身喰らう断章 作:石鹸
私の原初の記憶にある、かすれた記憶。
はじまりは、見慣れない男たちが村の入り口付近でいざこざを起こしていたことだった。
偶然、私はその場に居合わせていた。
激高した男たちは、私を人質に使おうとした。
怖い顔。
伸ばされる手。
乱暴に身体へ触れた感触。強い恐怖と、汚いものに触れられたような激しい嫌悪感。
当時六歳だった私には、抵抗することもできなかった。
簡単に捕まって──そして男の身体が、『溶けた』
そうだ、溶けたのだ。
触れたところから何かがおかしくなって、男は形を失った。
悲鳴。
聞いたことのない絶望が乗った声。
そして──そうだ、泡。
泡になって。
消えて。
そこから、そこから──
エーヴェル村集団失踪事件 被害報告書
事件発生地
リベール王国ロレント地方 エーヴェル村
発生日時
記録上、七耀暦1196年8月13日夜半から翌朝までの間
報告作成者
王国軍ロレント方面駐屯部隊・調査班
一、被害状況
エーヴェル村に居住していた住民全員の所在が確認できない。
村の戸数および住民台帳から推定される失踪者数は──名。
現在まで、生存者・遺体ともに発見されていない。
なお、事件発覚時、村内の建造物および生活用品の大部分は原状を保っていた。
二、村内の状況
以下の異常が確認された。
・家屋に大規模な損壊なし。
・火災の痕跡なし。
・武器による戦闘痕は軽微。村の入り口周辺に集中。
・魔獣による襲撃痕なし。
・血痕および明確な負傷者の痕跡なし。
・金品および物資の大規模な持ち出しなし。
・村外へ向かったことを示す足跡は確認できず。
・家屋内には食事、衣類、生活用品等が残されている。
・一部の家屋では、食事の準備中だったと思われる状態が確認された。
以上から、住民が自発的に村を離れた可能性は低いものと判断する。
三、周辺調査
村周辺の街道、森林、河川および近隣集落について捜索を実施。
失踪者と一致する人物は発見されなかった。
外部からの侵入を示す明確な痕跡も確認されていない。
ただし、事件発生から調査開始までに一定の時間が経過しているため、これをもって第三者の関与を完全に否定することはできない。
四、原因
現時点では原因を特定できず。
通常の魔獣被害、盗賊等による襲撃、火災その他の災害によるものとは考えにくい。
特に、人的被害の規模に対して物理的な破壊がほぼ存在しない点については、既知の事件と比較しても極めて異例である。
導力器具、毒物、未知の薬物、特殊な現象等を含め、引き続き調査を行うものとする。
五、暫定判断
本件を「エーヴェル村集団失踪事件」として登録する。
事件原因については未解明。
住民の生存可能性についても現時点では判断不能。
捜索は継続するものとする。
六、追記
事件発生後の村内捜索において、住民以外の人物が滞在していたことを示す明確な証拠は発見されなかった。
また、村内において特異な物質・装置・遺留品等は確認されていない。
本件については情報の錯綜を防ぐため、未確認情報の外部への流布を控えるよう各関係機関へ通達する。
以上。