王女「魔王討伐から帰ってきた勇者様がすぐ死ぬんですけど!?」 作:名無し
「グ……ル?」(え? 勇……者様?)
現れた勇者の、自分が知っている姿から大きくかけ離れた禍々しい勇者の姿にレティ姫は困惑する。しかし、困惑するレティ姫をよそにレティ姫の姿に扮した魔族は無言でこちらを見つめる勇者に向かい声を張り上げた。
「勇者様っ!!助けにきて下さったのですね!ですが、お逃げ下さい!!これは魔王軍の策略!全ては勇者を葬り去るための……きゃあ!?」
「グル!?」(か、体が勝手に……!!)
レティ姫の意思に反して、魔物と化した腕は自分に化けた魔族を掴もうと伸ばされる。そして伸びる腕に向けて勇者がかちゃりと剣を構えるのが分かった。
(き、切られーーっ)
すぐに来るであろう切断の痛みに耐えるように目を瞑ったレティ姫だった。が、次の瞬間。聞こえてきたのは……
「ぐはあっ!?な、な、な!?ワタクシを……切った…!?」
という魔族の困惑した声とボタボタと何かが滴り落ちる音であった。
(え……?何が……?)
その音にレティ姫が恐る恐る目を開ける。と、目の前では姫に化けた魔族が胸元を押さえ、よろよろと後ずさっていた。その指の隙間からは青い血が溢れ、白いドレスをみるみるうちに染め上げていく。
「な、なぜ……? なぜワタクシを……!?」
魔族は信じられないといった様子で、勇者を見つめる。
「ワ、ワタクシはレティ姫ですよ!?レティ・フォン・ロートン!この国の王女です!いくら勇者といえどこのような暴挙が許されるはずがーー……!」
そう叫んだ魔族だったが、それ以上叫ぶことは叶わなかった。何故ならば、
「……魔物は殺す」
勇者の剣が、再び魔族の体を切り裂いたからだ。
「がはっ!?な、なにをして……!?」
「……魔物は殺す」
「ぐふっ!ワ、ワタクシは……!」
「……魔物は殺す魔物は殺す」
「はあはあ!!や、やめ……!!」
「……魔物は殺す魔物は殺す魔物は殺す魔物は殺す」
「ぎゃあああああ!!」
……それは戦いというより一方的な殺戮であった。狂気的なまでに切り続ける勇者の周囲には青い血が飛び散り、それに比例して魔族の白いドレスが青黒く染まっていく。そして、その一方的な戦いを目の当たりにしたレティ姫は……
「グ、グルルルル……!?」
(ひ、ひいいいいっ!?ゆ、勇者様!?グロ……!グロテスク過ぎます……!)
あまりの凄惨極まりない光景に恐怖し怯え震えていた。だって魔族とは言え自分と同じ顔をした者が容赦無く切り刻まれているのだ。大の男ですら顔を歪める凄惨な光景に王族とはいえ十六歳の少女が耐えられるはずもなく、レティ姫は爪先から尻尾の先までブルブルと巨体を恐怖で震わせる。
やがて……どれほどの時間が経っただろうか。ついに魔族はぴくりとも動かなくなった。
「…………」
勇者はしばらくの間、無言で魔族の亡骸を見下ろしていたが、やがて剣を一振りし、付着した血を振り払った。そしてーー……
「…………」
ゆっくりと、こちらを向いた。