「なんで捕まってるんですか!! サーベルタイガーは……ティーガーはどうしたんですか!?」
「実家で留守番よ」
「実家ァ!?」
「バラージュは私の故郷なの。まさか帰省して早々強盗騒ぎに巻き込まれるとは──私の物語に新たな一ページが刻まれてしまったわね」
「刻まれたのは醜態でしょ!? 剣は!? あの斬鉄剣のパチモンはどうしたんですか!?」
「スピノとの戦いで川に落とした……」
「マジで何やってるんですか!!」
「良い? これは久々に会った弟子の実力を確かめるためのテストよ」
「通りませんよ! 通る訳が無いでしょ!? 貴女たった今、僕の事に気付きましたよね!?」
「駄目かしら?」
「俺様も駄目だと思う、もうちょっとマシな言い訳は無いのか?」
強盗からもダメ出しされちゃったよ。お終いだよ。
「言い訳して良いわけ? とでも言いたげね、イクサ君。でもこれは言い訳ではなくて広義の意味での──」
「やめてください師匠、そろそろ他人のフリをしますよ」
「ごめんなさいたすけてください」
「言えたじゃないですか」
そう言えば昔っから、訓練や恐竜に乗っている時以外は度々天然な所があった気がする。
それどころか割としょっちゅう野生動物に絡まれていたような気がする。
明らかにオフな恰好だし、地元であるが故に油断していたのだろう。ああ、頭が痛くなってきた……。
「さっきから何を喚いてるのだ! さっさと交渉に入らんか! こんな間抜けでも師匠であろう!?」
「わ、分かったよ……なんで僕が怒られてるんだろ……」
僕は色々腑に落ちなさを押さえつつ、今この瞬間も全力疾走しているトリケラトプスに向ける。
僕は動物と会話が出来る。当然、相手が騎乗している恐竜とも、だ。
強盗も恐竜も、殺さずに拘束するなら──先ずは恐竜の方を説得するのが良い。
「ねえ! 君、何でそんな奴に従ってんの!?」
「ああ!? 一体何を言って──」
「君じゃない! そこのトリケラ君に聞いてるのさ!」
「ゴハン!!」
こちらをちらりと見たトリケラトプスから声が帰ってきた。
トリケラトプスの鳴き声は僕の脳内で無邪気な子供のような声に変換される。
「この人ゴハンくれるから好き! だから言う事聞いてる!」
「へえ! 君の主人は良い人なんだな!」
「えへへー、それほどでもあるぜぇ、げへへへへ」
強盗の男が照れながら言った。いや照れるなよ。
しかも、良い人と言っても「ペットに対しては」という枕詞が付くんだぞ。
どうしてその優しさを銀行や人質に分けてあげられなかったんだ。
「じゃあさ、君達の御主人を安全な所に逃がしてあげるよ! ついてきて!」
「ええ? でも……」
「美味しいものも沢山あるよ!」
「ほんとー!? ついてくついてくー!!」
「あっるぇ!? 急に手綱が効かなくなった──!?」
「よし、メガ。トリケラトプスの前を先行して! 付かず離れずの所で誘導するよ!」
「任せた!」
当然、強盗にはトリケラトプスの声が聞こえていない。
無邪気なトリケラトプスは主人の困惑など他所に、いきなり加速した僕達を追いかけ始めたのである。全てが狙い通りだ。
「ああ!? おい!! どうした!? 何処に行く!? そっちじゃない!! そっちじゃない!!」
──僕の放つ声の波形は、ありとあらゆる動物に対して確実に理解できる言語となって対象の脳内で変換される。
それこそ僕が生まれつき持つ能力の正体。僕の耳は全ての動物の声を言葉として脳内で変換し、僕の喉は全ての動物に対して理解できる形の言葉で話せる。
交渉が上手くいけば、恐竜は──同族と同じ言語で話す僕の声に従ってくれる。
「こっちが安全ー!! こっちにご飯がいっぱいー!!」
ちなみに嘘は言っていない。
このままだと自警団が強盗とトリケラトプスを殺してでも確保しに来るだろう。
彼らは対象の生死に全く頓着しない。それならば、此処で無力化した方が遥かに安全だ。
「クソッ、何をしたのか知らねえが……! 言う事を聞け!」
最早こうなると、強盗でも制御はできないようだった。
ちらり、と後ろを振り向く。片手で散弾銃を構えたではないか。
「メガ! 気を付けて! 撃ってくる!」
「殺意が駄々洩れ、三流以下だ」
反動など知った事無いと言わんばかりに発砲する強盗。
だが、動きながら片手で上手く狙いが付けられるはずがない。
しかもメガラプトルは相手の殺気を読み取り、じぐざぐと変則的に動いたり加速と減速を繰り返しながら射撃を躱している。
「散弾が当たらねえ……!! こいつ、相当場慣れしてやがる!!」
そうこうしているうちに丁度良さそうな捨て倉庫が見えた。
メガは「立ち入り禁止」の看板などお構いなしに金属の扉を蹴破って中に押し入る。
トリケラトプスも続くようにして中に入った。
「うわぁっ!? 真っ暗!?」
そんな声がトリケラトプスから聞こえてきた。
強盗も、こんな状態ではショットガンを撃つどころではないだろう。
だが──僕だけは別だ。
減速したメガラプトルは軸足を踏み込んで急転換し、トリケラトプスと向き合う形になる。
その一瞬の間に僕は狙いをつけ、スリングショットを思いっきり引き絞った。
狙いは──強盗の眉間だ。
「……イクサッ!!」
メガに言われるまでもない。
この暗い中でも、たとえ相手が動いていても外しはしない。
鉛玉が真っ直ぐに強盗に向かって飛ぶ。
「へぶぁっ!?」
強盗が悲鳴を上げ仰け反り、そしてトリケラトプスの上に倒れ込んだ。
「ああ、止まって! 暗いからね!」
「う、うんっ」
のしのし、と速度を落とし、止まるトリケラトプス。
そして、レモン師匠も強盗の腕を払い除けて降りるのだった。
「全く、射撃の腕は相変わらず……いや、あの頃よりも上がったんじゃないかしら?」
「当たり前ですよ。あれから三年経ったんですからね」
強盗を縛り上げながら僕はレモン師匠と改めて顔を合わせる。しかし、暗くて辺りが見えないからかレモン師匠は全く違う方向を向いていた。師匠、そっちに僕は居ません。
「ところで……草食恐竜用の餌って持ってます? ご飯あげるってトリケラと約束しちゃったんですけど」
「無理よ。此処本当に暗いから何にも見えない。貴方もしかして全部見えてるの? 視力は昔からおかしかったけど」
「僕の視力がおかしいって低すぎるってことですか?」
「このやり取りも久々ね、次にその構文を使ったらグーパンが出るわよ」
「痛ァッ!? 何でこんな時だけ正確なんですか!?」
暗所での射撃はデザイナーベビーの視力が為せる技である。
スリングショットに関しては、相手を殺さずに無力化できるので死ぬ程練習したのだけど、漸く動いている状態で狙った場所に当てられるようになったところだ。
師匠に見せるのは初めてだったが、褒められて嬉しいな。脳天が痛いけど。
「ねー、ご飯まだー? ぼく、おなか空いたー」
「ゴメン、もうちょっと待って」
ちなみにご飯をあげる前に自警団が到着し、強盗は速やかに確保されたのだった。
トリケラトプスは大人しくしていたため、保護措置が取られる事になった。
さて、約束は約束なので、自警団が引き取る前にトリケラトプスには高級な草食恐竜用のペットフードを買い与えたのだが──
「いつもの奴の方がおいしいんだけど? ねえ?」
文句を言われた。どうして。
「普段どんだけ良いモン食わされてたんだよ、このトリケラ……」
「野菜やフルーツでも与えてたみたいね。まともに買うとかなり量が多くなるわよ。ペットフードの方が遥かに格安だわ」
「んまあ、うちのペットも似たようなものか……事あるごとに高い肉を要求してくるし」
「妾をペット扱いするなーッ!!」
不満そうに自警団に連れられていくトリケラトプスの背中を眺める僕達。
……どうやらあの強盗、恐竜に良い物を与えすぎて生活が苦しくなっていたようだ。
動物愛護も行き過ぎると問題である。
「……さて。不甲斐ない所を見せちゃったけど、久しぶりね。イクサ君」
「師匠こそ──お変わりないようで、何よりです」
取り合えずさっきまでの醜態は見なかったことにしておこう。これが弟子としての情けだ。
「イクサ君こそ……相変わらずの美少女っぷりね?」
「プッ……美少女……美少女……やはりイクサ、其方はメスにしか見えんようだぞ、プププ」
……この醜態は一生擦り倒してやる必要がありそうである。後メガは今日のおやつは抜きだ。
繰り返す。僕は男である。誰が何と言おうが男である。