ハンジがレイス家についての情報を持ってエルヴィンのもとへ向かった後、隠れ家にニファが到着した。リヴァイは一同を部屋へ集め、リーブス商会のディモと、その息子のフレーゲルも同席させていた。扉が閉じられると、ニファは姿勢を正し、持ってきた伝達を口にした。
「兵長。計画に変更がありました」
リヴァイは眉を動かし、ニファを見た。彼女が声を落として変更の内容を告げると、今度は明らかに目つきが変わった。聞き違いで済む話ではないと、その場にいた者にも分かる反応だった。
「……何だと。確かか?」
「はい。団長からの指示です」
ニファが頷くと、リヴァイは一度黙った。部屋の中を見回す間にも、何かを確かめ直すように、その目だけが鋭く動いている。ディモは二人の様子を眺めてから、自分たちが座っている席を指先で軽く叩いた。
「いいのかい。俺たちまで聞いちまって」
「信頼関係のためだ。手を組む相手に、何もかも隠したまま仕事をさせるわけにもいかねえだろう」
リヴァイはそう答え、ヒストリアへ目を向けた。彼女は自分に話が向くと思っていなかったらしく、わずかに背筋を伸ばした。周囲の一〇四期の面々も、何が伝えられるのかと口を閉じている。
「ヒストリア。お前に女王になれと言うのが、俺たちの計画だった」
「……だった?」
ヒストリアは目を見開き、言葉を失った。レイス家の血筋に何かがあるとは聞いていても、それが自分を王位へ据える話へ繋がるとは思っていなかった。エレンが驚いて彼女の方を向いたところで、リヴァイが先を続けた。
「だが、作戦が変わった。俺たちは、ヴァレンタインという男を王にする。エルヴィンからの伝達だ」
ヒストリアの顔から、一瞬にして血の気が引いた。母を白い布の下へ消した男の名が、今度は自分たちの側に立つ王の名として告げられている。ジャンもその名前に覚えがあったらしく、ヒストリアとリヴァイを交互に見た。
「ヴァレンタインって……お前の話に出てきた、あの男か?」
「たぶん……その人だと思う」
ディエゴもまた、わずかに眉を上げ、初めて聞いた話に驚く顔を作った。昨夜、本人の口から王になると聞かされているのだから、意外なことなど何もない。それでも、ここで落ち着きすぎていれば余計な疑いを招くため、他の者たちと同じようにリヴァイへ目を向けていた。
「あの男か……へへ。嬢ちゃんよりは、確かに納得がいくな」
ディモが小さく笑い、顎へ手をやった。初めて聞く名ではないという口ぶりに、リヴァイはすぐにそちらを見た。ニファも続きを遮らず、商会の主が何を知っているのかを待った。
「知っているのか?」
「知っているさ。ただ、知る人ぞ知る男でね。お前さんたちが知らなくても、無理はねえよ」
ディモは椅子へ腰を落ち着け直し、部屋にいる者たちへ説明した。
「ヴァレンタインは貴族の中でも異例の男だ。王と遠縁にあたり、古くから続く血筋の者として扱われている…まあいわば筋金入りの貴族派ともいえるな。血はもちろん、本人もかなりの切れ者らしく貴族たちからの評判もすこぶるいい。新しい王に据えても、何も知らない少女を突然立てるよりは反発を抑えやすそうだ。」
ディモは深く椅子に座りながら続けた。
「首が挿げ替わっても、それで内乱になるようなことは避けられるだろう。少なくとも、そういう連中を納得させる名前ではある」
「……そんな人だったの」
ヒストリアは呟き、膝の上の手を見た。自分の知るヴァレンタインと、今聞いた男の姿が、すぐには重ならなかった。得体の知れない力を振るった人物が、壁の中では由緒ある血筋の者として受け入れられていることに、戸惑いが残っていた。
リヴァイはディモの説明を聞きながらも、納得しきれずにいた。貴族の支持が得られることに利点はあるが、古くからの王政側にいる人間へ王位を渡す判断を、エルヴィンが選ぶだろうか。あいつの性格も出自も知っているだけに、そうするしかない何かがあったと考える方が自然だった。
「ニファ。ヴァレンタインで間違いねえんだな」
「確かです。団長は、その名前を挙げられました」
リヴァイは短く息を吐き、今は伝達を最後まで聞くことにした。分からないことがあるからといって、ここで計画を止めれば済む状況でもない。ニファもその意図を察したように、作戦の具体的な内容へ話を移した。
「決行は本日です。エレンとヒストリアを第一憲兵へ引き渡し、その後を尾行します」
エレンは背筋を伸ばし、ヒストリアもニファへ顔を向けた。二人を隠しておくのではなく、相手へ渡してから行き先を掴むという作戦だった。ニファは驚いた顔を見回してから、リーブス商会が関わる部分を説明した。
「第一憲兵は、リーブス商会を頼って移動経路を選定しています。商会を通じて二人を引き渡し、ロッド・レイスのいる終着点まで追うのが目的です。途中で見失わないために、ディエゴの嗅覚も頼りにしています」
ディエゴは名を呼ばれると頷き、引き受ける意思を示した。尾行の方法を考える上で、自分の鼻が役に立つことは分かっていた。二人へ近づく相手を直接見られるのも、今の彼には好都合だった。
「捕らえた第一憲兵によれば、上級役人からフリッツ王家まで、実際にはロッド・レイスの指揮下にあるようです。ですが、ただ一人例外がいます」
「…なるほど。その例外が、ヴァレンタインか」
ニファが頷くと、リヴァイは腕を組んだ。王政の内側にいながら、ロッドの指揮からは外れている男が、今度は王位を求めてこちらへ接触してきている。話を聞くほどに、単なる協力者として扱ってよい相手ではないことが明らかになっていた。
「まだあります。作戦を進めれば、第一憲兵と調査兵団の間で衝突が起こると見込まれています。その第一憲兵については、ヴァレンタイン氏が対応すると伝えられています」
「……何とかなるのか、それ?」
エレンは思わず声を出し、ニファを見た。相手が有力な貴族だとしても、兵士の数まで消えてなくなるわけではない。自分たちへ引き渡しを命じておきながら、その後を曖昧な約束で済ませられては、不安が残った。
「第一憲兵って言ったって、そこそこ数がいるだろ。それに、そいつが表立って動けるわけでもないんじゃないか? 罠ってことはないのかよ」
「それはないだろうな」
ディエゴが落ち着いた声で答えると、エレンはそちらへ向き直った。自分たちと同じだけ驚いていたはずの男が、そこだけは迷わず否定したことを、不思議そうに見ている。ディエゴはその視線を受け、判断の理由を口にした。
「仮にオレたちを嵌めるつもりなら、とっくにエルヴィンの計画をレイスへ伝えている。そうなれば、お前は今頃、奴の手の中だ。わざわざこちらへ計画を知らせ、考える時間まで与える必要がない」
「……それも、そうか」
「そうだろうな。少なくとも、今ここで俺たちを売るだけのつもりではねえんだろう」
リヴァイも頷いたが、警戒を解いたわけではなかった。自分たちを利用しようとしていることに変わりはなく、その男を王にして、腐った壁の内側が本当に変わるのかは分からない。いずれ顔を合わせた時には、その点を直接問いただす必要があると考えていた。
ディエゴは黙って話を聞きながら、別のことを考えていた。第一憲兵を何とかするという言葉の裏には、恐らくスタンド使いがいるのだろう。ヴァレンタイン自身の能力は知っているし、殺すための算段もついていたが、知らない部下が動いているとなれば話が変わる。
その顔ぶれや能力が分からないまま、近づくわけにはいかなかった。エレンにはすでに小型の恐竜を忍ばせてあり、連れていかれた後の様子を探る手段は用意している。鼻で行き先を追うだけではなく、相手の内側へ入り込んだ一匹から、必要な情報を拾うつもりだった。
ふとヒストリアへ目を向けると、彼女は複雑な顔をしていた。女王になれという責任を負わずに済んだことには、ほっとしているようにも見える。それでも、今度は本物の身柄を相手へ渡すという大役を前に、自分が足を引っ張らずにいられるか、不安になっているらしかった。
「気負わなくていい、ヒストリア」
声をかけられ、ヒストリアは顔を上げた。ディエゴは彼女へ向き直り、会議を聞いていた時よりも、少しだけ柔らかい口調になった。その変化を見たミカサとサシャが、黙って彼へ目を向けた。
「お前はオレが護衛する。危険な任務にはなるし、王家の血筋という重責は……オレには分からんが、いい気分のするものではないだろう」
ヒストリアは彼の顔を見つめ、次の言葉を待った。どんな役目を求められるのか分からないまま話が進んでいても、この男がそばにいるのだと思うと、少し呼吸がしやすくなる。ディエゴはその視線を受け止め、はっきりと告げた。
「だが、お前のことは必ず守る。それだけは、この世のどんなものよりも真実だ」
「……ありがとう」
ヒストリアの顔から強張りが消え、笑みが浮かんだ。頬にわずかに赤みが差したのを見て、ミカサは口を挟もうとしていたのをやめた。サシャも、ディエゴの言葉がすべて本心とは思えなかったが、あれほど嬉しそうな顔をされると、何も言えなかった。
もちろん、彼の内側にあったのは、彼女が期待するような約束ではなかった。ヴァレンタインにもロッド・レイスにも、ヒストリアを渡すつもりはない。まずは、エレンの始祖の力へ、彼女の血がどこまで関わっているのかを確かめる必要があった。
知りたいことが分かれば、この少女に用はなくなるかもしれない。少なくとも、まだ価値を見極めていない今、他人へ手放す気はなかった。そのためにも、エルヴィンのところへ向かったハンジへ、別の小型恐竜を忍ばせてある。
ヒストリアが感じた安心を確かめながら、ディエゴは会議の話へ意識を戻した。今は身柄を引き渡す作戦へ乗り、その先で誰が何をしようとしているのかを掴めばいい。リヴァイは二人を一度見てから、扉の方へ向かった。
「そういうのは、全部終わってからにするんだな。準備しろ」
ヒストリアは慌てて姿勢を正し、ディエゴは何でもない顔で立ち上がった。リヴァイが部屋を出ると、他の者たちも、それぞれ割り当てられた役目へ動き始めた。
*
引き渡しの準備は、ディモが取り仕切った。商会が二人を捕らえ、第一憲兵へ差し出すように見せるため、エレンとヒストリアは縄で拘束されていた。二日間ここへ押し込めていたように装う必要もあり、ディモはエレンの服へ泥を擦りつけていた。
「おい、ちょっと多くねえか、それ」
「綺麗な顔で座ってられちゃあ、連れてきたこっちが疑われるだろうが。少しは我慢しろよ」
「…ふふっ」
ディモが頬のあたりへも汚れを足すと、エレンは嫌そうに顔をしかめた。その様子を見ていたヒストリアが、小さく笑った。ディモは手を止め、隣に座る彼女へ目を向けた。
「えらく余裕だな、嬢ちゃん。いや、女王様とでも呼ぶべきか?」
「ヒストリアでいいよ。女王になるわけじゃないんだし」
ヒストリアは少し困ったように笑ったが、声に強い怯えはなかった。縛られて引き渡される直前とは思えない様子に、エレンも不思議そうな顔をした。泥をつけられた頬を動かさないようにしながら、隣へ声をかける。
「何かお前、こんな事態なのに明るいな」
「心の底から楽しんでるとかじゃないよ。ただ……ディエゴが守ってくれるって言ってくれたから」
口にした後、ヒストリアは少しだけ目を伏せた。先ほど真正面から向けられた視線と、必ず守るという言葉が、まだ胸の内に残っていた。今はここにいなくても、どこかから自分たちを見ているのだと思うと、役目を果たせる気がした。
「青春だねえ」
ディモが呆れたように笑うと、フレーゲルは近くの木箱へ寄りかかり、肩をすくめた。こちらはヒストリアほど、あの男を好意的に見てはいないらしい。さっき隠れ家で会った時の顔を思い出すように、眉を寄せた。
「俺は何となく、あいつはいけすかねえな。悪い男の匂いがするぜ」
「まあ、そいつには俺も同意する。しかも中途半端なワルじゃあない。多分、俺たち以上の闇をずいぶんと見てきたんだろうよ」
ディモは軽口を叩く時とは違う調子で、息子の言葉へ頷いた。相手を安心させる顔も、何かを値踏みする目も、商売をしていれば見慣れている。ディエゴには、その両方を当たり前のように使うところがあると感じていた。
「そうかもしれない」
ヒストリアは否定せずに答え、縄のかかった自分の手を見た。それでも、二人が言うような一面だけでディエゴを考える気にはなれなかった。彼が自分へ話してくれたことは、怖い人間なのだという言葉だけでは片付かなかった。
「でも、空っぽだった私に、ちゃんと向き合ってくれたんだ。中身を与えてくれたっていうのかな……ううん、クリスタとして生きていた私も、私だったんだって気づかせてくれた」
エレンはその話を聞きながら、先ほどの部屋でのやり取りを思い出していた。ヒストリアが泣きながら笑ったことも、ディエゴの顔を見つめたまま動かなくなったことも覚えている。その時から続いている気持ちが、彼女の声にはそのまま表れていた。
「確かに、ディエゴは悪い人なのかもしれない。でも、悪いだけじゃないんだよ?」
ヒストリアが顔を上げて言うと、エレンはとうとう呆れた息を漏らした。あれほど分かりやすく話されては、自分でも聞かずに済ませることはできない。エレンはヒストリアの方へ向き直り、思っていたことを率直に尋ねた。
「お前さ……いや、もう聞く。あいつのこと好きだろ?」
「えっ!?」
ヒストリアは目を見開き、みるみる顔を赤くした。慌てて何かを言いかけたものの、目の前で見られたことも、今自分が話していたことも、なかったことにはできない。しばらく迷った末に唇を閉じ、
「…」
ゆっくりと頷いた。
その仕草を見て、エレンは一瞬言葉を失った。フレーゲルも木箱から身体を離しかけ、赤くなった彼女の顔へ目を奪われていた。自分の気持ちを隠しきれずにいる姿には、二人とも、思わずどきりとさせられるものがあった。
ディモは二人の若者を見比べた後、ヒストリアへ視線を戻した。悪い男にかどわかされるお嬢様というのは、こういう感じなのかもしれないと、口には出さずに考えた。それでも、今ここで余計なことを言っても届きそうにないため、仕上げにエレンの服の汚れを確かめるだけにした。
その時、外から商会の部下が足早に入ってきた。第一憲兵が到着したと告げられると、部屋の空気が変わり、ヒストリアも顔を上げた。ディモは息子へ奥の荷物を見ておくように言い、自分は入口の方へ向き直った。
入ってきたのは、帽子をかぶった男だった。歩き方には気負いがなく、待たせた相手へ挨拶をするより先に、縛られた二人を見定めている。ケニー・アッカーマンはヒストリアの顔へ目を留めると、口元を歪めた。
「よう……オレを覚えているか? クリスタ・レンズ」
ヒストリアの身体が、わずかに強張った。幼い頃の記憶にある黒ずくめの男たちの中へ、目の前の顔が重なっていく。自分を今の名で呼ばず、使わされていた偽名をわざわざ口にしたことにも、嫌なものを感じた。
ケニーは反応を確かめると、帽子を少し深くかぶり直した。思い出したことを面倒そうに話す口調で、彼女へ続ける。その軽さが、ヒストリアにはかえって恐ろしく思えた。
「あの時、本来はオレがお前の母親を始末する予定だったんだがな。何の因果か、別の奴がヴァレンタインに母親ごと消されちまった。お前にとっちゃあ運がいいんだか悪いんだか」
ヒストリアは黙ったまま、ケニーをきっと睨んだ。母が消えた夜を、そんな調子で話されることを、ただ俯いて聞いている気にはなれなかった。身体を縛られていても視線だけは逸らさず、帽子の下の目を見返した。
「ほう……」
ケニーはわずかに顎を上げ、少し感心したように彼女を見た。怯えて縮こまるだけの子供を想像していたのか、その反応を面白がっているようだった。やがて肩を軽くすくめ、ディモの方へ顔を向けた。
「五年ぶりだが……まあ、五年も経ちゃあ、でかくなるか」
第一憲兵の兵士たちが近づき、二人の拘束を確かめた。エレンはヒストリアの様子を見ようとしたが、その前へ人が入り、頭へ目隠しを巻かれた。ヒストリアも同じように視界を塞がれ、肩を取られて立ち上がらされた。
ディモは引き渡しを終えると、ケニーに促され、話の続きをするような形で外へ出された。奥の荷を見に行っていたフレーゲルは、戻りかけたところでその姿を見つけ、物陰へ足を止めていた。父を外へ呼び出す男の顔に、先ほどまでの商談とは違うものを感じたからだった。
*
ディエゴは少し離れた物陰から、引き渡しの様子を見ていた。最初に現れた男の動きは、他の兵士たちとは違っている。相手へ目を向ける時も、立つ位置を変える時も隙が少なく、こちらを警戒させるだけのものがあった。
あれが対人制圧部隊の隊長かと、ディエゴは口元を緩めた。リヴァイと同じくらいの戦闘力はあるだろうが、こちらが本当に殺すつもりでかかれば、対処できない相手ではない。少なくとも、その動きを見ただけで、自分の手を止める必要は感じなかった。
ケニーは外へ出てきたディモに何かを話しかけ、その身体へ近づいた。次の瞬間、手元で刃が動き、ディモは喉元を押さえて膝を折った。短いやり取りだったはずの場所に、倒れた身体と、地面へ広がる黒い染みが残った。
物陰にいたフレーゲルは、叫びかけた口を手で塞いだ。父が倒れたことも、そのそばに立つ男が何をしたのかも分かったが、足が動かなかった。姿を見られれば自分も同じ目に遭うという恐怖が、息をすることまで妨げていた。
ケニーは倒れた商会の主へ、それ以上構おうとしなかった。目隠しされたエレンとヒストリアは兵士たちに促され、移動のために運ばれていく。何が起きたのかを確かめようと顔を動かしても、二人には外の光景が見えなかった。
ディエゴは視線を動かし、二人の位置と、周囲の兵士の配置を確かめた。鼻にも、その匂いを覚えさせておく。どのみち、あの隊長の相手を自分がすることはなく、今追うべきなのは、エレンとヒストリアの行き先だった。
その時、別の場所へ忍ばせていた小型恐竜から、新しい情報が入ってきた。エルヴィンのもとへ向かったハンジに仕込んだ一匹が、その場で交わされる話を拾っていたのである。ディエゴは近くにいる者へ気づかれないよう姿勢を変えず、そちらへ意識を向けた。
届いた話の中に、聞き流せないものがあった。ロッド・レイス側の狙いは、エレンを食うことだという。単に身柄を奪い、命令に従わせるだけではないと分かった瞬間、ディエゴの頭の中で、残っていた疑問が一つの形を取った。
謎が解けたのだと、ディエゴは確信した。巨人が知性巨人を食えば、その能力を奪えるのだ。エレンの力を欲しがる者たちが、本人の意思に関係なくその身柄を奪おうとする理由も、それなら説明できる。ただ殺してしまうのではなく、食うことに意味があるのだった。
そして、ロッドは恐らく、ヒストリアにエレンを食わせようとしている。王家の血を引く彼女へ、その力を移すつもりなのだろう。エレンだけで済むのなら、父のもとを離れていた娘まで、わざわざ捕らえる必要はない。
ディエゴは目を細め、遠ざかろうとしている二人の姿を追った。王家の血を持つ者にエレンの能力を移せば、始祖の力を発現させられると、ロッドは考えている。ヒストリアが鍵なのではないかという推測に、ようやく具体的な裏付けがついた。
口元に浮かびかけた笑みを、ディエゴは抑えた。ここで自分だけが何かを掴んだと悟らせるつもりはなく、あくまで尾行の準備をしている者の顔で、周囲へ目を配った。だが、内側では、手に入れた情報の価値を確かめるように、野心が熱を持っていた。
ならば、ヒストリアを大統領へ渡すことなど、断じてできなかった。ロッド・レイスの望みをそのまま叶えさせるなど、なおさら論外だった。血筋と力の結びつきが分かった今、他人の王政を完成させるために、二人を差し出したままで済ませる理由はない。
ディエゴは表情を整え、尾行へ移る仲間たちの方へ顔を向けた。ヴァレンタインが命じた使命も、ロッドが用意している役目も、自分を従わせるものではなかった。これから何を守り、誰を退かすかは、自分で決める。
「まずはレイスに退場いただくとするか……カスどもが」
その言葉は声には出さず、胸の内へ留めた。ヒストリアが信じた約束とは別の思惑であっても、今、その身柄を他人へ奪わせるつもりはなかった。ディエゴは、向かうべき先を見定めながら、自分の役目を決め直した。
「ヒストリアは……オレ自身の命令で護衛する」