「それじゃあ先手を譲ってあげるよん」
「ならお言葉に甘えて……『クロスポイズン』!」
俺の指示に従い、ウツロイドの触手が紫色に染まり、その触手でX字を描く様にコジョフーへ向けて叩きつける。が、
「躱して、『いわくだき』!」
「こじょっ!」
コジョフーはバックステップで『クロスポイズン』を躱すと、すぐさま前へと飛び出してウツロイドに拳を入れた。
「べのっ!?」
「ウツロイドぉ!!」
コジョフーの技をくらい、俺の前まで吹き飛ばされたウツロイド。心配して呼び掛ければ、「まだまだやれる」とばかりにふわりと再び浮き上がる。
それを見ていたマスタードさんが「なかなかガッツがあるようだね」と面白そうに言いながら、コジョフーに『きあいだめ』を指示する。
この世界では『きあいだめ』は技が急所に当たりやすくなる、急所アップ状態に一定時間なる技だ。ただでさえタイプ一致の技をくらい体力が減っているのだ。急所まで狙われたらまずい。
「ウツロイド、『すなあらし』を巻き起こせ!」
「べのっ!」
「ほぉ……っ」
少しでも撹乱できたらとウツロイドに『すなあらし』を起こさせる。更に、『リフレクター』と『ひかりのかべ』を指示して少しでも守りを上げさせる。
「まだまだ未熟だけど……、考えて技を使っているね。サトシちん」
「だが、まだ甘い」と、そう言ってマスタードさんは「コジョフー、『とぎすませ』ぇっ!」と指示を出す。マスタードさんが何を狙っているのかを理解した俺は、咄嗟に「『みがわり』作成!」とウツロイドに指示を出す。が、
「遅いっ!『とびひざげり』で終わらせろ!」
「こー……じょっ!」
まるでミサイルが如くの素早さで、砂嵐に隠れていたウツロイド目掛けて一直線にとびかかり、膝を叩き込むコジョフー。それを見て、俺は「掛かった!」とほくそ笑む。
「『ステルスロック』で壁を作れ!」
「じぇるぷっ!!」
『すなあらし』を使う時、その中に『ステルスロック』を紛れ込ませるという、ウルトラディープシーで活動していた時に身につけた子供騙し程度の小手先の技。その『ステルスロック』を、フリーズむらでのお手伝いで多用して、物を動かす程度ならラグが無くなった『サイコキネシス』で動かさせ、目の前に壁として作る。
既に宙へと躍り出たコジョフーに避ける手段などなく、『ステルスロック』の壁に衝突して小さく無いダメージを負った。
狙い通りに行き、「よしっ」と小さくガッツポーズを取る俺に、マスタードさんは俺とウツロイドの作戦に驚いたらしく、「いやはや、少し舐めてたかもね……」と言いながら顎髭を撫で上げていた。
「コジョフーや。サトシちん達は思っていたよりもずっとやるみたいだよ。……こちらも少し、手加減を緩めるぞ」
「こじょっ!」
ガラリと気配が変わり、威圧感が漏れ始めたマスタードさんとコジョフー。ウツロイドも感じ取ったのか、「べの……っ!」と緊張した声を漏らす。
「まずはフィールドを変えようか。……舞って『あまごい』じゃ」
「こじょふ!」
ゆらりと体を動かして舞い始めるコジョフー。次第に空に薄黒い雲が集まり、ポツポツと雨が降り始め、砂嵐が沈静化させられる。
「なんでわざわざ舞って……?」と内心首を傾げていると、ふと思い出した。コジョフーがとある舞技を覚える事を。
「しまった……!ウツロイド、今度こそ『みがわ……」
「遅い!『くさわけ』からの『かわらわり』!」
「こっ!じょっ!じょぉっ……!」
俺の指示が終わる前に『くさわけ』で少しだけ素早くなったコジョフーは、その速さでウツロイドは飛びかかり、『かわらわり』でウツロイドを守る二つの壁を破壊してウツロイドに手刀を叩きつけた。
「べのぉ……」
地面へと叩きつけられたウツロイド。ウツロイドは浮かびあがろうとせず、地面に若干減り込んだ状態で力無く鳴いた。戦闘不能である。
俺はギリッ……と音が漏れる程に歯を食いしばって悔しさを飲み込み、ウツロイドに「頑張ったな、ありがとう」と声を掛けてモンスターボールに戻す。
相手は手加減していたとは言え元チャンピオン。勝ち目は高く無いことは自覚していた。が、それでも悔しいものは悔しい。
「いやぁ、なかなかやるじゃないの。サトシちん」
「こじょっ、こじょこじょ」
モンスターボールを握り締め、俯いていた俺に声を掛けてきたマスタードさんに「いえ、反省点がいくつか見えました。特に、『つるぎのまい』にもっと早く気付けていたら、もう少し食い下がれたかもしれませんし」と言えば、マスタードさんは面白そうに片眉を上げた。
「気付いたのか」
「はい。『あまごい』で雨を降らせる時には舞を踊る場合もあるって聞いていましたが、その舞で『つるぎのまい』をするなんて思いもしませんでした」
俺がそういうと、「まあ、こう言った技の掛け合わせなんかは高位技術だから滅多に出来る人がいないけどね」と笑いながらマスタードさんは俺の頭に手を乗せて少し荒めに撫でてきた。
「まだ子供なのにわしに少しでも本気を出させた。それだけでサトシちんは凄いからねえ」
「むしろ、『すなあらし』の中に『ステルスロック』を紛れ込ませたあれ、もーっと使って慣れて鍛えられると、サトシちんとウツロイドも同じようなことができるよん」と褒められる。
「まだまだ上は遠いですね……」
「サトシちんはまだトレーナーじゃ無いのに、向上心があるねぇ。……よし、そろそろお昼だ。今日はカレーだよん」
「えっ、本当ですか!?お代わりも……」
「もちろん良いよ。たらふく食べな」
マスター道場へと帰る俺とマスタードさん。その様子を、物陰からこっそり見ていたソレに、俺はまだ気付いていなかった。