(サトシ……サトシ……聞こえていますか……?)
「はっ!?」
頭の中にこだまするように響く声。それによって一気に意識が覚醒した。
周囲を見渡せば、見覚えのある宇宙のような神秘的な場所。
もしやと思い視線を上げると、そこには転生した時に顔を合わせたポケモン……アルセウスが居た。
「俺、またここに落ちて来たの?」
あの時のことを思い出しながら尋ねれば、「いえ。ここは何処ででもあって何処ででも無い、あの場所ではありません。あなたの魂の記憶に刻まれた風景を抽出したものです」と答えられるが、いまいち要領を得ない。
「えーっと、つまり?」
「あなたの心の中です」
「一気に胡散臭くなったな、おい」
(なので……このように……直接語りかけられます……)
「こいつ、直接脳内に!?」
スラングのような会話を挟みつつ、混乱を解くとアルセウスへと質問した。
「それで、ここが俺の心の中だとして、何でアルセウスが居るんだ?」
「私は神ですよ?神はいつだって居るのですよ。そう、みんなの心の中に……」
「あ、そう言うのいいんで」
またもやネタを挟み込んでくるアルセウスにNOを叩きつけると、「ノリが悪いですね……」と少ししょんぼりした後、話し出した。
「そうですね、今あなたは自分がどういう状況か分かっていますか?」
「邪神に絡まれている」
「そういう事ではなくて……。時間と空間が乱雑に交差し絡み合う狭間、あなたに分かりやすく言えばウルトラスペースと呼ばれる場所に、あなたは何の備えもない生身の状態で居るんです」
「まあ、ウルトラホールに引き摺り込まれたからなぁ」
そう答えれば、「呑気ですね……」と呆れた様な声をアルセウスが出す。まさか、意外とやばいのか?
「意外も何も、ウルトラホールの向こうから来た人間……。あなた達がFallと呼ぶ存在は何故記憶を無くすと思いますか?」
「えっ、そういうもんじゃないのか?」
「そういうものですが……。これにもちゃんと理由があります。時間と空間が混線したウルトラスペースは、何の備えもなしに飛び込めば自分を見失うのです」
「自分を見失う……?」思わず聞き返すと、「そうですよ」と頷き、さらに説明を続けるアルセウス。
「人もポケモンも自分を自分と認識する為には、それに至るもの『
「もしかしてそれが……」
「はい。それが記憶です。……今のあなたを形作ったのは前世も含めてこれまでのあなたが歩んだ道程をあなたが覚えているからです。では、それを全て失ってしまえば?これまで何をして来たのかを忘れてしまったあなたは、あなたと呼べますか?」
俺をじっと見つめるアルセウス。何故かその目がとても無機質なものに感じて、俺の背筋がゾッと震えた。
「そ、それで何でアルセウスが?」
「まああなたがウルトラスペースの影響を受けて記憶を失わない様にしに来ました」
あっけらかんとした様子でそんなことを言うアルセウス。俺は思わず「何でそんな事を?」と聞いた。聞いてしまった。
「何故?唯の気まぐれ……とまでは言いませんが、一度触れ合ったら大きかれ小さかれ愛着というか、情が湧くでしょう?人間も生活している中でよく見かける犬猫の事はたまに気にしてしまうように、あの場所に落ちて来てしまったあなたには少しばかりの情が有るのですよ」
そう語るアルセウスを見て、やはりコレは格と言うべきか、存在と言うべきか。……とにかく俺たち人間やポケモンとも違うナニカである事をまざまざと理解させられた。
「そう怯えなくてもいいですよ。世界の運行に影響がないのであれば、ちょっとしたえこひいきをあなたにしてしまう。それだけの話ですので。……さあ、そろそろ目が覚めますね。では、あなたが生き残れる事を楽しみにしていますね」
そんなアルセウスの言葉を聞いたのを最後に、再び俺の意識が薄れ始める。ボヤける視界で、アルセウスの酷薄な笑みが見えた。そんな気がした。