」

 

 

 僕は、シグナムさんに勝ちたいのかも。

 勝って、この気持ちに決着をつけられるなら。

 

 火が付いた。いや、僕の場合は、風が吹き始めたと言おう。

 

 そこからの1年は、なんだか短かったというか、あっという間だったというか。

 とくに何も問題が起きずに僕はめきめきと強くなった、というか。

 

 もちろん、僕を鍛えてくれたのは、シグナムさんだけじゃない。

 他にもヴィータさん、ザフィーラさん、シャマルさん、リインさん。はやて。

 はやては魔法の訓練でしか会わなかったのでそこまでだったが、ほかのメンバーとは、何度も訓練で顔を合わせた。

 

 

 とくに空戦での技術向上は目を見張るものがあった。

 なにより、ヴィータさんやシグナムさんのような強者と、空で戦うのは楽しかった。

 

 

 

 

 気づけば、季節はまた巡り、初冬。

 僕は名実ともにAAA+ランクに手をかけていた。

 

 はやての持つ、ロストロギア"夜天の魔道書"、今は蒼天の書だったか、ややこしいのでどっちか確証はないが、そこに蒐集されていた魔法を、いくつか僕は教えてもらっていた。

 上級キャリア試験に受かるために、高ランクの騎士を教育した実績をはやては得られるし、僕は高度な魔法が得られる。僕は運が良かった。

 

 

 いつもとかわりないフェディキア教会騎士団の練兵場だが、僕のテンションは違った。

 心が躍る。なにせ、魔法を好きなだけぶっぱなせる日だったからだ。

 

 ぐんぐんと魔力が放たれるミッテルメッサーから、さらにカートリッジが消費される。

 深緑の魔力光が放射状に溢れ出る。

 僕を中心に、激しい竜巻が生じている。

 こんなにもフルパワーで風を圧縮することなど、かつてない。

 周囲の砂や小石、埃を巻き上げ、激しく衝突するそれらは熱され、暖色系の色味が付いていく。

 

 この魔法ははやてが僕に紹介してくれた中で、是非とも習得したくなった逸品だ。

 

 魔法を練り上げる最中は、この竜巻で身を守ることができる。

 

 だから僕は悠々と豪風をまとめあげ、さらにここから、はやての指示にひと工夫を付け加える。

 僕に馴染んだこのウォー・ダートを、文字通りこの攻撃の"軸"にする。

 元の技から、できうるかぎり威力を上げてやる。

 

 

「"ツュクロトロン・ブラツァー(サイクロトロン・ブレーザー)"!」

 

『"Zyklotron Blazar(旋環烈閃)"』

 

 

 放つ。ありったけの魔力を込めた疲労感が、どっと押し寄せる。しかし、手応えはあった。

 

 巨大なスパイラル状の猛威と化した、橙色のトルネードは、バチバチとダストプラズマを引き連れて。

 著しい回転を伴うダートとともに、目標に命中した。

 着弾と同時に、ダート内のカートリッジも炸裂。内部で破壊を誘う。

 

 

 戦闘固定のされたフィールドがビリビリと揺れている。

 古い戦艦の装甲をいくつか重ねた廃材が、バキバキに壊れてしまった。

 

 とてつもない威力だ。

 ほんの少し、それを行使した自分に恐れを抱く。

 対人攻撃どころではない。

 戦車や戦艦にだって直撃させられれば、きっと惨事をまねく。

 

 

「さすがは"風圧"の変換資質持ちや。同じ魔力量つこても、ウチじゃこないな威力は出せへんやろなぁ。発動もあっちゅうまやったし」

 

 そしてこの光景をみてもピンピンしているはやてに、ちょっぴり怖れを抱いていたのは内緒だ。

 初めてこの規模の魔法を撃った。やっと僕にも許可が降りたのだ。

 新しい世界の幕開けを、ひとりよがりに感じていた。

 

 僕を監督していたヴィータ、シグナム、はやての会話が、右から左に流れていく。

 

「ついにここまで来たかー。ランクAAA+の魔法を、実戦レベルで。なあシグナム、もう"アイツら"とも戦えるんじゃね?」

 

「かもしれん。どちらと戦っても面白いが……スタイルが似ているテスタロッサとの方が、食らいつけるか?」

 

「なのはとは、"当たる"かどうかですぐに決着がつきそうだしな」

 

「もしかしたら実現するかもしれへんなぁ」

 

 意識がようやく現世に降りてきた。

 

「あの~、なんの話をしてるんですか?」

 

「あのな、アンス君と似たような戦い方する娘がおってん。戦ったらどうなるんやろ~って」

 

「はぁ……」

 

 はやてはデバイスを振って、ホロ映像をこちらによこした。

 金髪で、ツインテールで、なんとも目のやりどころに困るようなバリアジャケットの、女の子だ。

 しかも、とんでもなく。

 

「…かわいい」

 

「あらら~? もう一度言ってみ、言ってみ?」

 

「なんでもないッス」

 

 余計なことを子だぬきに聞かせてしまった。

 

「で、なにが実現するてんですか?」

 

「あれ? きいてへんの?」

 

「何を?」

 

「うーん、シャッハさんが……。いや、そゆことならシャッハさんから教えてもろて。私の口から言うていいのかわからへんもの」

 

 

 

 

 翌日。僕はシャッハ先生と模擬戦をした。

 

 空戦かつ魔法戦の条件なら、シャッハさんを防戦一方に抑えることもできるようになっていた。

 自分の力の伸びを実感して、同時に思い知った。

 

 これほどのチカラを、ヘタをしたら以前の僕のようなガキが扱えたのだから。

 周囲が僕を持て余したのも当たり前だ。

 

 シャッハが僕を鍛えようとしたのは当然だ。

 そう心から納得したのだ。

 

 

「このデキなら問題はなさそうですね」

 

 ぐびび、と気持ちよさそうに水を呷って一服したシャッハ先生が、突然そう言った。

 

「何のハナシでしょう? 昨日もはやてが僕に何かを言いかけてたんですよね。そろそろ教えて欲しいんですが。何を隠してるんですか?」

 

「アンス、管理局の戦技披露会を知ってますよね?」

 

「はい、テレビで見たことありますよ」

 

 時空管理局が主催する戦技披露会は、恐らく世界一有名な武闘大会の一つだ。

 トップオブトップの実力者が集まる次元航空部隊の中でも、生え抜きが戦いを魅せる。

 この"トップオブトップ"はあまり軽々しく用いてよい言葉ではないが、今回ばかりは適切な使用例だ。

 無限に広がる次元世界から、次元航空部隊にはワールドクラスの精鋭が集まっている。

 その中の上澄みが出張ってくる。

 世界最強決定戦だと評するものも大勢いる。

 

「あなたも出てください」

 

 シスター・シャッハは僕の素っ頓狂なリアクションを期待していたのだろうが、その時点では、不思議とそこまで興奮はしなかったのだ。

 

「来年の夏の、終わり頃ですかね。時空管理局主催の戦技披露会に、教会騎士団も若手を送ることになりました。フェディキアからはあなたを含め数名が推薦される予定です」

 

 ピンとこないなぁ。

 

「実感が沸かないですか? ですが、きちんと身の丈にあった魔導師ランクを取得できれば、あなたは出場確定だと思いますよ。それを見越して鍛えてきましたから」

 

 最近の八神一家の集中講座は僕の出場を見越しての根回しがあったからか。

 納得のいくシゴキだった。

 

「驚き過ぎじゃないですか、アンス。まったく」

 

 いや、僕は実感が全くなくて、しょぼい反応しかできなかっただけですけど。

 

「僕が出てもいいんでしょうか?」

 

「来年の晩夏に開催される、U-17(アンダーセブンティーン)の部に出てもらいます。フェディキアにおいて、あなたのライバルになるような選手はいますか?」

 

「ケイマン……は19か。ミューズも18。あれ、じゃあ」

 

「はい。私の目から見ても、フェディキアにはあなたを脅かすライバルはいません。まあ、だからこそあなたのモチベーションを上げるのに苦労してきたわけですが」

 

「モチベーションを持ち出すなら、なんでもっと早く教えてくれなかったんですか?」

 

「そりゃあ、あなたが、はやてさんの魔法を習得できなかったら、落ち込むからですよ。意外とナイーブなところがありますからね」

 

 うぐ。そうか、年のはじめの頃は、たしかに僕は元気がなかったからな。

 

「気を使わせてしまって、すみません」

 

「いいんです。あなたは期待に応えました。というか、出ますよね。出場しますよね? この流れで断らないですよね? 私もう、管区長にはその旨で打診してますからね」

 

 なんで勝手に。

 

「あ、いや、ちょっと、ちょっとだけ、時間くださいよ、流石に」

 

「ぐぬぬ。これまで黙っていた罰だとでも言うつもりですか?」

 

「いやそんな穿った見方しないでくださいよ。ほんとに、少しくらい冷静に考えさせてくださいよぉ」

 

 

「アンス、師匠命令です。世界を知ってきてください。欲のないところがあなたのいいところではあるのですが、もうちょっと上昇志向というものを持っても良いでしょう。わたしの弟子として、世界を驚かせて見せるときです。ハイデンの神童を、フェディキアの神童に変えてみせなさい!」

 

「は、はい」

 

「理解できていないようですね。次元世界中のトップオブトップの才能を持つ実力者が集まります。

どれほどこの機会を熱望するものがいるか、想像がおできにならないと? またとない機会なのですよ」

 

「あうう」

 

「強敵が目白押しです。あなたより若くして、あなたより強く、あなたより素質を持つ者と。戦ってみたくはないのですか?」

 

 な、なんだよ。

 強さを求めるのは手段で、心を鍛えろって言ってたのはシャッハ先生の方じゃないか。

 

「……かならず、近日中に返事をするように!」

 

 ぷりぷりと怒って、シャッハ先生はどこかに立ち去ってしまった。

 これは僕が悪いのか?

 

 

 

 

「テレビで見たことあります! ニュースでも毎年ききます、アン兄様、すごいですぞ!」

 

 最近のヴェスタはクラスの"ダンシ"に影響されてか、ときおり言葉遣いが壊れる。

 アシー母上には注意されているものの、僕の前だと躊躇しない。

 

「やれるところまでやってみるよ。がっつりテレビには映ってみせる。ヴェスタにだけは見てて欲しいな」

 

「ぜったい見ますぞ!」

 

「お、お願いしますぞ」

 

「かしこまりなのですぞ」

 

「……ねぇ、その色々教えてくる"ダンシ"って、誰? ひとり?」

 

 

 

 僕はルノアちゃんにもついでに話してみた。話のタネとしては、とても面白いかと思ったのだ。

 

「絶対見ます! ……応援する!」

 

 手をギュッと握られた。カザル君が硬直している。

 珍しく力強い言葉を発したルノアちゃんに対してなのか、よその男の手を握っている事象に対してか、どっちかわからない。どっちもかな。

 

 想像してたよりも前のめりで応援してくれそうだ。

 僕は照れて、ぶんぶんと握ったままの手を振ってごまかした。

 

「ありがとう、やるだけやってみるつもりだよ。もし出場できたら、ぜひ見てくれ」

 

「…いつあるの?」「来年の夏」「ながい……」「まぁ、ね」

 

 

 

 

 

 

 僕はこんなにも直接的に、誰かに応援されたことって、あっただろうか?

 デバイスマイスターの資格も、剣術の上達も、僕が自分で必要だと考えて、勝手にやってきたことだ。

 ……トップオブトップの人達と戦う。これからの準備は、容易くはないはず。

 でも。やってみようかな。

 

 スコダ流を継げなかった俺の武技が、どこまで世界を席巻するか……?

 

 "そのとき"ってやつが、まさか本当に来るなんて、信じていなかった。

 そのときってやつが来るにしても、もう来るのかよ、って二の足を踏みそうになる。

 こんなにいきなりやって来るとは思っていなかった。

 でも、そんなものかもしれない。試練は、突然やってくるんだ。

 

 立ち向かってみせるか。

 

 

 

 

 

 

 

「高ランク志願者必修訓練キャンプ、ですか?」

 

「そうです。次にあなたが受けるランクは私のランクを超えますからね。どう考えても私の一存で決められないのは想像できるでしょう」

 

「そのキャンプをクリアしないと、受けれない?」

 

「そうです。これはフェディキア教会騎士団独自の慣習のようなものですね。本来、空陸を問わず、AA以上のランクを受ける者は、この訓練課程を修了しなければ管理局のランク試験を受験できません」

 

「あれ、でも僕は」

 

「あなたは幼かったので、キャンプが免除されていたのですよ」

 

「…ってぇことは」

 

「はい。ゴリゴリの体力勝負の訓練です。魔力が尽きた状況や、使えない状況が想定されています。魔法抜きの状況でも戦えるように、みっちり指導されるのですよ。無論、巷では地獄のサバイバルキャンプだとか言われて、大変評判が悪いですね」

 

 なるほど。あからさまに体力のない年少者には課されないレベルの地獄が待っている、と。

 

「…ってぇことは?」

 

「これから身体づくりですね。頑張りましょう!」

 

「ふぁ、ふぁい…」

 

 ただでさえ、通常の訓練でシャッハ先生に走らされたりしているのに、もっともっと、か。

 少し後悔かも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 年が明けて、14歳。

 僕はキャンプに挑んだ。

 

 

 

 フェディキアの原生林にまでやってきた志願者と訓練教官は、鬱蒼と茂る森を、ざくざくと背嚢を背負って歩く。総勢20名とちょっとだ。

 

 全員がAかBのどちらかのチームに分けられ、定期的に遭遇戦を行う。紅白戦だ。

 勝てば楽ができるルールなので、ぶっちゃけ、誰も手加減なんぞせず相手をボコボコにする気マンマンである。

 

 

 訓練教官は、フェディキア教会騎士団の戦務長のひとり、ジーケンさんだ。

 

 奇跡的に、僕のチームにはケイマンとミューズがいた。ほんとにびっくりだ。

 

「ったく、やべーよぉ。うちのチーム、ジーケンさんだぞ。アンス、ガチで敵減らしてくれよ。不利だぞ俺ら」

 

 行軍中に、ひそひそとケイマンが耳元に口を寄せてきた。

 

「そうなの? ジーケンさん、弱いの?」

 

「ふひー、ふひー」

 

「んなわけねぇよ、戦務長だぞ。ただ、最近戦務長になったヒトだからな。このキャンプの指揮をするのは初めてなんだそうだ。相手チームを指揮するのは大ベテランのギデオン戦務長だぞ。そういう意味でこっちが不利なんだよ」

 

「ふひー、ふひー」

 

 ミューズは言葉を忘れた豚のように、わざとらしく鼻息をつくばかりで、役に立たなそうだ。

 初日から得意の氷結魔法で身体を冷やしたいと言ってコッテリ怒られていた。

 もう身なりを取り繕う余裕もなさそうだ。

 

 ジャングルとまでは言わないが、険しい薄暗い森の中を僕らは歩き詰めだった。

 おかげで人の手の入ってない森を踏破するのは、かなり体力を使うのだと知った。

 脳裏に思い描く我が家の裏山の森は、もっと歩きやすい。

 いまなら誰かがちゃんと手入れをしていたのだな、と理解ができる。

 

「アンサルド、これが見えるか?」

 

 ジーケン戦務長に呼ばれて、僕は隊列の後ろにまわった。

 

 腐葉土の散乱する木の根元に、まっしろな謎の植物が生えていた。キノコのような、花のような、そんなに大きくない。珍しい見た目をしていた。

 

「銀竜草だ。別名、幽霊茸だな」

 

「ユウレイタケ。キノコなんですか?」

 

「いや、これで実は植物だ。光合成を辞めた植物と言われててな。木の根、正確にはそこにいる菌類から栄養をぶんどって生きている」

 

「光合成を辞めた…だからこんなに透き通ったような真っ白さなのか…」

 

「そうだ。栄養を完全に他者依存で摂取している。ここからどういうことが読み取れるか、わかるか? アン…言いづらいからアンスでいいか?」

 

「はい、みんなアンスと呼びます。…そうですね、菌類から……実質、生態はキノコと一緒ってことですよね。じゃあこの辺はほかの種類のキノコが多い?」

 

「その通りだ。あとは、銀竜草は受粉に地表棲の小型の虫を使う。そいつらも探せば手に入る。ここいらは湿気の多いエリアだということもわかるな」

 

「キノコって、サバイバルだとあまりアテにできないのでは?」

 

「なにも知識がなければな。だが、俺たちは図鑑程度の魔法の使用なら許可されているだろう?」

 

「じゃあ、キノコを見つけたら、採っておく?」

 

「そうだ。動物、とくに鹿や猪、兎などがいれば幸運だが、そうじゃない時もある。植物を食うとなると、樹液や若芽、根を食うことになるが……どれも量を採取するのに手間がかかる。キノコは見つけたらさくっとちぎるだけだ」

 

「果物は?」

 

「見つかればいいが、効率的に見つけるには、樹木を選んで探す必要があるぞ。地面が腐葉土なので探したが、ドングリが取れそうなブナ科の木は見かけていない」

 

「じゃあ……」

 

「そうだ、どのみち目的地までの道すがら、食べられるものがあれば採るしかない。今回はキノコが当たり目だった、というだけだ。柔軟に行動しなければな」

 

「わかりました」

 

「心配するな。デバイスにはキノコ同定プログラムが入っているぞ。ベルカ製のキノコ図鑑は次元世界でも最高水準だ」

 

「そうだったんですね」

 

「どうしてか知ってるか?」

 

「いいえ」

 

「むかしむかしの何代目かの聖王様が、無類のキノコ好きで、こぞって騎士に松の木の植樹と管理までさせたそうだ。太古の昔から、狩猟とキノコ狩りは騎士の任務だったというわけだ。ハハハ」

 

 ケイマンやミューズ、ほかの隊員たちまで、また始まったか、と呆れたようなジト目をしていた。耳にタコができるくらい、同じ話を聞いてきたのだろうか。

 

「きゃー! 蜂、蜂ッ!」

「蜂くらいで騒ぐな馬鹿者ッ!」

 

 

 

 

 

 

「くっそー、水取られちまったよ!」

「ねえー、どうすんのぉ~?!」

 

「うるさいぞお前ら。騎士がこの程度で動揺するな」

 

 相手は大ベテランの戦務長だった。僕らは思わぬ伏兵に挟撃され、さきほどの突発的な模擬戦で敗れ、罰として残り少ない飲み水を奪われていた。

 

「キノコは、見向きもされませんでしたね」

「誰が欲しがるんだよ、そんなもん!」

 

 

「止むを得ん、水場を探そう。時間を食うが仕方ない」

 

「それは賛成っすけど、どうやって?」

 

「さっき獣道を見つけてある。低地に向かっているほうに辿っていこう。複数の獣道が交差するようなところが見つかれば、水場に繋がる可能性が大だ」

 

「了解」「了解っす」

 

「鹿の足跡やフンも見つけたら教えてくれ。鹿は夜明けや夕暮れに水を飲む。ちょうど今頃だ」

 

「了解ですー」

 

 

 

 

 僕らが獣道を下り、水場を探す途中だった。

 夜目が効くという先頭を歩いていた隊員がハンドサインを出した。

 

 猪が道の先にいたようだ。

 何かを夢中で食べているらしい。

 

 

 誰が殺るか、で無言の会議が始まる。

 目線だけで何かが決まっていく。

 そして、周囲の視線が僕に集まっていた。

 

(断れねえよ…)

 

 キャンプの開始前に軽いレクチャーは受けている。

 ダートを手に取り、脚に消音のための風を纏わせる。

 

 小声で誰かが crease shot と言った。

 僕は頷き返す。

 よかった。言ってくれたおかげで、思い出せた。

 

 狩猟におけるクリースショット(Crease shot)とは、鹿やイノシシなどの大型獣を真横から狙う際、前脚の付け根(肩の後ろにある皮膚の折り目・シワ=Crease)のすぐ後ろを撃ち抜くバイタルショットで、クリーンキル(人道的に仕留める)するなら真っ先に狙う箇所の一つ。

 

 とにかく素人はそこを狙え、と習った、あの授業を思い出して。

 猪を遠目に、集中を練り上げる。

 

 撃つ。

 

 命中。とりあえず当たった。当たった!

 

 だが、得物は走っていく。慌てて駆け出す。

 

「大丈夫だ、アンス」

 

 後ろから声がかかる。困惑しながらも走るスピードを落とすと、10mも走らず猪は動けなくなっていた。

 

「首の頚動脈を斬れ。お前が楽にしてやれ、ほら」

 

 手渡された狩猟刀で、言われた通りに実行する。めちゃくちゃ臭かった。

 

「猪に麦を荒らされたら、その部分の麦も臭くて食えなくなるって聞いたことがあるが、納得だな。肉は美味いんだがなぁ」

 

 ジーケンさんが手早く処理をしていく。

 その後、いくつか獣道を見つけたので、水場がある前提でチームは動いた。

 やがて本当に小川を見つけた僕らは、そこで休息を取ることができた。

 水と肉とキノコと塩。あとそのへんに生えていたジュニパーの実(練兵場に植樹されてる木の匂いとソックリで驚いた)と、戦務長が持っていたブランデーで作った鍋は、覚悟していたよりは食べられる味だった。

 

 次の日の晩、今度は僕らが模擬戦で勝った。

 その次の日、最終日。

 僕らより明らかにヘロヘロだった敵チームをボコボコにして、僕らはキャンプを終えた。

 

 僕らのチームから脱落者はでなかったが、相手チームには数人がリタイアしたとのこと。

 長丁場の訓練だったから、水不足に適応できなかったようだ。

 

 訓練課程はすべて終わった。

 あとはミッドチルダで魔導師ランク試験を受けるだけ。

 

 開放感が心地よかった。みんな浮かれて、キャンプファイヤーを囲んで、ゆったりと宴の準備をしている。

 

 

 嘘だ。

 

 僕はジーケン戦務長に指名されて、大多数の隊員が酒盛りをしている中、せかせかと飯炊きの準備に駆り出されていた。

 

 なんでも、メニューはサイドディッシュにマッシュポテトとキノコのソテー、猪のグーラッシュ(スープ)。メインディッシュはハンブルグステーキだ、とのこと。

 

 けっこう手間がかかりそうだ。というか、だから正直、忙しい。

 僕が年齢的にイチバン下っ端だから、雑用するのは構わない。

 

 でも、人員が少なすぎないか。僕の他にはジーケンさんの副官をやってる料理好きだというお姉さんしかいない。

 

 野外キャンプでマッシュポテトを作るっていうのに、ジーケンさんは『ジャガイモを30分低温調理する』とのっけから言い出して、僕は必死こいて準備に取り掛かっていた。

 普通に茹でちゃダメなのか…?

 

 焚き火の炎を直に当てないようにあれやこれやイジっていた戦務長が、言った。

 

「ひもがないな。靴ひもをくれ」

 

「え? 予備はテントの背嚢の中で」

 

「今結んでるのでいい。はやくよこせ」

 

「じゃあ、うんしょ、はい、どうぞ」

 

「……よし。うちの支給品の靴ひもはな、超高耐熱超伸縮の一級品だぞ。こんな焚き火程度なら、くべたって問題ない」

 

「はぁ…」

 

 いや、僕が戸惑ってるのは、そんな理由じゃないっすから。

 

「おまえんとこの会社が造ってるんだぞ、知らないのか?」

 

「知りませんでした……」

 

「セルロースは85度 ペクチンは80度で分解が始まる…」

 

 ブツブツと解説されるも、僕の頭の中には入ってこない。

 

(俺がさんざん森の中を歩き倒した靴の、靴ひもで、そんな、みんなの晩餐の、調理器具を……)

 

「おもいっきり火に触れとるだろうが。加熱消毒だ」

 

 心の中を読まれていた。

 

 

 

 

「ジャガイモを漉し網で潰すのは、垂直に1回、細胞を崩さぬよう心がけること」

 

 お手本の潰し方を実演される。僕が見よう見まねでやりだすと、ひとつふたつコツを説明されたが、そこから先は『まかせたぞ』と言われてしまった。

 

「マッシュポテトを作るのにフードプロセッサーを使っているレシピ本はゴミ箱に捨てろ」

 

「うっす、戦務長!」

 

 戦務長は巨大な牛肉のブロックと格闘し始めた。なんて包丁さばきだ。

 騎士とは……。

 

 

「なんつーか……"新兵と戦務長"って光景じゃねンだよな」

「どう見ても"新米と料理長"ってカンジだよねぇ~?」

「しっ、聞こえるぞ」

「おい、無駄口を叩いとるってことは、たまねぎはすりおろし終わったんだろうな?」

「はへっ、20人分もそんなすぐにおわらないっすよぉ~! ……ぼそぼそ」

「なんか言ったか?」「全速力でやってまっす!」

 

 ケイマンやミューズたちもちょこちょこと手伝いを頼まれてるようだ。

 すこし鬱憤が下がった。

 

 

「ジャガイモ、終わりましたっ!」

 

 僕はアツアツのいもが冷めてしまうのが忍びなく、言われるまでもなく集中力全開で、全速力でやってしまった。

 

「はやいな! ……手は抜いてないようだな、やるじゃないか」

 

 なんて朗らかな笑顔か。

 行軍中でもこんだけ褒められた記憶はないぞ。

 

「次はひき肉の用意だ。包丁で直接叩いて、歯ごたえのある肉にする。見てろ」

 

 無言でひき肉を渡される。さわってみる。

 このくらいの柔らかさだぞ、ってことなのかな?

 

 

 ちょっと離れたところの、コソコソ話をまた拾ってしまう。

 

「ジジイ、ついに野外でひき肉使いだしたか~(笑)」

「切って焼くとかじゃねんだよあの人」

「お子さんに作ってるレシピなのかな? あ、アンス君がいるから?」

「ガサツなやつは邪魔だからって調理場から追い出されるけど、おかげでこうしてゆっくり酒が飲めるわな」

「アンス、一度見たことは器用に真似してくっからな。……この状況だと決して羨ましくはないが」

 

 みんな、酒飲んで言いたい放題言ってやがる。羨ましいぞ。

 

「手触りは覚えたな? ほかの肉も頼む」

 

「う、ウス、料理長」

 

「だれが料理長だ、馬鹿野郎っ」

 

「あだっ、つい。失礼しましたっ」

 

 まわりがどっと沸いた。照れ隠しのパンチもピシリと肩に飛んできた。

 

 さっき芋に入れる塩の量を間違えたときのほうが威力が高かったですぞ。

 

 ケイマンがコソコソ漏らしていたグチがうつっていた。

 

 こういう新しい場だとつい風を使って遠くの会話声まで聞いてしまう癖があるが、それが悪い方にでてしまった。

 

 

 

 

 そして、ハンブルクステーキづくりは佳境に入っていく。

 

「たまごはふんわりさせるためにいれるが、入れると肉の味が薄まる

 たまねぎは生のままだと肉の臭みを消せるし、冷やす手間もなくせる。

 すりおろすしたものもいれるとたまごをいれなかった分のフンワリ感が出せる。

 肉は少しだけこねる。練れば滑らかになるが、肉々しさはなくなってしまう。

 気をつけろ、そのために手で粗いひき肉にしたんだからな。

 肉は絶対に冷やしておく。ぬるくなると決着力がなくなってしまうからな……」

 

(あれ、そんなに冷えてたっけな)

 

「なんだこの肉は?! おい! 冷やせといったろう! なにをしとる、ミューズ! 冷やせ!」

 

「あっ、んにゃ?! はッは~い!」

 

 酔ってよだれを垂らしていたミューズが、千鳥足で駆けてくる。

 つまみのチーズの匂いが、お酒の匂いと混じって吐瀉物チックな……。

 

 

「ハンブルグにひとつだけ欠かせない素材とは何かと言われれば、塩だ。そのぐらい大事だぞ。

 塩にはタンパク質を溶かして肉同士をくっつけたり、溶けた蛋白質が水分を抱えさせてジューシーにさせる役割がある。

 極端な話、ひき肉と塩をねっただけでハンバーグはできる!」

 

「なるほど!」

 

 

「パン粉には肉汁を保持する役割がある。牛乳に浸して入れるレシピもあるが、肉汁を保持してくれなくなるし、キャンプに持ってくるのは面倒だから今回はいれないがな。肉汁がほしいならゼラチンやスープを入れるのも手だ」

 

「ほお」

 

「どうだ、お前さんは?」

 

「はっ、はい?」

 

「キャンプだしな、いつも食べるハンブルクとは違った、野性味のある風味のほうがみんな喜ぶと思うか?」

 

「そうですね。猪の肉、意外すぎるほどおいしかったですし」

 

「よし。じゃあ、あっちでお前がとった猪のあまりでグーヤッシュ(アイルランド風スープ)を作っている。スープストックを少しもらってこい。ゼラチンと一緒に混ぜ込んでみよう。いそげ」

 

「あ、はいっ」(アワアワ)

 

 なんだこの誘導尋問みたいなのは。自分が言い出したことだから断れねえ。

 

「たった10回こねる程度だ。厚さは火の通りを均一にするため2cm。

 形成がいのちだぞ。この段階で端に亀裂があると焼くときに必ず割れて肉汁が漏れる」

 

「あれ、確か、ハンブルクの肉タネって、中央をヘコませるんじゃ?」

 

「その通りだ。だが、今回はたまごをつかっていないので、タネの中心はへこませる必要がないんだ」

 

「あえー、なんでも理由があるんですね」

 

「フフ。よし、焼く前に確認だ。

 ひき肉なので中心温度75℃で1分以上の過熱が必要だ。

 なのでかならず途中でフタを使って焼く。

 そしてステーキとは違って、ハンバーグはかならず予熱した鉄板で焼く。

 そのほうが美味しくなるからだ。これは科学的な研究でも証明されている。

 つまり火加減の調節ができないBBQでもハンバーグは輝く、状況にマッチしたチョイスなのだ、 いいな?」

 

「お、押忍」

 

 やべえ、しっかり外野の愚痴も聞いてんぞ、この人。おとなしくしとこ。

 

「しまった。忘れていた。アンス、また頼まれてくれ」

 

 僕はとことこと酒盛りをしていたメンツに近づいて、ケイマンを探した。

 

「ケイマン、料、戦務長がケイマンが持ってるはずの"シェリー"っての取ってこいって」

 

「へあ? あ、ああ、あ……ほら、コレでいいか?」

 

 ワインを渡される。僕は料理…戦務長の指示で持ってきたグラスにそいつをちょこっと注いだ。

 

「これ、赤いし。赤ワインってやつじゃない? 琥珀色って戦務長は言ってたけど」

 

 ケイマンがうなだれた。となりの隊員に肩をつつかれている。

 

「だから飲んどけっつったろ」

 

 そう言われて諦めたのか、悲しそうなケイマンは、大きめのスキットルを取り出した。

 

「この日のために3日間、我慢したのに…全部使わないでくださいよ、って言っといてくれ」

 

「言うだけ言っておく」

 

 焼くのは20人分だぞ、なくなるだろコレ。

 

 

「高温で短い時間で仕上げないと脂っぽくなるしジューシーさがなくなってしまう。

 中火で3分片面を焼いて、焼き目をつける。このときフタはしなくていい。

 そしたら弱火で鉄板の温度を下げて、酒を加えて、初めてフタをして蒸し焼きにしていく」

 

 戦務長がステーキソースを作る合間に、キノコのソテーを仕上げていく。

 ケイマンの酒がフライパンに全部消えていった。

 おお、すんげーいい匂いがするな。僕でもそれくらいはわかった。

 

 

「料理酒はハンバーグにかけないで周りにかける。

 5分蒸し焼きにするぞ。

 ハンバーグの中心が盛り上がっていたら火がとおっている合図だ」

 

「ああ~、めっちゃいい匂いですね!」

 

「フ……ついにこの日が来たか。俺も昔、このキャンプを受けた。そのとき、何を食っていたかわかるか?」

 

「い、いえ。まったく」

 

「ベーコンや玉ねぎ、ポロネギ、にんにくを炒めてな。それをどうするのかと思えば卵をぶっかけて、ベルカ風オムレツ。いわゆる"農夫の朝食"、朝飯の定番だ。そいつを夜も朝も昼も食わされた。3度も。いやなら缶詰だ」

 

 別にそれでいいじゃん、と思ったが、そんなことは絶対に口にすべきではないと思えるくらいには、僕だって頭は回る。

 

「3度はキツいっすね…」

 

「その通りだッ! 俺は……ベルカ人だが、ミッド生まれミッド育ちだ」

 

「あ、そうだったんですね」

 

「こじんまりとしたレストランだが、オヤジがシェフをしていてな。いろいろと叩き込まれた」

 

 それでなんでこんなところで包丁じゃなくて両手剣を握っているのか、と聞いたら聞いたで長話が始まりそうだったので、極力その方面には触れないようにする。

 

「ベルカ人の……ベルカ文化の、食へのこだわりの無さには嫌気がするッ!」

 

「そ、そうなんですか。僕はフェディキアから出たことないので…」

 

 俺たちってこだわりなかったんだ。

 

「遥か昔は、我らベルカ人がミッド人を『粥食いの蛮人』と馬鹿にしていたと聞く。だが、すぐにベルカでは戦乱が続き、酒を生(き)で呑む蛮人だとミッド人から揶揄されるほどに、立場は逆転した……。食文化だってバカにはできんのだぞ、それで偏見を持たれ、民族蔑視の風潮で血が流れた歴史だってある」

 

「そこまでだったとは…」

 

「子供を学校に通わせて思い知ったんだ。俺たちは、ミッドとは根本的に食への意識が違う、とな。ベルカにだって豊かな食文化はあるんだ。シュトゥラやガレアは飯はうまいぞ。そういえばスコダもそちらよりだったか。社食を頂いたことがあるが、良かったぞ」

 

「え?! 社員でもないのに、ウチの社食を?!」

 

 僕だって1、2度しか食べた記憶があるかどうか。

 

「俺はな、フェディキアの給食文化を変えてみせるぞ。まずは教会騎士団の糧食からだ。フフフ……」

 

「なるほど…尊敬します、料理長」

 

「おう……って、だれが料理長だッ」

 

「あッ。すみません、また、つい」

 

 

 ミューズたちが気の毒そうにこちらを見ていた。

 

「あんな高説をタレてくるのが料理長じゃないの、ほんとバグってんだよな…」

 

「かわいそうに」

 

 あ、またあの呆れた顔だ。見覚えがある。行軍中にもなんども見た仲間の表情だ。

 

 そこで僕はハッとした。

 ……待てよ? これまでの話から推察するとぉ……。これまでのジーケンさんの語りって…。

 

 僕はてっきりサバイバルキャンプの教官の"教育指導的解説"だと思って聞いてきたが……。

 

 ただ単に、料理に異常な執着をみせる中年のオジサンの"ひとりごと"だってこと?

 

 ちょ、ちょっと待て。それだと、ハ、ハナシが変わってくるじゃねえかッ!?

 

「よし、焼けたな。アンス、手伝ってくれてありがとうな。一番乗りはお前だ。もってって、食っていいぞ!」

 

「あ、あざっす」

 

 

 

 

 

 というわけで、メインディッシュは僕とケイマンが1番乗りで貰い受けた。

 

「はい、ケイマン。料理長が『酒の提出、感謝する』って」

 

「だはは!」

 

「あぁ~、ずるっこだぁ~」

 

 ケイマンにプレートを渡す。肉食獣の瞳でミューズが狙っていた。

 

「もう、じきに次々と焼きあがるよ。あと、余った肉はミートボールにしてスープに入れとく、って」

 

「マジかよ、いいこと聞いたぜ。てか、デッカ! こんなでけぇハンブルク食ったことねえよ」

 

「ケイマンのお酒はソースに化けたよ。カラッポだ」

 

「だろうな。だから俺がそうそうにありつけるってことか…もぐ、美味ッ! ウマ!」

 

「おお、マジで美味い。このキャンプでこんなご飯が食べられるとは思ってなかったよ」

 

 行軍中は必死こいてキノコ漁ってたから、僕には特にオドロキだ。

 

「さすが料理長、味もバグってんぜ」

 

「アンスくぅ~ん、ひとくち、ひとくち!」

 

 ハンブルクステーキはたしかにデカい。食べたら満腹になるだろう。

 ひとくち分あげたってダメージにはなりそうもない。

 

「ミューズ…ほんとにひとくちだけだからね」

 

「ありがとん! ンマ~!」

 

 

 あれだけネタにされてはいたが、料理長の料理は大人気で、鉄板の前に行列ができていた。

 

「わたしもいってくるぅ~!」

 

 わらわらと夕飯のプレートを手にした他の隊員も集まってくる。

 なんにせよ、ほかのチームの人ともこれでゆっくり話せそうだ。

 

「アンス、飯の準備ありがとな!」「いえいえ」

 

「お前、戦技披露会にでるんだってな?」

 

「うっす、たぶん、出れると思うんですが」

 

「いやいや、ほぼ確でしょ!」

 

「応援するぜ、フェディキア魂みせてくれよ!」

 

「ミッドの射撃オタクに負けんなよ~」

 

 代わる代わる声をかけられて、お酒を注がれたり、お菓子をもらったりして、僕はいろんな隊員と会話を楽しめた。

 楽しい夜は更けていった。

 

 早朝、料理長に朝飯の支度でたたき起こされるまでは。

 

 

 

 

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