王女「魔王討伐から帰ってきた勇者様がすぐ死ぬんですけど!?」 作:名無し
「ふふ、だいぶ勇者様についてお悩みですね姫様」
「ばあや……もうっ、そんなの当たり前でしょう?あんなに毎日のように死んでいたら勇者としての品格も威厳も下がりますし、何より民も不安がって……」
「ふふっ。でも、姫様。それだけではないでしょう?」
全てを見通すような温かなばあやの瞳にレティ姫は一瞬言葉を詰まらせ、そして大きく溜め息を吐いた。
「……はあ……ふふ、全くばあやには隠し事できませんね。ええ、そうです。ワタクシは…………勇者様に死んで欲しくないのです。まあ、確かに最初はどうしようもない理由で死んでいく勇者様に『ちょっとこの勇者おかしいんじゃないか?』って思っていましたけど、でもこの半月、勇者様を見てきて気付いてしまったのです。きっと勇者様は…………」
「……ハイレタ」
「え? ば、ばあや……?どうしたの……ひっ!?」
そう言い掛けた時、老齢の侍女の口から侍女らしからぬ低い声が聞こえた気がしてレティ姫が顔を上げた。次の瞬間。レティ姫は驚愕に目を見開いた。なんと先ほどまでそこにいた老齢の侍女はこの世のものとは思えぬほど美しい風貌の男に変わり果てており……そして男の頭には二つのまるで羊の様なツノが生えている。
明らかに人間ではない。
その人間離れした男の姿を目の当たりにした姫の脳裏によぎるのはある一つの噂話。
……――魔物の中でも一際魔力が強く、残虐な個体は人の形を取り、それは「魔族」と呼ばれていると――……
「ま、魔族っ!?ど、どうして!?だ、誰かっ……むぐっ!?」
「おっと、危ない危ない。こんなところで声を出されたら勇者に見つかるじゃないですか」
「むぐ!むぐっー!!」
「フフフ……無駄ですよ。魔術で口を聞けないようにしていますから。……黙れよ。殺すぞ」
「むぐっ!」
男の、今まで感じたことのない禍々しい殺意に姫の体は本能的に震え上がった。そして恐怖のあまり震え動かなくなった姫を見て、魔族の男は満足そうに頷く。
「うんうん。やっぱり従順なニンゲンは良いですねえ……おっと、そうでした」
魔族の男は、何かを思い出したように指を鳴らした。
「そういえば私。貴女に用があったんでした」
「…………!」
レティ姫は身を強張らせる。一体何をするつもりなのか。聞きたいのに、声が出ない。魔族はそんな姫の反応を楽しむように、にっこりと笑った。
「フフフ、そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ。殺しはしません」
その言葉に、レティ姫はますます警戒心を強めた。いくつもの国を滅ぼしてきた魔王の配下。その言葉を信じられるはずもない。
それよりも一刻も早く、一刻も早く!魔族の存在を誰かに伝えなければーー……!
だが、そんな姫の思いを嘲笑うかのように、魔族の男が指を鳴らす。と、姫の足元に禍々しい黒い魔法陣が浮かび上がった。
「むっ……!」(なっ、こ、これは!?)
「では、一緒に来ていただきましょうか」
「むーーっ!!」(だ、誰かっ……!勇者様、助けて……!!)
姫の助けを求める叫びも虚しく、黒い光が姫を包み込む。
次の瞬間には――
レティ姫の姿は、跡形もなく消えていた。
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