深夜の旧調査兵団本部で、アニ・レオンハートはしばらく黙ったまま、目の前に置かれたカップから立ち上る湯気を見つめていた。逃げようと思えば、そう考えること自体はできるが、身体はすでにディエゴの支配下にある。
先ほどまで自分は人間の姿ですらなかった。命令されるまま恐竜へ変えられ、誰にも見つからずこの部屋まで歩かされ、窓から入り込んだところでようやく元の姿へ戻された。それだけでも、今の自分に力ずくでこの男へ逆らう余地など残されていないことは十分に理解できた。
アニは諦めたように椅子へ腰を下ろすと、まだ温かいコーヒーを一口飲んだ。舌へ広がった苦味を確かめるように少しだけ黙ってから、カップをテーブルへ戻す。
「全部と言ってもね……何から話せばいいんだい?」
ディエゴは脚を組んだまま、少しだけ考えるように視線を上げた。
「そうだな……まずは、お前たちの故郷について聞こうか。ええと、確かマーレだったか?」
その名前が出た瞬間、アニの指が僅かに止まった。
「そこが何なのか、この島とどういう関係なのか、それからお前たちがここへ来た目的。その辺りから始めればいい」
「……どこまで知ってるの?」
「あっあ〜〜…立場を間違えるなよ?」
ディエゴが薄く笑った。
「質問するのはオレ。答えるのがお前だ。残り少ない寿命を縮めたくないならさっさと答えろ」
アニは一度だけ目を伏せた。それから覚悟を決めたように顔を上げ、知っていることを順番に話し始めた。
◆
海の向こうには、壁の中とは比べ物にならないほど広い世界があり、そこにはマーレという国家が存在する。アニたちはその国で生まれ、エルディア人という民族に属していた。
かつて世界を支配したとされるエルディア帝国、巨人の力、九つの巨人、始祖の巨人、そしてそれらを巡って何世代にもわたり繰り返されてきた争いについて、アニは自分が知っている範囲を話していった。
マーレにおけるエルディア人の立場も、その一つだった。アニたちは決して自由な身分ではなく、戦士候補生として育てられ、親や家族に認められるため、あるいは少しでもマシな生活を得るために巨人の力を継承した。
やがてアニは、ライナー、ベルトルト、マルセルとともにパラディ島へ送り込まれた。壁を破壊し、混乱へ乗じて始祖の巨人を探し出し、その力をマーレへ持ち帰ることこそ、自分たちへ課せられた使命だった。
島へ上陸した後、マルセルが死んだ。計画を続けるかどうかで揺れながらも、最終的には任務を継続し、ウォール・マリアを破壊して壁の中へ潜伏した。その後は訓練兵団へ入り込み、何年ものあいだ壁内人類の一員として生活しながら、その裏では自分たちが壊した世界の中で任務を続けていた。
そして、自分たちが奪おうとしている「座標」と呼ばれる力こそ、マーレが何よりも欲しているものであり、その正体は始祖の巨人にあるのだとアニは説明した。
話を続けるうちに、アニの声は少しずつ平坦になっていった。感情を殺しているというより、長い間自分の中へ抱え続けてきたものを、一つずつ机の上へ並べていくような話し方だった。
ディエゴは途中でほとんど口を挟まなかった。時折必要な部分だけを質問しながら、コーヒーを飲んで聞いている。
巨人の歴史、マーレの軍事力、エルディア人への差別、知性巨人の継承、始祖の巨人、王家の血、壁の外に存在する国家、船、兵器、軍隊。それまで壁内人類が知ることのなかった世界の形が、アニの言葉によって少しずつ組み上がっていった。
しかし、ディエゴの表情はほとんど変化しなかった。
アニはそれが気になっていた。自分がこの話を初めて聞かされた立場なら、もっと驚くはずだと思う。壁の外に人類が生きているというだけでも、壁内で育った者にとっては、それまでの常識が根底から崩れるほどの事実である。
ましてや、自分たちが世界から「悪魔」と呼ばれる民族であり、その外には巨人を兵器として運用する巨大国家まで存在していると知らされたのだ。普通なら、何かしらの反応が出て当然だった。
それなのに、この男は時々質問を挟むだけで、まるで最初から似たような世界を知っていたかのような態度を崩さない。
アニが一通り話し終えると、しばらく部屋に沈黙が落ちた。ディエゴはカップをテーブルへ戻し、頭の中で情報を整理するように僅かに目を細めてから口を開く。
「つまり、こういうことか。知性巨人を何体か揃えたところで、今の壁内人類がマーレと正面から戦えば勝てない」
「そうだね」
アニは即答した。
「マーレには軍隊がある。あんたが知性巨人を数体手に入れたくらいじゃ、大きく状況は変わらないよ」
そこでアニは少しだけ間を置き、ディエゴの反応を窺うように続けた。
「始祖……『座標』を手に入れない限りはね」
ディエゴは顎へ手を添えた。
「座標、か」
「それにしても……あんた、反応が薄すぎない?」
「何がだ?」
「壁の外に国がある。海の向こうにも人間がいる。ここの人間にとっては、それだけでも全部ひっくり返る話のはずだよ」
「別に。壁の外に人間がいることなら、ガキの頃から知ってた」
その言葉に、アニの表情が止まった。
「……何だって?」
「ああ…今思うとアレはお前らか…ま、どうでもいいがな…
それに、海の向こうに人間がいる程度の話なら今さら驚かない。世界が自分たちだけで出来てるなんて考えの方が、オレにはよほど奇妙だ」
「あんた……何者なんだ?」
思わず疑問が口から漏れ、ディエゴの目が僅かに細くなった。
「巨人化とは全く違う方法で人間を化け物にする力、それにあんた自身の身体能力……マーレにだってそんなものはない。壁の外にも、あんたみたいな人間が普通にいるわけじゃない」
アニはそこで一つ確信した。この男はマーレの人間ではないが、だからといって壁内人類と同じとも思えない。それなら、いったい何なのかという疑問が余計に強くなる。
しかし、それを続けて口にしようとした瞬間、ディエゴが僅かに身を前へ乗り出した。
「オイオイオイオイ、誰が質問していいって言ったよ」
声そのものは穏やかだったが、アニは反射的に口を閉じた。
「質問するのは、このオレだ」
アニは黙ったままディエゴを睨んだ。それ以上聞いたところで答えるつもりがないことは分かるし、踏み込みすぎれば何をされるかも分からない。
ただ、一つだけ以前より確信したことがある。ディエゴ・ブランドーという人間は、マーレにも壁内にも存在しない何かを自分だけの内側へ抱えている。それが何なのかを、今のアニが知る術はなかった。
◆
ディエゴにとって、アニから聞いた真実は確かに重要だったが、それによって自分の進む方向を変えるつもりはなかった。
壁の外には巨大な国家が存在し、知性巨人を数体集めただけでは、その国家へ正面から勝つことはできない。それならば、より強い札を手に入れればいいだけである。
今まで知性巨人を集めようとしていた判断が間違っていたわけではなく、むしろ数が多ければ多いほど、「座標」とやらを手に入れるための手段も増えていく。
エレン、ベルトルト、アニ、そしてまだ手に入れていないライナー。その先に始祖の巨人まで加われば、何ができるのか。
アニの話を聞く限り、世界は自分が考えていた以上に広い。壁の中だけではなく、その外にはマーレがあり、さらに向こうにも別の国々が存在している。
世界が広いのなら、頂点もそれだけ高くなる。
むしろ、望むところだった。
「やることは変わらないな」
ディエゴが僅かに口元を上げると、アニは呆れたように息を吐いた。
「勝手にすればいい」
「フン……愛想のない奴だ。お前の欲しいものは何だ?」
その問いを聞いた瞬間、アニの表情が僅かに強張った。
「……ここにはないよ」
「ほう?」
「別に……」
アニの言葉が途中で止まると、ディエゴはその顔をじっと見た。マーレの軍事力や巨人の歴史について話していた時とは、明らかに様子が違っている。
「言ってみろ」
「言ってどうするの?あんたがくれるとも思えない」
「別にどうもしない。ただし、最期の言葉が今のでいいなら話は別だが」
ディエゴが薄く笑った瞬間、アニの顔から血の気が引いた。
やはり、そういうことなのだと理解した。
最初から分かっていたことではある。この男が、自分から知っている情報をすべて聞き出した後、そのまま何事もなく自由に帰してくれるはずがない。
自分はディエゴの秘密を知りすぎている。ベルトルトやエレンを異形へ変えたのが、この男である可能性にまで辿り着いており、そのうえ身体そのものまで支配されている。
ここで用が済めば、殺されても不思議ではない。
そう考えた瞬間、アニの頭に一つの記憶が蘇った。
島へ向かう前、自分を戦士へ育てるために幼い頃から何度も訓練を課してきた父親が、最後には地面へ頭をつけるようにして自分へ告げた言葉だった。
必ず帰ってきてくれ。
何があっても、生きて帰ってきてくれ。
これまで何度も死ぬ覚悟はした。任務なのだから仕方がないと思い、人を殺すことも壁を壊すことも、すべて自分が帰るために必要なのだと言い聞かせてきた。
それなのに、いざ本当に自分の命が終わるかもしれないと思った瞬間、頭に浮かんだのは戦士としての使命ではなかった。マーレでも始祖でも、名誉マーレ人という言葉でもない。
ただ、一人の人間の顔だった。
「家に……」
アニの声が掠れた。
ディエゴは黙って聞いている。
「家に……帰りたい」
言い終えた瞬間、アニの目から涙が零れた。一度流れ始めると、それまで押さえ込んでいたものまで溢れ出したように止まらなくなる。
「……帰りたい」
それを聞いたディエゴは、小さく鼻を鳴らした。
「それだけか…カスが」
戦士だのマーレだの世界のためだのと語っていたが、蓋を開けてみれば、目の前にいるのはただの子供だった。
強大な巨人の力を持ちながら、恐怖に抗うこともできず、自分自身の人生を他人へ預けたまま生きてきた少女。少なくとも、ディエゴの目にはそう映った。
彼は、そういう人間が嫌いだった。
自分で選ばず、自分で立とうともせず、周囲へ流され、誰かが決めた道を歩き続け、その果てに何かを奪われた時になって初めて泣く。前世で嫌というほど見てきた人間たちと同じだった。
母親が苦しんでいた時も、周囲には人がいた。それなのに誰も手を差し伸べず、自分の生活を犠牲にしてまで助けようとはしなかった。
群れの中で同じ方向だけを向く鳩のような連中だった。
どいつもこいつも有罪だ。
だからディエゴは、己の恐怖と向き合うことすらせず、自分自身の人生を最初から諦めるような人間を嫌悪していた。
――あの芋女とは、正反対だな。
そこまで考えたところで、ディエゴの眉が僅かに動いた。
なぜ、そこであの女が出てくる。自分の思考ながら疑問だった。
あいつは巨人を怖がっていたし、実際に手まで震えていた。それでも逃げずに刃を握り、恐怖が消えていないまま、自分で残ることを選んだ。そして、その上で笑った。
思い出す必要もないことまで浮かんできたため、ディエゴは小さく頭を振った。
今はどうでもいい。
目の前では、アニが涙を拭おうともせずこちらを見ている。
ディエゴは再び口元へ薄い笑みを浮かべた。
「安心しろよ。お前を殺すつもりはない」
その言葉に、アニがゆっくり顔を上げる。
「……え?」
ほんの一瞬だけ、助かったという感情がアニの表情に浮かんだ。
しかし、ディエゴの笑みを見た瞬間、その安堵はすぐに消えた。
「ただし、お前に今後一切の自由はない」
「……どういう意味?」
「ランプは好きか?」
あまりにも唐突な質問に、アニは理解できず眉を寄せた。
「何を……」
「灯りはつかない、という意味だが」
「は?」
ディエゴが指を動かした瞬間、アニの身体に埋め込まれたスケアリー・モンスターズが反応した。
「な――」
声を上げるより早く視界が歪み、両腕が縮み、脚が変形していく。骨が音を立てながら組み替わり、身体そのものが急速に小さくなっていった。
アニは必死に抵抗しようとしたが、自分の身体であるにもかかわらず何一つ言うことを聞かない。肉体が変形していくのと同時に意識まで遠ざかり、最後に見えたのは、椅子に座ったままこちらを眺めるディエゴの薄笑いだった。
やがて視界は完全な黒へ染まり、アニの意識そのものが途切れた。
数秒後、先ほどまでアニが座っていた場所には人間の姿など残っておらず、代わりに一つのランプが置かれていた。恐竜をかたどった悪趣味極まりない卓上ランプであり、当然のように灯りはつかない。
ディエゴはしばらくそれを眺めた後、満足そうに残っていたコーヒーを飲み干した。
◆
アニから得た情報を頭の中で整理すると、次にやるべきことも自然と決まっていった。
アニが知っている範囲で、この島へ潜入した知性巨人は残り二人。ライナー・ブラウンとベルトルト・フーバーである。
ベルトルトには、すでにスケアリー・モンスターズを仕込んである。
そうなると、残るのは鎧の巨人を持つライナーだけだった。
全身を覆う硬質化能力は確かに厄介で、普通に正面から戦えば、刃を通すことすら難しいかもしれない。
しかし、そんなことは大した問題ではなかった。
真正面から戦う必要など、最初からない。
ベルトルトにも気づかれないまま仕込むことができ、アニにも調査兵団の目の前で力を植え付けた以上、ライナーだけが特別に難しい理由はない。
そして、彼らの先には「座標」がある。
始祖の巨人。
マーレが何年もかけてまで欲しがり、知性巨人を送り込んでまで奪おうとしている力。それほどの価値があるのなら、なおさら他人へ渡しておく理由などなかった。
ディエゴは椅子から立ち上がり、窓の外へ目を向けた。夜の旧本部は静まり返り、今この部屋で何が話されたのかを知る者は誰もいない。
壁の外にある世界の真実が、一人の男へ渡った。
そしてその男は、真実を知ってなお怯むどころか、次に何を奪えば自分がより高い場所へ行けるのかを考えている。
(必ず、この世を支配してやるぞ…勝利の風はこのDioの背後から吹いている。)
◆
翌朝、ディエゴが目を覚ましてしばらくすると、自室の扉が軽快な音を立てて何度も叩かれた。
「ディエゴー! 起きてますかー?」
「はぁ…毎度毎度飽きないやつだ」
返事をする間もなく扉が開き、現れたサシャは右手にパン、左手に芋を持ち、その両方を交互に口へ運びながら妙に明るい顔をしていた。
「おはようございます。今日も仕事ありますよー!!一緒に行きましょう!」
「まず食い終わってから喋れ」
「時間がもったいないじゃないですか」
「きたないから言ってるんだ。食い終わるまで歩くんじゃあないぞ」
呆れながらそう言ったものの、ディエゴはサシャを追い払おうとはしなかった。
昨日までなら特に気にも留めなかったかもしれないが、今朝は昨夜聞いた話もあり、一つだけ思い出したことがある。
「そういえば…」
「はい?」
「昨日、オレのことでエルヴィンに直談判したらしいな」
「――っ!?」
サシャの身体が目に見えて跳ね、その拍子に口に入れていたパンと芋が落ちそうになった。
「あっ!」
床へ落ちる寸前、ディエゴが片手を伸ばして受け止める。
「食い物を粗末にするな」
「す、すみません!」
「それより、随分必死だったらしいじゃあないか」
「誰から聞いたんですか?」
「リヴァイとエルヴィンだ。リヴァイには『芋女に感謝しろ』とまで言われたぞ」
サシャの顔が見る見る赤くなった。
「そ、その……お咎めは?」
「ない」
「本当ですか?」
「今回は不問だ。お前らのおかげでな」
ディエゴはいつもと変わらない調子で答えたが、サシャにとってはそれだけで十分だったらしく、安心したようにはにかんだ。
「良かった……」
ディエゴはその表情をしばらく眺めていた。
昨夜のアニが、一瞬だけ脳裏をよぎる。
気づけば、口から問いが出ていた。
「怖くなかったのか?」
「え?」
「エルヴィン団長に直談判したんだろ。しかもオレは命令を無視して単独行動した兵士だ。場合によっては、お前まで何か言われる可能性はあった」
サシャは少しだけ考えた後、正直に答えた。
「怖くなかったと言ったら、嘘ですね」
「ほう」
「団長と兵長、ちょっと怖いですし」
「否定はしない」
「でも……ディエゴともう同じ班になれなくなる方が嫌だし、ちゃんとみんなを助けたのに評価されないのも嫌でした」
サシャは手の中のパンを見ながら、少し照れくさそうに笑った。
「だから、気づいたら団長のところに行ってました。あんまりほかのことは考えてなかったです」
「考えてないのか?」
「はい。身体が勝手に動いたっていうか……ディエゴが悪く言われるのが嫌だったから、それだけです」
ディエゴはしばらく何も言わなかった。
昨夜のアニは、死を前にして恐怖で「家へ帰りたい」と泣いた。
目の前の女は、死を前にしても恐怖をわがものとし、体を動かした。今回も自分に不利益があるかもしれない場面で、恐怖がありながらも他人のために動いたという。
どちらが正しいという話ではない。
ただ、ディエゴには後者の方が遥かに好ましかった。
恐怖を感じても動く。
損をする可能性があっても、自分がそうしたいと思えば動く。
他人に人生を決めてもらわず、決めさせず。自分で選んで前へ出る。
その上で純粋だ。前世では見たことがない。ディエゴの口元から、自然に小さな笑みが漏れた。
「なら、いい」
「……え?」
サシャは一瞬、言葉を失った。
普段の薄笑いではなく、誰かを馬鹿にする時の笑いでも、勝利を確信した時の笑みでもない。余計なものが何も混じっていない、自然な笑顔だった。
その横顔へ朝の光が差し込む。
サシャの胸が大きく跳ねた。
「どうした?」
「い、いえ!」
慌てて視線を逸らしたものの、顔が熱く、心臓まで速くなっている。
何度も格好いいと思ったことはある。
助けられた時だって意識した。
それでも今の一瞬は、それまでとは少し違っていた。
ディエゴは怪訝そうな顔をしたものの、それ以上追及しなかった。
その時、旧本部の廊下を激しく走る足音が響き、二人はほぼ同時に扉の方へ顔を向けた。
「緊急伝令!」
外から兵士の叫び声が聞こえる。
続いて、建物全体へ響くほど大きな声が廊下を駆け抜けた。
「ウォール・ローゼが突破された! 全兵員、直ちに集合せよ!」
その瞬間、サシャの顔から先ほどまでの赤みが消え、ディエゴも自然な笑みを引っ込めて静かに立ち上がった。
昨夜、壁の外に存在する世界の真実を知った。
マーレ、知性巨人、始祖、そしてその力を奪うために送り込まれた戦士たち。
その翌朝に届いた壁突破の報告が、偶然にしては出来すぎていることくらい、考えるまでもなかった。
ディエゴは机の上へ置いていた装備へ手を伸ばした。
「行くぞ、サシャ」
「はい!」
二人は同時に部屋を出る。
真実を知ったところで、ディエゴ・ブランドーのやることは何も変わらない。
敵が誰なのか分かった。
欲しいものも分かった。
ならば、後は奪うだけだった。