トロスト区の戦闘がひとまず落ち着きを見せ始めた頃、ミカサは意識を失ったエレンを抱えたまま、駐屯兵団から指定された区画へ向かっていた。アルミンがその隣を歩き、ディエゴも少し後ろから二人についていく。
周囲には武装した兵士の姿が少しずつ増えていた。誰も露骨に近づいてはこないものの、その視線のほとんどがミカサの腕の中にいるエレンへ向けられている。そこにあるのは好奇心などではなく、どう扱えばいいのか分からない異物を目にした者特有の恐怖だった。
ディエゴは兵士たちの視線を一通り確認した後、歩調を変えずにエレンの傍へ寄った。
「少し見せろ」
ミカサが警戒するように顔を向ける。
「何をするの?」
「容体を見るだけだ。あれだけ巨人の中にいたんだぞ。熱でも出して、そのまま死なれたら面倒だろう」
ミカサは一瞬迷ったものの、拒む理由もないと判断したらしい。ディエゴは眠ったままのエレンの額へ手を当て、次に首筋へ触れた。
「熱は?」
「特にない。呼吸も安定している」
「傷は?」
「腕も脚も……戻ってる」
ミカサ自身、口にしながら信じられないようだった。巨人に食いちぎられたはずの手足が、今は傷跡すらほとんど残さず元に戻っている。
「そうか」
ディエゴは静かに手を離したが、そのわずかな接触の間にやるべきことは済ませていた。ベルトルトへ行った時と同じように、スケアリー・モンスターズの力をエレンの身体へ流し込んだのである。
ただし、すぐに発動させる気はなかった。ディエゴは何食わぬ顔で歩きながら、今触れたばかりのエレンについて考える。
問題は、こいつが自分の意思で巨人になれるのかどうかだった。
何らかの条件を満たさなければ変身できないのであれば、今ここでスケアリー・モンスターズを発動させても、人間状態のエレンが恐竜化するだけだろう。その状態からさらに巨人へ変身できる保証はなく、下手をすればせっかくの実験材料を自分で潰すことになる。
ならば、今は待つべきだった。
(己の意思で操れないスタンドに自分自身が殺されることもあると聞いたことがある。勝手に暴走して死ぬようでは利用価値がない。そこは見極めないとな…)
それに、もう一つ気になることがある。
このまま何事もなく軍の管理下へ移されるとは、ディエゴには到底思えなかった。
ふと横を見ると、アルミンが険しい表情で前を見つめている。巨人との戦闘が終わった直後とは思えないほど、顔色が暗い。
「随分と景気の悪い顔だな」
ディエゴが声をかけると、アルミンは少しだけ視線を上げた。
「……このままで済むと思う?」
「済まないだろうな」
ディエゴは即答した。
「エレンが巨人の中から出てきたんだ。兵団が『そうですか』で終わらせるわけがない」
「僕もそう思う。たぶん軍法会議にかけられる」
アルミンは唇を噛み、周囲の兵士たちを気にするように声を落とした。
「そこまでは仕方ないと思う。でも、問題は……」
「それまでに殺されないか、だろ?」
アルミンが黙ったことで、答えを聞く必要はなくなった。
ディエゴも同じことを考えていた。周囲の兵士たちがエレンへ向けている視線には、理性より先に恐怖が浮かんでいる。巨人と戦い続けてきた人間にとって、人間の姿をしながら巨人へ変わる存在など未知そのものだった。
未知は恐怖を生む。そして恐怖に支配された人間は、理解するより先に排除しようとする。
「もう話は広まってると思った方がいいな」
ディエゴは小さく呟いた。
そうであるなら、自分の動き方も変える必要がある。すでにエレンへスタンドパワーは仕込んでおり、条件さえ整えばいつでも恐竜化させられる。
だが、それとエレンを守ることは別の話だった。
確かに知性巨人は欲しい。しかもエレンは、ライナーたちすら存在を知らなかった未知の巨人であり、実験対象としての価値は高い。
それでも、兵団と正面から敵対してまで手に入れたいかと聞かれれば、そこまでではない。
何しろディエゴは、すでに超大型巨人さえ恐竜化できることを確認している。ベルトルトという、現時点で判明している限り極めて強力な駒が存在する以上、エレンは「手に入るなら欲しい」程度のものだった。
だからこそ、ここでは静観する。
状況が都合よく転ぶなら利用し、そうでなければ切り捨てればいい。
ディエゴがそう結論づけた直後、その判断を試す時は予想より早く訪れた。
◆
「そいつは巨人だ!」
誰かの叫び声が響いたのをきっかけに、エレンを囲んでいた兵士たちの輪が一気に狭まった。何人もの兵士が銃やブレードへ手をかけ、いつでも飛びかかれるように身構える。
「違う!」
ミカサが即座に否定した。
「エレンは人間!」
「そうです!」
アルミンも必死に続ける。
「確かに巨人になりました! でも、他の巨人を倒して僕たちを助けたんです!」
しかし、兵士たちの恐怖は収まらなかった。むしろ、巨人が人間を助けたという説明そのものが、彼らには不気味に聞こえているらしい。
「そんなもの信じられるか!」
「人間のふりをしてるだけかもしれない!」
「今のうちに殺すべきだ!」
罵声に近い声が次々と飛び交い、その中の一人がディエゴへ顔を向けた。
「ブランドー! お前はどうなんだ! そいつが人間だと思うのか!?」
周囲の視線が一斉に集まる。
ディエゴは少しだけ考える素振りを見せた。
「人間だとは思うがな」
ミカサとアルミンの表情が僅かに緩む。
しかし、ディエゴはそこで終わらせなかった。
「多分。どうかな…うーむ、自信がない」
その一言で空気が再び変わった。
「ほら見ろ!」
「首席のブランドーですら分からないんだ!」
「やはり危険なんだ!」
ミカサが鋭い目でディエゴを睨んだが、本人は何も気にした様子を見せなかった。ディエゴが知っているのは、エレンが人間から巨人になったという事実までであり、それ以上を保証してやる義理はない。
やがて現場を指揮していた上官までもが、恐怖を隠しきれない顔で命令を出した。
「全員、武装しろ! そいつらを囲め!」
銃口が向けられ、兵士たちが一斉に距離を詰める。
「走って!」
アルミンが叫んだ。
ミカサはエレンを抱え直すと、その場から一気に離れ、アルミンもすぐ後を追った。二人は途中で一度だけ振り返り、ディエゴを見る。
助けを求めているのか、それとも当然こちらへ来ると思っているのか。
しかし、ディエゴはいつもと変わらない顔で立っているだけだった。追いもしなければ、兵士を止めようともしない。
その態度を見たアルミンの胸へ、冷たいものが落ちた。
ディエゴは、こちら側ではない。
少なくとも今の時点では、エレンのために軍へ逆らう気などない。
ミカサはエレンを抱えたまま壁際まで移動し、そこでようやく足を止めた。背後は壁、前方には武装した兵士たちがおり、完全に逃げ道を塞がれている。
「エレン! 起きて!」
アルミンが必死に肩を揺さぶる。
「起きろ、エレン!」
「……コロ……シテ……ヤル……」
掠れた声が漏れた。
「エレン?」
「……一匹……残らず……」
寝言のように同じ言葉を繰り返しながら、エレンの瞼がゆっくり開く。
「……アルミン?」
視界へ最初に入ったのは、青ざめた顔のアルミンだった。その前ではミカサが刃を構え、さらにその向こうには自分たちを取り囲む大勢の兵士がいる。
「なんだよ……これ」
エレンは混乱したように周囲を見回した。
「身体は!?」
アルミンがすぐに尋ねる。
「どこか痛む?」
「いや……待て」
エレンは自分の左腕へ目を落とした。
ある。
巨人に食いちぎられたはずの腕が、何事もなかったかのように元へ戻っている。
指を動かし、拳を握る。
感覚もある。
「なんで……」
「イェーガー訓練兵!!」
上官の怒声が響き、エレンが反射的に顔を上げた。男の顔には怒り以上に恐怖が浮かんでいる。
「現在、貴様が行っている行為は人類に対する重大な反逆行為と判断されている! これより貴様らの命の処遇を問う!」
「は……?」
「下手に誤魔化すな! 不用意に動けば、即座に榴弾を撃ち込む! ためらうつもりはない!」
エレンは反射的に壁の上を見た。
そこには大砲が据えられており、その砲口は明確に自分たちへ向けられている。
少し離れた場所に立っていたディエゴも、同じように壁上へ視線を向けた。本気で撃てば、人間の身体など原形すらまともに残らないだろう。
上官が再びエレンへ叫ぶ。
「率直に問う! 貴様の正体は人か、巨人か!?」
「何言ってるんですか!?」
エレンは本気で質問の意味が分からないらしい。
「質問の意味が分かりません!」
「しらを切るつもりか!」
上官の表情がさらに険しくなり、隣にいた兵士も冷たい声で告げる。
「反抗的な態度は明らかです。現状では有益な情報を引き出せる可能性も低いかと」
「なら今のうちに殺せ!」
「また巨人になる前に!」
周囲の兵士たちが騒ぎ始める。
その前へ、ミカサが一歩出た。
「私の特技は、肉を削ぎ落とすことです」
声は静かだった。
それなのに、兵士たちの声が一斉に止まる。
「必要に迫られれば、いつでも披露できます。私の特技を体験したい方がいるなら……どうぞ、一番先に近づいてください」
ミカサはブレードを構えた。
誰も動かなかった。
脅しではない。
この少女なら本当にやると、訓練兵も兵士も理解しているからだ。
「アッカーマン訓練兵……」
上官が顔を歪めたところで、後衛部隊を指揮していた隊長が低い声で口を挟んだ。
「彼女がミカサ・アッカーマンです」
「何?」
「第104期訓練兵団次席。今日の戦闘でも、彼女の働きは兵士百人分に匹敵していました。ここで失えば、人類にとって大きな損害になります」
上官は数秒だけミカサを見つめた。
やがて、その口元へゆっくりと笑みが浮かぶ。
「ならば聞こう。ディエゴ・ブランドーはどうだ?」
その場にいる何人かが、一斉にディエゴへ視線を向けた。
後衛部隊の隊長は一瞬、本気で答えたくなさそうな顔をしたものの、やがて諦めたように口を開く。
「……彼については、兵士百人では足りません」
「千人でも?」
「……足りないかもしれません。彼を失うことによる損失については、比較できる対象が私には思いつきません」
ミカサの表情が僅かに強張り、アルミンも上官の狙いを理解した。
上官が笑う。
「聞いたな、ディエゴ。前へ出ろ」
ディエゴは特に迷う様子もなく、まるで食事の席から呼ばれた程度の気軽さで歩き出した。
そしてミカサの前へ立つ。
「こんなことになっちまうとは。なんだかお気の毒って感じだな」
いつもの口調だった。
いつもの、何でもない顔だった。
それがかえってミカサを緊張させた。
額に冷たい汗が浮かぶ。
巨人を前にしてもほとんど感じなかった種類の恐怖だった。
訓練兵時代、何度もディエゴとは模擬戦をしている。
そして、一度も勝てなかった。
対人訓練は何度もした。しかし、最後には必ずディエゴが立っていた。
力、速度、動体視力、身体の使い方、そのすべてが自分より上だった。
しかも、不可解なほど実戦慣れしている。
何度か、どこでそんな動きを覚えたのかと聞いたことはある。しかし、ディエゴは毎回まともに答えず、適当にはぐらかした。
それでも一つだけは分かる。
この男は、ここにいる誰よりも戦うことに慣れている。
「戦力分析は終わったか?」
ディエゴが薄く笑った。
「逆立ちしたって勝てないことくらい、お前が一番よく分かってるはずだ」
ミカサは答えず、ブレードを握る手にさらに力を込めた。
「ディエゴ!」
アルミンが叫ぶ。
「上官を説得してくれ!」
ディエゴはアルミンへ顔を向けた。
「お前がやれ」
「え?」
「頭がいいんだろ? なら分かるはずだ」
ディエゴは面倒そうに肩を竦める。
「オレがここで兵団に逆らうリスクを冒す必要があるかどうかくらいな」
アルミンの顔が強張った。
正論だった。
最悪な意味で。
ディエゴは強い。
だからこそ、ここで巨人になれるエレンを失っても、自分自身はほとんど困らない。
巨人が何体増えようが、自分で倒せると思っている。
ならば、兵団と敵対する理由がない。
「ブランドー!」
上官が叫んだ。
「やれ!」
その瞬間、先に動いたのはミカサだった。
地面を蹴り、一気に距離を詰める。
ブレードの狙いは首。
普通の兵士なら反応する暇すらない速度だった。
しかし、ディエゴには遅い。
「無駄だ」
刃が首筋へ届く直前、ディエゴはほんの数ミリだけ身体をずらした。
ブレードが皮膚のすぐ横を通り過ぎる。
同時に踏み込み、右脚をミカサの腹部へ叩き込んだ。
「ぐっ!」
身体が浮いた。
ミカサは数メートル吹き飛び、地面へ落ちて尻もちをつく。
「ミカサ!」
エレンが叫んだ。
アルミンはその光景を見ながら、頭の中で絶望的な計算をしていた。
状況は、ほとんど詰んでいる。
ディエゴは上官の命令で戦っている以上、拒否する理由がない。
一方、ミカサは上官の命令を拒み、武器を持って抵抗してしまった。
仮に奇跡が起きてディエゴに勝ったとしても、その先に待っているのは反逆者としての立場だけだ。
もう逃げ道がない。
そう考えたところで、ディエゴが踏み込んだ。
「KUAAAAAAAッ!!」
ブレードを振り上げ、ミカサへ一気に振り下ろす。
「ミカサ!」
エレンが身を起こそうとし、ミカサは反射的に二本の刃を交差させた。
金属同士が激突し、鋭い音と火花が散る。
「くっ……!」
ミカサは必死に受け止める。
しかし、その瞬間に違和感へ気づいた。
軽い。
ディエゴが本気で押していない。
訓練兵時代に何度も受けたからこそ分かる。
本気なら、こんな力では済まない。
ディエゴは刃と刃を合わせたまま、わずかに顔を近づけた。上官たちから口元が見えず、声も届きにくい位置を作っている。
「エレン」
低い声だった。
「さっさと変身しろ」
ミカサの目が見開かれ、すぐ後ろにいるエレンにもその声は届いた。
「そうしなきゃ、この状況は変わらないぞ。ミカサもアルミンも、このままなら死ぬ」
「変身って……」
エレンの呼吸が荒くなる。
「俺は……どうやって……」
その時だった。
胸元で何かが揺れる。
鍵。
父から渡された地下室の鍵だった。
グリシャ・イェーガーの顔が、断片的な記憶とともに脳裏へ浮かぶ。
『この鍵を肌身離さず持っていろ』
父の声が蘇る。
『いつか地下室へ行けば、真実が分かる』
さらに別の記憶が重なる。
森。
注射。
父親。
そして、強い口調。
『ミカサやアルミン、みんなを救いたいなら――』
そこまで思い出した瞬間、エレンは左手を口へ運んだ。
「エレン?」
アルミンが異変に気づく。
「待て!」
上官も何かを察した。
しかし、もう遅かった。
エレンは自分の手へ思い切り歯を立てる。
次の瞬間、閃光と轟音が周囲を包んだ。
「なっ――!」
兵士たちが反射的に顔を庇う。
エレンを中心に、巨人の肉体が一気に形成されていく。
ただし、完全な姿ではない。
脚はなく、腹部の下半分も形成されていない。代わりに巨大な肋骨と腕、そして頭部を備えた上半身だけの巨人が、三人を覆うように出現した。
「撃てえええええええええッ!!」
上官が叫ぶ。
壁上から砲声が響き、榴弾が一直線に飛んでくる。
「こっちだ!」
ディエゴはミカサとの剣戟を即座にやめ、アルミンの襟首を掴んで巨人の身体の内側へ引き込んだ。ミカサも反射的にエレンの方へ飛び込む。
その瞬間、巨人化したエレンの上半身が巨大な腕を動かした。
肋骨と腕が壁のように三人の前へ立ちはだかる。
直後、榴弾が着弾した。
爆発と炎、そして衝撃がトロスト区の端を大きく揺らす。
兵士たちは思わず身を伏せ、しばらくしてから恐る恐る顔を上げた。
煙が薄れていく。
その向こうには巨大な肋骨と肉の壁が残り、上半身だけの巨人が榴弾を受け止めていた。
そして、その内側にはエレン、ミカサ、アルミン、さらにディエゴの四人が生きている。
ディエゴは巨大な肋骨へ手を触れた。
熱い。
だが、耐えられないほどではない。
それより重要なのは別のことだった。
エレンは、自分の意思で巨人化した。これこそが、ディエゴが一番知りたかったことである。
仮に巨人化能力を持っているとしても、自分で能力を発動できないのではエレンが恐竜になるだけだ。恐竜化させたあと巨人化できる保障はどこにもない。
完全ではないにせよ、明確に目的を持って力を発動させたのはディエゴにとって大きな収穫だった。
「やればできるじゃあないか」
ディエゴは薄く笑った。
むしろ、ここまで来たからこそ、先に聞くべきことがあった。
ディエゴはエレンへ顔を向ける。
「知ってることを話せ」
「……何?」
「お前が巨人になった理由。鍵か?」
エレンの顔が変わる。
「なんで……」
「さっき鍵を見てただろ。お前の顔は分かりやすいんだよ」
アルミンもエレンの胸元に下がる鍵を見つめ、ミカサもその言葉に反応した。
「地下室……」
エレンは途切れ途切れの記憶を探りながら口を開く。
「親父が……地下室に行けば、全部分かるって言ってた。巨人のことも、たぶん俺のことも……」
「それだ」
ディエゴの口元が吊り上がる。
「その話をしろ。覚えてるところまででいい」
巨人の外では兵士たちがまだ武器を構えており、壁上の砲台も次弾を装填しようとしている。そんな状況にもかかわらず、ディエゴの興味はすでに地下室という新しい情報へ移っていた。
エレンは荒い呼吸を整えながら、記憶に残っている限りのことを話し始めた。
父から渡された鍵。
地下室。
そこに何かがあること。
巨人の秘密かもしれないし、自分がなぜこうなったのか、その答えかもしれないこと。
ディエゴは途中で一度も口を挟まず、最後まで聞いた。
そして説明が終わると、しばらくエレンを見た後で小さく頷いた。
「分かった」
ディエゴはゆっくり立ち上がり、巨人の肋骨越しに外の兵士たちと上官、そして壁上の大砲を見た。
「それだけ材料があるなら、上官に口を利いてやるよ。お前が巨人に自分でなれるなら、あのカスども、ちっとは話を聞くかもな」
エレンが驚いて顔を上げる。
つい先ほどまで、助ける気などまるで見せていなかった男が、今になってこちら側へほんの少しだけ足を踏み入れた。
もちろん、エレンは知らない。
それが友情でも、同情でも、仲間意識でもないことを。
ディエゴ・ブランドーが興味を持ったのは、エレンそのものではなかった。
巨人化という力。
グリシャ・イェーガー。
地下室。
そして、その先に隠されているかもしれない、まだ誰も知らない情報だった。