王女「魔王討伐から帰ってきた勇者様がすぐ死ぬんですけど!?」 作:名無し
王城では勇者ロイドの凱旋を祝う盛大な祝宴が開かれていた。
大広間には国中から集められた食材を使った豪勢な料理が所狭しと並べられ、音楽家達が華やかな音楽を奏でている。勇者を祝う為、各地から集まった多くの人々は杯に注がれた酒を酌み交わしながら勇者の偉業を称え、広間のあちこちから祝福の声が上がっていた。
その様子を、王の隣の席から眺めていたレティ姫はそっと微笑む。
(フフフ……なんて賑やかな祝宴。お父様も……皆がこんなに嬉しそうなのは初めて見ます。)
魔王が現れて五十年という歳月。レティ姫が物心ついた時には既に多くの国々は滅ぼされ、幼い頃より王城の窓から見える景色も、決して穏やかなものではなかった。さらにここ数年は魔物の度重なる襲撃により、王国は疲弊し、王城を漂う空気は常に張り詰めていた。それが今はこんなに賑やかで幸福に満ちていて……
(これが勇者様がもたらされた平和、なのですね……あら?)
そうして、ふと視線を勇者ロイドへと向けたレティ姫は、ロイドの前に並べられた料理が、宴が始まってからほとんど手つかずのままであることに気付いた。
「?」
レティ姫は不思議そうに首を傾げる。せっかくの祝宴だというのに、どうして勇者様は王族である自分も滅多に口にする事は叶わない贅を尽くした料理に手をつけられていないのだろう。そう思ったレティは席を立つと、ロイドの元へ歩み寄った。
「勇者様、どうされました?全く料理に手をつけられていないようですが……」
「っ!……ああ、申し訳ありません王女殿下。恥ずかしながら俺はこういった礼儀作法には疎く……」
「まあ!そうだったのですね勇者様。しかし、この祝宴はあなた様の為の宴!今日は礼儀作法なんて気になさらなくていいのですよ?」
「しかし……」
「フフ、ほら。このスープなんかとくに我が城の料理長が勇者様のために三日三晩掛けて真心を込めて作った絶品のスープで……もし勇者様が口にされなかったらきっと料理長は泣いてしまいますわ」
「そ、そうですか。ではお言葉に甘えて……」
レティ姫の勧めに勇者は照れ臭そうにそっとスプーンを手に取ると、そのままスープを掬い、口にスープを運んだ。この時、レティ姫はただ善意でスープを勧めた。だから、勇者がスープを口に含んだ瞬間。
「ウッ」
と呻き声を上げ、ガシャン!とけたたましい音を立てて食卓に顔を叩きつける姿など想像してなかったのである。
「……え?」
レティ姫は唖然とした。
当たり前だ。つい先ほどまで、照れ臭そうにスープを口に運んでいた勇者ロイドが突然倒れたのだ。
しかも、ただ倒れたのではない。
食卓に突っ伏す勇者の顔は、もはや青白さを通り越して白い色をしており、そう、それはまるで死人の顔みたいな――……
「きっ、きゃああああああああ!!誰か!誰かああああ!!勇者様がし、し、死……っ!!スープに毒があああああ!神官!神官を呼んでーーっ!!!」