美少女名探偵(自称)森下藍ちゃんと隣の席の男子 作:ペロロペ
放課後に部活動紹介なるものが行われるとのことなので、僕と藍ちゃんは体育館に訪れていた。
「藍ちゃんは中学生の時に部活には入っていたの?」
僕は学校の部活動に参加した事がない。中学2年生までは母親の方針で、3年生になってからその方針はなくなったけど、3年生から新たに入部して部活を始める気概は僕にはなかった。
それはこの高度育成高等学校に入学しても変わらなかったようで、説明会に来たのは暇を持て余していた事と藍ちゃんに誘われたこと以外に理由はない。
「後にも先にも私はMAC部一筋でした」
「また出たね、MAC」
「MAC──通称・森下藍ちゃん部は、私の私による私のための部活です」
「……要は帰宅部ってこと?」
「ただの帰宅部ではありません。私の興味関心真理を探求しつづける最強の部活です」
「じゃあ、高校でもMACに入るの?」
「可憐で一途な私が浮気をするとお思いか? それに、上田徹也という解明したい謎もあります。私には他の部活にかかずらう暇はないのですよ」
「僕の秘密なんて、もう初日でバレちゃったも同然だと思うんだけど」
「あなたのフ……いえ、親愛なる同居人のことですか? あれはルーペで観察した後ポリ袋に日付と状態を書いて藍ちゃん図鑑に保存してありますよ」
「バッチいから早く捨てなさいよね」
最初は折角足を運んだのだし話を聞こうと耳を傾けてはいたけど、ビックリするぐらい心を惹かれなかったので1分もしない内に聞くのをやめた。
どうやら藍ちゃんも部活動に興味はなかったらしく、説明会に来たにも関わらず結局はいつものように僕と駄弁っている。
藍ちゃんから誘ってきたはずなんだけど、どうやら僕と同じく暇を持て余していただけらしい。
というわけで藍ちゃんと説明会そっちのけで部活動から発展した話題で盛り上がっていると、気が付いたら最後の紹介になっていて壇上には一人の男子生徒だけが残っていた。
「……それにしても、意外とこの学校ってガラが悪いのかな。どう思う藍ちゃん?」
最後ぐらいは説明を聞いてやろうじゃないかと耳を傾けてはいたものの、一向に壇上の男子生徒は口を開かず、聞こえてくるのは落ちつきのない1年生達による、壇上の男子生徒を馬鹿にするような野次だけだった。
凄いな。僕の中学は普通の市立だったけど、誰かが壇上で発表する時に野次を飛ばすなんて光景は見た事がない。流石は国立の高校、まるで国会中継みたいだ。
「カブトエビを知っていますか上田徹也。主に田んぼなどに生息している雑草などを食べてくれる有益生物ですが、実は飼育セットも発売されているんですよ。私はかねてより生きた化石と称されるカブトエビを飼育したいと考えていましてね……」
藍ちゃんはカブトエビのことについて話すのに夢中のようだ。確かその前は、小学生の頃に露店で掬った金魚が今も生きている話だったかな。
適切な餌を与え環境を整えてやれば10年近く生きる事もあるみたいだけど、大半はポイで追いかけられるストレスや万全ではない飼育環境によって数週間、数ヶ月程で死ぬのが殆どだそうだ。
「……最終的には味も確かめたいとは思うのですが、私も所詮美少女。情に流されることもあります。果たして、エビフィレオを食べられるのか。あぁ、エビフィレオというのはカブトエビに付ける予定の名前でしてね。エビカツを予定しているのでそこから連想した名前なのですが、火が通りにくいとの情報もあったので名前の変更の検討を……」
大体1分ぐらいだろうか。壇上の生徒が黙ったままでいると、カブトエビで盛り上がっている藍ちゃんを除いて、野次を飛ばしていた生徒や小声で話していた生徒の話し声が次第に止まっていく。
静かになって何処か張り詰めた雰囲気なってきた体育館の中で唯一聴こえてくる声は、いつしか藍ちゃんのものだけになっていた。
「藍ちゃん藍ちゃん。今僕達結構目立ってるよ」
「そんなに私のカブトエビの話が聞きたいのですか? それとも、カブトエビはエビ科ではないのにエビフィレオと名付けることに疑問を感じましたか?」
僕としては藍ちゃんのカブトエビの話を聞いていてもいいんだけど、壇上の男子生徒や周りの生徒達が僕たちに視線を向けてきていて少し居心地が悪かった。
「藍ちゃん。ここは空気を読んだ方が良さそうだよ」
「仕方ありませんね。私は空気が読める美少女。お口チャックしているので、続けてもらって大丈夫ですよ」
そんなに大きな声じゃないはずだけど、静かな体育館内に話を中断させられて不機嫌そうな藍ちゃんのお口チャック宣言はやけによく響いた。
説明会に来たにも関わらず関係のない話をしていた僕達が悪いはずなのにまるで譲歩してやったかのような言い様は、流石は藍ちゃんと言ったところだろうか。
きっと彼女はここが何をするための場なのかを忘れているに違いない。
「──ごほん。私は生徒会長を務める……」
この空気の中、頑張って話しを再開した彼はどうやら生徒会長だったらしい。
自分が少しの間黙っていれば周りも自然と黙ると思っていたのに、マイペースな藍ちゃんのせいでその計画が崩れた生徒会長の内心は今、羞恥心や怒りなどの複雑な感情が綯い混ぜになっていることだろう。
そんな生徒会長を不憫に思った僕は彼へ向けて合掌をした。
どうか生徒会長の心が平穏に戻り、恙なく話しきれますように、と。
隣に居た元凶の片割れである藍ちゃんは僕の合掌に物珍しさでも感じたのか、端末で合掌をする僕の写真を撮ってニヤリと笑っていた。